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Making Magic -マジック開発秘話-
思い出の道をプレインズウォーク
2018年7月23日
『統率者(2018年版)』特集へようこそ。今週は1日1個ずつデッキを紹介していく予定であり、まずは今日の青赤のアーティファクトをテーマとしたデッキから始めることになる。そのデッキからプレビュー・カードは紹介するが、今回の『統率者(2018年版)』の記事では少しばかり違う方向性で行くことにしよう。
明日、ガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verheyが『統率者(2018年版)』のデザインについての記事を書き、デザイン・チームを紹介するので、そのかわりに私はプレインズウォーカーについて、そしてその変遷について少し語ることにしよう。(知らない諸君のために説明すると、『統率者(2018年版)』のデッキには統率者としてプレイできるプレインズウォーカーが入っている。そう、この記事の中で紹介されるのは青赤デッキの統率者なのだ。)
2007年、『ローウィン』の発売時に、私はプレインズウォーカーのデザインに関する2本の記事を書いた。なぜプレインズウォーカーを作ることにしたかについて、そしてその新カード・タイプのデザイン上の経験について非常に詳細に語ったのだ。(それらの記事を読んでいない諸君には、その1、その2をぜひ読んでもらいたい。※リンク先は英語)
この記事でもそれらの創造について軽く触れるが、この記事での主眼はプレインズウォーカーというカード・タイプが年を経てメカニズム的にどのように進化してきたかである。
プレインズウォークすること
そもそもの始まりは『未来予知』のデザイン中、デザイン・チームの一員だったマット・カヴォッタ/Matt Cavottaがプレインズウォーカーを新しいカード・タイプにするというアイデアを持ち込んできたことだった。『時のらせん』ブロックのストーリーでプレインズウォーカーの強さが見直され、いくらか扱いうるようになった(神の如き力を持つキャラクターは扱うのが難しかったのだ)。そして、『未来予知』はマジックのメカニズム的未来を覗き見ることがテーマだったのだ。プレインズウォーカー・カードを導入するのに、これ以上に完璧な時期はないとマットは考えたのだ。上述の記事で分かる通り、私を含むデザイン・チームは最初、いくらか懐疑的だった。我々はめったに新しいカード・タイプを作ることはない。しかし、マットは強情で、プレインズウォーカーの必要性について我々を説得することに成功したのだった。
我々はプレインズウォーカーを『未来予知』のミライシフト・カードの枠で導入できるようにするため独立したミニチーム(マット・カヴォッタ、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、ブランドン・ボッツィ/Brandon Bozzi、私)を作ったが、そこで作り上げたバージョンは少しばかりロボット的すぎるものだった。3つの能力があり、ターンごとに順番に処理していた。興味深いことに、この破棄されたバージョンのプレインズウォーカーを元にして、『ドミナリア』のデザイン時の英雄譚ができている。
満足できるデザインができるまでプレインズウォーカーを棚上げにすることにした。そして最終的にできたのは『ローウィン』のときだったのだ。(『未来予知』の《タルモゴイフ》の注釈文に、このカード・タイプが登場することのヒントが示されていた。)『ローウィン』のデザイン・チームの中核メンバー(アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe、ポール・ソトサンティ/Paul Sottosanti、私)は、プレインズウォーカーのデザインの後半の大半を担当した。さらに詳しく知りたい諸君は、プレインズウォーカーのデザインについての上述の2本の記事を読んでくれたまえ。
この最初に印刷された5人のプレインズウォーカーは、『ローウィン』の5人(アジャニ、ジェイス、リリアナ、チャンドラ、ガラク)として知られている。我々は、各色のど真ん中にあたる5人の単色のプレインズウォーカーから始めることに決めた。最初の5人のプレインズウォーカーを、その色の象徴的な代表にしたいと考えたのだ。
