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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

「誰」を知る

Mark Rosewater
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2019年3月4日

 

 10年前、私は疑問詞6つ(Who/誰、What/何、Where/どこ、Why/なぜ、When/いつ、How/どう)それぞれを尋ねるという計画で一問一答のシリーズを立ち上げた。過去の記事は以下の通り。

 今日と来週の記事でこの一問一答の大シリーズを終わらせようと計画している。今回は「誰」の、そして来週は「どこ」の質問に答えることにする。私が質問を集めるためにツイートしたのは以下のツイートだ。

 私は今一問一答記事を書いており、諸君の助けが必要である。「Who」または「Where」からはじまる質問を1ツイート1問で送ってくれたまえ。

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 記事を複数の言語に翻訳する必要があり、文章量を制限した方が編集者や翻訳者の負荷が軽くなるとわかったため、制限されている。質問の数が非常に多く、それらすべてに答える枠がないのだ。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。可能な限り、その質問をしてきた中の最初の質問者に答えることにしている。
  • これらの一問一答記事をそれぞれ違う疑問詞から始めているのは、それぞれ違う種類の質問が届くようにするためである。「Who」や「Where」の形式をとっていても実際には「誰」や「どこ」を聞いているのではない質問もあったが、それらは無視した。
  • 質問の中には、私が答えを知らなかったり私の専門外だったりするものがあり、私には正しく答える資格がないと思われるものもある。
  • 私が触れることが許されていない話題が存在し、それらの話題に関連する質問は無視した。

 伝えるべきことは伝えたので、さっそく質問に入るとしよう!

Q: アショクはどこにいますか? アショクって誰ですか?

 アショクはどこにいるのか。これは来週向けの質問だ。

 アショクとは誰なのか。この質問には今回答えることができる。

 一言で言うと、誰も知らない。この質問は、今までの物語のどこにも答えが示されていないのだ。詳しく答えるなら、その人物が知られていないということがアショクを特徴づけている。もし明日、アショクはこれこれこういう人物だと言ったとしたら、アショクの人物性を低めることになるだろう。アショクの謎めいた性質のおかげで、それぞれのプレイヤーがそれぞれの信じるように隙間を埋めることができ、アショクとのつながりを感じられるのだ。

 アショクについてこれから知ることはあるだろうか。おそらくあるだろう。知ることができることはある。アショクについてすべてのことを知ることはできるだろうか。アショクの魅力の大部分はその未知性と、プレイヤーがそれぞれに想像できることから来ているのだと思われるので、私は、おそらく全てを知るようになることはないだろうと考えている。


Q: ジェイスの母親は誰ですか?

 ジェイスという人物が存在していたうちほとんどの期間、ジェイスは自分の母親が誰だったか、どこにいるのか、その他彼女について何も知らないでいた。彼の過去は拭い去られており、我々にとってそうであるように彼にとっても謎だったのだ。『イクサラン』の物語の終わりになって、ジェイスは記憶を取り戻した。彼が記憶のすべてを取り戻したのか、一部だけなのかはわかっていない。例えば、彼の意識の中で隠れていなかった、拭い去られていたものは存在するのだろうか? つまり、ジェイスは自分の母親のことを知っているかもしれないし、知らないかもしれない。我々観客にはわからないことである。

 いつかヴリンを訪れることになるだろう(『マジック・オリジン』ですでに軽くは訪れている)。そして、そうしたときには、ジェイスの前半生に関わりのあった人々と会う機会があることだろう。彼の母親もその中にいるかもしれない。その日を待つことにしよう。


Q: まだカードになっていないプレインズウォーカーの中で、将来のセットで一番登場してほしいのは誰ですか?

 かなり古い存在だが、私は、レシュラックがプレインズウォーカーとして『統率者』のようなサプリメント商品で印刷されると非常にクールだと思う。


Q: もっと統率者戦のボロスを強化してほしいと思ったら誰に言えばいいんですか?

