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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

死の扉にて その2

Mark Rosewater
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2020年1月6日

 

 『テーロス還魂記』プレビュー特集第2週にようこそ。先週、展望デザイン・チームを紹介し、新メカニズムである脱出の創造について説明した。今週は、このセットの再録メカニズムすべてについて掘り下げていこう。それに、今週も終了前に、諸君にお見せするクールなプレビュー・カードがある。それではさっそく、本題に入ろう。

ゲームに遡って

 再訪するときにすることの1つが、その世界を舞台にしたセットで登場していたすべてのメカニズムを列記し、その中から再録したいものを決めることである。初代『テーロス』ブロックのメカニズムは以下の通り。

『テーロス』

 授与、信心、英雄的、怪物化、占術

『神々の軍勢』

 神啓、貢納

『ニクスへの旅』

 星座、奮励

キーワード化されていないメカニズム的なもの

 クリーチャー・エンチャント、エンチャント関連、神々、ミノタウルス部族

 それでは1つずつ検証していこう。

授与

 授与は比較的好評で、初代『テーロス』を成立させた接着剤だった。カードをクリーチャー・エンチャントにするかオーラにするか選ぶことができる能力だ。間違いなく「あり」だ。

信心

 信心は初代『テーロス』ブロックでおそらく最も好評だったメカニズムだろう。自分のパーマネントに特定色の色マナ・シンボルがいくつあるかを参照する、拡大型メカニズムである。これは神々の働き方の性質にも編み込まれている。(それについてはこの後で語る。)信心は、すべてのメカニズムの中で最も「採用確定」に近いものである。

英雄的

 英雄的もかなり好評で、うまくプレイされた。これはクリーチャーの持つメカニズムで、そのクリーチャーが対象になったときに誘発する。これのデザイン空間は他のメカニズムよりも少し狭かった。これも「あり」だ。

怪物化

 これも『テーロス』の好評だったメカニズムだ。これは1度だけマナを支払って、自分のクリーチャーをより強大なものに強化することができるという能力だ。これは非常にフレイバーに富んでおり、デザイン空間も広大だった。これも「あり」だ。

占術

 このメカニズムはその後常盤木になっているので、『テーロス還魂記』でも使われるだろう。これはこのセットにフレイバー的に非常にふさわしいものだ。

神啓

 神啓は非常に好評というわけではなかった。このメカニズムはクリーチャーが持つもので、アンタップしたときに誘発する。再録はまず確実に「なし」だ。

貢納

 貢納は、神啓よりもさらに不評だった。これはクリーチャーの能力で、それに+1/+1カウンターを置くか「入場」効果を持たせるかを対戦相手に選ばせるというものである。自分で決定することができないという事実が、このメカニズムの魅力を大きく損ねていた。これも「なし」だ。

星座

 星座は大好評だった。星座能力は、エンチャントが自分のコントロール下で戦場に出るたびに誘発する。この後で話す通り、これは「エンチャント関連」テーマを最も色濃く扱うメカニズムであり、ユーザーが強く求めていたものだった。(我々はこれを意図的に『ニクスへの旅』まで温存していた。)このメカニズムの最大の問題は、このメカニズムはエンチャントにしか存在しないことから、星座カードがお互いに誘発させ合うというプレイデザイン上の懸念であった。これもまた「あり」だ。

クリーチャー・エンチャント

 クリーチャー・エンチャント(エンチャントでもクリーチャーでもあるクリーチャー)は、『テーロス』ブロックを成立させるための基礎であり、この世界の象徴的なものだった。プレイヤーが期待しているというだけでなく、これなしでエンチャント・テーマを達成できるかどうかわからないほどのものだ。間違いなく「採用確定」だ。

「エンチャント関連」

 ブロックの最終セットを充分目立たせる上で「第3セット問題」を解決するため、私は「エンチャント関連」カードの多数を『ニクスへの旅』まで温存していた。これはブロック全体を見たときに私の犯した最大のデザイン上の誤りだったかもしれない。(ただし、『ニクスへの旅』は間違いなくそれによる恩恵を得た。)クリーチャー・エンチャント同様、テーロスに再訪するのにユーザーが100%予想しているこのテーマなしということは不可能だろう。これも間違いなく「採用確定」だ。

