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Making Magic -マジック開発秘話-
『アモンケット』に入ろう その2
『アモンケット』に入ろう その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年4月10日
『アモンケット』プレビュー特集第2週にようこそ。先週、デザイン・チームを紹介し、『アモンケット』のデザインがどのように行われたかという話を始めた。今週はそれを読んでいるものとして続きの話をすることになるので、まだ先週の記事を読んでいない諸君はここで読みに戻ったほうがいいだろう。今回も終わり前にはクールなプレビュー・カードを準備してある。それでは、早速始めよう。
『アモンケット』を始めよう
前回、「トップダウンのエジプト」について多くの話題を見ていこうとした。最初に神々を扱い、そしてその1の終わるまでにはミイラの途中まで話を進めたのだ。先週言ったとおり、『アモンケット』ではミイラを主に白と黒で扱うことにして、白のミイラは街の障壁の中にいる従順な召使い、黒のミイラは障壁の外にいる野生で危険なミイラということにした。これは、アモンケット世界では死んだものはゾンビとして蘇る、ただし特別な準備がしてあればそれほど恐れることではない、というアイデアだった。
この準備をするということから1つ目のメカニズムである不朽が生まれた。私はミイラを象徴的なエジプトのものだと捉えている。なぜなら、これは古代エジプト人の特別な葬送の儀式を際立たせるものだからである。ミイラであるクリーチャーが存在することで、この手順を際立たせることができる。しかし、我々はもう一歩先に進みたかった。私がリード・デザイナーの仕事をイーサンに任せてからすぐ、彼はチームに課題を提示した。彼はエンバーミングを表すメカニズムを作りたかったのだ。そのメカニズムはこのセットにフレイバーを加えるだけでなく、ゾンビ部族にさらなるミイラを加える新しい方法になりえるものである。
一見、この課題は非常に簡単に見えた。不朽は、死んだクリーチャーをミイラにするというものなのは明らかだった。問題は、そのクリーチャーの生前の姿とミイラ化した姿をはっきり区別する方法が必要だということだった。通常、状態の変化を表す場合、我々はそのカードにカウンターを置いてプレイヤーが思い出せるようにする。例えば、『テーロス』の怪物化メカニズムでは、そのクリーチャーに+1/+1カウンターをいくつか置くようにしていた。
この世界の過酷さを表すため、このブロックの基本のカウンターとして-1/-1カウンターを使うことはすでに決まっていたので、+1/+1カウンターは選択肢に入らない。我々は不朽を、-1/-1カウンターを置いた状態でクリーチャーを戻すものとしてみたが、これは明らかに頑強であり、我々が望むものではなかった。次に、墓地からだけ起動できる、-1/-1カウンターを追いた状態で戦場に戻す起動型能力を持つクリーチャーを試してみた。
フレイバー的には非常によかったが、問題が2つあった。1つは、死んだミイラを再びミイラ化できるようにはしたくなかった。このメカニズムでクリーチャーを戻せるのは一度限りで、何度でも蘇るようにはしたくなかったのだ。我々はさまざまな方法を試した。クリーチャーが死亡したときに-1/-1カウンターが載っていたら追放するというもの。あるいは、死亡したときにも-1/-1カウンターが残り、墓地にある間も記録され続けることになるというもの。そのカード名のカードがこのゲームですでに不朽されていたら不朽できないという文を持たせさえした。しかし、これらの解決策はどれも不細工なものだった。大量の文章が必要で、直感に反するものだったり記憶上の問題があったりしたのだ。
もう1つは、いくつかの理由から、メカニズムには印が必要だった。1つ目に、フレイバーから、不朽を行われたクリーチャーは白のゾンビである必要があった。我々が不朽をゾンビを戦場に出すものにしたかったのには、ゾンビ部族が成立するようにするためという理由があった。つまり、プレイヤーに何がゾンビなのかをすぐに分かるようにする方法が必要だったのだ。2つ目に、クリーチャーに2回不朽を行うことができないようにするのであれば、そのクリーチャーがすでに不朽を行われているかどうかを示す方法が必要だった。