 どのように強化してほしいと思っているかによる。

 赤や白の許容範囲を広げて、テーマ的には色にふさわしく、統率者戦とシナジーを持つ新しい能力を使えるようにしてほしい? それなら、色の協議会が妥当だろう。色の協議会とは、カラー・パイを監督している、色が新しいメカニズム空間を掘り下げることの責任者である。統率者戦において赤や白を助けることは、ここ数年に渡って色の協議会の取り組んでいる課題なのだ。

 赤や白に、アグロ以外のデッキ・アーキタイプを掘り下げてほしい? それなら、展望デザイン・チームとセットデザイン・チームが各セットにどのようなアーキタイプが存在するかを決定する責任者である。展望デザインは陣営を作ることのほうが多く、セットデザインはドラフトのアーキタイプを作ることに注目している。両チームとも、赤や白に多くのセットで見かけられる「小型クリーチャーを並べて積極的に攻撃」という戦略以外の方向性を目指せるようにしたいと考えているのだ。

 赤や白のカードを、統率者戦に大きな影響を与えられるように、特に統率者戦で強くなるような方面で推してほしい? それなら、プレイデザイン・チームの担当だ。どのカードやメカニズムやテーマを、コストの観点から見て積極的に推すかを決める責任を持つのが彼らである。どれを推すかを変化させることが好きで、赤白もときおり脚光を浴びる時期がある。

 つまり、開発部には、赤白の強化に寄与できるグループがいくつも存在しているのだ。


Q: マジックのカードのフレイバーテキストを書いているのは誰ですか?

 各セットごとに、名前やフレイバーテキストを監督する担当者がいる。過去においては、すべてのセットの名前やフレイバーテキストを監督する人物が1人置かれていたが、何年も前にセットごとに担当者を変えるように変更し始めたのだ。クリエイティブ・リードと呼ばれるその人物は、そのセットのクリエイティブ・ライティング・チームと呼ばれる(ウィザーズ社内外の)ライターたちとともに働くのだ。カードはそれぞれ、ライターたちからの何が必要かという情報とともに特別なデータベースに入れられる。再録でないカードにはカード名が必要で、カードによってはフレイバーテキストが必要である。クリエイティブ・リードは、カード名やフレイバーテキストに他の条件がある場合に記録を取る。(例えば、カード5枚がサイクルになっており、カード名がお互いに関連していることが必要だ、など。)

 そのセットのクリエイティブ・ライティング・チームの各メンバーは、カード名やフレイバーテキストについていくつかの提案を出す。そしてクリエイティブ・リードはそれらの提案全てに目を通し、最適だと思うもの1つを選ぶのだ。その後、そのセットの編集リードと協力して、選んだカード名やフレイバーテキストが成立するようにすることになる。(選んだものが物理的にカードの枠に入らない場合や、近隣のセットでの選択と矛盾を起こす場合もあるのだ。)セットのデザイン・リードも(開発部の他のメンバーも)、選ばれたカード名に対して、クリエイティブ・リードが反応できるようにコメントをするのだ。

 私はかつてフレイバーテキストを書いていたが、『Unstable』を除いては、もう何年も書いていない。


Q: あなたの好きなマジックのフレイバーテキストを書いたのは誰ですか?

 私の好きなフレイバーテキストといえば、『アイスエイジ』の《ルアゴイフ》のものである。

「ああ! 逃げて、ハンス! ルアゴイフよ!」―― サッフィー・エリクスドッターの最後の言葉

 これが琴線に触れたので、私はこれを元に2枚のカードをデザインした。(そして、複数のカード・デザインのもとになったフレイバーテキストはおそらくこれだけだろう。)

Ach! Hans, Run!

 誰が書いたのか、が質問だったか。正直なところわからないが、推測することはできる。このセットをデザインしたのは、「the East Coast Playtesters」と呼ばれるデザイン・チーム(スカッフ・エリアス/Skaff Elias、ジム・リン/Jim Lin、デイブ・ペティ/Dave Pettey、クリス・ペイジ/Chris Page)である。当時、カード名やフレイバーテキストの多くはデザイン・チームが作っていたので、まず第一に、この中の誰かが書いた可能性が高いだろう。彼らでなかったとしたら、当時カード名やフレイバーテキストを監督していたコンテというチームがある。(コンテとアート・チームが統合されたのはそれから何年も後の話である。)コンテ・チームの最初のメンバーは2人で、私の記憶が正しければ(私がウィザーズで働くようになるよりも前の話なのだ)、ジョン・タイン/John Tyneとスコット・ハンガーフォード/Scott Hungerfordだったはずである。スコットの名前は、『ホームランド』のデザイナー2人の1人として知られているかもしれない。『アイスエイジ』のデザイン・チームが書いたのでなければ、ジョンかスコットが書いた可能性がある。デザイン・チームが、今日我々がしているように外部のライターと協力したかもしれないし、それ以外の誰か、当時のウィザーズ社員、が書いたかもしれない。


Q: 現在のウィザーズ社員の中で、一番長い期間働いているのは誰ですか?

