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Making Magic -マジック開発秘話-
ダブルで
2020年7月27日
『ダブルマスターズ』プレビュー特集第2週にようこそ。先週は、このセットのデザインについて語った。今週は、このセットに入っているカードが最初、どのようにデザインされたかの話をしようと思う。(『基本セット2021』での同じような記事が大好評だったので、もう一度やることにしたのだ。)また、記事の終わりには、『ダブルマスターズ』の新しいプレビュー・カードを2枚お披露目しよう。それではさっそく、話を始めよう。
《悪臭の荒野》《滝の断崖》《岩だらけの大草原》《黄昏のぬかるみ》《溢れかえる果樹園》
この話は、『未来予知』のころに遡る。『時のらせん』ブロックのセットには、それぞれにタイムシフト・シートと呼ばれる、セット本体と違うカード枠でそのセットのテーマを興味深い形で表現したカード群があった。『時のらせん』のタイムシフト・シートは、過去からのカードがもともとのカード枠で再録されていた。『次元の混乱』には、もう1つの現在からのカードとして、それぞれ既存のマジックのカードの色を変えたものが、異なるカード枠になっていた。『未来予知』には、それらよりも突飛なタイムシフト・シートがあったのだ。マジックのありうる未来の可能性からのカードが、未来のカード枠でミライシフト・カードとして存在する予定だった。
私はミライシフト・シートにどうしても2色土地を入れたいと考え、サイクルを作ることにした。そして、興味深い問題に直面したのだ。サイクル全体を作ったら、それはどのセットにもあるような2色土地のサイクルだと思われる。それは全然ミライシフトっぽくはない。そこで、興味深いアイデアがひらめいたのだ。このサイクルの2色土地が、それぞれ異なる未来の2色土地サイクルからのものだとしたらどうだろうか。サイクルのサイクルになるのだ。
ミライシフト・カードは、後にセットを作る時に見返して、適切な場合にはそのカードを使うということが計画されていた。それからおよそ1年後、『シャドウムーア』をデザインしていたときに、私はこの2色土地サイクルの中のカードがこのセットで使えると気がついた。《偶像の石塚》は、混成マナに注目したセットにもってこいだったのだ。我々はそれを採用し、それと合わせて他の4枚の友好色2色土地を作った。『イーブンタイド』を作ったとき、それらの2色土地の敵対色版を作った。
こうして、《偶像の石塚》はこのサイクルから唯一、将来のプロジェクトで居場所を見つけた2色土地となった。しかし私は今でも、いつか他のカードも同じように採用できると思っているのだ。
《解放された者、カーン》
この話の始まりは、1996年に遡る。マイケル・ライアン/Michael Ryanと私は、セットにマジックの物語を組み込むことをマジック・ブランド・チームに納得してもらうべく、そのための物語を作っていた。(これがウェザーライト・サーガとなる。)そのため、我々は登場人物を揃える必要があった。カラー・パイ全体を埋めるように人物を配置することは重要だった。その条件の1つとして、アーティファクト・クリーチャーが必要だということになる。私はゴーレムが大好きだったので、私はマイケルを説得してゴーレムを作ることにした。マイケルと私は、そのゴーレムを、一見すると恐ろしく見えるが実際その内面はとても柔和な、「心優しき巨人」のアーキタイプに当てはまる人物にすることにした。
『テンペスト』の期間、フレイバー・テキスト内での各キャラクターの雰囲気を統一するため、我々はキャラクターをライターに割り振った。最終的に私はカーン(とアーテイ)を担当することになった。つまり、最初の1年間、私はカーンのフレイバー・テキストすべてを書いていたのだ。私はマイケルと私が作ったすべてのキャラクターのことが好きだったが、その中でもカーンは特別だったのだ。
そして数年後。我々は『ミラディンの傷跡』を手掛けていた。物語上、カーンはファイレクシア軍に囚われ(ファイレクシア人をミラディンに連れてきてしまったのは彼なのだ)、状況は彼にとって非常に悪いものだった。確か『新たなるファイレクシア』のデザインを始めていて、私は当時のクリエイティブ・ディレクターであったブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthのところに話しに行った。セットにカーンのカードを入れることになって、私は状況がわかる雰囲気を組み込もうとしていたのだ。