-1/-1カウンターはさまざまな形でクリーチャーに置かれるので、それをこの印として使うのには問題があった。この時点で、このセットには萎縮メカニズムが採用されていたし、-1/-1カウンターの存在によって、デザインはそれをクリーチャーに置くことを強く推していたのだ(クリーチャーを弱体化させることができるというのは、+1/+1カウンターとの最大の違いの1つである)。不朽を行われたクリーチャーだけでなく、多くのクリーチャーが-1/-1カウンターを置かれることになる。つまり、印としてはほとんど役に立たないのだ。
そしてある日、ショーン・メイン/Shawn Mainがあるエレガントな解決策を見つけ出した。クリーチャーに不朽を行ったとき、そのカードを戦場に戻すのをやめるというものだった。そのカードを追放し、そのコピーであるトークンを生成するのだ。これはいくつもの問題を見事に解決していた。1つ目に、トークンが墓地に残ることはない。死亡誘発のために一瞬墓地に触れたあと、消滅する。ルール上はコピーが不朽能力を持っていたとしても、使うことはできなくなる。2つ目に、トークンにはトークン・カードを作ることができ、違う状態を表すためにトークン・カードを使うことができる。最初は白でなかったとしても、トークン・カードでは白にできるし、またタイプ行にゾンビというクリーチャー・タイプを持たせることもできるのだ。
イーサンはコピー・トークンという発想を大いに気に入り、アート・チームに相談した。トークン・カードを作る数の上限があるのかどうか、そして不朽能力を持つ各クリーチャーそれぞれのトークンを作ることができるのか。アート・チームは可能だと答えた。つまり、不朽能力を持つクリーチャーそれぞれに、そのクリーチャーに不朽が行われていることを示すためのクリーチャー・トークンが存在するということである。この仕掛けを成立させるため、アート・チームはそれらのクリーチャーをシルエットで判別できるようにデザインした。
最終的に、デザイン・チームはこのメカニズムを白と青に集中させた。ゾンビ部族を構築戦で助けるためである。『イニストラードを覆う影』ブロックのゾンビは青と黒に存在していた。『アモンケット』のゾンビ(ミイラ)は白と黒に存在する。『アモンケット』ブロックの黒のゾンビはフレイバー上埋葬されていないゾンビなので、このメカニズムは黒にはふさわしくない。このメカニズムを白と青に持たせることで、プレイヤーがゾンビ・デッキを組む際に使う3色のゾンビの数を最大にすることができたのだ。この能力を持つクリーチャーは、赤に1体、緑に1体存在する。
(訳注:このメカニズム Embalmは、単にミイラ化というだけではなく「人為的なミイラ化」という意味を持たせる必要がありました。日本語には「エンバーミング」にあたる語がありませんので、「不朽」という語を充てています。)
碑
トップダウンのセットを作っている時、私はその元ネタとなるものに関して情報を集めるため色々なことをする。その中の1つが、誰にでも連想ゲームを仕掛けるというものだ。相手の多くは、私がなぜ尋ねているのかわからないことが多い。それによって、人々がその話題について最初に思いつくものが何なのか掴むことができるのだ。『アモンケット』では、私はさまざまな国名を挙げ、最初に思いつくものが何なのかを答えてもらった。意図がわからないようにするため、さまざまな国名を列挙していたのだ。
私:フランス
相手:エッフェル塔
私:メキシコ
相手:ソンブレロ
私:イタリア
相手:ピザ
私:日本
相手:寿司
さて、「エジプト」について最も多かった答えは何だったかというと、圧倒的にピラミッドだった。エジプトらしいものを考えると、多くの人がピラミッドやスフィンクスといったいろいろな建造物、つまり碑を連想するのだ。それなら、碑をこのセットに導入する方法を考えなければならないということになる。
我々は最終的に、方法を2つ見つけた。1つ目が、神々に捧げる碑だった。エジプト人たちはその神々と碑を愛していたので、この2つがしばしば重なり合うのは非常に自然なことだった。先週言ったとおり、我々は各色1柱ずつの神々のサイクルを作ることにしていた。これらの5つの碑の目標は、それぞれの神、それぞれの色に繋がり、それでいてどんなデッキでもプレイできるアーティファクトの密接なサイクルを作ることだった。最終的に、我々はこの問題を、全ての碑が持ち対応する色向きの常在型能力とどの色でも使える誘発型能力の2つの能力を作ることで解決した。誘発条件は全ての碑で同じだが、効果はその神のフレイバー(とそれぞれの試練。試練については来週話そう)に合ったものにした。
もう1つのサイクルは垂直のサイクル(コモン1枚、アンコモン1枚、レア/神話レア1枚)で、デザイン中は冗談めかして「碑の建設」と呼ばれていた。このサイクルでは、それぞれの碑に起動型能力が2つずつ存在する。1つは何らかの効果を持ち、さらにそのアーティファクト自身の上に石材カウンターを1個置く。もう1つはその効果がさらに強力なものになっているが、3つ以上の石材カウンターが置かれていない限り起動できない。このサイクルは、古代エジプトで常に建設が行われていたことを表している。
