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Making Magic -マジック開発秘話-
カードの中で その1
2018年6月25日
カードを1枚ずつ見て、『基本セット2019』の新カードを作る中で大量に存在したデザイン上の決定について語る日がやってきた。さっそく始めよう。
《霊気盾の工匠》
先週話したとおり、基本セットには多くの利点があるが、その中の1つがさまざまなマジックの次元を表現できることである。
これによって可能になるクールなことの1つが、遠い過去のセットのカードをデザインできることだ。《霊気盾の工匠》を例に取ってみよう。これは基本的には、『カラデシュ』ブロックに存在しなかった『カラデシュ』のカードである。このカードは、このセットの、アーティファクトを扱う白青のアーキタイプに入れるためにデザインされた。このカードを早い順目でドラフトしたなら、アーティファクト・クリーチャーやアーティファクト・クリーチャー・トークンを生成するカードに意識を向けるようになるだろう。これはこのセットでは『カラデシュ』でそうだったような大きなテーマではないが、白青に存在するものであることは間違いない。
もちろん、このカードはアーティファクト・クリーチャー(あるいはアーティファクト・クリーチャーになる機体)を扱う構築デッキに入れることができる。このカードは『カラデシュ』らしさに合うよう、メカニズムを扱う『カラデシュ』の種族であるドワーフ・工匠になっている。多元宇宙に存在する既知の次元を瞥見させることで、基本セットに通常のセットと全く異なる雰囲気を持たせているのだ。
《暴君への敵対者、アジャニ》
『基本セット2019』には、他のほとんどのセットとわずかに違うフレイバーが存在する。現在のストーリーに注目するものではなく、過去を覗き、ニコル・ボーラスのオリジンを理解する助けになるものなのだ。そのために、『基本セット2019』に存在するプレインズウォーカーは、その人物がボーラスと接した時点を描いた、過去の存在になっている。アジャニのカードは、彼が唯一ボーラスと直接対決した『アラーラの断片』のストーリーラインから取ったものである。
プレインズウォーカーそれぞれのキャラクターの本質を保ったまま、プレイして楽しいカードを作るようにすることが、プレインズウォーカーをデザインする上での大目標の1つとなる。アジャニの魔法は、大抵の場合彼の他者との関わりに関連している。彼は味方を集め、強化し、癒やすことが得意なのだ。彼の魔法は彼自身を助けるものではなく、彼の仲間を助けるものなのだ。
1つ目の能力は強化系で、理想的には、強化するクリーチャーを2体必要とする。「最大2体」と書いてあるのは、自軍のクリーチャーが1体か0体しかいないけれども忠誠カウンターを増やしたい場合のためである。アジャニのプレインズウォーカー・カードのほとんどが、強化する能力を持っている。
2つ目の能力では、味方となって戦ってくれるクリーチャーを集めるためにこれまでアジャニが使ったことのなかった白の能力を使っている。フレイバー的に言うと、これは復活させているわけではなく、以前の仲間と似た別の仲間を迎えているのだ。小型クリーチャーに限られているのは、白のリアニメイトに課せられた制限によるものである。
アジャニの奥義は、簡単に手に入る紋章で、即座に勝つわけではないがいずれ対戦相手を圧倒できるようになるものとして作られた。クリーチャーが絆魂を持つ1/1の猫・クリーチャーなのは、おそらく、アジャニが自分の同種を集めているところを描いているのだろう。この、おそらくアジャニの好みに合うように作られたトークンは、『基本セット2019』の主なトークンの1種としてそこかしこに登場している。
この紋章がターンの最初でなく最後に誘発するのは、奥義を使ったそのターンから利益を得られるようにするためである。奥義を使えるようになるまでにも時間がかかっているので、利益を得られるようになるまでプレイヤーにさらに1ターン待たせたくはなかったのだ。
各種エルダー・ドラゴン
このセットでニコル・ボーラスの過去を扱うということになれば、ボーラスの起点(ゲーム的な意味で)、すなわちエルダー・ドラゴンに戻ることになる。(そう、エルダー・ドラゴンは、統率者戦という発想のもとになった存在なのだ。)ニコル・ボーラスが初登場したのは1994年夏の『レジェンド』のとき、3色のドラゴンのサイクルの一員としてだった。(なお、ファイレクシアが初登場したのはその前のセットの『アンティキティー』であり、ニコル・ボーラスは再登場した敵の中のマジック最古の座を惜しくも逃している。もしミシュラが蘇ってきたら、この記録はさらに破られることになる。)『基本セット2019』がボーラスをテーマにすると決まった時点で、エルダー・ドラゴンの再登場が計画されることになった。
