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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

金のように

Mark Rosewater
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2018年9月4日

 

 来週から、『ラヴニカのギルド』のプレビュー特集が始まる。先週、『ラヴニカ』『ラヴニカへの回帰』の両ブロックのデザインについて通して説明してきた。今日は、10個のギルドそれぞれから1枚ずつ、象徴的なカードのデザインについて見ていこうと思う。なお、そのカードを選ぶため、Twitterで、各ギルドの最も象徴的な多色カードは何だと思うかの意見を集めた。これから、それぞれで最も票を集めたカードについて論じていこう。

アゾリウス(白青)

スフィンクスの啓示》(『ラヴニカへの回帰』)

 多色カードをデザインする上で一番難しい部分の1つが、両方の色らしさがあるようにしなければならないということである。例えば、白青のカードを作るのであれば、それは白らしくも青らしくもなければならないのだ。このことから、多色カードには2つの異なった効果を持たせる必要があり、平均的な単色カードよりも文章量が多くなる傾向にある。

 この問題を回避するための方法がいくつか存在する。両方の色で可能な単一の効果を作るという方法があるが、現在は分割カードでこの手法を使っているので、それらの効果は混成カードのために温存することが多くなっている。どちらの色でも1色ではできないが、色が重なったら可能な単一の効果を使うという方法もある。(黒緑でパーマネント1個を破壊する、というのがこの好例である。)そして、ルール文が非常に短く、組み合わせても単一の効果の文章よりも短くなる効果2つを選ぶという方法もある。《スフィンクスの啓示》では、この方法を取った。

 「N点のライフを得る」(開発部では任意の数字のことをNで表す。)と「カードをN枚引く」はどちらも単純で、フレイバーに満ちた能力である。また、どちらもコントロール・デッキが狙う、対戦相手を阻止することとそれを維持するためにリソースを稼ぐことの2つを助ける、その種のデッキに入れたい能力である。初めてアゾリウスが登場した当時(『ディセンション』)、当時のスタンダードのメタゲーム上、アゾリウスをコントロール・デッキのアーキタイプとして推すことはできなかったので、偶然の組み合わせとはいえライフを得ることとカードを引くことの明確な組み合わせは採用できなかったのだ。

 『ラヴニカへの回帰』でアゾリウスが戻ってきたときはもはやそれは問題ではなくなっていたので、アゾリウスにはコントロールのアーキタイプを積極的に採用することにした。《スフィンクスの啓示》が作られたのは、「ライフを得てカードを引く」競技レベルのカードを作ろうとしてである。最終的に、デッキに最大限の多様性をもたらすことができるよう、X呪文にすることにした。白1マナと青2マナをマナ・コストに含ませたのは、両方でXを使う上で、カードを引くことのほうが強力な効果だからである。

ディミーア(青黒)

不可思の一瞥》(『ラヴニカ:ギルドの都』)

 ディミーアのメカニズムをデザインするときは、削り(プレイヤーのライブラリーからカードを直接そのプレイヤーの墓地に送ること)を軸にしたいという誘惑に駆られる。最終的にはキーワード・メカニズムでは違う方向に落ち着くのだが、それでも濃い削りテーマを入れることになるのだ。《不可思の一瞥》が出来たのは、「青黒で可能な限り軽いカード(混成でなく伝統的な金色カードなので、2マナとなる)を作ったなら、カードを何枚削ることができるだろうか?」という質問に答えたかったからである。

 私は開発部員それぞれを回って、その回答を集めた。当時軽い削り呪文はそれほど作っていなかったので、集まった回答にはいくらかのブレがあった。最終的に、このカードの最初のバージョンはカードを8枚削るものになった。デベロップ中に、削りテーマはうまく作用することがわかったので、このカードを推すことにし、8枚から10枚に削る枚数を増やした。この変更がなされたとき、私は「10枚でできるということがわかっていたら、最初からそうしていただろう」と言ったのだった。

ラクドス(黒赤)

ラクドスの復活》(『ラヴニカへの回帰』)

 もう1つ、多色カードをデザインする上で難しいのは、そのカードの2つの効果が関連していると感じられるようにしなければならないということである。黒いこと1つと赤いこと1つをするだけでは不充分で、その2つのことが合わさってカードをひとまとまりのものだと感じさせるようにしなければならないのだ。そのための方法はいくつか存在する。

