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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

その話はこのヘン(イ)で

Mark Rosewater
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2019年8月5日

 

 『統率者(2019年版)』プレビュー記事へようこそ。今週いっぱいかけて、4つのデッキのテーマとプレビュー・カードを紹介していくことになる。近年してきたとおり、1日ごとに別々のデッキと、それに含まれているプレビュー・カードを紹介するのだ。今回は、最初に『統率者(2019年版)』全体の構造を説明し、それからプレビュー・カードとして2枚の新規カードと1枚の新アート再録カードをご紹介しよう。

デッキは何か

 毎年、統率者のデザイン・チームは、すべてのデッキを構成する統一された方法を考え出している。年によっては、色に基づくもの(すべてのデッキが楔3色)だったり、テーマを基柱としたもの(統率者になれるプレインズウォーカー)だったり、メカニズム的特徴を基柱としたもの(すべてのデッキが部族テーマ)だったりする。『統率者(2019年版)』では、デザイン・チームは、人気のあるマジックのメカニズムを基柱とすることにした。デッキごとに、チームはメカニズムを1つ選んでから、そのメカニズムにふさわしい色を選んでいった。今日のデッキは、変異メカニズムを基柱とした3色(黒緑青)デッキである。変異は最初『オンスロート』ブロックで登場したが、その後『時のらせん』ブロックと『タルキール覇王譚』ブロックで再登場している。

 すぐにプレビュー・カードを公開するが、その前に、変異がどのようにできたのかの話をしようと思う。このことについて話したことはあるので、今日はそれよりも少し詳細に掘り下げた話をしよう。この話の最初は、『アルファ版』にまで遡る。リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが最初のマジックをデザインした時、普通のゲームとして作っていた。別次元の事象になるようなものだと思ってデザインされたゲームではなかったのだ。つまり、最初のマジックは、家で友人とプレイするようなゲームとしてデザインされたのである。そのため、リチャードは意図的に、非常にフレイバーに富んでいるが少し曖昧なカードをデザインしていた。環境を掘り下げることの楽しみの中には、そういったカードの使い方を見つけることも含まれていたのだ。リチャードにとって、一体どう動くのかという会話を生み出すようなカードはむしろ目玉であって、誤りではなかったのだ。プレイグループごとに話し合ってどう働くかを決めるということが想定されていた。

 そして数年後。マジックは別次元の事象になっていた。人々はただ自分の家でプレイするだけではなくなった。ゲームショップを訪れ、大会でプレイするようになった。プロツアーや多くのグランプリといったトーナメント構造が存在していた。マジックはプレイヤーが勝手にカードの作用を決められるようなものではなく、厳格なルールが必要になっていたのだ。こうして、曖昧な部分の多くを明確化し、初期マジックのカードが生み出したあらゆる細かなことを解決するルール・チームとして知られたグループを生み出す、『第6版』ルールが作られた。ルールの需要が縮小したので、現在ではルールはルール・マネージャー1人によって管理されている。(当時はルール・チームを監督するのがルール・マネージャーの仕事だった。)

 当時のルール・チーム(ポール・バークレー/Paul Barclay、エレイン・チェイス/Elaine Chase、ブレイディ・ドマーモス/Brady Dommermuth、ジェフ・ドネ/Jeff Donais、マイク・ドネ/Mike Donais、コリン・ジャクソン/Collin Jackson)は週に1回会議を開き、そこで現在のルール・システムに揃える必要がある古いカードの履歴に取り組んでいた。最も厄介なカードの中に、《Illusionary Mask》と《Camouflage》という『アルファ版』からの2枚があった。

 この元になったアイデアは非常に面白いものだった。クリーチャーを選んで裏向きに置き、そのクリーチャーが裏向きである限り、対戦相手はそのクリーチャーが何なのかわからないのだ。初期は、プレイヤーはこのカードに関していろいろなことを試してみて、そしてカードのオーナーが、その処理ができるかどうか答えるというものだった。

「それに《恐怖》を打つよ。」

「死なないね。」

「わかった、それは黒かアーティファクトなクリーチャーなんだな。対象に取れないなら、対象にできないと伝えてくるはずだ。じゃあ今度は《粉砕》を打つよ。」

「死なないね。」

「アーティファクトでもない。つまり、黒のクリーチャーなんだな。」

 これは、家でプレイする分には楽しいゲームだったが、対戦相手が言ったことが事実だと証明できない大会の環境では問題があった。ルール・チームは問題のあるカードの履歴に取り組んだが、《Illusionary Mask》と《Camouflage》はルール・チームにとって茨そのものだった。そしてある日、彼らは突拍子もない解決策を思いついたのだ。裏向きのカードが、特定の特性を持つとしたらどうだろうか。そうすれば、裏向きであるそれに対して何が起こって何が起こらないのかがわかるのだ。《Illusionary Mask》と《Camouflage》がクリーチャーをオモテ向きにすることができるので、その本来の性質を活用したいと思ったときにはそうできるが、そうする場合にはそのクリーチャーが何だったのかを公開しなければならないのだ。こうすれば、これらのカードはルールで扱えるような挙動をするようになる。