『ローウィン』の5人はいずれも同じテンプレートを用いている。小さな効果を持つ[+1]の能力と、比較的大きな効果を持つマイナスの能力(唱えた時点で使えるだけの忠誠度を持っている)、そして「奥義」と呼ばれる、使うために準備が必要になる大きなマイナスの能力である。もう1つの進化が、初めて[-X]の忠誠度能力を持ったチャンドラであった。この能力を採用するかどうかについて議論があったが、プレイ感が非常に良く、キャラクターにも完璧に合っていたので残すことに決めたのだ。『ローウィン』の5人はプレインズウォーカーなのにレアだが、それはまだ当時神話レアというレアリティが存在していなかったからというだけである。
本来、プレインズウォーカーはいつもあるようなものではなく、もっと特別な存在にするという計画だった。『ローウィン』で最初の5人を導入した後、その後の3つのセット(『モーニングタイド』『シャドウムーア』『イーブンタイド』)にはプレインズウォーカーは1人もいなかったのだ。
次にプレインズウォーカーが登場したのは、『アラーラの断片』のときだった。このときはプレインズウォーカーはサイクルにはなっていなかった(ただし、『アラーラの断片』と『コンフラックス』で、各断片ごとに1人のプレインズウォーカーがいた)。この中の2人、アジャニとサルカンは2色だった。アジャニは2回カードになった初のプレインズウォーカーであり、色が変わった初のプレインズウォーカーだった。エルスペスはプラス能力を2つ持つ初のプレインズウォーカーだった。そして、テゼレットは濃いアーティファクト・デッキでしかプレイできないような狭い能力を持った初のプレインズウォーカーであった。当時、そういったことをするべきかどうかということでかなりの議論があり、テゼレットは試験として作られたのだ。
その次のセットの『コンフラックス』で、いくつかの初めての性質を持つニコル・ボーラスが登場した。初の3色のプレインズウォーカーであり、初の8マナのプレインズウォーカーであり(強力だが重い存在にすることにしたのだ)、かつて伝説のクリーチャーとして存在していた初のプレインズウォーカーであった。(ヤヤ・バラード、カーン、ナーセット、オブ・ニクシリス、テフェリー、ウルザ、ヴェンセール、ゼナゴスが、プレインズウォーカー・カードと伝説のクリーチャー・カードとして別々に存在している。)
『基本セット2010』はプレインズウォーカーを入れた初の基本セットだったが、収録されていたカードは『ローウィン』の5人の単純な再録だった。
『ゼンディカー』から、すべてのセットにプレインズウォーカーが入るようになった。プレインズウォーカーは登場した直後から好評だったのだが、我々が手がけているのは2年後の商品であり、すべてのセットに少なくとも1人のプレインズウォーカーを入れるように再調整できたのは『ゼンディカー』からだったのだ。この3人のプレインズウォーカーは特に革新的というわけではなく、既存のキャラクターの別の姿、狭いテーマ的焦点など、すでにあった変化を推し進めただけである。
『ワールドウェイク』では史上最強のプレインズウォーカーの1人であると同時に初めて忠誠度能力を4つ持ったプレインズウォーカーである《精神を刻む者、ジェイス》が登場した。我々が最初にプレインズウォーカーの枠をデザインしたとき、私はいつか使えるようにと忠誠度能力4つの版も作ってもらっていたのだ。ジェイスは初期のプレインズウォーカーの中で最も人気が高かったので、我々は彼を初の4忠誠度能力プレインズウォーカーとして認めたのだった。また、ジェイスは[0]能力を持った初めてのプレインズウォーカーでもある。
『エルドラージ覚醒』にはプレインズウォーカーは2人しかいないが、それぞれが新しいメカニズム空間を拓いた。ギデオンはクリーチャーになる初のプレインズウォーカーであった。サルカンはプラスの忠誠度能力を持たない初のプレインズウォーカーであった。(これは当時開発部内で多くの議論を呼んだ。)
ここからは、何か新しいことをしたプレインズウォーカーだけを紹介していこう。基本セットには単色のプレインズウォーカーのサイクルが収録され続け、そのほとんどは『ローウィン』の5人のままだったが、時折調整が加えられていった。ガラクはニッサに入れ替わり、アジャニはギデオンに入れ替わった。
『新たなるファイレクシア』では、初の、不特定マナだけで唱えられる、無色のプレインズウォーカーとなる《解放された者、カーン》が登場した。そして、カーンは最も重いマイナスの忠誠度能力を持つ。カーンをアーティファクトとするかどうかについて多くの議論があったが、デベロップ的な理由でそうすべきではないと判断した(アーティファクトにはあまりにも多くの問題がある)。プレインズウォーカーであることは他の性質を上書きすると決めたのだ。例えば、アジャニが猫でない理由もこれである。(この例外として、プレインズウォーカーがクリーチャーになったときには、クリーチャーである間はクリーチャー・タイプを持つ。)
