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Making Magic -マジック開発秘話-
カードの登場 その2
2018年12月3日
先々週から、ウェザーライト・サーガの乗組員全員のカードをどのようにデザインしたかの話をしている。乗組員の半数までしか語れていないので、残りの話をしていくことにしよう。
『ネメシス』
ヴォルラス
ヴォルラスはウェザーライト・サーガの主な敵役の1人だが、彼をここに含めるのは彼がウェザーライト号の乗組員だったことがあるからである。その経緯はどのようなものだったか。ヴォルラスは多相の戦士であり、ジェラードとその仲間たちがシッセイやカーンやターンガースやタカラ(スタークの娘)をヴォルラスの要塞から助けたとき、ヴォルラスはタカラに変装してついて来ていたのだ。『メルカディアン・マスクス』の《暴露》のこの有名なイラストは、タカラがこっそりヴォルラスだったということをユーザーが知った瞬間(彼がスタークを殺したあと)である。
興味深いことに、マイケル・ライアン/Michael Ryanと私による最初の提案では、乗組員はブロックの間中メルカディアに残り、第2セットは誰がスタークを殺したかを中心においた殺人ミステリーだったのだ。我々は、乗組員をカード名やイラスト、フレイバー・テキストに編み込み、誰が彼を殺したかを決めるコンテストを開催したいと考えていた。答えは、ターンガースに変装したヴォルラスになる予定だった。(我々の考えた物語では、ユーザーがヴォルラスがいると知るのは乗組員よりもずっと前だった。ヴォルラスのやることがずっと多かったのだ。)多くのことが変更され、その中にはヴォルラスの変装先も含まれていた。
作り直されたバージョンの物語では、ヴォルラスは、スタークを殺して自ら変装を解いたあとで、彼の最期の地になるラースへ戻るのだ。つまり、彼をカード化したければ、『ネメシス』でするしかないということである。人物としては、ヴォルラスは青黒だが、『ネメシス』には多色カードが存在しないので、彼のカードは青単か黒単のどちらかにしなければならなかった。多相の戦士は青にはたくさんいたが黒には1体もいなかったので、我々は黒にすることでさらに斬新なデザインができると考えたのだ。(クリーチャー・タイプ的には最初は多相の戦士ではなかったが、これは当時伝説のクリーチャーのクリーチャー・タイプがレジェンドだったことによるものである。)
デザイン上の課題は、黒単で多相の戦士らしいクリーチャーを作ることだった。最終的に我々は、クリーチャー・カードを捨てて一時的に大きさを変えることができるカードをデザインすることにした。これは、私が満足していないウェザーライト号の乗組員のデザインの1枚である。(ただし一番不満というわけではない。それについてはこれから触れる。)これは多相の戦士らしさは再現していたが、ヴォルラスの知性を再現したものとは言えなかったのだ。近いうちに、私は彼をあるべき姿である賢明な青黒の多相の戦士としてデザインし直したいと考えている。
クロウヴァクス
ウェザーライト・サーガの間に複数回伝説のクリーチャーとしてカード化された人物は2人だけで、そのうちの1人がクロウヴァクスである。彼の1枚目のカードは貴族から吸血鬼への変身を描いたものだった。それ以降、クロウヴァクスはウェザーライト号の乗組員を裏切り、そしてラースのエヴィンカー(指導者)になるべく働いた。彼が目標を達せられそうに見えたまさにそのとき、ヴォルラスがメルカディアから帰還したのだ。2人は命をかけて戦い、そしてアーテイの助力を受けて(彼についてはこのあとで触れる)クロウヴァクスはヴォルラスを殺してエヴィンカーになったのだった。この変化したクロウヴァクスのために、新しいカードが必要になったのだ。
このカードのデザイン上の目標は、彼が部下たちの指導者になったことと、冷酷にも他者を傷つけることを厭わないということを再現することだった。その前半を表すために、我々は彼に自軍のクリーチャーを強化することができるようにした。しかし、黒は一般的に自軍全体を強化するようなことをするものではないので、その強化を黒のクリーチャーだけに留めることにした。(当時、ロードは自軍のクリーチャーにとどまらず、条件を満たすクリーチャーすべてを強化するのが一般的だったことを思い出してもらいたい。)その後、彼の残虐さを表すと同時にクリーチャー強化の逆として、黒以外のクリーチャーすべてに-1/-1の修整を与える能力を持たせた。