 この2枚のカードへの解決策を見出したことには満足したが、ルール・チームはそれ以上のことを考えていた。この技法を用いれば、メカニズムを作ることが可能だ。この能力を最初から持っているカードというのはどうだろうか。何であるかを秘密にしたままにプレイでき、それがどのカードであるかを知る必要もないようにるようにマナ・コストを統一すればいい。プレイヤーはその裏向きのカードをゲーム終了時に公開して、そのメカニズムを持っていることを証明する必要はあるだろうが、大会でも処理は可能だ。彼らがこの新しいメカニズムについて興奮して話し合っていると、ドアの外の部屋から大声が聞こえた。その大声の主は私だった。

 ここで、この物語のもう1つの側面を語ろう。当時主席デザイナーだったビル・ローズ/Bill Roseは、私に、当時提出されたところだった『オンスロート』のデザインについての助言を求めていた。カード単位ではクールなものが多くあったが、そのセットのメインになる2つのメカニズムについてビルは懸念していた。彼は私に、それらをどう変更できるか時間を取って考えてほしいと言ってきたのだ。私がルール・チームの隣の部屋にいたのは、『オンスロート』のリード・デザイナーだったマイク・エリオット/Mike Elliottに私の考えについて説明するための会合を開いていたからである。私は、このセットに存在していたちょっとした部族テーマを取り上げ、それを強めてセットのメインのテーマにするのはクールだというアイデアを持っていた。彼と私がそれについて話し合っていると、ジェフ・ドネが部屋に飛び込んできたのだった。

 ジェフ・ドネは当時、組織化プレイ・プログラムを運営しており、ルールを決めるにあたって組織化プレイへの影響という観点で考えるのは重要だったことから、ルール・チームの一員になっていた。ジェフは私の声を聞きつけ(私は声がかなり大きいのだ)、新メカニズムに関するルール・チームのアイデアを伝えに隣のドアに飛び込んできたのだった。彼は興奮してそのメカニズムを我々に売り込んできた。そのメカニズムを持つカードは、2マナで1/1として裏向きにプレイできる。その後、特定のコストを支払うことで、表向きにすることができ、そうするとそのクリーチャーの本来の姿になるのだ。マイクは興味を示さなかった。手間がかかって、裏向きのカードを戦場に出すという面倒に見合う価値はないように思われたのだ。私は気に入ったが、ジェフに、もっと調整が必要だろうと伝えた。私は『オンスロート』向けの新しいメカニズムを探しており、変異は部族テーマと相性がよさそうに思えたので、私はジェフと別に時間をとってこの新メカニズムについて話し合うことにした。ジェフから詳細な説明を受けて、私は考えるために1週間の時間をもらった。

 その週の間に、私はそのメカニズムでできることの感覚を掴むためにそれを持ったカードを数枚作ってみた。そしてすぐに、いくつかの結論に至ったのだ。

  1. 1/1は小さすぎる。1点のダメージには通常危険を冒してブロックする必要があるとはまず感じない。また、あまりにも簡単に殺せすぎる。私は、2マナ1/1ではなく3マナ2/2にすべきだと考えた。
  2. 形を変えるだけでは不充分である。私は、このメカニズムにはまだ他の余地があると感じていた。オモテ向きになったときに、効果を発生するクリーチャーがいるとどうだろうか。そうするとゲームプレイ上の選択肢も増え、デザイン空間も広がる。
  3. 名前が必要だ。メカニズムを売り込むという場合、フレイバーが必要である。私はそれを最初「偽装/Stealth」と名付けた。
 

 その後、私は別々の色の組み合わせでデッキが2つ作れるだけの量のカードをデザインした。この新メカニズムを人々に説明するのではなく、実際にプレイしてもらおうと考えたのだ。長年の経験から、新しいアイデアで人々を興奮させるための最善の方法は、彼らにプレイしながらそれの楽しさを体験してもらうことだと学んでいたのだ。少しずつ、私は開発部の全員とそのデッキで対戦し、そしてある種の意見の一致を作り上げていった。ルール・チームからの最初の売り込みに懐疑的だったビルは実際のプレイを楽しみ、そしてそれを『オンスロート』のメカニズムの1つとすることに同意した。ブロック内で成長させる余地を与えるため(そしてクリーチャーだけのセット『レギオン』のデザインを助けるため)、我々は意図的に「呪文」変異を第2セットのために温存した。こうして、変異ができたのだった。

 それはさておき、そろそろプレビュー・カードをお見せしよう。まず最初は(新規アートの)再録カードだ

 次は、私が挑戦して長年マジックに採用させることができずにいた、変異カードの調整品である新規カードだ。

 《破滅の贈り物》をご覧あれ。

 さていよいよ私がお見せしたくて仕方なかったプレビュー・カードの番である。何年も前に、私が共同で作った登場人物だ。

 最後のプレビュー・カードは、これだ。

君の知る変異

 本日はここまで。諸君がこの新しいデッキを見て、そして新しいカードでプレイすることに心を躍らせてくれていれば幸いである。最初に言ったとおり、今週毎日(これから3日)確認して、他の『統率者(2019年版)』のデッキとプレビュー・カードについて知ってもらいたい。いつもの通り、『統率者(2019年版)』、変異、オーラ変異、ヴォルラス、その他今日話題にしたことについての感想があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、テーマのあるパーティについて見ていくときにお会いしよう。

 その日まで、あなたが《破滅の贈り物》を、《姿奪い、ヴォルラス》をコピーしたあなたの《ヴェズーヴァの多相の戦士》にエンチャントできますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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