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Making Magic -マジック開発秘話-
振り返ってみると その2
振り返ってみると その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2017年3月13日
『モダンマスターズ 2017年版』の発売を記念して、先週からこのセットに含まれているカードのデザインについての話をしている。まだ終わっていないので、今週はその2ということになる。それでは始めよう。
《死の影》
『ミラージュ』で、私は開発部で続いていた、マジックに存在するクリーチャーを1ずつ大きくしていくというちょっとした遊びを続けたいと思った。『アルファ版』では《大地の怒り》が8/8で、『アンティキティ』では《サルディアの巨像》が9/9で登場した。『ザ・ダーク』には10/10の《リバイアサン》がいた。『アイスエイジ』にはそれらすべてを超える11/11の《Polar Kraken》がいた。私は12/12を作りたかったが、『ミラージュ』のリード・デザイナーであったビル・ローズ/Bill Roseはただ単に作るのはよしとしなかった。彼は私に、クールなデザインを提示してくれたら検討すると言ったのだ。そして、私が提出したのがこれだ。
ビルは、「トランプルつきの12/12で1マナ? よくやった、ローズウォーター、よくやった」と答えたのだ。
それから何年も過ぎて『ワールドウェイク』のデザインのとき。このセットはケン・ネーグル/Ken Nagleが初めてリード・デザイナーを務めたセットで、彼はそのセットを史上最高のセットにしたかった。その何年も前に『レギオン』には史上初の13/13となる《クローサの雲掻き獣》がいたが、ケンはそれとは違う記録を破りたいと考えた。1マナで12/12よりも大きいクリーチャーを作ることはできないだろうか。
《ファイレクシアン・ドレッドノート》を見れば、この種のクリーチャーを成立させるには非常に大きな不利益が必要だということがわかる。ケンは違う種類の不利益を見つける必要があった。そして彼が見つけた方法とは、コントローラーのライフの総量に応じて小さくなるようにすることだった。つまり、本来は13/13だが、ほとんどの場合はその大きさにはならない。そしてライフの総量は最初20点あるので、コストが1マナだとは言ってもこのカードを第1ターンにプレイすることはまずできないのだ。
最後にトリビアとして、他にも13/13のクリーチャーは3枚印刷されているが、それらはどれも13が大量に存在することがテーマであるイニストラード次元に存在していることを添えておこう。
《邪悪な双子》
特にトップダウン・デザイン(フレイバーを先に決め、それに合うメカニズムを作るというデザイン手法)で私が好むことの1つが、クリエイティブ代理にクールでフレイバーに富んだカード名を考えてもらうことである。その後、私は会議で時間を取って、グループ全体で何枚かのカードをデザインするのだ。『イニストラード』での私のお気に入りのデザインの1つが、この手順で生まれたものである。
まず、クリエイティブ代理(『イニストラード』ではジェンナ・ヘランド/Jenna Helland)がカード名のリストを持ってくる。私はそれをホワイトボードに示し、全員に見せる。それから、チームの1人にそのリストから1つカード名を選ばせるのだ。そして、かなり早い時期に、誰かが《邪悪な双子》を選んだ。
私はもう1枚のまっさらなホワイトボードに「《邪悪な双子》」と書いた。そして、まずこれのカード・タイプが何であるべきだと思うかを尋ねた。《邪悪な双子》については、全員がクリーチャーであるべきだと答えた。どんなクリーチャーか、と問えば、さまざまなクリーチャーの姿が取れるのだから多相の戦士だと。色は何がいいかと尋ねると、変身は青の分野なので青であるべきだと。また、チームはこのカードは黒でもあるべきだと感じた。《邪悪な双子》はいかにも青黒に感じられたのだ。
次に尋ねたのが、そのカードは何をするものであるべきか、だった。他のクリーチャーをコピーできる必要があるのは明らかだった。他には何かないか。ホラー映画では、邪悪な双子はその本来の存在を殺す、あるいは殺そうとする。そして成り代わろうとするのだ。つまり、コピー効果とクリーチャー除去効果が必要ということになる。まず前者から始めよう。これまでのカードでこの雰囲気を表しているものはどれか。といえば、『アルファ版』の《クローン》だ。戦場にある好きなクリーチャーのコピーとして戦場に出るのだ。これだ。