 どう定義するかによって答えは変わってくる。TSR(「ダンジョンズ・アンド・ドラゴンズ」を作った会社で、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストに買収された)で働いていた期間をウィザーズで働いていた期間と合算するなら、答えはドーン・ミュリン/Dawn Murinである。彼女は1992年8月からTSRで働いている。ドーンはマジックのアート・ディレクターの1人でもあり、マジックのいくつものセットでアート・ディレクションを行なってきた。『Unstable』で彼女ととても密に協力できたことを嬉しく思う。

 ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社でもっとも長く働いている(TSRの買収は1997年である)人物というなら、チャーリー・カティノ/Charleie Catinoだ。彼は1995年2月からウィザーズで働いている。チャーリーは、マジックの最初のプレイテスターの1人であった。チャーリーはほとんどの期間開発部に所属しており、初期のマジックのセットの多くに関わっていた。(『ミラージュ』、『テンペスト』、その他のデザイン・チームに所属していた。)チャーリーは現在、開発部の「デュエルマスターズ」と「トランスフォーマーTCG」をデザインしているチームを監督している。

 ウィザーズの公式記録上の最長勤続者というなら、私だ。私は1995年10月から働いているが、雇用契約の中で、便宜上、私の勤務開始日は1月1日ということになっている。そうするために、ウィザーズのシステムには1月1日から働いていると入力されているので、公式なウィザーズの集計上、私はチャーリーよりも1か月早く入社したことになっているのだ。

 この他に、多くの諸君が知っているであろう人物として、テーブルトップTCG(マジックを含む)担当副社長の、ビル・ローズ/Bill Roseがいる。ビルは私よりも3週間早く働き始めているので、マジックに関わり続けている期間が最長の人物という栄誉はビルのものである。


Q: 色の評議会の赤担当は誰ですか?

 赤の代表者はジュール・ロビンス/Jules Robinsだ。白はアンドリュー・ヴィーン/Andrew Veen。青はイーサン・フライシャー/Ethan Fleischer。黒はガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verhey。緑はケン・ネーグル/Ken Nagle。無色はコーリー・ボーエン/Corey Bowenである。


Q: マナ・バーンをなくすのがいい考えだと思ったのは誰で、なぜですか?

 おそらく私だ。『基本セット2010』のルール改編のときに、マナ・バーンをなくすことを最も強く主張したのは私だった。興味深いことに、『基本セット第6版』のルール改編のときになくすことになりそうだったマナ・バーンを残すべきだと最も強く主張したのも、私だったのだ。あきらかに、私は心変わりをしている。それはなぜか。私がそれをいい考えだと思うようになった理由は何か。

 ここで、別の質問に答えてみよう。私が、マジックの健全性に対する最大の脅威だと考えているものは何か。複雑さだ。マジックは習得が難しいゲームである。何も知らないところからプレイできる知識を得るまでの隔たりが大きくなれば、新規プレイヤーが入ってくることはなくなり、そして新規プレイヤーが参入しない中で既存のプレイヤーが少しずつ離れることによってマジックはゆっくりと死に到るだろう。プレイヤー数が減ることによって我々が使えるリソースが減り、その結果、質、量ともにどんどん切り下げられていき、さらにやめるプレイヤーが多くなっていくという死のスパイラルに繋がっていく。

 マジックは栄枯盛衰のある変わり続けるゲームであり、常に新しい要素が加えられていく。その要素のほとんどはローテーションによって消えていくが、時折、もっと頻繁に、常盤木として(ほとんどのセットで)あるいは落葉樹として(必要に応じて)登場させたいと思うようなクールな要素が見つかることがある。それらが追加されていくごとに、複雑さが増えることになるのだ。複雑さを抑えたままにするために、我々はゲーム全体を見て、いろいろな要素にその負担分の価値があるかどうかを問いかける必要がある。価値がなければ、取り除かなければならない。

