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Making Magic -マジック開発秘話-
基本に到る
2018年6月18日
ようこそ諸君。いよいよ『基本セット2019』のプレビューが始まる。今回は少し引いて、なぜ基本セットが戻ってきたのか、そしてこれまでの基本セットと何が同じで何が違っていくのかについて語ろう。この記事が終わる前にお見せすることになるプレビュー・カードは2枚あり、1枚は再録、1枚は新規のカードだ。
基本4つと20年前
4年前、開発部は基本セットの廃止を決めた。私は「変身」という記事を書き、「基本セット問題」について語った。基本セットは独自性の問題を持つ、という説明をしたのだ。基本セットは一体誰のためのものなのか。初心者の導入のためのものなのか、熟練プレイヤーが再録カードや最近のどの世界にもふさわしくないようなカードを手に入れられるようにするためのものなのか。何年もの間、我々はその両方に応えられるようにしようとしたが、そのため多くの問題が発生していた。
その後、去年になって、我々は方針を改め、基本セットを復活させることに決めたのだ。私が記事「変身2.0」の中で語ったとおり、我々は基本セットを廃止するまで、世界の色の濃いカードを再録すること、スタンダードでメカニズム的にテーマをサポートするカードや後に重要になるものの準備をするカードを作ること、基本セットを飛ばすことでプレイヤーの疲労を避けること、そしてなにより新規プレイヤーがマジックに飛び込むための助けとして、どれほど基本セットに頼っていたかに気づいていなかったのだ。
ここで重要なことは、我々が基本セットに求めていたものを増やし、求めていなかったものを減らす形で基本セットを復活させることだった。今回、基本セットの主な需要のそれぞれについて検証し、それらの需要について新しい基本セットはどのようになっているかについて語っていこう。
需要1:基本セットは新規プレイヤーにとっての導入用ブースター商品でなければならない
基本セットを廃止したとき、我々は、マジックへの完璧な導入の役割を果たす特別な一連の商品を作るつもりだった。ブースター商品は、プレイヤーがカードを目にする順番を完全には決めることができず、体験をコントロールすることが非常に難しいという問題を抱えている。我々の取った手は、初心者にランダムなブースター商品を与えるのをやめるというものだった。こうすることで、体験をもっとよくコントロールすることができるはずだったのだ。しかし、我々は1つ重要なことを忘れていた。ランダム化は、マジックを特別で楽しいものにしている要素の1つなのである。
マジックはトレーディング・カードゲームであり、ブースターパックを開くときに何が手に入るのかわからないという興奮がその重要な要素なのだ。この部分を初心者の体験から取り除くことで、マジックの最もエキサイティングな要素の1つを奪ってしまったのだ。興味深いことに、我々は初心者がブースター体験を非常に楽しみ、導入体験からブースターをなくしても、徐々に慣れていけるようにするために我々が準備した初心者向け商品の順路を無視してプレイヤーたちは手に入れられるブースターを開封したため、彼らにとって体験はより難しいものになったのだった。
メッセージは強く、明確なものだった。ブースターは、マジックの欠くべからざる要素である。それが初期導入工程に存在するようにしなければならない。プレイヤーが目にするものの順番を完全にはコントロールできなくなるのでいくらかの問題は発生するが、その代わりにもっとエキサイティングな体験が得られるようになる。何度も説明してきたように(これなどがその好例だ)、新規プレイヤーにとって全てをすぐに理解できるようにすることよりも楽しむことのほうが重要なのだ。
独自性の問題を解決するため、開発部は次のような決定を下した。基本セットの第一の責任は、新規プレイヤーのための最初の経験になることである。だからといって、すでにマジックの世界にいるプレイヤー向けのことができないというわけではない(見て分かる通り、している)が、しかしそのために新規プレイヤーを犠牲にしてはならないのだ。この理念から、新しい基本セットの作り方には最初の大きな変化が現れた。
この変化を理解するため、ここで初心者向け商品の順路を紹介しよう。
ウェルカムデッキ → プレインズウォーカーデッキ → デッキビルダーセット → 基本セット
ウェルカムデッキは、新規プレイヤーにサンプルとして渡せるよう、店舗に無料で配布している30枚のデッキである。伝統的に1色であり、1つのデッキで学べる概念の数は少なく抑えられている。ウェルカムデッキには、プレイヤーに大きくてフレイバーに富んでいて強力なカードを手にとってもらうためにレア(ほぼすべてがクリーチャー)が1枚入っている。ウェルカムデッキは、「プレイヤーが初めて目にするもの」として良いものになるようデザインされている。
プレインズウォーカーデッキは、各商品ごとに発売されている。特定のプレインズウォーカーをテーマとした、多くはその関連するセットに含まれるメカニズム要素を使った構築済みデッキである。ウェルカムデッキよりはやや複雑な形にデザインされているが、通常のスタンダードのデッキよりはいくらか単純になっている。この基本セットに関連するプレインズウォーカーデッキは、初見のプレイヤー向けにさらに簡単なものになるように作られている。構築済みですぐに対戦できるプレインズウォーカーデッキは、プレイヤーがウェルカムデッキを手にした後最初に購入するものという位置づけになっている。(対戦用に2つ買うかもしれない。)
