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Making Magic -マジック開発秘話-
何があってもエルドレイン
2019年9月9日
『エルドレインの王権』プレビュー特集第1週にようこそ。今日は、このセットがいかにしてアーサー王伝説とグリムのおとぎ話の邂逅に仕上がったかを見ていこう。先週の記事でほのめかしていた通り、これは長年に渡って続いてきた話である。今日はその話をする。また、今日の記事の締めくくりには、クールなプレビュー・カードを数枚お目にかけよう。
本題に入る前に、まず『エルドレインの王権』の展望デザイン・チームをご紹介する。
むかしむかし
この話の始まりは、2005年に遡る。我々が『ローウィン』を手掛け始めたときのことである。その当時、はっきりしていたことは2つだけだった。1つ目が、ローウィンを部族ブロックにしようということ。そして2つ目が、同じ世界の闇版となる『シャドウムーア』ブロックに転回するため、『ローウィン』ブロックは対照的になるよう明るいものにすること。部族セットなので、我々はまず最初にクリエイティブ・チームと協力し、焦点を当てるクリーチャーの部族を列記していくことから始めた。部族の濃いセットの性質上、焦点を当てていない部族のクリーチャーを入れる場所はそのセットにはあまり存在しないことになる。つまり、我々が選んだクリーチャーは、世界構築の基礎になるのだ。
我々は最初に、メカニズム的に必要だとわかっている部族に焦点を当てることから始めた。つまり、私が特性的部族と呼んでいる、大抵の場合各色に存在する基本的な部族(白の人間、青のマーフォーク、黒のゾンビや吸血鬼、赤のゴブリン、緑のエルフ)に焦点を当てるということである。ゾンビや吸血鬼は、明るく楽天的な世界に入れるのは難しいのでやや問題があった。また、ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuth(当時のクリエイティブ・ディレクター)は人間のいない世界に挑戦することを熱望していたので、マーフォーク、ゴブリン、エルフが採用された。その後、デザイン・チームとクリエイティブ・チームの間でやり取りしながら、フェアリー、巨人、エレメンタル、ツリーフォーク、キスキンが採用されることになった。(多相の戦士は、デザインの後期になって多相がセットに加えられてから登場することになる。)このクリーチャーの選択によって、ブレイディ率いるクリエイティブ・チームはセットの発想元としてケルト神話を使うことになる。(ケルトの影響というアイデアがクリーチャー・タイプの選択に影響を与えた可能性はあると記しておくべきだろう。)
すべてが落ち着くと、具体化していく助けになれることに心が躍るような、非常に特徴的な世界ができあがっていた。それを手掛けていくうち、私は、まだ実現していないクールなことのヒントになっていると気がついた。フェアリーと巨人とエルフの世界といえばおとぎ話だが、何かが欠けていたのだ。(「おとぎ話」と言っているが、ここではヨーロッパ風、特に中欧の、おとぎ話の本になっていたりアニメ映画になっていたりするフォークロアを指している。)それに手をつけるにはしばらくの時間がかかった。人間がいないこと、そして組織的社会が存在しない(王や女王、王子や姫、城や騎士が存在しない)ことは、おとぎ話のお約束の多くが存在しないことを意味していた。おとぎ話で見かけられる要素の欠片だけがあっておとぎ話そのものは存在しないようなものだったのだ。私は『ローウィン』はそれとして楽しんだが、後に作られるのを待っているもう1つの世界、おとぎ話の世界があるということにも気がついたのだった。
そして4年後、『イニストラード』を手掛けているときのことだった。私は初めて、ポップカルチャーのジャンル(この場合はホラーというジャンル)を元ネタにしてデザインをしており、それによって開けた可能性に心を踊らせていた。ユーザーがポップカルチャーを通じてすでに知っている、物語や人物や道具や舞台や状況を取り上げ、そしてそれを個別のカードや広いデザイン要素をデザインするために使うことができたのだ。それに我々独自のひねりを加えたが、ユーザーがすでに知っているものに踏み込んでいるので、感情的な共感でいっぱいのものをデザインすることができたのだ。これは強力な道具で、私はそれをもっと使いたいと思ったのだった。
