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Making Magic -マジック開発秘話-
「賭けてみるか、エーテルパンク?」 その1
「賭けてみるか、エーテルパンク?」 その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年9月26日
プレビュー期間が終わり、いよいよカード個別のデザインの話をする時期になった。話したいことはいくらでもあるので、さっそく始めることにしよう。
《活性機構》《抽出機構》《製造機構》
旧『ミラディン』ブロックの最終セット『フィフス・ドーン』で、私はこんなカードのサイクルを作った。
このサイクルは「基地」と呼ばれていた。それぞれのカードがエンジンになっていて、リソース同士を交換できるのだ。例えば、《爆破基地》はクリーチャーを直接火力にすることができる。『フィフス・ドーン』はアーティファクトのセットだった。そして、もう少しデッキの軸になるようなものにすることで独自性を持たせたいと考えたのだ。『ミラディン』には壊れたものがあったので、何か使って楽しいけれどもスタンダードでそれ以上の問題を起こさないようなものを探していた。そして、私は、軸になるような奇抜なテーマなら可能になると考えたのだった。
基地は、それぞれが「デッキの軸になる」カードになるようにデザインされた。十分なクリーチャーを出すことができるなら、《爆破基地》で対戦相手を倒すことができる。しかしそれで終わりにする気はなかった。基地は、それぞれの出力が他の基地の入力になるようにデザインしてあったのだ。例えば、《召喚基地》は2/2のクリーチャー・トークンを戦場に出すという効果がある。これによって《爆破基地》がアンタップされ、生け贄に捧げるためのクリーチャーも手に入るのだ。4つの基地すべてを揃えたなら、ゲームに勝利できるループが成立する(実際には、コストが1以下のクリーチャーでないアーティファクトも必要だが)。
『カラデシュ』でできる楽しいことを考えたとき、私の脳裏に基地が浮かんだのだ。アーティファクトのエンジンで、組み合わせて働くカードだ。これ以上に発明家らしいカードはそうないだろう。そして、私は新しい基地サイクルを作り始めた。
私の目標は、基地を再現すると同時に違うひねりを試すことだった。基地で使っていたアンタップするというギミックの代わりに、何かのリソースを生み出す誘発型能力と、サイクル内の他のカードを誘発させる助けとなる起動型能力を持つのだ。起動型能力がそのカードの誘発型能力に関連しており、そのカード1枚だけでも機能するようになっているのがこのサイクルのキモである。
また、『カラデシュ』で意識されているリソースの仕様にも非常に興味があった。しばらく考えた後、アーティファクト、+1/+1カウンター、エネルギーをリソースとして使うことにした。製造によって得られる2つと、エネルギーである。私は最初、基地と同じように4枚のカードを作ろうとしたが、3枚のほうがうまく働くと判断し、3枚に切り替えた。
また、その中の1枚はアーティファクトを出すもので、別の1枚はアーティファクトが戦場に出ることを見るもの。1枚はクリーチャーに+1/+1カウンターを置くもので、別の1枚は+1/+1カウンターがクリーチャーに置かれることを見るもの。1枚はエネルギーを生み出すもので、別の1枚はエネルギーが生み出されることを見るものとした。得られるものは、誘発型能力の結果であることも、起動型能力の結果であることもあるとした。あとはループが発生するようにカードの順番を決めるだけである。
まず、入力と出力を組み合わせていった。私は、他のアーティファクトが戦場に出るたびにエネルギー・カウンターを得るアーティファクトを作りたいと考えていた。新しいアーティファクトを得るたびにそこからエネルギーを吸い出すという良いフレイバーがある。次に必要なのは、このカード自身が誘発する助けとなるような能力である。このセットには「戦場に出たとき」の誘発型能力を持つカードが大量にある(《パンハモニコン》のときに詳しく話そう)。そこで、このカードの起動型能力はアーティファクトをオーナーの手札に戻すものにすることにした。もしマナがあれば、このカードはそれをエネルギーに変えると同時にそのアーティファクトの持つ「戦場に出たとき」のメリットを得ることもできるのだ。