次はクリーチャー破壊だ。《邪悪な双子》なのだから他者を殺せるが、その標的は常に本来の存在だ。そこで我々はそこに注目することにした。このクリーチャーは他のクリーチャーの姿をして、それからそれを殺そうとする。このクリーチャー除去も《邪悪な双子》の戦場に出たときの能力にすべきだろうか。いや、それでは簡単すぎる。《邪悪な双子》は本来の存在を殺すために努力するものだ。つまり、起動型能力がふさわしいのではないか。
大きな疑問点は、除去をどうやってコピー元のクリーチャーだけに制限するかだった。そして誰かが解決策をひらめいた。《邪悪な双子》と犠牲者には共通点がある。そう、カード名だ。除去能力を、同じカード名を持つクリーチャーだけに制限すればいいのだ。ここまで決まるのに約5分しかかかっていなかった。我々はそうと気づくことなく、わずかな数字の調整以外はそのまま印刷されてセットに入ることになる素晴らしいデザインを手にしていたのだった。
《好機》
これまで常識外のカードをデザインすることについてかなり話してきたが、デザイン上でもう1つ重要な部分が、出来が良くて明瞭な基本的効果を作ることである。《好機》はそのようなデザインの好例だ。当時、マジックにはカードを1枚、2枚、3枚、あるいはX枚引くカードはあったが、それよりも多く引くカードは存在していなかった。私はそのようなカードを作ることにしたのだ。
まず、4枚から7枚までそれぞれの枚数のカードを引くのに適切なコストを決めることから始めた。インスタントにすることにしたのは、自分のアンタップの直前、対戦相手のターンの終了時に青の魔術師ができることにしたかったからである(これは、カードを引く呪文が全てソーサリーだった数年間よりも前のことだったのだ)。コストは最終的に私が予想していたよりも多少高くなったので、一番小さい側、つまり4枚引くことに決めたのだった。
その後、いくらか時間をかけて、良い単純な名前を決めていった。当時、プレイテスト名が充分安定していると感じられたらそのまま残して印刷に到るのは当たり前のことだった。《好機》に決めるまで、いくつもの名前を試したことを覚えている。対象を取るようにしたのは、カードを引く効果は通常は対象を取るものであるべきだという私の信念からである(この件についての私の見解はこちら、その反論はこちらから読むことができる)。そして、私は場合によっては対戦相手のライブラリーを引き切らせるために使うこともできると感じたのだ。
《好機》 アート:Ron Spears |
ところで、この元の絵はウルザがウェザーライト号を作ることを思いついた瞬間を表している。ウルザとウェザーライト号が一緒に描かれているイラストはそれほど多くない。
《落とし穴の罠》
ゼンディカーが冒険の世界になるとわかってから、私は、活用できるようなさまざまなネタを見るのに時間を費やした。そうして得られたのが、同盟者、探索、罠である。罠は「レイダース/失われたアーク〈聖櫃〉」にかなり影響を受けている(《石の偶像の罠》はその映画そのままの、大岩が転がってくる罠をトップダウンでデザインしたものだ)。私は、さまざまな罠を書き出すことができるように、このオープニングを実際に何度も見直したのだ。
私が特に興奮させられた罠の1つが、落とし穴である。この罠は基本的に、深い穴を掘り、大抵は底に槍を仕掛けて、隠しておく。そして他の罠に気を取られた犠牲者が落ちるのを期待するものだ。クールな罠をデザインするための鍵は、通常よりも軽く呪文を唱えられる条件を決めることだ。理想的には、プレイヤーが理解することでその罠を軸にすることができるような条件が望ましい。プレイヤーが他のプレイヤーの罠に注意し続けるようなメタゲームを作るようにしたいのだ。
私は、単独で攻撃すると誰も助ける人がいないので、それを狙う罠という発想が気に入っていた。プレイ感も良かった。白1マナを残している相手に対して、単独で攻撃すべきかどうか熟慮する必要があったのだ。最初の版では、飛行を持たない、という部分はなかったが、初期のプレイテスト中に私が飛行クリーチャーを破壊しようとした時、大声で「これはおかしい」と言い、そして即座に変更したのだ。そいつは殺せない。飛行クリーチャーは落とし穴に落ちたりしないのだ。
『ゼンディカー』の全ての罠の中で、これが私のお気に入りだ。フレイバーが完璧で、ゲームプレイ上の面白い瞬間を作り出してくれるからである。
《スフィンクスの啓示》