彼の前のカードと同じように、起動型の飛行を持たせることも考えたが、いつでも飛行を持つようにするほうが単にクールだと判断した。最終的に3/3にしたのは、彼のコストを{4}{B}{B}にするためだった。
『次元の混乱』で、このカードの鏡写しとして、クロウヴァクスでなくミリーがセレニアに呪われるというもう1つの現実版を表す、白のクリーチャーを強化し白でないクリーチャーを阻害するクロウヴァクスを作った。
『インベイジョン』
シッセイ
ウェザーライト・サーガは最後のブロックに入ったが、まだカード化できていない重要な乗組員が大量に存在していた。その中でも重要な人物が、ウェザーライト号の船長、シッセイであった。マイケルと私が最初にこの物語を造ったとき、我々はウェザーライト号を『ミラージュ』の物語から採用した。『ミラージュ』でウェザーライト号は、重要人物が敵に向かう助けという小さな役割を果たしていた。その中で語られていた乗組員はただ1人、船長のシッセイだけだったのだ。彼女はフレイバー・テキストで数回登場しており、またカード名にもなっていた。(『ビジョンズ』の《シッセイの指輪》)これらを組み合わせて、我々は素晴らしい船長でありジェラードが助けなければならないと思うような人物像を作り上げたのだ。
彼女のカードにはいくつもの扱うべき側面があるが、我々が最も気に入っていた側面は、彼女の任務を助ける英雄を手に入れることに特に秀でているということである。『インベイジョン』は多色のセットだったので、彼女を緑白2色にすることができた。伝説のクリーチャーを教示者する(ライブラリーから手札に持ってくる)能力が、我々が最初に、そして唯一、持たせようとした能力だったはずである。彼女をあまり大きくしなかったのは、物語にもふさわしくなかった上に、そうすることでカードの焦点をクールなものである彼女の能力からずらしてしまうからである。シッセイは、非常に人気のある統率者になった。
ハナ
前回、ポップカルチャーのさまざまな乗組員を参考にしてどんな仕事が必要かを決めた、その中の1つが航海士あるいは技師であったという話をした。飛行船なので、誰かがそれを飛ばさなければならない。魔法の船なので、その人物は魔法の道具を熟知していなければならない。彼女を女性にすることにしたのは、当時、我々が参考にしたどの物語でも技師が男性だったからである。我々は物事を変えるのが好きなのだ。
一方で、我々はまったく別の問題にも取り組んでいた。乗組員を揃えていて、ウィザードが必要だということがわかったのだ。ドミナリア中を飛び回って乗組員を集めているので、ウィザードはトレイリア出身にしようと考えた。しかし、一体なぜウェザーライト号はトレイリアに行くのだろうか。技師がトレイリア出身だとしたらどうか。彼女はもちろん魔法の道具に精通していなければならない。彼女がそれを学んだのがトレイリアのアカデミーでだとしたらどうか。
その時、私は面白いことを思いついた。この人物を、過去のマジックの物語と関連付けたとしたらどうだろうか。(この時点では、ウルザはウェザーライト・サーガには関わっていなかったことを思い出してもらいたい。それはマイケルや私の手を離れたあとのことなのだ。)トレイリアに住んでいた中で、娘がいる可能性があるのは誰だろうか。ウルザにはしたくなかったが、その右腕であるバリンはどうだろうか。バリンには妻のレインがいるので、まさにふさわしいと思えた。
我々が作ったハナの背景は、彼女の父親が彼女をウィザードにしようと教育したが、彼女は魔法の呪文よりも魔法の道具にずっと興味があった、というものだった。ハナがウェザーライト号の乗組員になることを選んだことを、バリンは娘に侮辱されたと感じ、2人の間にはいくらかの対立が生じた。これによって、乗組員がウィザードを求めてトレイリアに来たときの物語に深刻さが加えられた。
ハナのカードも『インベイジョン』なので、これも多色にすることができた。最終的に白青にしたのは、それが人物像に合っていたからである。技師ならデッキでクールなことができるようにするようなカードでありたいだろうと思われたので、私は、このカードにジョニー/ジェニーらしさを持たせたいと考えた。最終的に私が触発されたのは、『ザ・ダーク』のこのカードだった。
私はずっと《オームの頭蓋骨》に惚れ込んでいるのだ。私はこれを使って、いくつもの楽しいデッキを作ってきた。問題はたった2つだけだった。第1に、効果に比べていくらか重すぎること。第2に、これでアーティファクトを持ってこれないことである。ジョニーである私は、エンチャントやアーティファクトを基柱にすることが多いが、《オームの頭蓋骨》で持ってこれるのはその一方だけなのだ。ふむ、ハナはこの問題を解決する助けになるかもしれない。
