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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ラヴニカの献身』

Mark Rosewater
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2019年1月28日

 

 新セットごとに、私は1回か2回、新セットに関する諸君からの質問に答える一問一答記事を書いている。今回は『ラヴニカの献身』の番である。

 私がツイートしたのはこんな内容だった。

諸君からの『ラヴニカの献身』に関する質問に答える記事を1本か2本書く時期がやってきた。質問は1ツイートにまとめてくれたまえ。よろしく。#WotCStaff

 

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に答えようと思うが、以下のような理由によって答えられないこともある。

  • 文章量の都合で、答えられる質問の数には限界がある。
  • すでに同じ質問に答えている場合がある。最初に来た質問に答えるのが通例である。
  • 私が答えを知らない質問もあるし、正しく答える資格がないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのプレビューになるなど、さまざまな理由で回答できない話題もある。

 伝えるべきことは伝えたので、さっそく質問に入るとしよう。まず最初に、一番多かった質問に答えよう。

Q: どのプレインズウォーカーがボーラスの側につくか、決めたのは誰ですか?

 

Q: どのギルドがボーラス側になるか、どうやって決めたんですか?

 

Q: どのギルドがボーラスの側につくか、いつどうやって決めましたか?

 

Q: ボーラス側になるギルドはどうやって選びましたか? 収録するプレインズウォーカーは、その決定を示すものでしたか、それともギルドに合わせて選びましたか?

 

Q: どのギルドがボーラスの側についてどのギルドがそうでないか、どうやって決めましたか?

 

 どのギルドがボーラス側でどのギルドがそうでないのかは、以下の条件のもとで、クリエイティブ・チームが完全に決めていた。

5つで、色が均等である(各色が2回使われる)こと

 これが重要なのは、ボーラスのギルドの指導者がプレインズウォーカーであることが決まっていて、スタンダードではプレインズウォーカーの色のバランスを取っているからである。色のバランスを取れる数字は5だけであり、そして半分のギルドがボーラスの影響下にあるのはふさわしいと感じられたのだ。

第1セットではプレインズウォーカーは2人、第2セットではプレインズウォーカーは3人存在すること

 状況が悪化していてボーラスの影響が増しているという雰囲気が必要だったが、最初に3人で後に2人にすると、状況が改善しているように感じられてしまう。

 これ以外には条件はなく、クリエイティブ・チームはストーリーを最高のものにするようにギルドを自由に選んだのだ。


Q: プレインズウォーカーが指導するギルドを全体の半分にした理由は何ですか?ところで、プレビューが全部いいカードなのは素敵ですね。

 

 それにはいくつかの理由があった。

  1. 大型で、基本セット以外の、スタンダードで使えるセットでは、最近ほぼ2人のプレインズウォーカーが入っている。5という数字は、定員的に押し込んで安定させられるほぼ最大の数字なのだ。
  2. プレインズウォーカーは主な登場人物であり、ギルドの指導者として扱うのはクールだと思われる。
  3. フレイバー的に、ボーラスが一番頻繁に扱うことがある存在であるプレインズウォーカーに担当させるのがもっとも辻褄が合う。
  4. また、フレイバー的に、わずかな例外を除いて、プレインズウォーカーがボーラスの影響下にないギルドを運営するのは辻褄が合わない。

Q: ボーラス側と抵抗側に陣営が分かれていることは、ギルドのメカニズムに影響していますか?

 

 それほどは影響していない。ボーラスの影響は主にプレインズウォーカーや伝説のクリーチャーに向けられたものであり、ギルドの本質はそれほど変わっていない。そしてギルドのメカニズムは、我々が一貫性を保つことにしている、各ギルドの根本に根ざしたものなのだ。


Q: 既存のプレインズウォーカーしか出ていませんが、新キャラを出すことは考えましたか?

 

 ある方法で、『ラヴニカの献身』には2人の新しいプレインズウォーカーが登場している。説明しよう。どのギルドをボーラス側にするかを決めていたとき、クリエイティブ・チームはアゾリウスとオルゾフの2つのギルドにはラヴニカ出身のプレインズウォーカーがいないということに気がついた。そこで、彼らは必要なものを考え、そしてボーラス・シリーズの前半にそれらを投入した(これは事前に計画することのメリットの1つである)のだ。ドビンは、「悪役」になることが決まっていた領事府の顔となる存在が欲しかったので、『カラデシュ』にちょうどよく、そして白青だった。ケイヤはスタンダードで使えるセットにちょうどいいものがなかったので、『コンスピラシー:王位争奪』で彼女を活かす方法を見つけることになった。

 彼らを事前に登場させていた理由は、それによってボーラスが多元宇宙を股にかけて物事を扱っているという雰囲気を出すとともに、そうでなくてもやることが大量に存在する『ラヴニカの献身』で初登場の紹介をする必要がないようにすることであった。つまり、新キャラを出すことは考えたどころではなく実際に出しているが、その手法が諸君の想像するものではなかったというだけのことなのだ。


Q: 登場人物を再登場させるか、新しい人物に入れ替えるかはどうやって決めているんですか?