この時点で、諸君の中には「《抽出機構》はアーティファクトではなくクリーチャーが戦場に出ることを見ているじゃないか」と思うものもいるだろう。それへの答えは、「今はそうなった」である。デザイン中ずっと、そしてデベロップ中もかなりの期間は、アーティファクトが戦場に出るたび、の誘発型能力だったのだ。しかしこれは問題があるとわかり、デベロップがクリーチャーに変更したのだ。誘発の鍵になるのはアーティファクト・クリーチャー・トークンなので、どちらでも問題はない。
1つ目のアーティファクトがエネルギーを生み出すので、2つ目はエネルギーを得ることで誘発する必要がある。そうなると、そこから得られるのは+1/+1カウンターである。最初のバージョンでは、得られたエネルギー・カウンターと同数の+1/+1カウンターを得るということになっていたが、その後エネルギー・カウンターを得た個数にかかわらず回数ごとに1回だけ誘発するように変更されたと記憶している。エネルギーを生み出さなければならないので、起動型能力にはあまり選択肢はなかった。結局、単純にエネルギーを生み出すだけにした。常に誘発するので、本質的には4マナで起動するとエネルギー・カウンター1個と+1/+1カウンター1個を得られるということになる。
最後のアーティファクトは+1/+1カウンターがパーマネントの上に置かれることで誘発し、アーティファクト・クリーチャー・トークンを生成するものになる。飛行機械を作ることで調整していたが、それでは強すぎるということになった。最終的には霊気装置にしたが、それでも生成するのに1マナが必要となった。ループにマナを必要とするようになることで議論を呼んだが、デベロップ的に、そうする必要があった。問題は、効果をどうするかというものだった。単に+1/+1カウンターを置くだけにもできたが、もう少し魅力的なことをしたかったのだ。そこで、我々は増殖を使うことにした。
驚いたかもしれないが、デザインの一時期には『カラデシュ』に増殖が存在していた。最初は、このブロックの再録メカニズムにするという計画だったのだ。増殖は製造とエネルギーの両方とうまく噛み合う上、アーティファクト・ブロックにはカウンターが大量に存在するものである。最終的には、増殖は+1/+1カウンターと相性が良すぎ、一方でエネルギーとはそれほど相性がよくなかった。増殖が強くなりすぎないようにセットを曲げる結果になったので、取り除くことになったのだ。私は増殖が好きで、いつの日か再録する計画はあるが、不幸にもこのブロックはその時期ではなかったのだ。増殖をセットから除いて、我々はこの効果を、パーマネント1つにカウンター1個を加えるという効果として書き下した増殖的なものに縮小した。
その後、クリエイティブ・チームはそれを受け、アーロン・ミラー/Aaron Millerというアーティストに3枚すべてを担当させ、並べられると繋がるようにした。これらのアーティファクトは一連の名前を得て、同様のフレイバー・テキストを持つことになった。
私はこの最終形に非常に満足している。単体でも、組み合わせてもプレイして楽しいという点で、基地の私が気に入っていた部分を共有しているのだ。
《鎧作りの審判者》《造命の賢者、オビア・パースリー》
製造カードを作る上での鍵は2つある。1つ目が、それぞれのカードに興味深い決定があるようにすること。常にどちらか一方が選ばれるようであれば、それが+1/+1カウンターであれ霊気装置・クリーチャー・トークンであれ、このメカニズムは失敗である。プレイヤーが発明家気分になれるようにするということは、興味深い選択を作るということなのだ。