神々

 これもまたテーロスの象徴的な部分であり、その中で大好評だったものだ。『テーロス』は神というクリーチャー・タイプを導入し、そのデザインに信心を非常に有効に使っていた。ブロックの3セット全てに、神々のサイクルが存在していた。その中のいくらかを再録するのが必要なのは明らかだったが、1セットに15柱の神々すべてを再録する場所はないだろう。(ああ、物語上で1柱は死んでいるので14柱だ。)これも間違いなく「採用確定」だ。また、神々はどれも信心を使っているので、信心も必要だということになる。

ミノタウルス部族

 プレイヤーは部族テーマが好きなもので、ミノタウルスは充分に人気があった。最大の問題は、大きさについてクリエイティブ的な決定を下しているので、ミノタウルス部族デッキを作るのは非常に難しくなっているのだ。ミノタウルス以上に神話的なものは見つかっていないのでミノタウルスはもちろん増やすが、ミノタウルス部族がどの程度必要かはわからない。

 

 これをまとめるとこうなる。

採用確定

 信心、神々、クリーチャー・エンチャント、「エンチャント関連」

あり

 授与、星座、英雄的、怪物化、ミノタウルス部族(ただし大量にあるとは限らない)

なし

 神啓、貢納

すでに存在している

 占術

 

 まずはこの「採用確定」のメカニズムから見ていこう。

信心

 信心が初代『テーロス』ブロックの大当たりで、間違いなく再録する必要があることは明らかだ。再録にあたって、2つ変更した。1つ目が、これを5色全てに持たせることを少し躊躇しないようにした。(とはいえ、一部の色に他の色より多く存在するのは変わらない。)2つ目に、信心を持つカードの枚数を全体として増やした。(初代『テーロス』では16枚だったのを24枚にした。)今回もこれを神々と、新しい亜神のサイクルに編み込んだ。また、このサイズのセットに通常入れるよりも多くの2色、3色カードを入れることでサポートを増やした。

 信心についてもう1つ気に入っていたことは、これが『エルドレインの王権』で作り上げた単色テーマと噛み合うということだった。一徹を使いたいデッキでは、信心も楽しめるとわかっていた。3-1モデル(独立した大型セット3つと基本セット)への変化の中で、隣接したセットには補完し合うテーマを意図的に持たせるようにする必要性が強まっていたのだ。

神々

 神々をセットに入れることには何の疑いもなかったが、どの神を入れるのか。単色に寄せる中で、初代『テーロス』からの5柱の「大」神、特に物語上で重要な役割を持つヘリオッドとエレボスを新しく作るのは非常に筋が通っていると思われた。また、プレイヤーが望んでいるであろう他の1柱の神も入れた。神々のデザインには同じ構造を採用した。すべての神々は破壊不能で、クリーチャーになるには5以上の信心が必要で、他の能力として常在型能力または誘発型能力を1つと、起動型能力を1つ持っているのだ。

クリーチャー・エンチャント

 初代『テーロス』をデザインしていたとき、そのかなり初期に、エンチャントを重要なものにする上での最大の障害の1つが、デッキに意味があるだけの枚数を入れるようにすることだということに気づいた。リミテッドで(そして規模は小さいが構築でも)この問題を解決する唯一の方法は、クリーチャー・エンチャントを作ることだったのだ。クリーチャー・エンチャントがエンチャントであることを正当化したかったので、私はクリーチャー・エンチャントはクリーチャー・トークンでない限りエンチャントらしい能力を持たなければならないという規則を定めた。

 あのブロックで得た教訓の1つが、この規則は厳しすぎたということである。今は、フレイバー以外にアーティファクトらしさを持たない、有色のアーティファクト・クリーチャーを作っている。ゲームプレイを向上させるために必要な場合には、これと同じことをクリーチャー・エンチャントでもできるのだ。可能な場合にはエンチャントらしい一文を追加しようとしているが、今回はそれを義務にはしなかった。その結果、コモンにはバニラのクリーチャー・エンチャントが見受けられることになった。(信心を溜めやすくするため、コストに色マナ2点が必要になっていることが多い。)

「エンチャント関連」

 先述の通り、『テーロス』ブロックで得た最大のものは、「エンチャント関連」を『ニクスへの旅』に到るまで自制したことは誤りだった、ということである。どれだけ伝えようともプレイヤーはそれを予想しており、それなしで『テーロス』への再訪は成立しないことだろう。問題は、どうやってそれをするか、である。これについてもう少し触れていこう。