我々が最初にギルドを作りあげたとき、完全に把握するのに時間がかかったギルドがあったが、アゾリウスはそうではなかった。白青は大会でもよく組み合わせられていて、非常に明白な特徴を持っている。この2色はコントロールの色で、ゲームをひどく遅くするのだ。『ディセンション』をプレイしたことがある諸君は、アゾリウスはその方向性を取らなかったことを思い出すかもしれない。飛行クリーチャーに焦点があり、過去の白青デッキよりもいくらかアグロ寄りだったのだ。
この変化の理由は、元祖『ラヴニカ』ブロックの直前の『神河物語』ブロックで白と青を非常に強く推していたことだった。遅いコントロール・デッキで大会を支配していたので、『ディセンション』ではアゾリウスを別の方向に向ける必要があったのだ。デザイン・チームの誰もこの判断を喜んではいなかったが、セットのデザインで大きなゲームプレイ上の問題に対処する必要があることがあることは理解していた。
それから7年が経ち、我々は『ラヴニカへの回帰』で文字通りラヴニカに回帰することになった。アゾリウスは第1セットに入る予定となり、デザイン・チーム全員が非常に明確な目的を心に決めていた。すなわち、アゾリウスを望まれていた姿でデザインすることである。プレイヤーが望んでいた、白青のコントロールの組み合わせにすることである。この話をしているのは、《スフィンクスの啓示》が「白青デッキが望んでいるのは一体何か?」という質問から作られたからである。答えは2つあった。白青には大量のカードを引く手段が必要だ、ということと、ゲームを長引かせてやがて支配する、ということである。《スフィンクスの啓示》はこの願望に、全身全霊でためらいなく応じたのだった。
《反射起こし》
《反射起こし》は、ルール文が〔英語で〕1語しかないソーサリーという点で独特である(ルール文とは、ルール文の枠の中に書かれた、斜体でない文章のことだと定義されている。銀枠カードでメカニズム的に必要だったので定義したのだ)。クリーチャーの中にはルール文を持たないものも(それらはバニラ・クリーチャーと呼ばれる)、キーワードだけのものも(クリーチャー・メカニズムだけを持つものをフレンチ・バニラ・クリーチャーと呼ぶ)いるが、それをインスタントやソーサリーで使うのはずっと難しい。
実際、それを成立させられるのはキーワード処理、すなわち動詞として働くメカニズムだけであろう。この記事を書いている時点でマジックにキーワード処理は36個存在しているが、そのほとんどは使うのに他の単語が必要である。インスタントやソーサリーで、数字が書かれたキーワード処理1つのものはいくつか存在する(《隠匿物の防衛》《ドロモカの贈り物》《模範提示》が最初に思いついた)が、数字のついていない単一のキーワード処理だけのルール文を持つのは、《反射起こし》だけだ。
いつか他にも作られることがあるだろうとは思うが、現時点では《反射起こし》がこの独特の地位にいるというわけである。
《長毛のソクター》
非公式な規定として、各セットに一定量のバニラ・クリーチャー(ルール文を持たないクリーチャー)を入れる、というものがある。マジックは複雑なゲームなので、我々はプレイヤーに認識負荷をかけないようなカードを作るようにしているのだ。バニラ・クリーチャーに関して我々がしている挑戦のひとつが、テーマに沿ったものにする方法を探すというものである。もちろん、クリエイティブ的にふさわしいものにするのはずっと簡単だ。
そのための方法はいくつか存在する。
1.ふさわしいクリーチャー・タイプを与える
ほとんどのセットには小なりと言えど部族要素が存在する。従って、バニラ・クリーチャーに意味を持たせる良い方法の1つが、メカニズム的に意味のあるクリーチャー・タイプにするというものである。そうすれば、部族テーマを意識するプレイヤーはそのクリーチャーをデッキに入れることだろう。
2.パワーやタフネスに意味を持たせる
セットには、クリーチャーの大きさを参照するメカニズムやカードが存在することが多い。特定のサイズであること(『タルキール覇王譚』の獰猛など)や、重要な形で相互作用するパワーやタフネスを持つこと(『ギルド門侵犯』の進化など)によってバニラにも意味を持たせることができるのだ。
3.コストに意味を持たせる
セットやカードによって、点数で見たマナ・コスト(例えば、白は軽いクリーチャーを墓地から戻すことができることが多い)や色マナ(『テーロス』の信心メカニズム)が意味を持つことがある。バニラ・クリーチャーに巧いマナ・コストを持たせることで、意味を持つようになることがあるのだ。
4.色に意味を持たせる
セットの中には色関連のテーマを持つものがある(『シャドウムーア』など)。バニラ・クリーチャーを特定の色や色の組み合わせにすることで、メカニズム的に影響を与えることができる。
5.そのセットで登場した要素を活かす