これによって、1つの疑問が浮かんだ。ポップカルチャーのどのジャンルを掘り下げることができるだろうか。マジックはその本質としてファンタジーのゲームなので、取り上げるジャンルがファンタジーに近ければ近いほど適応しやすいことになる。そのとき、私は『ローウィン』のデザインのことを思い出したのだった。もちろん、おとぎ話というのは完璧な選択だった。1つ目に、プレイヤーの大多数がよく知っているものであるということ。私は、平均的なアメリカ人は本質的にシンデレラである映画を死ぬまでに10種類見ることになるという統計を見たことを思い出した。(私自身は、14本あった。)2つ目に、おとぎ話はファンタジーを舞台にしている。城があり、ドラゴンや魔女やエルフがいる。3つ目に、おとぎ話は何度もさまざまな形で語られてきており、さまざまなアプローチ手法が存在する。適応力が強く、マジックの世界と容易に組み合わせることができるのだ。
おとぎ話の世界は、マジックに完璧にふさわしいと思われた。問題が1つだけあった。私は、アイデアを提示すると、すぐに否定されるのだ。おとぎ話が童話と一緒にまとめられていることが多いので、子供向けすぎることが最大の懸念だと私は考えていた。グリムのおとぎ話のようなものを示して、おとぎ話を大人らしい方法で扱うことができるということを示したが、私の提案には誰も耳を貸さなかった。
そして、2015年。我々はボーラス・シリーズ(『カラデシュ』から『灯争大戦』までの3年間)が終わった後に来るものについての議論を始めて、訪れることのできる新しい世界を掘り下げていた。多くのカード構築の会議で、開発部のメンバーが招かれ、新しい世界についてのそれぞれのアイデアを20分で売り込んだ。私がおとぎ話世界のアイデアを売り込んでからいくらかの時間が過ぎていたので、私は新しいプレゼンテーションを作り、それを会議に持ち込んだのだ。私は、私の世界を、ポップカルチャーのジャンルをもとにしたトップダウンの世界、次なる『イニストラード』として売り込んだ。反応は、「はあ。他にありませんか?」というものだった。
一方、その同じ会議で、ショーン・メイン/Shawn Mainはアーサー王伝説をもとにした世界を提案した。『アラーラの断片』のバント断片以来、純粋なハイ・ファンタジー世界は扱ってこなかったのだ。(ただし、もちろん『ドミナリア』にはその一部の要素が含まれていた。)そして、ショーンは、今こそ我々の根源(『アルファ版』は多くのハイ・ファンタジー要素を含んでいた)に立ち戻る時期だと考えていたのだ。彼はまた、そこには我々が扱える面白いネタもあると信じていた。私のプレゼンテーションと違い、ショーンのものは非常によく受け入れられ、彼のアイデアは検討すべき世界の束に置かれることになった。
およそ1か月後、私の上司にしてマジックのデザイン担当副社長であるアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheが将来の世界のアイデアについて語るために私をオフィスに呼び出した。彼は、ショーンの次元のアイデアについて私が考えている懸念を説明してもらいたいと言った。私は、アーサー王伝説は美しい見た目の世界を作ることになるだろうし、クリエイティブ・チームが世界の宇宙論を作るために使えるものも多いだろうし、その要素をもとに良いカード・デザインを大量に作ることができるだろうと答えた。しかし、懸念は2つあった。1つ目に、アーサー王伝説だけをもとにするなら、元ネタはそう深くはないということ。元ネタの文献に精通していれば大量に存在するが、芳醇さのためには平均的な人々が知るものに焦点を当てる必要があり、平均的なプレイヤーがその元ネタに関連していると考えてもらえるものに限るなら、その数は最大に見積もっても10~20個となるだろう。(これでもおそらく多めに見積もったほうだ。)これでは充分とは言えない。