ブレイディは私に、どう物語を終わらせようか考えていると言った。カーンがファイレクシア軍に完全に汚染されて伝説のクリーチャーの機械の父となるか、脱出してプレインズウォーカー・カードとして印刷されるのか。私は、「我々は、カーンにどうしてもプレインズウォーカー・カードになってほしいと思っている。」と答えたのだ。私の意見が物語にどれほど影響を与えたのかは知らないが、私は私の小さな、とは言えないゴーレムの面倒を見たのである。
このカードそのもののデザインは、奥義から始まったと記憶している。カーンがファイレクシア軍から脱出したというフレイバーを再現した奥義が必要だった。誰がゲームを再び開始するというアイデアを提案したのかは忘れたが、それを耳にしたときその方向で行くべきだということを認識したのだ。他の2つの能力は、その奥義の準備をするためにデザインされた。パーマネントを追放するほうが強い能力で戦場に大きな影響があるので、これをマイナスの忠誠度能力にした。1つ目の効果を切削効果にすることも検討したが、手札から追放するほうがいいと判断したと記憶している。
《意志の大魔術師》
この話は、『時のらせん』のデザインのときに始まった。我々は郷愁的デザインに激しく集中していたので、過去のカードを思い起こさせるような新しいカードを作るクールな方法を探していた。そしてたどり着いたアイデアの1つが、過去人気があった強力なアーティファクトを選び、その能力をクリーチャーに持たせるというものだった。これがクールな理由は3つあった。1つ目、クリーチャーはアーティファクトよりも除去されやすいので、そのアーティファクトと同じ点数で見たマナ・コストでクリーチャーを印刷することができる。(いくつかの不特定マナを色マナにするだけでいい。)その後、そのマナ・コストで成立するパワーやタフネスを選んだ。2つ目、これによって、再録禁止リストにあるカードなどの再録できないアーティファクトのアーティファクト効果を再録することができる。3つ目、カード・タイプを変更することで、その効果との新しい相互作用が生まれる。もとのアーティファクトでは不可能だったことで、この大魔術師では可能になるものがあるのだ。
クリーチャーのサイクルにふさわしい5つのアーティファクトを探すことにかなりの時間がかかった。参照するアーティファクトはどれも無色だったので、5色それぞれにうまく割り当てなければならなかったのだ。多くのサイクルがそうであるように、初期の選択は簡単で、どんどん難しくなっていった。黒の大魔術師のための最高の選択を見つけるために、考えられないほどの時間を費やしたと記憶している。我々は、それぞれのカードにその元になったアーティファクトを思い出させるような名前をつけた。
我々が作った5枚はこうである。
《円盤の大魔術師》は『アルファ版』の《ネビニラルの円盤》をもとにしている。《壺の大魔術師》は『ウルザズ・レガシー』の《記憶の壺》をもとにしている。《鏡の大魔術師》は『レジェンド』の《Mirror Universe》をもとにしている。《巻物の大魔術師》は『テンペスト』の《呪われた巻物》をもとにしている。《燭台の大魔術師》は『アンティキティー』の《Candelabra of Tawnos》をもとにしている。
『時のらせん』のサイクルを作るのを本当に楽しんだので、その直後のセットである『次元の混乱』でももう一度やろうと考え、アーティファクトでなく土地をもとにして繰り返した。土地はマナ・コストを持たないので、能力を最高に活かすようにクリーチャーのコストや大きさを決めることができた。アーティファクト同様、土地を5色のそれぞれに割り当てる必要があった。今回は、少なくとも黒は簡単だった。今回問題があったのは、緑だったと思う。
そして、こうなった。
《幕屋の大魔術師》は『レジェンド』の《The Tabernacle at Pendrell Vale》の焼き直しだった。《バザールの大魔術師》は『アラビアンナイト』の《Bazaar of Baghdad》をもとにしている。《貴重品質の大魔術師》は『トーメント』の《陰謀団の貴重品室》をもとにしている。《闘技場の大魔術師》は、遠い昔の本のプロモだった《闘技場》をもとにしている。(最初のマジックの小説にはクーポンが同梱されており、それを送ってプロモ・カードをもらえたのだ。)《図書館の大魔術師》は『アラビアンナイト』の《Library of Alexandria》をもとにしている。(これがおかしな組み合わせであることは認める。)