 1つ目に、2つの効果がお互いにシナジーを持つようにするという方法がある。そうすることで、その組み合わさった効果は2つの無関係な呪文ではなく1つの呪文らしく感じられるようになるのだ。2つ目に、2つの効果が何らかの形で似ているようにするという方法がある。例えば、両方の効果の大きさを示す数を揃えることができる。この要素の重なりは、美学的に2つの効果を関連付けて感じさせる助けとなるのだ。3つ目に、効果を鏡映しにするという方法がある。例えば、一方の効果が何かをある領域から別の領域に動かすものであり、もう一方の効果はその逆の向きに動かすものである場合がそれにあたる。ユーザーはこの2つの効果の間の繋がりを認識し、関連したものだと感じる助けになるのだ。

 4つ目に、両方の効果が同じ対象をとるようにするという方法がある。クリーチャーを対象とするなら、関連性を感じさせるため、他方の効果がそのクリーチャーのコントローラーを対象にするようにしてもよい。《ラクドスの復活》で採用したのはこの方法である。これがうまく作用するのは、プレイヤーが2つの効果にフレイバー的な関連性を見つけ出そうとするからである。この場合、呪文によるダメージで記憶を失う。これによって、2つの効果が起こっているにもかかわらず、呪文が1つの出来事を起こしていると感じられるようになるのだ。

グルール(赤緑)

怒れる腹音鳴らし》(『ギルド門侵犯』)

 各ギルドをどう表現するべきかを決めるにあたって、私はブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthの元を訪れた。(彼がどのようにギルドを思いついたかについては、先週の記事を参照のこと。)我々は各ギルドに関わるさまざまな10枚サイクルについて話し合った。(そしてそれをブロック内で割り振ったのだ。)そうして作られたサイクルの1つが、ギルドの指導者である。グルールは構造的という表現がもっとも似合わないギルドだったので、グルールの指導者を作るのが一番難しかった。指導者が、大きくて強いことだけによって他のメンバーから敬意を集めている、単に最も大きくて最も強いメンバーだとしたらどうだろうか。

 これを脳裏に置いて、クリエイティブ・チームはサイクロプスの指導者という発想を見つけ出した。(ちなみに、「腹音鳴らし/Borborygmos」という語は「胃袋のグーグー鳴る音」から来ている。)元の《腹音鳴らし》は周りにいるクリーチャーを刺激するクリーチャーであるというフレイバーをよく表していたが、野生のサイクロプスらしさを表していると言えるものではなかった。『ラヴニカへの回帰』で、それを修正しようとしたのだ。

 《怒れる腹音鳴らし》は、樹を人に投げつけるのが好きだというイメージからのトップダウンでデザインされた。一体どうすればそれを描けるのか。最初は土地を生け贄に捧げるという方法を考えたが、それはグルールの一般的なプレイパターンに反するものだった。グルールは常に大きくなり続けたいギルドなのだ。そうして、手札から土地カードを捨てるという発想に行き着いた。そのほうがマシではあったが、マナ基盤を組み上げる速度を落としてしまうことには代わりはなかった。このカードが手札に土地を持ってくる助けになるようにしたらどうだろうか。《怒れる腹音鳴らし》はフレイバー的に攻撃するのが好きなので、戦闘ダメージによって誘発する能力が土地を手に入れる助けになるようにするのはどうか。

 常時切り直すようになることを防ぐため、ライブラリーの一番上を見るようにした。3枚を見るようにしたので、土地を複数枚手に入れることができることもあり、その場合は土地をプレイして、さらに1枚を投げることが可能なのだ。《怒れる腹音鳴らし》になっても(元の《腹音鳴らし》も持っていた)トランプルを持ったままだが、サイズは元の6/7から7/6にした。これによって、かなりの状況で攻撃を通すことができるようになり、投げるための樹を手に入れられるようになるのだ。

 気になる諸君のために説明しておこう。もともとはこれで投げられる土地を森だけにすることも検討したが、どの土地・カードでも投げられるようにしたほうが良いゲームプレイになるということがわかったのだ。多くの土地には樹が生えているものだ。

セレズニア(緑白)

復活の声》(『ドラゴンの迷路』)

 『アルファ版』に、パワーやタフネスが戦場にいる自軍のクリーチャーの総数に等しい、《ケルドの大将軍》というカードがあった。これは、それ自身も数えるので自動的に1/1以上になるため、クリーチャーのデザインとしてクールなものだった。私は、この能力が赤よりも緑にふさわしいと開発部を説得し、色を変更させることに成功した。そして何年も後の開発部の会議で、この能力は緑よりも、小型クリーチャーの軍勢の色である白にふさわしいのではないかということが議題に挙がった。かなりの議論の末、この能力は白を1種色、緑を2種色にするという結論に到ったのだった。