しかし、2つ目の問題のほうが、さらに重大な問題だった。マジックは、何度もハイ・ファンタジーを扱ってきている。この世界では、バントやドミナリアと違うと感じさせるようなものを提示しなければならないのだ。セットにクールな騎士を並べることはできるが、それはこれまでにも何度もやってきたことであり、プレイヤーを惹きつけるものにはならないだろう。当てにできるような新しいものは何もないのだ。
この懸念は、私が何か月も後にする反復工程によってはっきり示されていた。他の人々をデザインのプレイテストに招いて、セットに関する新しい視点を求めることはよくあることだ。あるプレイテスターがこのセットを初めてプレイテストしたあと、私は彼のところに感想を聞きに行った。そして、このセットについてどう思ったかを聞いたのだ。彼は息もつかずにおとぎ話要素について語った。私は彼に、アーサー王伝説の部分についてどう考えたかを尋ねた。彼は、特に気づかなかったと答えてきた。それを受けて彼のデッキを見た。彼は騎士部族デッキをプレイしていたのだ。彼のデッキの4分の3ほどは「このセットのアーサー王伝説の部分」だったのだが、それはマジックがいつもやっていることの一種だったので彼は目を留めなかったのだ。前提として、彼はプレイテスト・カードでプレイしていたので、世界の一部を表現する助けとなるアートやフレイバーテキストは存在しなかったが、相互作用は雄弁に語っていた。
さて、アーロンとの会議に戻ろう。私は、このセットには足りないものがあると感じていて、解決策はある、と言ったのだ。私が提示したおとぎ話世界は、ショーンの世界と共通するものが多い。どちらの世界も、ローウィンに欠けていた構造のある社会が存在する。城や王女や王子なしでおとぎ話は成立しない。この2つの世界を組み合わせて1つの世界にしたらどうだろうか。そうすれば、扱うことができる元ネタの空間は広がり、新しいもの、このセットを売り込めるものが手に入ることになる。(興味深いことに、これは最終的にはこの世界に対立要素をもたらすことになり、この世界の騎士たちに戦うべきものを与えた。)アーロンは私の主張に説得力があると言い、アーサー王伝説はグリムのおとぎ話を得ることになったのだ。
物語を語る
デザインを始めたときに最初にしたことの1つが、カードを作る元ネタにできる、おとぎ話/アーサー王伝説のネタをすべて列記していくことだった。驚くほど大量の要素が記されていった。(初期のコンセプト一覧の草稿を作っていて、30分で100個書かれた一覧ができあがっていた。それと対照的だったのが『アモンケット』で、こちらは一覧を作るのに何週間もかかり、その数も100には全然及ばなかったのだ。)このことから、おとぎ話には組み合わせていく要素の欠片が特に大量に存在するということがわかる。人物、品物、出来事、魔法の呪文。それらはマジックのカードを作る上で非常に役立つものだ。1つの物語から、何枚ものカードを作ることができる。それをプレビュー・カードとともに示していこう。先に、シンデレラの物語がどれほどよく知られているかという話をした。そこで、ここでも例としてそれを使うことにする。
すべてのおとぎ話がそうであるように、まずは「むかしむかし」だ。今回の主役の場合、彼女の父親が死ぬところから話が始まる。
クリックして《むかしむかし》を表示
彼女の人生は彼女の父親がいなくなったことで大きく変化し、意地悪な義母は彼女を義娘としてではなく召使いのように扱うようになった。
クリックして《意地悪な後見人》を表示
幸いにも、彼女には味方がいた。彼女を助けられる、面倒を見てくれる妖精だ。
クリックして《フェアリーの導母》を表示
彼女は魔法でかぼちゃの特別な馬車を作るなど、さまざまな手助けをする。
クリックして《魔法の馬車》を表示
しかしその魔法は真夜中に解けてしまう。
クリックして《カボチャ変化》を表示
すべてはもとに戻る。
クリックして《自然への回帰》を表示