 

 主な理由はストーリー上のものだが、もちろん、どの人物のほうが人気があるかにも影響されている。再登場の面白みの1つは、その人物を改めて掘り下げて新しいカードを作るところにある。大抵の場合、その影響を受けて我々は伝説のクリーチャーとして多くの登場人物を再登場させることになる。

 展望デザインの観点から言うと、『ラヴニカの献身』は他のセットと同じようなものだ。クリエイティブ・チームがどの人物がこのセットに入るかを決め、そして我々はその人物のカードをデザインする。それが工程の後の方で(セットデザインの間に)行われることもあるが、再登場の場合はその人物が誰になるかについて早いうちに把握できることが多い。例えば、『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』の展望デザインを始めたときには、すでにプレインズウォーカー全員と伝説のクリーチャーである人物の大半がわかっていたのだ。


Q: クリエイティブと開発部は、このセットでどのような協力をしましたか?フレイバーに満ちたボトムアップの世界への再訪であることで何か違いはありましたか? このセットは今もボトムアップとして扱われているんでしょうか?

 

 展望デザインとクリエイティブは、非常に良い手法を確立している。両チームの最高の発想が組み合わせられるようにすることができるようにするために多くのやり取りが交わされているのだ。ラヴニカのように確立された世界では、世界の要素の多くが既知であるため、この工程はいくらか簡単になっている。

 『ラヴニカの献身』や『ラヴニカのギルド』は、メカニズム的要素である色のペアを軸に構成されているので、今でもボトムアップである。2色の陣営のセットをデザインするためには、非常に硬直した、サイクルが濃いデザイン骨格が必要になるのだ。個別のカードの中には、人物のようにトップダウンでデザインされたものもあるが、展望デザインで重点が置かれたのは、さまざまな陣営がお互いにどう独立しているかの構造を作る、ボトムアップの工程だったのである。


Q: 今でも、これらのセットは『ラヴニカへの回帰』と同じように、昔のデザインへの先祖返りであると考えていますか?

 

 ラヴニカへの再訪も再々訪も、最初の『ラヴニカ』をセットの作り方の基礎として用いている。この副産物の1つが、これらのセットには少し過去っぽいデザイン感があるということでえある。先行デザインにおいて、ギルドのセットをデザイン的に現代的なものにするための再構築に関するアイデアがあったが、『灯争大戦』(同じくラヴニカを舞台にした5月のエキスパンション)では多くの革新的なことをするので、今回のラヴニカへの再訪は実証済みで信頼できるギルドのモデルを使うことから始めるのが最適だと判断したのだった。


Q: 『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』のデザインにおいて、各セット内ではギルドのメカニズムの重なりについて考慮されていたことはわかっています。2つのセットをまたいでのメカニズム的な重なりについて、特に3色のコンボを作ることに関して、いくらか検討されていたんでしょうか?

 

 初代『ラヴニカ』ブロックでそれらのセットを組み合わせてドラフトされていたときは、一定量の重なりがあるようにするために時間をかけていた。『ラヴニカへの回帰』ブロックでそれらを別々にしてからは、時間をあまりかけなかった。通例、特に単色のカードをデザインするときに、カード個別の単位では検討するので0ではない。

 わかったことは、ギルドのメカニズムはセット内で色が重なるギルドのメカニズムと相性が良くなるよう、比較的単純で自由度の高いものになることが多いということである。その結果、我々が特に時間をかけて揃えなくても、他のギルドのメカニズムとも相性が良くなる可能性は非常に高くなるのだ。例えば、オルゾフの死後メカニズムはトークンを生成する。セレズニアの召集メカニズムはトークンと相性が良い。これは故意に合わせたわけではないが、我々はこのシナジーが存在することに気づき、『ラヴニカの献身』で白単色のカードをデザインするときにそれを心に留めていたのだ。


Q: 基本土地をメインのセットから取り除いてプレインズウォーカーデッキに入れることにして枠を作ったのに、その枠を5枚のカードを二重に入れることで潰してしまうのは非生産的だと思います。『ラヴニカの献身』と『ラヴニカのギルド』を合わせると、10枚追加でデザインできたのではありませんか?