ニコル・ボーラスはそれ専用の特別なカードになったが、これについてはまた後で別に話すことにする。ここでは、他のエルダー・ドラゴンについて論じよう。
まずは《策略の龍、アルカデス》だ。アルカデスは用心深く用意周到な存在である。彼はドラゴンなので飛行を持ち、注意深さを表すために警戒を持っている。彼の2つの能力はどちらも「防衛関連」の効果である。1つ目の能力は、防衛を持つクリーチャーを戦場に出すとカードを引くことができるというもので、2つ目の能力は防衛を持つクリーチャーが攻撃できるようになるだけでなく、伝統的にパワーよりも大きい値を取ることが多いタフネスでダメージを与えることができるようにするものだ。ここしばらく「防衛クリーチャーは攻撃できる」というカードは作っていなかったが、我々はまず防御的にプレイし、アルカデスが登場したら攻撃に切り替えるデッキ、という発想が気に入っている。いかにも策略だ。
クロミウムのメカニズムは、このキャラクターがストーリー上で持つ、人間になるという能力を表している。鍵となるのは、ドラゴンが人間になるのをどうやって面白いものに仕上げるかであった。通常、プレイヤーはその逆の方向、つまり小型クリーチャーを大型クリーチャーにするほうを望むものだ。デザインは、このことに2通りの方法で挑んだ。1つ目に、このカードがそれ自身でクールなドラゴンになるようにした。7マナで7/7飛行、瞬速、「打ち消されない」を持つことで、対戦相手が抵抗できない方法で強襲することができるようになっている。そして、人間に変化する能力が、膠着した局面で最後の数点を与えられるようにするブロックされない効果と、除去呪文に対応することができるようにする呪禁の、2つの効果を与えるようにした。この能力はマナを必要とせず、カード1枚を捨てるだけなので、クロミウムの不意をつくのは難しい。
パラディア=モルスは最も冷酷で、単純な攻撃力なら最高なので、それにふさわしいようにデザインされた。その能力はすべてクリーチャー能力である。攻撃力が優れている、以外には何もしないのだ。飛行とトランプルは攻撃を通すため、警戒は毎ターン攻撃しながら防御の役も果たすためのものである。最初は呪禁も持っていたはずだが、少しばかり乱暴すぎることがわかったので、ダメージを与え始めるまでの間だけパラディア=モルスを守るように調整されたのだ。
最も混沌としているアスマディには、マジックの中でも混沌としたメカニズムの1つを再現した能力を持たせた。攻撃すると、他の各プレイヤーに(これは多人数戦でうまく作用するようにデザインされている。なんと言ってもエルダー・ドラゴンなのだ)、自分のパーマネントを他のパーマネントに変身させようとすることを強制するのだ。代わりになるものを見つけられず、単にパーマネントを失うだけのこともある。
それぞれのデザインの目標は、統率者戦やブロールといったフォーマットでうまく働き、またヴォーソスが歴史やストーリーをテーマとしたデッキに入れたくなる楽しいカードであるようにすることであった。
《旅立った甲板員》
基本セットで手がけていることの1つが、『イクサラン』などのスタンダード内にあるセット向けのサポートとなるカードを増やすことである。マーフォークや吸血鬼はマジックにおいて非常に当たり前の存在なので、それをセット内で推すのはそう難しくはない。恐竜を入れる方法は見つかった。《旅立った甲板員》は、このセット唯一の海賊で、非常に賢いデザインだと思う。
このカードは最初、確か、海賊の幽霊というトップダウンの構想から始まったものだった。吊るされた海賊の幽霊というのは海賊の物語でよく出てくるものなので、掘り下げて楽しいトップダウンになると思ったのだ。では、どうやって海賊・スピリットを作るべきだろうか。まずはじめに、何らかの形でブロックされない性質を持つようにできる。シャドーのメカニズム(『テンペスト』時代のものだ)をヒントにして、開発部はこれをスピリットによってしかブロックされないようにした。そして、他のクリーチャーに影響を分け与え、同じ種類のブロックされなさを与えるという起動型能力をつけたのだ。
最後に、このカードにマナ・コストに比して効率のいいカード効果を持たせるため、開発部はこれに欠点をつけることにした。フレイバー的にスピリットにふさわしい、青の欠点といえば何だろうか。イリュージョン系の欠点はどうか。最初は黒の幽霊(『ミラージュ』の《卑屈な幽霊》が最初)についていた「このクリーチャーが呪文の対象になったとき、これを生け贄に捧げる」という能力は、後に青のイリュージョンへと動かされた。誰かが、呪文を唱えるだけの価値があると気づいたら、実体を持たない存在であるこれは溶けてなくなってしまうのだ。