砂漠
エジプト風テーマのセットを手がけるということを告知した時に一番多かった質問は、《砂漠》を再録するのか、というものだった。
《砂漠》はマジックの最初のエキスパンションである『アラビアンナイト』で登場したカードで、大会でも見かけられることはあったが、初期のデッキの多くがクリーチャーが入っていない(あるいはほぼ入っていない)デッキだったということがかなり評価を下げていた。実際、デザインの初期には《砂漠》がデザイン・ファイルに入っていたが、再録するには少しばかり強すぎるということがわかった。
《砂漠》にはもう1つ、基本土地タイプ以外の土地タイプを持つ最初の土地の1つだという特徴がある。《砂漠》というカードは再録できないが、サブタイプとしての砂漠を再録することはもちろん可能だ。このテーマは『アモンケット』では軽く現れているだけだが、『破滅の刻』ではかなり発展することになる。
先週、トップダウンのエジプトとトップダウンのボーラスの両方で書き出されたものについて触れた。《砂漠》はそういったものの1つであり、つまり、非常にエジプトらしく、同時に非常に過酷で痛める(つまり非常にボーラスらしい)ものだったのだ。
死への執着
『テーロス』のデザインが始まる前、私はイーサン/Ethanにギリシャ神話について研究し、マジックがこれまでやって来たこと、やったことがないことのそれぞれでマジックと上手く重なる部分を見つけるという調査プロジェクトを割り当てた。これは非常に上手く行ったので、『アモンケット』を始めるにあたって私はショーン・メインにエジプト神話について同じことをさせることにした。先週言ったとおり、ショーンはエジプトで成長期の何年かを過ごしたので、このプロジェクトに適任だったのだ(そして彼自身もやりたいと思っていた)。
ショーンの報告書には多くの興味深い内容があったが、私が惹きつけられたのは古代エジプト人の持つ死への執着だった。エジプト神話の多くは人々の死に方と、死んだ時や死んだ後に何が起こるのかについてのものだったのだ。エジプト神話の神々の役割の多くは死のさまざまな側面に関するものだった。報告を読んで、私は少なくとも1つ、あるいはそれ以上の、死を扱うメカニズムが必要だと強く確信した(興味のある諸君のために添えておこう。我々は陰鬱を使うことも考慮したが、これから説明するテーマのいくつかと相性が悪かったのだ)。
一方、2ブロック・モデルに移行した時、我々はスタンダードの第1ブロックと第3ブロック(当時スタンダードは18か月の予定だった。その後、24か月に再変更された)でテーマの重複があるのがいいのではないかという仮説を立てた。『アモンケット』のどのテーマが『イニストラードを覆う影』ブロックと重複させられるだろうか。こう考えた時、死への執着は『イニストラードを覆う影』ブロックで大きな役割を果たしていた墓地テーマと上手く噛み合うことに気がついた。
『アモンケット』と『イニストラードを覆う影』の差をつけるため、我々は墓地の扱い方を変えることにした。『イニストラードを覆う影』では「指標としての墓地」テーマだった。つまり、さまざまなカードやメカニズムが、墓地にあるものを参照して自身を強化するのだ。昂揚はそのいい例である。4種類以上のカード・タイプが墓地にあれば、カードが強化されるのだ。
『アモンケット』では、そうではなく「資源としての墓地」テーマを取ることにした。つまり、墓地にあるカードを追放して、さらなる価値を引き出すのだ。このテーマから、墓地を肥やすのは墓地にあるカードを参照するためではなく、消費してさらなる効果を生み出すことができる資源になるからだとなった。もっとも名高い「資源としての墓地」テーマのメカニズムは、同じ呪文を2回唱えることができるようにするフラッシュバックである。『アモンケット』にはフラッシュバックそのものは存在しないが、ほとんどフラッシュバック的なメカニズムは2つ存在する。
1つ目が不朽である。まずクリーチャーとして使い、それが死亡したあとでマナを支払ってもう一度使うのだ。2つ目のメカニズムが、今日のプレビュー・カードで登場する、余波というメカニズムである。
余波は、興味深いことに、我々が昂揚を成立しやすくする方法についてブレインストーミングをしていたときに生まれたものである。1枚のカードに、アーティファクト・クリーチャーのように2つのカード・タイプを持たせる方法は他にないか、ということを検討していた。そして私は「思いついたぞ。片方がインスタントで片方がソーサリーの分割カードが作れる」と言ったのだ。分割カードの性質から、それは墓地ではインスタントでもソーサリーでもあることになる。