まず第1に、ハナが白青であることは私の希望にまさにふさわしい。白はエンチャントを大切にする色で、青はアーティファクトを大切にする色だ。彼女の人物像がこの2色の組み合わせであるという事実を、私は、私がずっと作りたいと思っていたこのカードがついにその居場所を見つけたのだと感じたのだ。また、彼女は多色なので、起動コストを引き下げることもできた。5マナでなく3マナにして、そのかわりに白と青のマナが必要なようにしたのだ。彼女を1/2にしたのは、彼女を3マナにして、《オームの頭蓋骨》と同じコストにするというお遊びを仕込むためだった。
『プレーンシフト』
ターンガース
マイケルと私が最初に乗組員の発想を書き出したとき、そこに「ハールーン・ミノタウルス」と書いたのは、《ハールーン・ミノタウルス》がウィザーズ・オブ・ザ・コーストの事実上のマスコットになっていたからである。ウィザーズの唯一のTシャツは、《ハールーン・ミノタウルス》柄だった。ウィザーズの唯一のジージャンは、《ハールーン・ミノタウルス》柄だった。そのため、ハールーン・ミノタウルスを乗組員に入れるのが当然だと感じられたのだ。ターンガースは最終的にハールーン・ミノタウルスではなくタールルーム・ミノタウルスだったということに気づくかもしれない。その理由は、ハールーン・ミノタウルスの顔には入れ墨があり、ターンガースを描く全アーティストに入れ墨を描くように言うのはあまりに面倒だったので、別の種族のミノタウルスに切り替えたのだ。
マイケルと私はアーキタイプに非常にこだわっていて、老戦士のアーキタイプが必要だと考えた。つまり、かつて最強の戦士だったことがすべての人物である。誇り高く、高貴で、正しいことがなされるようにするためになんでも喜んでやるのだ。また、情動的で、その判断が問題を引き起こすとしても必要なことをすることをためらわない。これがふさわしいと思えた理由は、このアーキタイプが非常に赤で、ミノタウルスは赤だったからである。
上述の通り、元の企画ではヴォルラスはターンガースの姿を取ることになっていたので、我々は最初、ターンガースを『テンペスト』ブロックで1枚、その後でターンガースの変化をほのめかす形でもう1枚作ることにしていた。(ターンガースはヴォルラスに囚われているあいだ変形させられていたので、新カードではそれによってターンガースが変わっていることを描くつもりだったのだ。)この企画が変更になって、我々はターンガースを『テンペスト』ブロックに入れるのをやめた。
しかし、これは『プレーンシフト』であり、物語は終盤を迎えていた。ついにターンガースをカード化するときが来たのだ。いくつか満たすべき条件があった。第1に、ターンガースは偉大な戦士である。我々は、彼のカードが戦闘で有用であるようにしたいと考えた。第2に、彼の衝動性をいくらか再現したいと考えた。戦闘以外でも、ターンガースが誰かと戦えるとしたらどうだろうか。この時点ではまだ格闘は存在していないことを思い出してほしい。(キーワードになったのは何年もあとの『イニストラード』のときである。)
そして我々は、この、ターンガースが攻撃していないときにも戦闘できるという発想に魅せられた。問題は、この能力をターンに何回も使えるようにはしたくなかったので、タップが必要なようにする必要があったということである。それはつまり、攻撃するときにタップする必要がなくしなければならないということであった。警戒はまだキーワード化されていなかったが(キーワード化されたのは『神河物語』のときである)、その能力は白のものだった。数枚の特殊なカードを覗いて(本についていたプロモカードのクリーチャー1枚と、『レジェンド』のオーラ1枚)を除いて、警戒は赤には存在しなかった。このカードにはまさにふさわしかったので、我々は特別な例外を認めることにした。(当時、色の違う能力を特別な伝説のクリーチャーに特例として認めることが多かったのだ。)
アーテイ
マイケルと私が最初に考えたときのウェザーライト・サーガと違う人物の中でも、最も違っているのはアーテイだろう。我々が作った物語では、アーテイは最初はウィザードの学校を出たばかりの若く傲慢なウィザードで、最後には賢明な年老いた魔道士になっていた。(我々の物語では、ウェザーライト号は最終的に次元の門を通り、ドミナリアに帰還すると同時に時間も渡ることになっていた。)この物語を成立させるために、我々は、ラースからの脱出時にアーテイが取り残されることにしていたのだ。