デッキビルダーセットは、新規プレイヤーが比較的安く大量のカードを手に入れられるようにデザインされている。箱には、各プレイヤーが自分のはじめてのデッキを作るのにふさわしいさまざまなテーマに沿ったコモンやアンコモンなどが詰まっている。構築済みのプレインズウォーカーデッキでプレイすることを楽しんだら、これで簡単にそれぞれの最初のデッキを組むことができるのだ。
そしていよいよ基本セットに到る。これは新規プレイヤーにとってはじめてのブースター商品である。基本セットは全体として単純なテーマを使う傾向にあり、また常盤木キーワードに注釈文があるなどして通常のエキスパンションよりもいくらか理解しやすくなっている。
かつては、ウェルカムデッキ、プレインズウォーカーデッキ、デッキビルダーズセットは基本セットのデザインが終わった後に、その需要にそぐうカードを使って作られていたのだ。今回、新しい基本セットでは、新しい方法論を採用することにした。基本セットが初心者のためのものであるなら、関連商品が後付けであってはならない。基本セットのデザインにおいて、関連商品もまたその不可分の一部であるべきなのである。
そこで、『基本セット2019』では、イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer率いるチームは、ウェルカムデッキとプレインズウォーカーデッキを作ることから始めた。最適な経験を作るために必要なカードを、デザインしたり再録したりすることができるようにしたのだ。その後、それらの2商品のために作ったカードを、『基本セット2019』を作るための起点として使ったのである。また、セットのテーマを作る際に、彼らはデッキビルダーセットを意識し、編み込んだテーマがその商品で使えるようにした。
これは大きな変更には聞こえないかもしれないが、実際には特大規模なものなのだ。初心者向け商品は、それ専用のカードを追加せずに作らなければならないという悪名高い制約があった。何年もの経験から、我々は何が新規プレイヤーに有効で何が不必要なのか多くの知見を得てきており、導入のために最適とは言えないカードをデザイナーが使わなければならない状態は決して理想的ではなかったのだ。この商品のためにカードをデザインするということは、単にメカニズム的に需要に完全に一致できるというだけではなく、その発想に最も理想的な形のクリエイティブ表現を選ぶことができるということでもあるのだ。この変更の結果、我々は『基本セット2019』のことを初心者向け商品としてこれまでで最高のものになっていると感じている。
需要2:基本セットは隙間を埋めるための最高の場所である
各エキスパンションの目的は、新しくて他と異なる経験を生み出すことである。デザインは、各セットが違った感覚をもたらすメカニズム的独自性を持つようにするために尽力している。つまり、我々は何を入れるかだけでなく何を入れないかにも最新の注意を払っているのだ。クリエイティブ・チームは、各セットがそれぞれ独自の世界を持つようにするために尽力している。それぞれの世界にそれぞれのクリーチャーと文化、武器、服装が存在する。それに加えて、さらなる需要がある物語が存在する。それら全てにもまして、各セットは同時期のセットに意識を払い、その前後で起こることを妨害するようなことがないようにしなければならない。
つまり、セットに入れることのできるもの、できないものを定める因子が大量に存在するのである。一見しただけでは完璧にふさわしいと思えるものでも、改めて検討し始めるとうまくはまらないこともある。これは、テーマをフォーマット、特にスタンダードでサポートしようとしたときに問題を引き起こすことが多いのだ。例えば、『カラデシュ』に完璧にふさわしいものが、『アモンケット』や『イクサラン』では完全に場違いになることがあるかもしれない。この問題への解決策になるのが、分散的なテーマのおかげでどんな事件でもカードを存在させられる、基本セットだ。『カラデシュ』のカードが必要だとしよう。『カラデシュ』を使って作ることができ、そうすれば完璧にふさわしいと感じられるものにできる。
新しい基本セットではこの発想を、もう少し推し進めた。複数の世界をサポートすることができるだけでなく、複数のテーマをサポートすることもできるのだ。例えば、『基本セット2019』は、モダン向けのカードをいくらかデザインするのに完璧な場所であったということがわかっている。確かに、スタンダードに悪影響を与えない形で作る必要はあったが、基本セットの持つ柔軟性のおかげで非常に定型化された隙間向けのデザインをすることができたのだ。
また、我々は統率者戦やブロール向けのカードを作る機会も探していた。このセットには過去の基本セットに比べて多くの伝説のクリーチャーが入っており、その中には複数の色に広がったものもある。それによって、例えばブロールで新しい色の組み合わせを加えることができるようになった。
さらに加えて、プレイ・デザイン・チームはこの機会を用いてスタンダードを検証し、戦えるためにするためにもう少しだけサポートが必要なテーマがあるかどうか探した。また、プレイデザイン・チームでは、特定のテーマがスタンダードで強くなりすぎた場合にそれを軽減できるようにするための対策カードを数枚入れた。