『イニストラード』では、いくつかの初の要素を持つ《情け知らずのガラク》が登場した。初の両面プレインズウォーカーで、変身するのも初である。カード内で色が変わった初のプレインズウォーカーである。忠誠度能力を5つ持つ(全能力を数えれば6つだ)初のプレインズウォーカーである。誘発型能力を持つ初のプレインズウォーカーである。
この誘発型能力について一言:プレインズウォーカーは一番人気のあるカード・タイプになった。同時に、デザイン空間が最も狭いカード・タイプでもあるので、主席デザイナーとして、私が挑戦してきたことの1つが、「歯磨き粉を全て絞り出す」ことができるようにプレインズウォーカーの進化を遅くすることである。そのため、《情け知らずのガラク》の誘発型能力には賛否両論があった。あまり早く進めたいことではなかったので、私はプレインズウォーカーの誘発型能力を使わないようにしようとした。かなりの議論の末、この能力が変身と深く関わっているため、両面プレインズウォーカーの独自性が感じられるということでガラクについては問題ないということにしたのだった。
『闇の隆盛』の《イニストラードの君主、ソリン》は、紋章を作る初のプレインズウォーカーである。紋章は、統率領域に置かれるエンチャントのような能力である。紋章は色やカード名やカード・タイプを持たず、現時点では破壊する方法も存在しない。(現時点で破壊できるようにするという計画も存在していない。紋章を作るのにはかなりの工程が必要なので、簡単に対策できるようにはしたくないのだ。)現時点で最初となる紋章は、『アラーラの断片』の《遍歴の騎士、エルズペス》のルール上の問題を処理するために後付けで作られたものである。紋章はプレインズウォーカー・カードだけで用いられており、トークンと同じようにカードとして印刷されているが、神話レアにしか存在しないプレインズウォーカーだけが生成するということでその頻度は低くなっている。
タミヨウは、既知の次元(神河)から舞台となる次元に訪れたことが明確になっている初のプレインズウォーカーである。後に、既知の世界出身だということが明らかになったキャラクター(例えばリリアナはドミナリア出身)はいるが、登場した時点では明らかになってはいなかったのだ。ティボルトは2マナのプレインズウォーカーという初の試みだったが、そういう軽いプレインズウォーカーを推すことには小心だったので、デベロップ的に大失敗だったと考えられている。
[-X]の忠誠度能力は『ローウィン』からあったが、《正義の勇者ギデオン》は、対戦相手がコントロールしているクリーチャーの数に応じて異なる量の忠誠カウンターを得られるので、実質的に可変のプラスとなる忠誠度能力を持つ初のプレインズウォーカーである。
『基本セット2015』で、《不動のアジャニ》は他のプレインズウォーカーに忠誠カウンターを置ける初のプレインズウォーカーとなった。ガラクは2人目の4忠誠度能力プレインズウォーカーとなった。
《ダク・フェイデン》は、スタンダードで使えないセットの新カードとして初のプレインズウォーカーである。同年の後半には『統率者(2014年版)』で、さらに5人追加されることになる。
『統率者(2014年版)』は、統率者になることができるという能力を持つプレインズウォーカーが軸となっていた。このサイクルの5枚は、常在型能力を持つ初のプレインズウォーカーである。(興味深いことに、これも誘発型能力も、カードの一番下に書かれている。)これらのカードには複数の初めてがある。1つ目に、統率者としてプレイできる初のプレインズウォーカーである。2つ目に、フレイアリーズは死んだキャラクターとしてはじめてのプレインズウォーカー・カードである。(ナヒリとテフェリーの運命は当時はわかっていなかったが、現時点ではどちらも生存がわかっている。)これによって、将来、すでに死んだキャラクターがサプリメント・セットでプレインズウォーカーとして登場する可能性の扉が開いたのだ。(そしてその1人は今週中にお目見えすることになる。)テフェリーはプレインズウォーカーの忠誠度能力を1ターン中に複数回使うことができるようにする初のカードである。
