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Making Magic -マジック開発秘話-
『破滅』の情報 その1
『破滅』の情報 その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年7月3日
先週と先々週の2回、『破滅の刻』のデザインに関する話をしてきた。つまり、今回はカード個別のデザインの話をする番ということになる。「その1」とついていることでもわかるとおり、話すべき内容は大量にあるので、早速始めることにしよう。
《見捨てられた石棺》
デザイン上の主要な技法の1つが、ブロック固有のメカニズムを1つ選び、それを軸にしたデッキを組めるようにするカードをデザインすることである。その戦略が主軸的であればあるほど(すなわち、それが特定の部分集合に属するカードを使うことを推奨していればいるほど。この開発部語についてはこちらの記事で詳しく説明している)、そのデザインは簡単になる。例えば、エネルギー・カードを使うプレイヤーに、もっと多く組み合わせて使いたくなるようにするのはそう難しいことではないが、全てのメカニズムが大量に使うように仕向ける類のものだというわけではない。サイクリングはその一例である。
特定のメカニズムを使うことを推奨する方法には色々なものが存在する。一般的な方法の1つが、それを使うことによって誘発するものを作ることである。また他のよくある方法として、その種のカードと特に相互作用するカードを作るということもある。《見捨てられた石棺》は、この2つ目の分類に当てはまる。サイクリング・カードを大量に採用したデッキをプレイヤーが作りたいようにするにはどうしたらいいか。サイクリング・カードを普通よりも強くするようなカードを与えればいいのだ。
サイクリングは今回で5回目の再録となるので、この種のカードを作る新しいデザイン空間を探すのは難しくなっている。今回のデザインの鍵は、サイクリング・カードにこれまでにない方法で追加の価値を与える方法を探すことだった。『アモンケット』には墓地テーマが存在していたので、サイクリング・カードに墓地を絡ませた利益を与える方法はないかと考えた。もちろん、ある。サイクリング・カードをサイクリングで使ったら、そのカードは最終的に墓地に行くことになるのだ。それでは、墓地にある間に能力を与えるとしたらどうだろうか。サイクリングしたときの一番残念なことは、そのカードを唱えることができないということだ。それなら、サイクリングしても唱えられるようにしたらどうだろうか。
このカードの最初のバージョンでは、サイクリング呪文にフラッシュバックを与えるようなアーティファクトを提案していたと思う。これは非常にクールで、しかも新しい、サイクリング・デッキを推奨する方法だ。
《アムムトの永遠衆》
これは複数の能力を選び、それらそれぞれの合計以上のものを作り上げる組み合わせを見つける方法の好例である。それではまず、その要素それぞれを見ていこう。
加虐3
加虐能力は、それを持つクリーチャーがブロックされたときに誘発する。つまり、ブロックしないことに強い動機が存在することになる。それに対処するためには2通りの方法がある。1つ目が、そのクリーチャーのパワーを加虐数よりも大きくすることができる。この場合、合計ダメージを小さくするために対戦相手はブロックすることになる。2つ目が、ブロックしないことによる反動を作ることができる。もっとも単純な反動は、開発部語で言うサボタージュ能力、つまりそのクリーチャーが対戦相手に戦闘ダメージを与えたときに誘発する誘発型能力である。
対戦相手が呪文を1つ唱えるたび、アムムトの永遠衆の上に-1/-1カウンターを1個置く。
全ての色に、サイズが大きく欠点を持つ軽いクリーチャーが存在するが、それが一番多いのは黒である。黒は、力を得るためにリスクを取ることを最も厭わない色である。通例、この種の欠点を持つ呪文にはそれ相応の長所があるもので、欠点はそれに対処することを軸にしてデッキを組めるようなものである。今回の場合、これを除去したり弱体化させるに充分な数の呪文を対戦相手が唱えるまでに充分なダメージを与えることを狙うわけだ。
アムムトの永遠衆がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、これの上から-1/-1カウンターをすべて取り除く。