そうすると、もちろん、独自性問題に立ち戻ることになる。需要1と需要2は、それぞれ全く異なるユーザー向けになっているように見える。他方を犠牲にすることなく両方の需要を満たすにはどうすればいいのか。まず、先述の通り、矛盾した場合には需要1を需要2よりも優先するという方針を明らかにした。しかし、さらに重要なのは、需要1は低いレアリティでさらに重要になる傾向にあるということを理解することである。初心者向け商品において新世界秩序に厳密に従うことは肝要であるが、それは主にコモンに注目したものである。このことから、コモンやアンコモンで需要1を優先すれば、レアや神話レアでは需要2を重視することはできるということに気がついたのだ。
また、基本セットの目的の1つに、スタンダードで比較的単純なデッキが成立するようにするというものがあるということにも気がついた。初心者プレイヤーは大会で優勝することは期待していないので、フライデー・ナイト・マジックで使えるような楽しいテーマ、優勝はできなくても1勝か2勝できるようなデッキを作ることに集中することができる。必要とするカードを自分でデザインすることができるので、我々はメカニズムとクリエイティブの両方が比較的経験の浅いプレイヤー向けになるように、単純なメカニズム的テーマと芳醇なフレイバーを兼ね備えるようにすることができたのだ。
カードをより古いフォーマットに合うように選ぶという話をしたので、ここで1枚目のプレビュー・カードをお見せしよう。
《世界のるつぼ》は「You Make the Card」の第2回でユーザーによって作られたものだ。最初は『フィフス・ドーン』で登場し、後に『第10版基本セット』と『カラデシュ』の「Masterpiece Series」で再録されている。「Masterpiece Series」以外での再録を求める声が多かったので、『基本セット2019』ではこれを再録することにしたのだ。
需要3:基本セットではユーザーにマジックのメカニズムだけでなくフレイバーも紹介するべきである
もう1つの大きな変更が、我々が基本セットで正しくクリエイティブ要素を扱っていなかったことに気がついたということである。これまで、基本セットはほぼフレイバーを無視していた。ストーリーにはかかわらず、新しいカードはそれぞればらばらにデザインされたもので、マジック世界の全体と関わるものではなかったのだ。基本セットの復活とともに、我々は扱いを少しばかり変えることにした。
まずはじめに、我々はそれをストーリーとはっきり関連させる方法を探した。『基本セット2019』について言えば、このセットを用いて現在のストーリーにおける主な敵であるニコル・ボーラスのオリジンを振り返ることにしたのだ。現在のストーリーを進めるものではないが、多くの情報を出してユーザーにニコル・ボーラスが何者であるか、過去に何をしてきたのかの理解を深めてもらうことができるのだ。ニコル・ボーラスはここ数年のマジックの多くのストーリーに関わってきており、『基本セット2019』はマジックの最大の敵役の1人について全員が最新情報を得られるようにするための助けになるのだ。
この決定は、我々がどんな伝説のクリーチャーを採用するか、どんなプレインズウォーカー・カードを選ぶか、どんな呪文を作るかに影響を与えた。全ての選択は、明瞭なテーマにそぐうようになされたのだ。イーサンは『基本セット2019』はハイファンタジーの芳醇さに強く焦点を当てた『基本セット2010』とストーリーの鍵となる部分の情報を詰め込んだ『マジック・オリジン』の中間物であるとよく言っている。
さて、伝説のクリーチャーの話をしたので、ここで2枚目のプレビュー・カードをお見せしよう。今からお見せする人物は昔の人気キャラクターだが、カード自身は新規デザインである。
ニコル・ボーラスの過去を掘り下げるには、『レジェンド』のエルダー・ドラゴン(24年前、初めてニコル・ボーラスが登場したサイクル)に触れることが必要である。『基本セット2019』では、新しい3色の統率者を作ることを決め、5体のエルダー・ドラゴンを再びデザインしたのだ。
また、クリエイティブ・チームは『基本セット2019』を用いて、マジックのさらに大きな世界観をのぞき見できるようにし、多元宇宙で起こっていることのヒントをいくつか出した。もちろん、時間をかけてすべてのカードに目を通せば、見つけることができるのだ。
君の知る基本セット
いろいろな意味で、新しい基本セットは過去の基本セットと共通する部分は多いが、この3つの大きな変更によって、マジックに触れたばかりの新規プレイヤーにとってもマジックをよく知る経験の深いプレイヤーにとっても、全体として基本セット経験をより良いものにすることができると感じているのだ。
いつもの通り、今日の記事について、また『基本セット2019』について、諸君からの反響を楽しみにしている。この新しい基本セットやそこにおける変更点について、どう感じただろうか。賛成、反対、なんでもメール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『基本セット2019』のカード個別の話をする日にお会いしよう。
その日まで、あなたのプレイ経験の長さにかかわらず、この基本セットがあなたの心待ちにするものでありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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