 マナ・バーンがずっと注視されていたのは、初期に学ぶ概念であり、ほとんど時間がかからないものだったからである。実際、我々がこれを取り除くことを考えていたとき、私はデザイン・チームにこれを扱うのをやめるように言った。1か月後にマナ・バーンがなくなったことによる影響について話し合うために集まったとき、マナ・バーンがないことでどのゲームも影響を受けなかったということがわかったのだった。ルールが複雑で、プレイヤーを混乱させているということはほとんど重要ではない。他の要素を現在のマジックに導入できるようにするために切り捨てるのに理想的なものだったのだ。


Q: 精神分析のタイプの中で、対象にしたデザインをするのが一番難しいのは誰ですか?

 プレイヤーの心理分析は、我々がマジックのプレイヤーの分類を心理分析的に定義するために用いている道具である。(ティミー/タミー、ジェニー/ジョニー、スパイク)(詳しくは、こちらを参照のこと:リンク先は英語。)デザイン上の難しいところはそれぞれに存在するが、一番難しいものはと聞かれれば、おそらくジェニー/ジョニーだろう。ジェニーやジョニーは、マジックのカードを自己表現の道具として使うことが好きなので、少し奇妙なカードを好むことが多く、そういったカードをデザインするのは難しいことが多いのだ。スパイクは自分の実力を示すことができるカードを必要とし、難しいことが多い微妙な調整が必要となることがあるので、次に難しいのはスパイクである。一番簡単なのはタミーやティミーだが、だからといってカードを作るのが複雑になることはないということにはならない。


Q: まだカード化されたことがない登場人物の中で、一番カード化を求められているのは誰ですか?

 『Unstable』が発売されるまで、この答えは非常に簡単で、ウルザだった。(そして今でも、黒枠のウルザを求める声はある。)私が特に多く要求を受けている登場人物は次の通り。

  • アスモラノマルディカダイスティナカルダカール(ドミナリアより、地下世界の料理本の筆者)
  • 「呪われた男」(『統率者(2017年版)』より)
  • フブルスプ(ラヴニカより)
  • フェザー(ラヴニカより)
  • ギックス(初代ファイレクシアより)
  • ハルとアレイナ(イニストラードより)
  • カリスト・ロォカ(ラヴニカより)
  • 虐殺少女(ラヴニカより)
  • パシャリク・モンス(ドミナリアより)
  • セラ(ドミナリアより)
  • シャドウブレイド(カラデシュより)
  • 名前のない白黒の天使(イニストラードより)
  • ヨーグモス(初代ファイレクシアより)

 ちなみに現時点で、これらの登場人物の多くは、開発中の商品のファイルに入っている。


Q: 物語的に、またカード上で、最初のプレインズウォーカーは誰ですか?

 時系列的に(現実世界で)最初のプレインズウォーカーは、ウルザであった。『アルファ版』の2枚のカード(《ウルザの眼鏡》、《ウルザの色眼鏡》)で名前が出ており、最初のマジックの物語であり『アンティキティー』(マジックの2つ目のエキスパンション)のカードを通して初めて語られた兄弟戦争の主な登場人物の1人である。

 物語の上で最初のプレインズウォーカー(つまり多元宇宙での時系列において最初にプレインズウォーカーになった人物)は、というと100%確実な答えはわからない。ボーラスは自分が最古のプレインズウォーカーだと豪語していたが、その双子であるウギンのほうが先にプレインズウォーカーになっていたので、おそらく正解はウギンではないかと思う。何万年も前の話だが、これは推測に過ぎない。

 カード上で最初のプレインズウォーカーは、5人同着だ。『ローウィン』でプレインズウォーカーというカード・タイプが導入され、レアの(当時はまだ神話レアは存在しなかった)サイクルで単色のプレインズウォーカーが登場した。アジャニ、ジェイス、リリアナ、チャンドラ、ガラクである。興味深いことに、最初の計画ではそのうち3人を『未来予知』のミライシフト・カードとして登場させることになっていた。それが実現していたら、ジェイスとリリアナとガラクが最初ということになっていただろう。

誰が言ったのか

 本日はここまで。「誰」の一問一答を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事についての諸君の感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、「どこ」の話をする日にお会いしよう。

 その日まで、あなたにも楽しい質問をしてくる人々がいますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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