 《復活の声》ができたのは、この能力を持つクリーチャー・トークンを生み出すクリーチャーだったからである。この能力が白と緑にまたがっていて、大量のクリーチャーを並べることの優位というテーマに沿ったものなので、セレズニアに最適なデザインだと思われたのだ。多くの誘発イベントが検討されたが、最終的には、対戦相手が呪文を唱えることで誘発するようにした。デベロップ中に、このカードが競技レベルになるよう、死亡誘発が追加されたのだろう。このカードは素晴らしい神話レアらしいものになった。

 最初は、このカードを、『ラヴニカへの回帰』ブロックの主な登場人物の1人である《イマーラ・タンドリス》にするつもりだった。(ダグ・ベイヤー/Doug Beyerの手による小説「The Secretist」に詳しい。)物語に登場している暗黙の迷路と呼ばれるものにおける各ギルドの代表者は1人ずつで合計10人であった。もともとは、10人の伝説のクリーチャーはレアと神話レアに分散する予定だったが、サイクルをレアリティにまたがるようにするのは奇妙なことだと考え、神話レアのカードを全てレアにすることにした。《復活の声》はメカニズム的に非常に神話レアらしいものだったので、このカードを神話レアに残し、既存の他のレアをイマーラにしたのだった。

オルゾフ(白黒)

オルゾヴァの幽霊議員》(『ギルドパクト』)

 オルゾフ・ギルドは幽霊の議会によって運営されているので、このデザインの課題はアンデッドである幽霊の委員会らしさを描くことだった。スピリットは白であり、その姑息で卑劣な性質を再現するために我々は明滅(特定の期間だけパーマネントを追放し、その後でそれを戦場に戻す効果)を使う傾向にあった。我々は、幽霊議員がいつでも消えることができるので殺すのが難しい、という発想を気に入っていた。

 オルゾフらしくするため、明滅能力にはクリーチャーを生け贄に捧げることが必要なようにした。そして、唱えたときも明滅したときも誘発する、戦場に出たときの能力を与えた。対戦相手から1点のライフを吸収するようにしたのは、それがオルゾフに割り当てた「出血」アーキタイプにふさわしいからである。(「出血」デッキとは、戦場をごちゃごちゃにして意味があることが起こらないようにした上で対戦相手のライフを少しずつ減らしていくデッキのことである。)クリーチャーを生け贄に捧げることとライフを吸収することはどちらも黒らしく感じさせるものであり、明滅は白の能力である。

 パワー/タフネスとコストの比率を最上のものにするため、マナ・コストの白と黒を両方ダブル・シンボルにした。起動コストを軽く不特定マナで払えるようにしたことで、《オルゾヴァの幽霊議員》を殺すのは難しくなっている。

イゼット(青赤)

火想者ニヴ=ミゼット》(『ギルドパクト』)

 ニヴ=ミゼットはイゼット・ギルドの指導者にして創設者である。「イゼット」という名前は彼の名前から来ているのだ。彼は非常に知性の高いドラゴンである。(マジックにはそういうドラゴンが多い。)このカード・デザインは、青赤の「賢いドラゴン」をデザインする方法を考えていた時に作られたものである。カードを引くことは知識を表し、ニヴ=ミゼットは知識を最も重要な性質だと位置づけているので、我々はカードを引くことに注目するという発想が気に入っていた。カードを引くことはいかにも青なので、我々が探したのは赤に関連付ける方法だった。もっともわかりやすい効果は、直接火力だった。

 次のひらめきは、カードを引くことで誘発するようにすることだった。マジックでは毎ターン1枚はカードを引くものなので、このカードは必ず毎ターン何かをすることになり、また、カードを引く他の方法を見つけることができれば、このカードはさらに効果的になるということから、我々はこれが気に入ったのだ。さらに、ニヴ=ミゼットにカードを引く能力を追加することで、このカードを強化し、相互作用を増やすことにした。もちろんドラゴンなので、4/4の飛行クリーチャーになった。

 フレイバー・テキストが読めない諸君のために説明しておこう。「(Z-<)90゜」という部分は、全体を(時計回りに)90度回す、と書かれている。その向きで読むと、形は「NIV」になる。同じことを次の「(E-N2W)90゜」の部分にも行なう。「MIZE」となる。2乗と書かれているので、Zを1つ増やそう。最後の、「t=1」は最後に「t」を加えるということである。すべてを揃えると、「NIV-MIZZET」となるのだ。

ゴルガリ(黒緑)

死儀礼のシャーマン》(『ラヴニカへの回帰』)