『マジック・オリジン』では、プレインズウォーカーになる初のカードが導入された。これらの単色両面カードは、伝説のクリーチャーで、プレインズウォーカーへと変身できるのだ。キテオンは、(言ってみれば)初の1マナのプレインズウォーカーである。これらのプレインズウォーカーは、オモテ面が伝説のクリーチャーなので、統率者戦で統率者として使うことができる。
『カラデシュ』の発売とともに、新規プレイヤー向けの構築済みデッキの新しい調整としてプレインズウォーカーデッキを導入した。構築済みデッキの新しい流れを作ったことはあったが、ここでは初めて新しいプレインズウォーカー・カードを作ったのだ。それらのカードは高いマナ・コストに設定されており、スタンダードで実用的にはならないようにデザインされている。(このデッキ内のすべてのカードはスタンダードで使用できる。)チャンドラとニッサは、それぞれの別バージョンであるプレインズウォーカー・カードが『カラデシュ』本体に含まれている。プレインズウォーカーデッキにはそれぞれのプレインズウォーカーは1枚ずつしか入っていないが、効果に加えてプレインズウォーカーを教示者する(ライブラリーから探して手札に入れる)カードが入っており、プレインズウォーカー・カードを引く可能性は実質的には2倍になっている。
『破滅の刻』のプレインズウォーカーデッキの1つには、ニッサが登場している。ニッサは、対応するセット本体に存在せずにプレインズウォーカーデッキに入った初のプレインズウォーカーである。
『Unstable』の《〈アカデミーの頭、ウルザ〉》[UST]には、いくつかのはじめての要素がある。5色の初のプレインズウォーカーである。銀枠初のプレインズウォーカーである。可変の能力を持つ初のプレインズウォーカーである。(起動するたびに、何が起こるかオンラインで確認する必要がある。)そして、プレイヤーがプレインズウォーカーというカード・タイプができて以来プレイヤー・カードになるのをずっと待ち望んでいた、初のウルザなのだ。
そして話は『統率者(2018年版)』のプレインズウォーカーに到る。2人は、新規キャラクター。1人は、遠い昔に死んだプレインズウォーカー。そして残りの1人は、既知のプレインズウォーカーの新しいカードである。(今日紹介するのはこの1人だ。)今日プレビューするもの以外はどれも3色である。
さて今日のプレインズウォーカーは既知のプレインズウォーカーだと言ったので、もう誰であるか予想はできることだろう。すでに、今日の『統率者(2018年版)』デッキは青赤のアーティファクト・テーマのデッキだと言うことも伝えたとおりだ。そうなると、プレインズウォーカーは、当然……
サヒーリである。元祖の《サヒーリ・ライ》同様、《天智、サヒーリ》もアーティファクト・デッキでプレイするようにデザインされている。実際、『カラデシュ』が登場したときのことを思い出せば、多くのプレイヤーが青赤のアーティファクトをテーマとした伝説のクリーチャーを期待していたところに、実際に登場したのは青赤のアーティファクトをテーマとしたプレインズウォーカーだったのだ。後にジョイラがその枠を『ドミナリア』で埋めたが、サヒーリは戻ってきて、セットにおいて初めて埋めた枠を再び埋めることになったのだ。
今日はここまで、ではなくて。アーティファクト・テーマのデッキをプレビューするのに、私がアーティファクトを紹介しないことがありえるだろうか?これは、《天智、サヒーリ》とうまくプレイできるようにデザインされたアーティファクトだ。
このアーティファクトは、アーティファクト・クリーチャーをどんどんと強化していくことができるようにする。サヒーリの作る霊気装置もだ。
日没へのプレインズウォーク
プレインズウォーカーの革新の歴史を楽しんでもらえたなら幸いである。素敵なことが数多く起こってきたが、今もクールなことが数多く世に出る機会を待っているのだ。新しいことといえば、今週は毎日新しいデッキと、そのデッキを統率するプレインズウォーカーを紹介していくので注目してくれたまえ。
いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。今日の記事についての感想や、プレインズウォーカーの好きなところを教えてほしい。
それではまた次回、『基本セット2019』の一問一答記事でお会いしよう。
その日まで、新しくクールなプレインズウォーカーの革新の夢があなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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