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Making Magic -マジック開発秘話-
『アモンケット』語り その3
『アモンケット』語り その3
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年5月8日
今回は『アモンケット』のカード個別デザインの話の第3回にして最終回となる。話すことが多いので、導入はこれで終わりにしよう。
《毒物の侍臣、ハパチラ》、《ナクタムンの侍臣、テムメト》
しばしば、トップダウン・デザインにはユーザーが認識している芳醇なコンセプトが必要だという話をしてきた。『アモンケット』では、これまでのトップダウン・デザインでは出会わなかった新しい問題を発見することになった。エジプトの神話や歴史は広い影響を多く示していて(ミイラ、ピラミッド、砂漠、ヒエログリフなど)、それらを元に大量のカードを作ることができたが、いざ「トップダウンで個別のカードを作ろうとすると非常に難しいということがわかったのだ。
『イニストラード』はポップカルチャーのホラーを扱っていた。元ネタにできる物語は大量に存在していた(ドラキュラ、フランケンシュタイン、ジキル博士とハイド氏など)。『テーロス』はより文化的な元ネタではあったが、『イニストラード』の元ネタほどではなくてもユーザーによく知られている神話の物語と密接に関係していた(イカロス、テーセウス、メデューサなど)。エジプトの神話にはよく知られた存在はあるが、物語や人物となるとプレイヤーの多くにはほとんど知られていなかった。つまり、特に人物に関して、トップダウンのデザインは非常に難しかったのだ。
我々はエジプトの神話の中から最も有名な存在を探し、少し調査もした。そして誰もが知る人物は神々しかいないという認識を強めることになった(そして、神々でさえも『イニストラード』や『テーロス』の元ネタよりもずっとマイナーだった)。さらに、神々はすでに『アモンケット』の神々に組み込まれている。そこで我々は歴史とポップカルチャーに目を向けた。古代エジプト人で有名な人物といえば誰だろうか。我々は列記していったが、最終的にデザインする価値があったのは3人だけだった。
まずはクレオパトラ。クレオパトラ7世フィロパトルは紀元前69年から紀元前30年まで生きていた。18歳のときエジプトの王位についた彼女は、後には10本以上の映画で描かれる歴史上の偶像的存在となったのだ。しかし、彼女をデザインするのは難しかった。一体、クレオパトラのどの面をマジックのカードにすればいいのだろうか。我々が列記した三者全てがそうであったように彼女は王だったが、ストーリー上ニコル・ボーラスが王神として存在するので指導者としての能力を描くことはできない。彼女はユリウス・カエサルとマルク・アントニウスの両方と関係を持ったが、我々は女性のトップダウンの人物を男性との関わりで定義したくはなかった。我々が最終的にたどり着いたのは、彼女の死のストーリーだった。クレオパトラは毒蛇を使って自害したということはよく知られていて、蛇を持った姿で描かれることが多い。彼女は蛇に魅了されて蛇のことを学んでいたに違いない。そこで我々は彼女の個性のうちで蛇を愛する部分を取り上げることにした。それを元にクールなマジックのカードを作ることができるからである。
2人目がトゥト王(いわゆるツタンカーメン。もちろん彼を2/10のコモンにしようという話はデザイン中ずっとあった冗談だ)。ツタンカーメンは紀元前1341年から紀元前1323年まで生きていた少年王で、9歳のときに王位についた。しかし、彼が有名になったのは、1922年に彼の墓が見つかってからである。エジプトの王は様々な副葬品とともに埋葬されており、そのほとんどは盗掘されていたのだ。ツタンカーメンの墓は暴かれていない状態で発見され、古代エジプトの王の墓がどのようなものであったかをそのまま示していたのだ。また、彼のミイラとなった遺体も発見された。このことから我々は「少年王」とそのミイラというところを取り上げ、最終的に不朽を持つ統率者として作ることにし、不朽メカニズムの中心である2色にした。そして、もちろん、彼が死んだときにはミイラになるようにしたのだ。
3人目はラムセス2世。紀元前1303年から紀元前1213年まで生きていて、在位は紀元前1279年から死ぬまで(66年間)であった。ラムセス大王あるいはオジマンディアスと呼ばれる。彼は有名なエジプトのファラオの1人で、ポップカルチャーにおいては聖書の出エジプト記に登場するファラオとして用いられる(プリンス・オブ・エジプトや十戒などで描かれている)人物である。禿頭でひどくけちな人物として描かれることが多い。我々が彼を元にして作ったデザインは、彼が凶暴な指導者であるというところを再現するため、他人に何かを強制するという部分を使った(途中で、督励能力を与えるというのも試した覚えがある)。