『アンヒンジド』のバニラ・クリーチャーである《Little Girl》は、そのセットが分数を使っているという事実を活かした、パワーとタフネスが二分の一のクリーチャーである。
6.コストとサイズの比を良くする
そして《長毛のソクター》だ。我々は3色セットを作っていて、3色でプレイすることを推奨したいと考えていた。そのための方法の1つが、非常にコスト効率の良い3色カードを作ることであった。必要な3色全てを早期に揃えるのは難しいので、パワー・レベルを上げることができたのだ。《長毛のソクター》は、わずか3マナで5/4なのである。
《結界師ズアー》
どのセットをデザインするのが一番楽しかったか、という質問を受けることはよくある。候補は多いが、私がよく選ぶのは『時のらせん』である。『時のらせん』を取り上げるときは自己言及的すぎるとか複雑すぎるという話題が多いが、参照されているすべてを理解している私としては作るのがとても楽しかったのだ。
デザインの自惚れのひとつは、時間のどこかからクリーチャーを連れてくるような時間の出来事が存在したということである。つまり、我々はマジックの歴史上どこからでも持ってきたい人物を持ってきて伝説のクリーチャーを作ることができたということである。我々はユーザーが楽しむだろうと思われる人物を、隅から隅まで探し尽くした。その中の1人が、ズアーという男であった。
ズアーは、おそらく彼が作ったオーブで一番名前が知れているだろう。《Zuran Orb》である。《Zuran Orb》は非常に強力で、最終的には禁止されることになった。私がズアーのことを好きなのは、そのカードよりも《ズアーの運命支配》のおかげである。
私は自分が就職面接で、ジョエル・ミック/Joel Mickに、自分が雇われるにふさわしい存在だと照明した、という話をしたことがある(読んだことがない諸君はこちらを参照のこと)。
そのデッキのキー・カードの1枚が、《ズアーの運命支配》だった。このカードは全てのプレイヤーが手札を公開したままプレイするようにし、ライブラリーからカードを引く際にはそれを公開し、そして対戦相手は2点のライフを支払うことでそのカードを墓地に送ることができるというものである。このカードで、いわゆる《ズアーの運命支配》ロックが可能となる。つまり、すべてのカードを否定することができるのだ(テーマ的に《Zuran Orb》と組み合わせることも多かった)。どういうわけか、多くのプレイヤーは文字通り完全にロックが決まって勝ち筋がなくなっていても投了しないものだ(これについて、こちらの記事(英語)で書いている)。
そこで、我々はズアーを伝説のクリーチャーにすることにした。彼の名前を冠したカードは4枚中3枚が青なので、彼も青であることは当然だった。《Zuran Enchanter》は黒の起動コストを持っていたので、黒もふさわしく感じられた。人物についてもう少し調査を重ね、彼は白でもあるべきだとわかった。
何がふさわしく感じられるか、かなりの議論があった。彼は《結界師ズアー》であり、《Zuran Enchanter》の師匠であり、《ズアーの運命支配》という有名なエンチャントがある。そこで、エンチャントに焦点を当てることにした。《Zuran Orb》があるのでアーティファクトも含むべきだという議論もあったが、焦点を狭めることでさらに良いカードになると判断されたのだ。
本来の能力は4マナ以下のエンチャントを持ってこれるもので、つまり《ズアーの運命支配》を持ってくることができていた。しかしプレイテストの結果、4マナは強すぎるということがわかり、3マナに切り下げられたのだ。彼に飛行を持たせたのは、彼が空を飛べるという描写がどこかにあったからだと思われる。彼の能力が3色すべてを反映しているかどうかという大議論があったが、この能力は当時まったく定義づけられていなかったので、これは3色が協力してできることだと位置付けたのだ。後にこれらの能力をもう少し定義付けた結果、現在のデザインでは、このカードにはメカニズム的に黒は必要なかったと考えている。
こうしてズアーが出来上がったのだ。
AからZまで
本日はここまで。いつもの通り、これらのカードや『モダンマスターズ 2017年版』、あるいはこの記事についての感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、なぜ友好色がうまくいくのかを掘り下げる日にお会いしよう。
その日まで、『モダンマスターズ 2017年版』に再録されたあなたの思い出で楽しいプレイができますように。
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