 

 セット内の計算がどのように行われているかについて、いくらか誤解があるように思える。セットの枚数を決めるにあたっては、さまざまなシートで印刷できる枚数に従わなければならない。例えば、大型セットでレアが53枚、神話レアが15枚あるのは、(ほとんどの場合)11枚×11枚のシートを印刷するからである。レアを各2枚、神話レアを各1枚印刷すれば、合計は121枚となり、11枚×11枚のシートに印刷できる枚数ちょうどになるのだ。

 ギルド門はブースターパックに専用の枠がある(つまり、『ラヴニカのギルド』と『ラヴニカの献身』の各ブースターには、パック詰めの際に異常が起きなければ、必ずちょうど1枚のギルド門が入っている)ため、専用のシートがある。イラストを2種類にしたのは、パックに必ず1枚入るカードにビジュアル的な多様性を持たせたかったからにすぎない。そうしなかったとしても、そのシートには10種類のイラストだけのギルド門が121枚入っていたことだろう。新しいカードが作られることにはならないのだ。

 ところで、基本土地をブースターから除いた理由は、リミテッドのマナ基盤を安定させようとしたからである。基本土地とギルド門を混ぜることも実験したが、ギルド門を多く手に入れたプレイヤーが有利になりすぎたので、ギルド門だけを入れることにしたのだった。

 長々と説明してきたが、ギルド門のイラストの種類を減らしたからと言って、この2セットに10種類の土地が増えるということにはならないのである。


Q: シミックのクリーチャー・タイプを決めているのは誰ですか? 賞賛に値すると思います。

 

 各セットのリード・コンセプターが、各カードがフレイバー的に何を表すのかを決めることと、アートの指定を出すことに協力している。多くのシミックのクリーチャーのラベル付けは、カードのコンセプトに基づいている。それを受けて、ダグ・ベイアー/Doug Beyerはクリーチャー・タイプを手伝うのだ。クリーチャー・タイプに目を通し、それが内部的に一貫しているようにするのはダグの仕事である。ここで、シミックを作った裏にあるものを示す、ダグがシミックとそのクリーチャーについて書いたまとめを引用しよう。

 「ミュータント」は「遺伝子的に何らかの調整を受けた単一種族のクリーチャーで、他のクリーチャー・タイプと混血していないもの」とします。例えば、鳥・ミュータントやマーフォーク・ウィザード・ミュータントなどがこれです。それはもととなった種の一種ですが、調整されたもので、「ミュータント」を追加することで調整されていることを示しています。対照的に、複数の種族タイプを持つクリーチャーは、遺伝子実験の結果であることが明らかなので、ミュータントというタイプは追加しません。例えば、《シュラバザメ》や《速足ウツボ》は単に魚・カニとなります。

 

Q: 今後、スタンダードのセットで「統率者として使用できる。」と書かれたプレインズウォーカーは登場しますか?ケイヤやラルを基柱にしてデッキを組むのが大好きなんです!

 

 統率者戦に言及するのは『統率者』のために作られたカードだけ、という規則があるので、かおそらくはないだろう。何年もの積み重ねで、ほとんどの場合に意味を持たない文章は混乱を招き、プレイヤーのカード評価を歪めるということがわかっている。例えば、仮に{2}{G}で5/5で、4個以上のアーティファクトをコントロールしているとトランプルを得る、というクリーチャーを作ったとすると、{2}{G}で5/5は非常に強いにもかかわらず、多くのプレイヤーはアーティファクト満載のデッキでなければ入れようとしないだろう。プレイヤーは、追加のテキストを無視するのが苦手なものなのだ。メカニズム的有利があまりなくてもカードを全体としてクールなものにしている非常にフレイバーに富んだ疎石文(たとえば「プロテクション(ドラゴン)」のような)がこれの唯一の例外であることがわかっている。不幸なことに、「統率者として使用できる。」はこの条件を満たしてはいないのだ。


Q: 『ラヴニカの献身』で描かれている出来事は『ラヴニカのギルド』と同時に起こっているんですか、それともその後で起こっているんですか?

 

 『ラヴニカの献身』での出来事は、『ラヴニカのギルド』の出来事よりもわずかに後で起こっている。例えば、『ラヴニカのギルド』の中で最後の注目のストーリーとされている出来事は、『ラヴニカの献身』の最初の注目のストーリーよりも前に起こっているのだ。


Q: このセットのメカニズムはなぜこんなに選択が多いんですか?