分割カードについての話と、「資源としての墓地」の話が結びついて、手札と墓地では別の効果を持つカードにたどり着いた。フラッシュバックだが、2つの効果が異なっているのだ。何を言っているのかわかりやすくするため、今日のプレビュー・カードをご覧いただこう。
まずこのカードの最も印象的な部分であるレイアウトの話をしよう。最初は、余波をただの2つ目の半分に制限をかけた分割カードとして作るつもりだった。しかし、すぐに、余波は分割カードから触発されたものではあっても、まったく違うものだということが明らかになった。我々はさまざまな実験を繰り返し、そして最終的に向きが異なる2つの半分を持つカードに落ち着いたのだ。手札から唱えられる呪文は通常のカードと同じように縦向きで、墓地から唱えられる呪文は横向きである。墓地にある余波カードを横向きにすれば、どの呪文が使えるかが見て取れるのだ。
これらのカードは、充分なマナがあれば両方を唱えることができ、2つの効果がお互いに何らかのシナジーを持つようにデザインされている。例えば、{4}{B}{B}{B}あれば、厄介なクリーチャーを除去して、それを墓地から追放して2/2のゾンビ・トークンを得ることができるのだ。これは、そのクリーチャーが不朽のような墓地から働く能力を持っている場合には良い手になるだろう。
盗掘
もう1つ、ポップカルチャーを研究しているときに気づいたのが、エジプト風テーマの使われ方には2種類あるということだった。光にあふれた生きたエジプトと、暗い死のエジプトである。前者は、「十戒」や「スターゲイト」、最近では「キング・オブ・エジプト」など。後者は、「トゥームレイダー」「ザ・マミー/The Mummy」などである。早いうちに、後者ではなく前者のほうを扱うことは決めていた。『アモンケット』は、我々の英雄たちが長い歴史の後で見つける、薄汚れた死の世界ではないのだ。このことからいくつかの内容は不採用になったが、我々は、例えば石棺などのエジプトの考古学的発掘において見受けられるようなものが、薄汚れた古いものではなく新品として存在できる場所を探したのだ。
ヒエログラフ
これは私がこのセットに組み込みたいテーマだった。実際のエジプト語のヒエログリフを使うつもりはなかったが、マジック流のヒエログリフを作ることができるだろうと考えたのだ。さらに私は、それを支えるためのメカニズムまで作った。
〈青の神はあなたを遠ざける〉
{1}{U}
インスタント
クリーチャー1体を対象とし、それをオーナーの手札に戻す。
ヒエログリフ(あなたは{2}を支払い、このカードを追放して、カードを1枚引いてもよい。)
ヒエログリフのフレイバーは非常にクールだった。墓地から掘り出したら、そこから何かを学ぶことができるのだ。このセットにはマナ基盤となるメカニズムが必要だったので、うまいものを見つけたと確信していた。しかし不幸にして、これとほぼ同時にデベロップにおいて調査が『イニストラードを覆う影』のために作られていたのだ。この2つのメカニズムは同一ではなかったが、両方が同時にスタンダードに存在できるほど違うものでもなかった。私は他のヒエログリフ・メカニズムを探したが、来週語るとおり、他のマナ基盤となるメカニズムがその枠を取ってしまったのだった。
呪い
ホワイトボードに書かれたものの多くはマジックのメカニズムとしては存在していなかった。しかし、呪いはその例外だった。我々は冒険世界の一部として『ゼンディカー』で呪いを登場させていたが、エジプト神話では間違いなく呪いが重要な役割を占めていた。最終的に、我々は呪いを数枚だけ入れることにした。
『アモンケット』へ
これでトップダウンのエジプトの一覧は終わりとなる(他にも細かなものは大量にあり、個別のカードのデザインには繋がっているが、ここで取り上げたのはより大きな、メカニズムや大きなテーマに繋がるものである)。デザインの話を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事や『アモンケット』について感じたことを、メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、トップダウンのボーラスの一覧について話す日にお会いしよう。
その日まで、あなたが『アモンケット』へのエジプトの影響を楽しめますように。
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