この最後の能力は、サボタージュ能力であると同時にこのカードの弱点を補うものである。このデザインがどのように組み上げられたのかを見ていこう。
良いデザインに関して私が好きなことの1つが、そのデザインの各部分が、カードの他の部分と組み合わさって働く機能を持っているということである。例えば、《アムムトの永遠衆》では、対戦相手は大量のダメージを与えられる前にこれを除去しようとするというちょっとしたゲームが生まれる。総力を尽くして可能な限り多く呪文を唱え、-1/-1カウンターを置くことで攻撃してこないようにするのだ。
一方で、このカードにはもう1つのゲームが存在する。対戦相手がこのカードの与えるダメージを最小にしようとする中で、このカードに別の部分がなければその計画は単純である。3点以上のダメージを与えるならブロックし、少なければブロックしないだけである(もちろん、ブロックすれば倒せるという状況がありうる)。
面白いのは、この2つのゲームが矛盾することがあるということである。ダメージが3点よりも小さいからと言って1/1のときにブロックしなかったら、これは5/5に戻ってしまうので問題だ。コンバット・トリックも考えると、《アムムトの永遠衆》は対戦相手にとってのひどい頭痛、そしてプレイヤーにとってのすごい楽しみになることだろう。
《糾弾の天使》
このカードは我々がしばしばやるデザイン方法、「段付け効果/tiered effect」の好例である。段付け効果とは、関連していると感じられる複数の効果(ほとんどの場合は2つである)を扱いたいときのものである。これはその効果の数字を大きくすることで強力にすることによって行われることが多い。その呪文は2点のダメージを与えることができるが、特定の条件を満たせば4点になる、というようなものだ。とはいえ、数字を伴う効果はそう多くないので、他の方法も探さなければならない。
《糾弾の天使》は、段付け効果の中でも「イエス、プラス」類と呼ぶべきものの一例である。これの場合、前者にあたるのは何か単純な効果で、後者に当たるのがその単純な効果に他のものを加えた効果になる。場合によっては、2つ目の効果を加えるだけということもある。例えば、Aをして、もし条件を満たしていれば、キャントリップになる(開発部語で、呪文のおまけとしてカードを1枚引くこと)。「イエス、プラス」類の効果で重要なのは、追加部分が効果に関わりがあると感じさせることである。
我々がこの種の効果を頻繁に扱わなければならないので、通常は別々に行なう2つの効果を組み合わせて段付け効果を作ることができるということがわかってきた。我々がつねづね使っている例を挙げれば、バウンス呪文(パーマネント1個を対象とし、それをオーナーの手札に戻す)がライブラリーの一番上に戻す呪文になるというものがある。《糾弾の天使》では、別々にはつねづね使っているが、段付け効果ではめったに使わない2つの白の効果を組み合わせている。1つ目の効果は(『ウルザズ・デスティニー』のカード《Flicker》にちなんで)明滅と呼ばれる、ターン終了時までクリーチャー1体を追放する効果(明滅の中には即座に戻ってくるものもある)。2つ目の効果は(《放逐する僧侶》にちなんで)放逐と呼ばれる、追放した側のパーマネントが戦場を離れるまで追放する効果である。
この2つの効果を組み合わせると、「イエス、プラス」感が生まれる。ターン終了時までか、そのクリーチャーが戦場を離れるまでか、大抵の場合はどちらか長い方を選ぶことができるのだ。『破滅の刻』は起動型能力のコストとしての督励を採用しているので、督励を使うものと使わないものの2つの起動型能力として段付け効果を使うことができるのだ。
《黙示録の悪魔》
過去24年の間で、マジックは16000枚以上のカードを作ってきた。新しいカードをデザインする中で面白いことの1つが、古いカード2枚を選び、それを混ぜ合わせることである。《黙示録の悪魔》はその一例だ。
1枚目のカードは、『アルファ版』からの人気の高いクリーチャー、《奈落の王》だ。
リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldはトップダウンの悪魔を作りたかったので、強力で魅力的だが、それは常に生け贄を捧げ続けた時だけだというカードを作ったのだ。我々は長年に渡り、アップキープのコストを支払うことができなかったときにさまざまな悪影響をもたらす《奈落の王》の亜種を大量に作ってきた。現在最もよく使われている悪影響は、そのクリーチャーをタップして、それでは攻撃もブロックもできないようにするというものである。