ヒロインは走り去るが、重要なものを残していく。(次のカードはMTGアリーナのブロールのイベントですでにプレビューされているので厳密にはプレビュー・カードではないが、まだ見ていない諸君のために公開しないのはおかしいと感じたので公開しておく。)
クリックして《水晶の靴》を表示
しかし幸いにも、水晶の靴を残していった神秘的な女性を探すために人が派遣される。このセットの中では、狼を連れた追跡者が使われている。
クリックして《僻森の追跡者》を表示
この8枚のカードがその物語から作られているが、もちろん、これ以外にもカードを作ろうと思えば大量に作れた。デザインのさまざまな時期に、我々は〈終わりのない雑用〉〈お助けネズミ〉〈残酷な扱い〉〈自信過剰な義姉〉〈王宮の鐘〉〈手作りのドレス〉〈魔法のガウン〉〈真夜中の鐘〉〈迅速な退出〉〈靴合わせ〉〈堂々たる結婚〉といったものを実験していた。
ここで、私が魅力的な王子とか「めでたしめでたし」とかに触れていないことに気づいたことだろう。それは、このセットに存在し、他の場所でプレビューされているからである。なぜか。それは、我々がこのセットを編纂している間に学んだ、他の理由による。おとぎ話には、複数の話に共通する要素が大量にあるのだ。もちろん、シンデレラに魅力的な王子は登場するが、眠り姫や白雪姫にも、人魚姫にも、魔女と野獣にも登場する。大きくて悪い狼は赤ずきんを脅かしているが、一方で三匹の子豚の家を2軒吹き飛ばしてもいる。ルンペルシュティルツキンは糸車を使って藁を金に編み上げるが、糸車はまた眠り姫に呪いをかけ、彼女(とその王国)を眠りにつかせるための道具でもあるのだ。
『エルドレインの王権』のデザインに最も似ていたセットは、ジャンルを元ネタにしたトップダウンのセットを作った『イニストラード』である。今回大きく違いのは、おとぎ話とアーサー王伝説は何百年も繰り返され、お互いに引用されあうこともあった古い物語だということである。そのため、ホラーよりも要素の再利用が多くなっている。『イニストラード』のトップダウン・デザインは怪物が共通していたが、『エルドレインの王権』のような「組み合わせ」感は存在しない。少女が悪魔になることと、科学者が巨大バエになることの間にはほとんど関係はなかった。対照的に、おとぎ話は最初にこのセットを作り始めたときには予想もできなかったような形で組み合わさっていた。
これらすべての結果、『エルドレインの王権』は『イニストラード』とは全く違う感じになっている。(そしてそれは元ネタの雰囲気が違うというだけの話ではない。)『エルドレインの王権』をプレイするとき、諸君は物語上の瞬間を再構築できるようにゲームの要素を選ぶことができる。例えば、《自然への回帰》で《魔法の馬車》を破壊することができる。それらを組み合わせて、起こり得なかったことを起こす物語を作ることもできるのだ。魅力的な王子が、《魔法の馬車》に乗ったり、かつて人魚だった少女やジンジャーブレッド人間や魔法の豆と交換される子牛や黒騎士に出会ったりするかもしれない。これらの馴染みのある要素を取り上げ、それらを組み合わせることで、私が諸君皆に試してもらいたいと思っている、とても楽しいプレイ経験につながるのだ。
めでたしめでたし……今のところは
本日はここまで。次週は、このセットがどのように組み上げられ、どのようにメカニズムが出来たのかの話を始めることになる。私はいつも諸君からの(この記事や『エルドレインの王権』についての)感想を楽しみにしているが、このセットは私が特に誇りに思っているものなので、いつも以上に楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、エルドレインの世界について話し始める日にお会いしよう。
その日まで、このセットがあなた自身の願いを叶える助けになりますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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