 

 ここから、「あり」のメカニズムの話になる。

授与

 授与は間違いなくクールなメカニズムだが、多くの問題を抱えている。その処理を理解する上でもプレイする上でも複雑だった。また、カードにかなりの文章量が追加される。そして、成立させるためにはかなりの基礎構造が必要である。名前のあるキーワード3つのうち再録するのは1つだけにしたいと考えていたが、その枠は信心がすでに入っていたので、競争は非常に激しかった。授与について話し合えば話し合うほど、他の選択肢に取って代わられるだろうということになっていったのだ。これを不採用にすることの唯一の大問題は、これ以外にセットをまとめるために必要な要素があるようにしなければならないということだけだった。

星座

 「エンチャント関連」がセットに存在するようにしたいと考えていたし、星座は人気もデザインの柔軟性もあった。先に述べた通り、大きな課題となったのは、『ニクスへの旅』ではこのメカニズムをエンチャントだけに持たせていたので、星座カードがそれ自身の餌になるというプレイデザイン問題だった。サム(スタッダード/Sam Stoddard、セットデザインの初期リード)は、星座を使いたいのであればそれをエンチャントでないカードにも持たせるべきだと強調した。これは、プレイデザインがこのメカニズムのバランスを取るために必要となる、重要なつまみなのだ。我々は他のエンチャント関連メカニズムをプレイすることにしたが、星座を選んだならそれをエンチャントでないクリーチャーに持たせようと考えた。

英雄的

 英雄的は楽しくてフレイバーに富んだメカニズムだった。プレイヤーには全体として好評だった。ただし、これは、他の選択肢と競合したときに勝ち切るようなものではなかった。『テーロス』には問題なくはまっていたが、これは他のさまざまな世界でも可能なものなのだ。マジックは対立のゲームである。戦士は大量に存在し、その中の多くは英雄と呼ばれ得る。最終的に、我々は英雄的を再録はせず、名前を使わずに英雄的能力を持つカードを数枚作るという可能性を残すことにした。このセットには最終的に、赤と白に合計5枚、同じ効果を持つカードが入ることになった。(ヒント:これはこのセットの赤白のアグロ戦略を助けるものである。)

怪物化

 怪物化は英雄的と同じ運命に悩まされた。楽しくてフレイバーに富んでいるが、どのセットでもできるようなことなのだ。怪物のいないマジックのセットは作らないので、このキーワードを使う他の場所を探せないようなものではないのだ。これをセットに入れる余地は少しあったが、これについてはプレイテストすらしなかったと思う。

ミノタウルス部族

 『テーロス』ブロックについてお気に入りだったものは何か、いろいろと聞き回った。多くの人々に聞いたが、誰もミノタウルス部族を挙げなかったのだ。我々は最終的に、(初代『テーロス』ブロックでそうしたように)ミノタウルスを黒と赤に入れることにしたが、部族への補助は必要ないと判断した。限られた枠に入れるべき、もっと重要だと考えられる要素があまりにも多かったのだ。

 

 「なし」のメカニズムについて語るべき理由はあまりないだろう。それらはプレイヤーが再録を望んでいないと思われるものであり、ただでさえも枠が足りないのだ。

 
英雄譚

 デザインの話の次の章に移る前に、初代『テーロス』ブロックからですらないもう1つの再録メカニズムについて語るべきだろう。英雄譚は『ドミナリア』で初登場した、特別なカード枠と物語というフレイバーを表す独自のルールを持った、エンチャントの新しいサブタイプだった。英雄譚は『ドミナリア』での大当たりで、これを(できればドミナリアを再訪する前に)再録する場所を探していたのだ。英雄譚を成立させるために必要だと考えていた条件はこうである。

物語を持つ世界

 英雄譚は物語を表すものなので、語るべき物語がある世界でこそ意味がある。これは最終的に2つに分類される。1つ目が、再訪している世界。そこにはかつてのマジックの物語が存在する。2つ目が、ユーザーがすでに知っている物語がある元ネタを使ったトップダウン・デザインで作られた世界だ。

エンチャントを入れる余地があるセット

 英雄譚は全体エンチャントである。ほとんどのセットには、全体エンチャントを大量に入れる余地はない。つまり、そのセットにはセット内の適当なカードであるという以上にそれらを入れる必要がなければならない。