点が2つあれば線になる。『未来予知』ではこのブロック内サイクルを完結させなければならないことは明らかだった。アーティファクトと土地を扱ったので、あとに残されたパーマネント・タイプはただ1つ、エンチャントだけだった。(プレインズウォーカーはこの直後のセットで登場するが、この時点ではまだ存在していない。)エンチャントはある意味で簡単で、ある意味で難しかった。例えば、最初から色がついているので、それぞれのエンチャント効果がどの色に対応するかは明らかだった。しかしその一方で、すでに有色マナ・コストを持っているのでそのままに保たなければならず、変更できない要素が増えてそれを軸にデザインしなければならないという制約になったのだ。
そして、作られたのが次のカードだ。
《濠の大魔術師》は『レジェンド』の《Moat》をもとにしている。《未来の大魔術師》は『オンスロート』の《未来予知》をもとにしている。(もちろん、『未来予知』というセットに《未来予知》というカードの焼き直しを入れるという事実は面白かった。)《深淵の大魔術師》は『レジェンド』の《The Abyss》をもとにしている。《月の大魔術師》は『テンペスト』の《血染めの月》をもとにしている。《ぶどう園の大魔術師》は『テンペスト』の《エラダムリーのぶどう園》をもとにしている。
ここまで作って、我々はこれで終わったと考えていた。パーマネント・タイプ3つの分のサイクル3つを、ブロック内の3セットで作ったのだ。拍手ありがとう。
この話が再び浮上するのは、『統率者(2015年版)』のデザインのときである。チームの誰か(私はこのチームに所属していないので誰だかは知らない)が、「ちょっと待ってくれ、すでにプレインズウォーカー以外のパーマネント・タイプすべての大魔術師はいる。パーマネントでないタイプについてはどうだろうか?」
そうして彼らがデザインしたのがこのカードである。
《輪の大魔術師》は『アルファ版』の《Wheel of Fortune》をもとにしている。ソーサリーをもとにしているのだ。このカードが発売されたとき、プレイヤーはこのサイクルの残りのカードについて尋ねてきた。大魔術師はいつもサイクルになっていた。白、青、黒、緑のソーサリーの大魔術師は? 毎年、統率者セットで1枚ずつ増えていった。
《意志の大魔術師》は『ウルザズ・サーガ』の《ヨーグモスの意志》をもとにしている。《精神の大魔術師》は『スカージ』の《精神の願望》をもとにしている。《天秤の大魔術師》は『アルファ版』の《天秤》をもとにしている。これらは、『統率者(2016年版)』『統率者(2017年版)』『統率者(2018年版)』でそれぞれ登場している。『統率者(2019年版)』にはこのサイクルの最後のカード、緑の大魔術師が入る予定だったが、そのカードは別の製品に移行した。これについてはそれが最終的に発売された時に説明しよう。
そしてその緑の大魔術師が発売されたら、私はようやく、いつインスタントの大魔術師を作るのかという質問への対応を始めることができるようになるのだ。
《土牢》
この話は、『アラビアンナイト』のころに遡る。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは、クリーチャーを閉じ込めるカードというアイデアを気に入った。土牢とは、天井にある戸を通してしかやりとりできない独房や地下牢のことである。適切に設定されて闇のものに感じられたので、リチャードはトップダウンでカードをデザインし、黒に入れたのだった。数年後、『ミラージュ』のときに、我々はこの効果を白に割り当て(《平和な心》効果と呼んだ)、文章を「攻撃もブロックもできない」と単純化した。さらに数年後、『メルカディアン・マスクス』で、これの変種として、起動型能力も止める《拘引》を作った。それから何年も経って、『ローウィン』で、クリーチャーを戦場から取り除く《忘却の輪》を作った。一言で言えば、この能力は黒にはあまり残らなかったのだ。
これが重要なのは、《土牢》は『アラビアンナイト』のコモンだったという長所があるからである。つまり、パウパー・フォーマットで使うことができるのだ。パウパーのメタゲームには詳しくないが、このカードは熱望されていた。(私は、信心を使った黒単色デッキで人気があるという話を聞いている。)問題は、このカードが印刷されたのが『アラビアンナイト』でだけだということだった。『アラビアンナイト』の印刷量は少なく、そのためこのカードを見つけるのは非常に困難だったのだ。