物語の流れはこうだった。アーテイはウェザーライト号がラースから脱出できるようにするために門を開けるために向かった。(ウェザーライト号の次元渡り能力はプレデターとの戦闘で損害を受けていた。)ヴォルラスの要塞での出来事に乗組員は手間取り、門が閉じる前に脱出するためにはレガシーに含まれるアーティファクトで強風を起こす能力を持つスカイシェイパーを使うしかなかった。この土壇場の脱出の結果、アーテイはラースに取り残されてしまい、後の物語につながるのだ。
物語が変更になって、アーテイはまったく異なる道筋をたどることになり、クロウヴァクスを助ける中でかなりねじれた人物になることになる。彼を別のカードにするのが必要なほど変わったので、我々は彼の新カードを作ることにした。まず第1に、彼は元の単色よりも多くの色である必要があった。もちろん、彼のねじれっぷりを表すために黒を追加したいと考えたが、彼の人物像の中には白も含まれていた。(彼は他人を守るための行動をしていた。)そこで、『プレーンシフト』は弧3色(1色とその友好色2色)を扱っていたので、我々は最終的に彼を白青黒にすることにした。
我々は、アーテイは最初のカード同様に呪文を打ち消すが、それもねじれているという考えが気に入った。最初に試したものは、この能力を起動するためにクリーチャーを生け贄に捧げるというものだったが、それは青黒に感じられ、まったく白には思えなかった。クリーチャーでなくエンチャントを生け贄に捧げるようにすることで、カードに白の要素を加えることにした。そして、彼の変化が強靭さをもたらしたことから、サイズを少し大きくした。3色必要にしたことで、彼を3/4にすることができたのだ。
『アポカリプス』
ジェラード
物語の主役であるジェラードを最後の乗組員にするため、いちばん最後まで待っていたのだ。ジェラードは、最初にマイケルが提案したときから構想にあった。愛すべき悪漢のアーキタイプを主役にするという発想が気に入っていたのだ。マイケルは、そのアーキタイプを別の視点から見るのがクールだと考えていた。
主な登場人物なので、ジェラードにはいくつもの側面が存在する。我々が彼のカードを作るのを遅らせた理由の1つは、どうデザインすべきかがまとまっていなかったからである。ユーザーからの求める声はずっとあったので、その期待に応えなければならないという重圧もあった。最終的に、我々は彼を最も扱われていた側面である戦士として作ることにした。彼に与えた能力は、クリーチャーが彼をブロックできないようにするというものだった。彼がその人物像に反して攻撃せずにじっと待つようなことがないよう、攻撃時にしか使えない能力にしたのだ。誘発型でなく起動型にしたのは、おそらく、充分なマナがあったら複数のクリーチャーに使えるようにしたかったからだろう。
彼のもう1つの能力は、奇妙なところから生じている。ウェザーライト・サーガの始まりである『ウェザーライト』当時、ジェラードの名前を冠した《ジェラードの知恵》というカードを作っていた。
このカードは非常に人気が出たので、彼のカードにもこれを反映させるべきだと考えたのだ。増えるライフを1点にし、対戦相手と戦っていることにふさわしく感じられるよう、対戦相手の手札を参照するように変えた。
こうして、このカードは、私にとって、ウェザーライト号の乗組員の中で飛び抜けた失敗作になったのだ。1つ目に、ジェラードは赤白の人物だ。まして、彼のカードは敵対色のセットである『アポカリプス』にあるのだ。なぜ我々が彼を赤白にしなかったのか、理解できない。2つ目に、彼の2つの能力はメカニズム的にもクリエイティブ的にも噛み合っていない。3つ目に、あれだけの期待があったカードなのに、我々はまったく推さなかった。最終的に、誰もプレイしたいと思わないような、フレイバーの欠けたカードになった。何年も昔に作られたカードではあるが、公式に謝罪したい。将来、ジェラードをもっと公正に表したカードを作る機会が与えられることを祈っている。
おしまい
ウェザーライト号の乗組員のデザインについての振り返りは以上となる。いつもの通り、諸君からのこの記事、私が語ってきた登場人物、カードについての感想を聞かせてもらいたい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、マジックのセットの発想の源を掘り下げる日にお会いしよう。
その日まで、あなたがウェザーライト号の乗組員を楽しくプレイできますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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