 《死儀礼のシャーマン》は非常に複雑なデザインをしている。まずはじめに、これは混成のデザインであり、黒と緑に共通する能力を持たなければならない。ただし《死儀礼のシャーマン》はこの点で少しばかりズルをしている。その話をする前に、混成部分について話そう。これは1/2で{B/G}だ。伝統的な多色カードでは、それぞれの色のマナが1点以上必要なので、コストを1マナにはできない。混成カードでは1マナの多色カードを作ることができるので、《死儀礼のシャーマン》はその有利を活かしているのだ。(そして、『ラヴニカ』のセットには1マナの混成カードが多く存在するのはそのためであるとわかるだろう。)

 土地・カードを追放してマナを得る1つ目の能力は、理論上、両方の色に属するものである。緑はタップしてマナを出すことができ、黒はなにかリソースを費やせばマナを得ることができる。他の2つの能力はそれぞれ対応する色でしかできないことをするものなので、色マナを必要とする。それらの能力は単に色の枠内のことをするだけでなく、お互いに鏡映しになっている。黒の能力は対戦相手に2点のライフを失わせるものであり、緑の能力は自分が2点のライフを得るものである。

 さて、それでは各能力に必要な条件について話そう。3つの能力すべてを関連付けるため、それぞれは特定のカード・タイプを墓地から追放する必要がある。(ただし、自分のものでなくてもよい。)このカードの能力で追放するカードを制限しないことも検討したが、(マナ・コストを1マナのままにするには)そのデザインは少しばかり強すぎたのだ。最終的に、それぞれのカードでできることを制限する形でそれぞれの能力に制限をかけることにした。

 土地・カードはマナ生成能力にまさにふさわしかった。メカニズム的には、序盤から土地・カードを自分の墓地に置くことも難しいので、この能力のセーフガードとしても働く。緑の能力がクリーチャーを使うのは、一番多く起動されることを意図した、最も安全な能力だからというのが大きい。また、エネルギー源として死体を食べるというフレイバーもぴったりであった。黒の能力では、他のカード・タイプ(アーティファクト、エンチャント、インスタント、ソーサリー。プレインズウォーカーはまだ存在していない)から選ぶことになった。インスタントとソーサリーを選んだのは、まずテーマ的にちょうどよく感じられたこと、そして、墓地に一番よく置かれるカード・タイプであることからである。

 これらを組み合わせることで、非常に強力でフレイバーに富んだカードが出来上がったのだ。

ボロス(赤白)

稲妻のらせん》(『ラヴニカ:ギルドの都』)

 このカードについては、時間がかかったのはこのカードを作ることではなく、これを印刷すべきかどうかの議論だったという奇妙な話がある。白はライフを得る色であり、赤は直接ダメージの色なので、この2つを組み合わせたら非常に赤白らしいものになる。問題は、この効果全体だと、黒単色で常時使っている、「吸収」と呼ばれる効果になってしまうということであった。赤と白を組み合わせて、黒単色で通常していることをするのは許されるのだろうか。

 『ラヴニカ』のデザイン・チームは許されると考えたが、奈落全体での議論になった。実際、これについての全体会議を開き、熱のこもった議論が1時間に渡って繰り広げられたのだ。最終的に、そうすべきではないという説得力のある立論は誰もできなかった。一番の反論でも、おかしい「気がする」というものだったが、私はそれぞれの要素がそれぞれの色らしいものであり、ユーザーも受け入れるだろうと却下したのだった。そして、実際、受け入れられたのは周知のとおりである。

シミック(緑青)

とぐろ巻きの巫女》(『ディセンション』)

 《とぐろ巻きの巫女》は、2つの全く異なる効果を組み合わせて1つの効果であるかのように見せる、私が「編み込み」と呼んでいるちょっとしたデザイン上の技の好例である。説明しよう。青は、効果によってカードを引くことができる。カードを引くことを戦場に出たときの能力で持つことがよくある。緑は、ライブラリーから(全体から探すにせよ一番上の数枚から探すにせよ)土地を戦場に出すことができる。

 1/1で、戦場に出たときに、ライブラリーの一番上のカードを見て、それが土地なら戦場に出す、というのは緑単色のカードで可能である。1/1で、戦場に出た時に、ライブラリーの一番上のカードを見て、それが土地でなければ手札に入れる、というのは青単色のカードで可能である。《とぐろ巻きの巫女》の美しいところは、この2つのお互いに対照的な能力を1枚のカードに持たせ、必ず効果が発生するようにしているところである。これによって、2つの効果ではなく1つの効果であるかのように見えているのだ。

黄金のために

 本日はここまで。有名なギルド・カードの振り返りを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事や話題にしたカードについて、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ラヴニカのギルド』のデザインの話を始める日にお会いしよう。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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