その結果、多くのプレイヤーが《土牢》の再録を待ち望むことになった。何かを要求する声が高まれば、我々はそれを検討することになる。問題はいくつかあった。まず第1に、このカードはカラー・パイから外れてしまっている。何かを締め出すのは白であり、黒なら単純に殺す。つまり、スタンダードを現在のカラー・パイに合わせたままに保ちたければ、これを主流のセットに入れることはできないということになる。それなら、我々はいろいろなサプリメント・セットを作っていて、その多くには再録カードが存在している。
そして次の問題につながってくる。テンプレートを変更する場合、我々は過去のカードすべてについて現在のテンプレートに合わせるようにオラクルを変更する。《土牢》を現在のテンプレートに合わせようとすると、印刷するには文章量が多すぎることになる。長年に渡り、そのためにこのカードは再録できなかったのだ。興味深いことに、これを解決したのは1996年のメカニズム、フェイジングだった。キーワード処理を使うことで必要な文章量が大きく減り、カードに印刷することができるようになった。そして、『ダブルマスターズ』のブースターから手に入れることができるようになったのだ。
かなりの時間がかかったことはお詫びしよう。
《宝物の魔道士》
この話は、『フィフス・ドーン』のデザイン中に始まった。そのセットのテーマの1つが、我々が「ほぞ/cogs」と呼んでいたものである。ほぞとは、点数で見たマナ・コストが1以下で小さな効果を持つアーティファクトのことである。そして我々は、それらを軸にしたデッキを組む助けにするためにセット内に何枚も、ほぞと相互作用するカードを入れたのだ。それらのうち1枚が、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheがデザインしたものである。
アーロンは教示者効果と入場効果が好きだったので、それらを組み合わせてほぞ好きなウィザードを作った。《粗石の魔道士》は印刷され、さまざまなフォーマットでプレイされた。(点数で見たマナ・コストが1以下の強力なアーティファクトが古いフォーマットに大量に存在することは障害にはならなかった。)
そして何年も後、『ミラディン包囲戦』に到る。ミラディンに戻ってきたので、《粗石の魔道士》の逆となる《宝物の魔道士》というカードを作ることにしたのだ。小さなアーティファクト(点数で見たマナ・コストが1以下のもの)を探すのではなく、これは大きなアーティファクト(点数で見たマナ・コストが6以上のもの)を探すのだ。これも{2}{U}で2/2にして、似た雰囲気になるように《宝物の魔道士》と名付けることにした。
本来ならこの話は《宝物の魔道士》のデザインで終わるところだが、もう少しだけ続いた。『霊気紛争』のデザイン・チームは、点数で見たマナ・コストがちょうど3のアーティファクトを教示者してくる《戦利品の魔道士》を作った。これも{2}{U}で2/2で、カード名はTから始まっている。『モダンホライゾン』のデザイン・チームは、点数で見たマナ・コストがちょうど2のアーティファクトを教示者してくる《捧げ物の魔道士》を作った。
あと残っているのは点数で見たマナ・コストが4と5のアーティファクトだが、私はいつの日か、Tの単語が尽きたのでない限り、いつの日かこの……この少しばかり完全とは言えない「サイクル」のことをどう呼ぶべきだろうか……が完成する日が来ると思っている。
プレビュー・カード
今日の締めくくりの前に、プレビュー・カードをお見せしよう。
見ていくことを楽しめるように、3つずつヒントを出していく。カードが何なのか予想してから、クリックして表示してくれたまえ。
1枚目のプレビュー・カード
ヒント1
ヒント2
ヒント3
予想ができた諸君と、ただプレビュー・カードが見たい諸君はクリックして正解をどうぞ。
2枚目のプレビュー・カード
ヒント1
ヒント2
ヒント3
予想ができた諸君と、ただプレビュー・カードが見たい諸君はクリックして正解をどうぞ。
ダブルで勝負
本日はここまで。私の話とプレビュー・カードを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事やこのセット全般について、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、未来を振り返る日にお会いしよう。
その日まで、諸君が『ダブルマスターズ』をプレイする楽しみがダブルになりますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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