2枚目のカードは『アイスエイジ』からの人気の高いカードである。
《ルアゴイフ》は、死体を食らう架空の怪物なので、墓地にあるクリーチャー・カードの枚数によってパワーやタフネスが決まる。すぐに、この能力は緑だけでなく黒でも働くということに気づき、長年に渡り、黒で《ルアゴイフ》の亜種を作ってきた。クリーチャー・カードだけでなく墓地にある全てのカードを参照するようにするという変更を加えたものもある。
《奈落の王》も《ルアゴイフ》も、それぞれがある種のクリーチャーの原型になっている。《黙示録の悪魔》は、この2つの原型を組み合わせ、懐かしく新しいものを作った初めての例なのである。
《禍鞭の懲罰者》
マジックの歴史家である中で好きなことの1つが、私が新しいデザインを見るときに参照する文脈である。例えば《禍鞭の懲罰者》は、私がおよそ20年前に作ったカードの新しい解釈である。そのカードとは、《賞金かせぎ》、私が初めてデザイン・リーダーを務めたセット『テンペスト』のカードである。
《賞金かせぎ》は{2}{B}{B}で2/2、2ターンかけてゆっくりとクリーチャーを除去することができるクリーチャーである。私は、『アルファ版』にあった、タップ状態のクリーチャーを破壊できる《凄腕の暗殺者》にフレイバー的なひねりを加えてこのカードをデザインしたのだ。
《禍鞭の懲罰者》は、《賞金かせぎ》の現代的解釈である。まず、何度も使える除去はもはや作っていない(まあ、厳密に言えばこのカードはタフネス1のクリーチャー1体と、他の方法で-1/-1カウンターが置かれている別のクリーチャーを除去することができるが)。《禍鞭の懲罰者》はアンコモンなので、何度も使える除去が問題になるリミテッドに照準を合わせたカードである。そのため、他のクリーチャーを除去するためには自身を生け贄に捧げることが必要になっている。これによって、マナ・コストは{2}{B}{B}から{2}{B}に下げることができている。
2つ目の大きな変更が、除去するために相手に印をつける方法である。他に何も機能のないカウンターを用いるのではなく、既存のカウンターである-1/-1カウンターを使うようになっている。これには2つの利点がある。まず、《禍鞭の懲罰者》が-1/-1カウンターをクリーチャーに置いたら、そのクリーチャーを除去する前に《禍鞭の懲罰者》が除去されたとしても、そのクリーチャーのパワーやタフネスは下がったままである。
2つめに、《禍鞭の懲罰者》はその戦場に出たときの能力を用いてタフネス1のクリーチャー(あるいは-1/-1で破壊されるようになるだけのダメージを戦闘中に受けていたクリーチャー)を除去し、その後で他の方法で-1/-1カウンターを置かれたクリーチャーに2つ目の能力を使うことができる。これによって《禍鞭の懲罰者》はこのセットの他の部分とのシナジーが強まり、ゲーム中にさらなるやり取りを生み出すことができるようになっているのだ。
《燃え拳のミノタウルス》
マジックのデザイナーを目指すための練習があるかということをよく尋ねられる。1つ答えるなら、新セットのカードを1枚無作為に選び、それがなぜこのセットに入れられているのかを考える、ということが挙げられる。そのカードはどんな目的を果たしているのか。これが重要なのは、デザインの総合的な目的を理解することがマジックのデザインの大きな部分を占めるからである。カードは単体で作られるのではなく、統合されたプレイ経験を作るという目的のために作られているのだ。それでは早速、《燃え拳のミノタウルス》でやってみよう。なぜこのカードは『破滅の刻』に入っているのだろうか。
これはクリーチャーであり、どのセットにも大量のクリーチャーが必要である。これはリミテッドではかなり優秀な2マナで、赤が通常のアグロ戦略を使えるようになる。これらはどれも、このカードがこのセットに入っている主な理由ではない。ヒントを出そう。このカードはこのセットの主要なテーマの1つに関連している。このカードは完全なトップダウンではない。ミノタウルスはエジプト神話の中心にあるものではない。これはこのセットの「ディザスター・ムービー」らしさを表してはいない。ニコル・ボーラスやその率いるゾンビ軍団の永遠衆と特に関連があるわけではない。それではどうして採用されたのか。