クリエイティブ・チームは我々と協力して、これらの人物の立場を探したが、ラムセスを元にした人物には問題があった。ポップカルチャーのラムセスは彼の配下(の一部)をひどい目に合わせて傷つけるのだが、アモンケットの人々は求められたことを喜んでやるので、この人物は上手く当てはまらなかったのだ。その結果、ボツにすべきかどうかという話になり、ボツになった。
《死の権威、リリアナ》
このカードのデザイン上の目標は最初から明らかだった。我々はミイラの世界であるアモンケットにいて、リリアナはゾンビが大好きだ。彼女を、ゾンビ・デッキを作る軸となるようなカードにしよう。彼女は非常に人気の高いキャラクターなので、そのデザインを多くの黒のデッキで使えるようにしたいと考えたのだ。つまり、リリアナをゾンビ・テーマ(ゾンビ・デッキで強い)で、一般的にも実用的なものとしてデザインすることが課題となったのだ。
まず、彼女はゾンビ・クリーチャー・トークンを作ることができる。これは両方の面で良いことだ。また、クリーチャー・トークンはプレインズウォーカーを攻撃してくるクリーチャーから守れるので相性もいい。我々はこれを彼女のプラス能力に据えた。
次に、彼女の奥義を作った。ゾンビでないクリーチャーをすべて破壊する。これもまた一般的に有用で、ゾンビ・デッキではさらに強力だ。彼女の[+1]能力でゾンビ・トークンを作るので、この2つにはシナジーがある。ゾンビの小さな軍団を作って忠誠度を稼ぎ、それから奥義を使ってゾンビ以外の全てを一掃するのだ。
難しいのは、この両能力とシナジーを持ち、ゾンビ・テーマであるマイナスの忠誠度能力を作ることだった。これもゾンビを作るものにすれば、リリアナの奥義とシナジーを持つようにすることができる。マジックで他にゾンビを作る方法といえば何があるだろうか。答えは、リアニメイトで、リアニメイトしたクリーチャーをゾンビにすればいのだ(不朽で生成されるトークン・クリーチャーのゾンビが白であるのと対照的に、これは黒になった)。
カードはほぼ完成だったが、ここで少し問題があった。1つ目の能力と2つ目の能力にシナジーがないのだ。どちらもゾンビを作るものであり、テーマ的には関連していて、どちらも奥義とは相性がいい。しかし、この2つはメカニズム的に相互作用しないのだ。この問題への解決策は、1つ目の能力におまけを書き足すことだった。ゾンビ・クリーチャー・トークンを作るだけでなく、自分のライブラリーを削る(自分のライブラリーの一番上のカードを自分の墓地に置く)としたらどうか。こうすれば1つ目の能力で2つ目の能力の準備をすることができる。2/2トークンに合わせる形で、ライブラリーを削る枚数は2枚にした。
この最後の部品を組み込んで、見事なデザインが出来上がった。全ての部品はゾンビ・デッキで作用し、また一般的な黒のデッキでも使えて、しかもいかにもリリアナらしい。このセットの最高のアートの1枚と組み合わさって、見事なプレインズウォーカー・カードが出来上がったのだった。
《自然に仕える者、ニッサ》[AKH]
主席デザイナーとしての私の仕事の1つが、デザイン空間を保護することである。我々はマジックを今後何年も作り続けていく予定である。毎年600枚以上の新しいカードのデザインをしていくためには、資源をかなり管理しなければならない。私が常に最も懸念していることの1つが、プレインズウォーカーである。最も人気の高いカード・タイプで、使えるデザイン空間はもっとも狭いのだ。我々は注意深く既存のプレインズウォーカーのデザイン空間の大半を使って、それから新しいものを掘り下げるようにしている。つまり、時折、我々は新しいことをすることになる、ということである。
《自然に仕える者、ニッサ》は、何年もの間話し合ってきたが常に排除されてきたことをしている。ついに、プレインズウォーカーのマナ・コストに{X}を含ませる時期が来たと判断したのだ(忠誠度能力のコストにXを使ったことは今までに何度もある)。我々が初めて下した明らかな判断は、Xを忠誠度として用いるということであった。{X}を支払い、そのプレインズウォーカーの忠誠度はXで戦場に出るのだ。我々は単なるニッサのマイナスの忠誠度能力を使える回数というだけでない意味をXに持たせたいと考えた。では、忠誠度能力の中に、ニッサの忠誠度と相互作用するようなものを作ることはできるだろうか。