暴動 ― 速攻かカウンターか
絢爛 ― 今か後か
附則 ― 自分のターンか相手のターンか

 

 その理由は複数ある。

1.プレイヤーは決定を含むメカニズムが大好きである

 しばらく前のこと、我々は全てのメカニズムの市場調査を見て、好成績を残しているメカニズムの共通点が存在しないかと探していた。我々はさまざまな角度からこれに取り組み、そして2つの回答を見つけたのだ。プレイヤーは、強力なメカニズムと、選択を求めるメカニズムが好きなのだ。(そしてこの2つのことは関連していることが多いのだ。)プレイヤーが何かを好きだというなら、我々はそれを使うことを増やすのが普通である。

2.そうすることでゲームはもっと楽しくなる

 何年も前、私はゲーム・デベロッパーズ・カンファレンス(ゲームデザイナーの大規模コンベンション。私が2016年に「20の年、20の教訓」のスピーチをした舞台である。それについて詳しくはこちらの記事(その1その2その3)を参照のこと。)で、楽しさに関するプレゼンテーションを見た。その中で、楽しみというものは人々が問題に直面し、そしてその問題を解決する道具を与えられることから得られるということについて語られていた。その話者が語っていた道具の1つが、プレイヤーに選択肢を与えることでその問題を解決したときに解決策を自分のものだと感じられるようにすることだったのだ。

3.より良いゲームプレイにつながる

 マジックのゲームは、毎回同じ状況にならないほうが躍動的で楽しいものになることが多い。一連の選択が存在することで、プレイヤーは違う道を選ぶことができるようになり、ゲームが同一の展開にならないようにする機会が増えることになる。


Q: ラヴニカ3ブロックを通して、他のギルドは中核テーマを中心とした多様性があるのに、シミックのメカニズムが+1/+1カウンターに限られているのはなぜですか? シミックの新しいデザイン空間を探すのは、他のギルドよりも難しいんですか?

 

 興味深いことに、開発部はその反対の意見を持っている。10個のギルドのそれぞれについて、確固たるメカニズム的裏付けを見つけることができれば、我々はそれを使うのだ。最もうまく作用することが多いのは、再利用できる濃いメカニズム的テーマが存在しているものである。シミックを+1/+1カウンターに関連付けることはそのギルドの性質であり、不具合ではないのだ。緑青のアーキタイプを有する別のセット(例えば『イクサラン』のマーフォーク)を作ることはあるだろうし、それらのセットでは違うことを取り上げることはありうる。我々はシミックにはシミックらしくあってほしいと考えており、その中で重要な部分はさまざまなセットのシミックのカードがすべてお互いに相性がいいようにすることなのだ。濃いメカニズム的基盤は、そうするための強力な道具なのである。


Q: 現在のスタンダードには「格闘」効果が非常に多いと思います。このメカニズムをもっと推したいと考えているのですか、それともマジックに一定量のそういった効果を存在させるだけというつもりですか?

 

 常盤木メカニズムの使用量は、増えたり減ったりするものである。セットがすることと完璧に合致して増えることもある。矛盾して減ることもある。例えば、格闘は赤と緑のメカニズムである。グルールは、格闘をテーマとしたギルドである。この2つのことが重なると、作られる格闘カードの量は多くなる。いつもの通り、振り子は揺れるもので、物事は変わるものだ。格闘ファンの諸君には、今の環境を楽しんでもらいたい。そうでない諸君も心配することなかれ。これが永遠に続くことはない。


Q: 現在はブロックではないわけですが、ロケットのようなサイクルを終わらせないということは検討しましたか?

 

 ラヴニカのセットでは、10枚のサイクルにするか5枚のサイクルにするかの判断が常に必要となる。前者は世界構築の助けになり、後者はそれぞれのセットに異なった特徴を与えることになる。通常、我々は前者の方に偏ることが多いが、これはプレイヤーがラヴニカでは10枚サイクルを求めることが多いからである。ロケットはマナ基盤の一部なので、完結させなければならない類のサイクルである。目標は、10個のギルドすべてが同じマナ源を同じように使えるようにすることなので、これは5枚だけに限る類のサイクルではないのだ。

質問の山

 本日の回答はここまで。良い質問はまだまだああるので、来週もこの続きをしようと思う。いつもの通り、この記事や私からのの回答についての諸君の感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、さらなる回答をする日にお会いしよう。

 その日まで、『ラヴニカの献身』をたっぷりプレイして浮かんだ新しい質問があなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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