これらをすべて組み合わせて、このクールなトップダウン・デザインが出来上がったのである。
《金剛牝馬》
『アルファ版』には、次のようなアンコモンのアーティファクトのサイクルがあった。
これらは、特定の色の呪文が唱えられるたびに{1}を支払うことで1点のライフを得られるというものであった。このサイクルは「ラッキー・チャーム」と呼ばれた。(理由はよく知らない。)これらのカードが比較的弱いことが明らかになった。(とはいえ、初期の世界選手権のトップ8にも数枚見受けられた。)しかし、これらはカジュアルなプレイヤーの間で非常に人気があったのだ。あまりにも人気があったので、『第8版』までのほとんどの基本セットに入っているほどである。
『アンティキティー』では、アーティファクトを扱うバージョンが追加された。
『メルカディアン・マスクス』では、ラッキー・チャームの代替となるものを作ろうと試みた。
このアーティファクトは1マナ重いが、代わりに好きな色を選ぶことができる。その後、使うのに2マナ必要だが、2点のライフを得られるのだ。このカードは、プレイヤーが気に入ったなら基本セットのカード5枚を1枚だけにすることができるという考えで作られたが、実験はうまく行かなかった。コストが重く、濃いフレイバーもなかったことから、プレイヤーは《宝飾の首飾り》を選ばなかったのだ。
『第9版』で、我々はついにこれらを整理することにして、「新ラッキー・チャーム」と呼ばれるこのサイクルを作った。
これらは1マナ重いが、ライフを得るためにコストを支払う必要はなくなっている。我々の目標はこのサイクルをフレイバー的に各色の象徴的クリーチャーと関連付けることだったが、当時緑と青の象徴的クリーチャーはまだ見つかっていなかった。(スフィンクスとハイドラに決まったのは数年先のことである。)これらの新ラッキー・チャームは、それ以降『基本セット2012』までの基本セットに入った。
後に『ミラディンの傷跡』で、このサイクルのアーティファクト版が追加された。
『時のらせん』では、《宝飾の首飾り》の系統を継ぐ新ラッキー・チャームを試した。
《極楽の羽飾り》はタップして好きな色のマナを出せるアーティファクトに、戦場に出たときに決めた色のラッキー・チャーム能力を組み合わせたものである。
そして、最新のラッキー・チャームである《金剛牝馬》に到る。《金剛牝馬》は、戦場に出るに際して色1色を選ぶ、「サイクルでなく1枚」という方向性を試している。そして、もう少し実用性を高めるため、ラッキー・チャーム史上はじめてクリーチャーになっている。プレイヤーがこの構想をどう受け取るか見たいものである。
《ギガントサウルス》
さて、ここでトリビア問題を出そう。点数で見たマナ・コストが5点で、マナ・コストに色マナしか含まないカードは何枚あるか、ご存知だろうか。
28枚だ。マナ・コストが{W}{U}{B}{R}{G}のカードが16枚(《アトガトグ》《アラーラの子》《彩色マンティコア》《クロウマト》《世界の源獣》《概念の群れ》《最後の抵抗》《大渦の大天使》《大渦のきずな》《始祖ドラゴンの末裔》《巣主スリヴァー》《スリヴァー軍団》《スリヴァーの首領》《スリヴァーの女王》《〈アカデミーの頭、ウルザ〉》)、混成マナを持つカードが10枚(《傷痕の神性》《復讐の亜神》《災難の大神》《名誉の御身》《忠義の天主》《遁走の恐君主》《畏敬の神格》《戦争の貴神》《神話の超者》《薄暮の大霊》)、そして単色のマナ・コストを持つのが1枚だけあり(『メルカディアン・マスクス』の《ラッシュウッドの精霊》)、『基本セット2019』以前の合計は27枚である。
《ギガントサウルス》は、このリストの最新のメンバーであり、2枚目となる緑単色のカードだ。
このカードは、5マナで可能な限り最大の恐竜として作られたものだったと思う。
《カル・シスマの恐怖、殺し爪》
マジックの代弁者であることの副次効果の1つに、誰でも簡単にコメントできるブログを持っていると特にそうだが、大量のリクエストを受けるということが挙げられる。よくあるリクエストの1つが、伝説のカードが1枚もないクリーチャー・タイプの伝説のカードを求めるものである。直近でそういったリクエストが一番多かったクリーチャー・タイプが、伝説の熊である。残念ながら、伝説の熊を入れるのに最適だった『タルキール覇王譚』の時点で熊テーマに気づけていなかったことはすでに表明したとおりだ。幸いにも、ついに、伝説の熊を印刷に送ることができたのだ。