その答えは、墓地テーマである。『アモンケット』『破滅の刻』の両方に、古代エジプト人の死に対する観念に関わる墓地要素が含まれている。不朽、余波、さらに不朽の亜種である永遠は、どれもこのテーマに関わるものである。《燃え拳のミノタウルス》は、墓地を助けるカードなのだ。赤に、墓地戦略とやりとりをする方法をもたらしている。不朽、永遠、余波は、どれも墓地にある間に働く。そのカードを手札から墓地に直接置く能力によって、さらなる相互作用が可能になる。例えば、余波カードを捨てて《燃え拳のミノタウルス》を強化し、その後でその呪文の後ろ半分を唱えることができるのだ。
常に尋ねられることの1つが、各色がさまざまなテーマにおいてどのような役割を果たすのか、ということである。そのメカニズムそのものが大量に含まれることもあるが、ときにはそのメカニズムとうまく噛み合うカードが存在することもあるのだ。《燃え拳のミノタウルス》はその後者に当たるものである。
この技術を他のカードでも使って、デザイナーの意図をより深く理解してくれたまえ。
《冠毛の陽馬》
遠い昔、我々は部族テーマの可能性を知った。そして、各ブロックで1つか2つのクリーチャー・タイプを選んで推すようにしている(もちろんここで言っているのは部族ブロック以外の話である。『イニストラード』などの部族ブロックでは、より多くの種類のクリーチャー・タイプを推している)。しかし、我々が作る部族関連はそれだけではなく、低段部族カードと呼ぶべきカードも作っている。これは、あまり参照されていないクリーチャー・タイプのデッキを作ることを推奨するカードのことである。あまり作っていないものであっても、何年もかければデッキを組めるだけの充分なカードが存在するようになる。《冠毛の陽馬》はその好例である。
ギャザラーによると、『破滅の刻』よりも前の段階で、マジックには23種類の馬が存在していた。これはそれをテーマにした統率者戦デッキには不充分だが、4枚入れることができるカジュアル構築デッキには充分な数である。《冠毛の陽馬》のようなカードを作るために重要なのは、部族デッキを作れるだけでなく、部族デッキ以外でも自立できるだけの価値があるようにすることである。
《冠毛の陽馬》は、「全部込み」と呼ぶべきデザイン方法でこれを達成している。見ての通り、これは馬を破壊不能にするが、これ自身でも馬を生み出すことができる。このカードは、デッキに他に馬がなくても働くが、望むなら入れることもできるのだ。これによって、このカードは単独のカードとしても、またデッキの軸となるカードとしても働くようになっているのである。
《永遠衆の墓所》《王神の信者》
『破滅の刻』の課題の1つが、これはニコル・ボーラスのセットなのに、主として多色セットではないということである。ニコル・ボーラスは、『レジェンド』の伝説のクリーチャー・カードとしても、『コンフラックス』と『破滅の刻』で登場した2枚のプレインズウォーカー・カードとしても(またその他の呪文としても)、青黒赤のキャラクターとして確立している。では、このセットらしさを保ったままでボーラスの色のセットにする方法はあるだろうか。この2枚のカードと、ボーラスのプレインズウォーカー・カードがその試みである。
まず、我々は色洗浄(マナを他の色に変えること)で青、黒、赤にできる土地を作った。これを《崩れゆく死滅都市》にするかという議論はあった。カード名はふさわしかったが、このセットは基本的には3色セットではないので、それほど強く3色プレイができるようにすることをデベロップは望まなかったのだ。色洗浄土地に変えたときに、その弱さを補うためにライフを得る誘発型能力を加えた。また、タップして無色マナを出せるようにもした。
《王神の信者》は最初は(サイズも異なる)呪文が唱えられたときに誘発してライフを得るカードだったが、ボーラスの色を特に参照するように調整された。このデザインが優れているのは、3色全てをプレイすることではなく1色でもプレイすることを推奨しているところである。
これら2枚のカードと《王神、ニコル・ボーラス》の存在で、このセットにボーラス色の影響を与えられていると思う。
『破滅』の限り
文章量制限に引っかかってしまったので、今日はここまでにしておこう。いつもの通り、この記事や新セットに関する反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『破滅の刻』のカード個別のデザインの話その2でお会いしよう。
その日まで、あなたの『破滅の刻』がアモンケットの住人にとってよりは破滅的でありませんように。
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