我々は起動コストにXを入れると混乱を招くと考えた(ルール上は問題なく扱うことができるが、経験上多くのプレイヤーにとってこの変数は最も混乱するものだということがわかっていたのだ)。そこで、我々はXの値によって効果に制限をかけるようなものを試すことにした。通常、プレインズウォーカーは何らかの方法で自分を守れるようになっているので、我々はクリーチャーや土地を自分のライブラリーの一番上から戦場に出す効果を試すことにした。土地は点数で見たマナ・コストが0であり、ニッサが戦場にある以上は忠誠度が1以上なので常にプレイできることになる。
2つ目の能力でクリーチャーや土地を出せる。それなら、奥義は何をすべきか。ニッサは自然を使うことで知られている。それなら、2つ目の能力で戦場に出たものなどの土地を決着をつける助けになるような大型のクリーチャーにするのはどうだろうか。カードに青らしさをつけるために、クリーチャー化した土地に飛行を持たせることにした。これは緑単色のニッサではしたことがないことだ。さらに、「どの土地をこのターンに出したか覚えておかなければならない」問題を避けるため、土地には速攻を与えることにしているので今回も速攻を与えるようにした。必要ならタップしてマナを出せるように、それらの土地は土地でもあるようにした。
このカードの大きな問題が、1つ目の能力をどうするかだった。魅力的な能力は2番目にあるので、それとシナジーをもたせることに決めた。その結果、2つ目の能力の準備として最も必要なのはデッキの一番上のカードを知ることなので、占術2に決まった。占術、特に占術2は、いくらか青らしさを増やすことにもなった。
ニッサとリリアナはどちらもデザイン中に作られ、そして数字の調整を除いてはデベロップ中もそのまま残ったのだった。
《威厳あるカラカル》[AKH]
しばしば、主席デザイナーとしての私の責任について語ることがある(上にもその一例がある)。しかし、私の仕事はそれだけではない。私はマジックの主なスポークスマンの1人でもあるのだ。その仕事の一部として、ソーシャルメディアで多くの人々とやり取りすることが必要となる。その中で、私はさまざまな情報を手に入れ、同僚と共有するのだ。また、私はその情報を我々のデザインを向上させるために使っている(ある意味では主席デザイナーの義務の一部になるとも言える)。私は多くのことを学んできたが、このカードに影響しているのは唯一、「プレイヤーは猫が好きだ」ということだけである。
我々は多くの猫を作ってきた(『アモンケット』以前の総数が143種)。しかし、猫を部族として扱うカードはあまり作ってこなかった。実際のところ、メカニズム的に猫を強化するこのカード以外にはマジック全体で1枚しか存在しないのだ(もちろん、猫・トークンを作るカードは山ほど存在する)。
ただし、『フィフス・ドーン』の《黄金の若人ラクシャ》は唱えるのに7マナかかり、しかも猫を強化するためには装備する必要がある。さらに伝説のクリーチャーだ。統率者になりうるのは大きな利点だが、複数入れられる猫・ロードを求める上では欠点になる。私のやるべきことリストの中には長年「強力な猫・ロードを作る」というものがあったのだ。
プレビュー期間中に、トップダウン・デザインで使うテーマを決めるためにショーン・メイン/Shawn Mainにエジプト神話について調査するように行ったという話をした。私はある日ショーンに、「エジプト人は猫が好きだそうだね?」と聞いたのを覚えている。
ショーンは、「大好きですよ。古代エジプト人は猫を崇めていました。申請なものと考えていたんです。猫を傷つけただけで罰せられることもありましたし、猫を殺せば拷問を受けたり殺されることもありました。彼らのお気に入りの神々の中には、猫の女神のバステトがいました。エジプト人は猫が大好きです」と答えたのだ。
私はこここそ猫・ロードの場所だと知った。そのカードの最初のバージョンはこのようなものだったと記憶している。
〈猫キチ淑女/Crazy Cat Lady〉
{3}{W}{W}
クリーチャー ― 人間
3/3
あなたがコントロールする猫は+1/+1の修整を受ける。
[カード名]が戦場に出たとき、絆魂を持つ白の1/1の猫・クリーチャー・トークンを2体生成する。
最初は、このクリーチャーは猫好きの人間で、猫ではなかった。クリーチャー・トークンが絆魂を持つのは、当時は、1/1の白のゾンビ・トークンがファイルに存在していたからである(萎縮を持つ2/2の黒のゾンビも)。そして、もともとは猫に絆魂を与えるわけではなかったのだ。
デベロップが人間だったこのカードを猫に変え(そして「他の猫」に書き換えた)、+1/+1能力にさらに絆魂を与える能力をつけたのだと思う。コストやサイズは変えていないと思うので、つまりこのカードは単純に強化されたわけだ。