興味深いことに、《カル・シスマの恐怖、殺し爪》は熊のロードではなく大型クリーチャー向けの基柱カードである。軽いマナで大型クリーチャーを唱えることができ、さらに攻撃時には大型クリーチャーを強化することができるのだ。熊の統率者を求めていた諸君の多くが、《カル・シスマの恐怖、殺し爪》で楽しんでくれれば幸いである。
《飢餓ハイドラ》
マジックのカードのデザイナーとして私が好きなことの1つが、既存の能力を選び、それらを組み合わせて新しいカードを作ることである。《飢餓ハイドラ》はまさにその好例だ。このカードは3つの能力を持つ。
1つ目は、基本的なハイドラの能力で、唱えるときにXマナを支払うことで、X個の+1/+1カウンターが載った状態で戦場に出るというものだ。この能力は他にも多くのクリーチャーが持っていたが、ハイドラの非常に標準的な能力となっている。
2つ目の能力は、開発部語で言うところの「忍び寄り」である。これは『ミラージュ』の《忍び寄る虎》が初出で、以降緑の主要な能力となっており、緑の大型クリーチャーが持っていることが多い。
3つ目の能力は『アルファ版』の《キノコザウルス》というクリーチャーで初出だった能力を調整したものである。《キノコザウルス》は一連のダメージごとにカウンターを1個だけ得るものだったが、《飢餓ハイドラ》ではダメージ1点ごとに1個のカウンターを得るようになっている。
これらの能力はどれも何らかの形で緑に存在していたものだが、これら全てが組み合わさったのは初めてのことである。このハイドラはダメージを受けて成長し、忍び寄り能力で対戦相手はチャンプブロックするしかなくなり、その結果さらに成長していくというクールなシナジーが出来上がったのだ。
《冥府の報い》
『基本セット2019』の役目の1つが、スタンダードを阻害することなくモダンで使えるようなカードを作ることだった。一般的に、スタンダードよりも何倍も広いフォーマットで目立つようなカードを作るとスタンダードでも非常に強くなるものであり、これは難しいことなのだ。鍵となるのは、モダンでは意味があり、スタンダードではそれほど意味を持たないような場所を探すことだった。さらに、これをずっと難しくしていたのが、そのカードは入るセットにふさわしいものに見えなければならなかったことである。完璧にふさわしいものでなくても構わないが、まったく場違いだと感じられるようなものであってはならないのだ。
《冥府の報い》は、これらの目標すべてを達成したカードの好例である。まず、いかにしてこれをモダンで有用なものにするのか。モダンが持つ問題を見つけ、それを解決しようとするのだ。エルドラージ、特に大型の伝説のエルドラージはどうか。倒すのが難しく、もし仮に倒したとしてもライブラリーに戻って後でまた引かれることがありうるのだ。軽いコストでエルドラージに対処でき、スタンダードに余計な損害を与えない方法はあるだろうか。
ここでは、エルドラージに特有と言える性質、つまり無色性に注目しよう。スタンダードにも無色のクリーチャー(アーティファクト・クリーチャー)は存在するが、通例、スタンダードで使えるセットでそれほど多くのアーティファクト・クリーチャーを作ってはいない。最近で大量のアーティファクト・クリーチャーがあった大型セットといえば、間もなくローテーションして使えなくなる『カラデシュ』である。クリーチャーを追放することで、エルドラージの最大の問題の1つである、何度も戻ってくるという性質に対処することができる。また、このカードには、そのクリーチャーが大きければ大きいほど有効になるライフのおまけがついている。つまり、この呪文はスタンダードでもいくらか使えるが、モダンの問題を低減する性質を持っているのだ。
このカードがモダンにおけるエルドラージ対策として作られたということに気づかない場合に備えて、クリエイティブ・チームはそのことに気づく助けとなるアートやフレイバー・テキストを与えたのである。
これで半分
今日はここまでだが、取り上げるべきカードはまだまだあるので、続きはまた来週ということになる。いつもの通り、この記事や話題にしたカード、あるいは『基本セット2019』全体について、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、我々が『基本セット2019』を作ることを楽しんだのと同じように、あなたが『基本セット2019』をプレイすることを楽しめますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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