絵画的世界

 この最後の条件はそれほど重要ではないが、『ドミナリア』では描写されている物語がその世界の絵画性を通して語られるという英雄譚の絵画性を確立した。つまり、英雄譚は定義された絵画性を持つ世界でもっともうまくいくのだ。

 開発部で最近流行りの冗談に、デザイン・リードはそのセットがなぜ英雄譚に最もふさわしいのかという理由を考え出すものだ、というものがある。『ラヴニカのギルド』や『ラヴニカの献身』は3回目の訪問なのですでに語ってきた物語が大量にあり、またギルド英雄譚のサイクルというのは素晴らしいだろう。『灯争大戦』は長大な物語のクライマックスで、渦中のプレインズウォーカーにはそれぞれ背景となる物語がある。『エルドレインの王権』はトップダウンのおとぎ話世界であり、文字通り有名な物語を元にして作られた世界である。しかし、『テーロス還魂記』はあらゆる提案の中で最高のものだった。

 エンチャントを元にしたメカニズム的特徴があり、独特の絵画性で知られる文化に焦点を当てている、既知の物語を元にしたトップダウンの世界への再訪なのだ。どのセットにも英雄譚を採用するいい理由はあるが、『テーロス還魂記』ほどのものは存在しなかった。英雄譚を入れるべきだということは明らかだった。

 全体として、英雄譚には充分なデザイン空間が残されていたのであまり革新はしなかったが、1つだけ変更したことがある。『テーロス還魂記』の英雄譚の中には4章あるものがあるのだ。(『ドミナリア』ではすべてが3章だけだった。)

「次!」

 採用するものが決まった。信心、神々、クリーチャー・エンチャント、英雄譚、何らかの形での「エンチャント関連」、そして死の国を元にした新メカニズムを採用することにした。そして、2つのものを探すために時間を掛けた。死の国のメカニズムと、「エンチャント関連」のメカニズムである。死の国のメカニズム探しについては先週語った。(そして展望デザインで彼岸メカニズムを作り、セットデザインはそれを脱出に入れ替えた。)今日は、「エンチャント関連」メカニズム探しについて論じよう。

 テーロスへの再訪にあたって「エンチャント関連」テーマを使うことがわかっていたので、実際、この捜索は先行デザインのときに始まっていた。閾値メカニズム(エンチャントを参照する金属術的なもの)や多用途メカニズム(エンチャントを使った召集的なもの)、強化メカニズム(エンチャントを使った覇権的なもの)、エンチャントだけが持つメカニズム、エンチャントにだけ作用するメカニズム、他のものをエンチャントにするメカニズム、エンチャントを他のものにするメカニズムを試した。あらゆるものを試したが、最終的に、星座が最善だという認識に到ったのだ。

 そして、展望デザイン中に、我々は同じ捜索を繰り返し、同じところに到った。星座は、最も明瞭で簡単な方法だったのだ。サムの助言に従い、我々はこのメカニズムをエンチャント以外にも持たせることを認めた。

 この先に進む前に、今日のプレビュー・カードである星座カード(エンチャントではない)なのだ。

 《太陽の恵みの執政官》をご覧あれ。

 今日の締めくくりに、このセットでの革新をいくつかお見せしよう。軽く説明させてくれたまえ。

亜神
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 『テーロス還魂記』で、まだ掘り下げられていなかったギリシャ神話の要素を探したところ、『テーロス』に神はいたが亜神がいなかったと気がついた。この見落としは、アンコモンの伝説の亜神のサイクルによって埋められた。予想できる通り、これらは神々そのものではない形で神々を示唆している。

介入
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 これは5柱の神々に関連している、レアの呪文のサイクルである。それぞれの呪文はモードを持つX呪文で、Xを使った2種類の効果がある。

トップダウンのギリシャ神話

 今回の再訪を、前回舞台にしたときに作れなかったギリシャ神話のカードを作る機会にした。これをお見せするのが楽しみだ。

甘美な甘美な死

 私は最終的に『テーロス還魂記』に入ったメカニズムの組み合わせに大満足している。古いものと新しいものが合わさって、前回舞台になった時を連想させながら独自性を持った、テーロスらしいセットに仕上がっている。いつもの通り、諸君からの今日の記事やこのセットそのものに関する意見を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『テーロス還魂記』のカード個別のデザインの話を始める日にお会いしよう。

 その日まで、あなたのテーロスへの再訪が思い出深いものでありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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