猫ファンで、複数使えるロードが欲しくて、いちいち装備したりしたくなかった諸君。楽しんでくれたまえ。
《造反の代弁者、サムト》[AKH]
私がネット上で受けたデザイン関係の質問の中で、もっとも多いのは「なぜサムトは速攻と瞬速を持つのか、全くコンボになっていないのではないか」というものだ。
答えは、これはメルというよりもヴォーソス寄りのデザインだからということになる。サムトの特徴となる性質は、とても素早いということである。彼女はとにかく速いので、我々はその速さを表すようにデザインしたいと考えたのだ。最初におこなったのが、赤と緑が第1色や第2色になっている常盤木メカニズムそれぞれについて「このメカニズムは速さを意味するか」と考えることだった。
- 接死 ― 意味しない。これは危険さは表すが、速度につながるものは含まれていない。
- 防衛 ― 意味しない。これが速度につながるとしたら、遅さだろう。
- 瞬速 ― 意味する。突然登場するというのは非常に速さを感じさせる。
- 飛行 ― 意味しない。飛べば速くなるが、速いからといって飛ぶわけではない。また、赤が飛行の第2色なのはドラゴンやフェニックスのためで、サムトはそのどちらでもない。
- 先制攻撃 ― 意味する。しかし二段攻撃ほどではない。
- 速攻 ― 意味する。文字通り「速」いのだ。
- 呪禁 ― 意味する。あまりにも速いので狙いをつけにくいというフレイバーを宛てることができる。
- 破壊不能 ― 意味しない。素早い奴は当たりさえすれば脆いものだ。
- 威迫 ― 意味しない。これは恐ろしい存在だということを意味するだけで、速度とは関連しない。
- 果敢 ― 意味しない。名前にもメカニズムにも速さは関係ない。
- 到達 ― 意味しない。ただしフラッシュ(編訳注:アメコミのキャラクター)は手で竜巻を起こして空を飛ぶ相手を撃てる。
- トランプル ― 意味しない。これは速さというより強さを意味する。
- 警戒 ― 意味する。攻撃してすぐに戻ってブロックできる理由は速度でありうる。
一巡して、使えるメカニズムは瞬速、二段攻撃、速攻、呪禁、警戒となった。プレイテストの結果、呪禁はフレイバー的には充分だが、サムトを少しばかり対処しにくくしすぎるということがわかった。他のメカニズムは残ることになった。
その後、サムトが素早く味方を運ぶことができるということを示すため、「あなたがコントロールする他のクリーチャーは速攻を持つ」を加えた。起動型能力も同様に、サムトが速さを活かして味方が素早く動くのを助けることを示すために加えられた。我々は、サムトをナヤ色(赤緑白)の統率者にできるようにするため、起動型能力のコストに白マナを使った(緑もクリーチャーをアンタップできるということを思い出してもらいたい)。サムとの能力は督励メカニズムとも相性が良く、赤、緑、白は督励の色なので、サムトは二重の意味で督励の統率者となったのだ。
さて、サムトがなぜ速攻と瞬速を持つのか。その答えは、サムトが速いからである。そして時にはフレイバーのために普通でないことをすることもあるのだ。
《むら気な召使い》[AKH]
デザインのかなり初期から、白と黒のゾンビが必要だということはわかっていた。このカードは、リミテッドと構築の両方において白黒ゾンビの助けとなるために、デザインの最初の1~2か月の間に作られたもので、そしてそのままになっていたのだ。このカードの目標の1つが、『イニストラードを覆う影』の青黒のゾンビ・デッキとはいくらか異なる、白黒のゾンビ・デッキを奨励するというものだった。
我々はこのカードがゾンビ部族カードすべてと相互作用できるようにソンビであるべき、また大量のゾンビを使うことを推奨するものであるべきだと考えた。さらに、白黒ゾンビ・デッキにはフィニッシャーとなるカードが必要で、これはふさわしいと感じたのだ。これは常にゾンビを出し続けながら、対戦相手を攻撃し、自分を守ってくれるのだ。このデザインはオルゾフ・ギルドのプレイスタイルである「出血」にヒントを得ている。
このカードが開発部のスライドショーで映されたとき、「できた!」とつぶやいたのを覚えている。
『アモンケット』はここから
今日はここまで。カード個別の話ではいつもの通り、それぞれの話や記事全体、あるいは『アモンケット』のデザインについての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、「800回記念」でお会いしよう。
その日まで、『アモンケット』への旅が我々の創造と同じぐらい楽しいものでありますように。
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