この2枚のカードは、このメカニズムを成立させるために必要なもう一方のものを表している。我々は、外部的に両方の選択に意味をもたせるようなカードを作る必要があった。+1/+1カウンターについて言えば、《鎧作りの審判者》のように+1/+1カウンターに意味を持たせるか、あるいはパワーやタフネスに意味を持たせるかの2通りがありうる。霊気装置・アーティファクト・クリーチャー・トークンの場合は、より多くの選択肢がある。つまり、アーティファクトに意味を持たせることも、クリーチャーに意味を持たせることもできるし、ダメージ源としても見られるし、コントロールしているクリーチャーの数を増やすことに意味を持たせることもできる。また、これらのトークンはそのクリーチャーから独立しているので、そのクリーチャーを明滅(追放して再び戦場に戻すこと)させたり手札に戻したりすることにさらなる価値を与えることができるのだ。
ここで重要なのは、微視的に見てカード単体で有意義にするとともに、巨視的に見てメカニズムの両方の半分が輝くような環境にするということなのである。
《秘密の中庭》《尖塔断の運河》《植物の聖域》《感動的な眺望所》《花盛りの湿地》
プレイヤーはしばしば、デザインがセットに特定の2色土地のサイクルを入れた理由について尋ねてくる。その質問への答えはほぼいつも同じで、「入れていない」である。有色マナを使える量は構築マジックの中核なので、デベロップはどのような2色土地の組み合わせが最善かを決定し、そしてデザインにその決定を伝えるのだ。テーマに相応しい2色土地をデザインしてデベロップに示すこともあるが、それは例外であり、今回もそうはなっていない。プレイヤーが『ミラディンの傷跡』の2色土地の敵対色版を何年もに渡って要求していたので、それがついにセットに入ったのは喜ばしいことだ。
《激変の機械巨人》《奔流の機械巨人》《害悪の機械巨人》《焼却の機械巨人》《新緑の機械巨人》
機械巨人サイクルはデベロップ中に加えられたものだ。神話レアのアーティファクト・クリーチャーのサイクルが必要で、デザインが作ったのはどれもふさわしくなかったので、デベロップが自らデザインしたのだ。機械巨人はすべてが5~6マナで、色マナ2点が必要で、対応する色の常磐木なクリーチャー・キーワードと、強力な「戦場に出たとき」の効果を持っている。
これを『カラデシュ』には他に存在しない色付きアーティファクトにすることには多少の議論があったが、デベロップは(同じデッキに大量に入りすぎないように)色マナが必要で、フレイバー的にアーティファクト・クリーチャーにしたかったので、有色アーティファクトが最善の選択だったのだ。
《反逆の先導者、チャンドラ》
定期的に登場しているプレインズウォーカーの中で、歴史的に、競技レベルにするのが一番難しいのはチャンドラだった。カラデシュはチャンドラの故郷であり、彼女が主人公になるので、彼女を強いカードにしようということになっていた。4つの能力を持つプレインズウォーカーにしようと最初に言い出したのが誰だったかは覚えていない(両面プレインズウォーカーを除くと、《精神を刻む者、ジェイス》、《頂点捕食者、ガラク》に続く3人目である)。しかし、その提案を受けた全員がすぐに同意したのだ。
彼女の1つ目の能力は「衝動的ドロー」能力で、以前のチャンドラで登場して以来赤の定番になっている能力だ。2つ目の能力はチャンドラにとっては新しいが赤にはできること、マナを生み出すものだ。3つ目の能力はチャンドラらしい、クリーチャーの直接ダメージを与えるもの。そして奥義は、怒り狂ったチャンドラがほうぼうに炎を放つというアイデアから彼女のアートを再現したものである。
このチャンドラが競技レベルで生き残れるかどうか見ていく必要があるだろうが、私は生き残るだろうと思っている。
《鋳造所の隊長》
『カラデシュ』は、これまで我々がやったことのないあることをしている。新しい次元をそれより前のセットで少しだけ登場させることでプレビューしているのだ。(『マジック・オリジン』のリード・デザイナーだった)ショーン・メイン/Shawn Mainと、まだデザインに入る1年以上前の時点のセットについて深入りしすぎることなくユーザーに期待させるためにはどうすればいいかと話し合ったことを覚えている。
最終的に、ショーンはアーティファクトに注目することにした。カラデシュがスチームパンクをもとにした世界になることは決まっていたので、安全な賭けに思えた。同時に、アーティファクト・クリーチャー・トークンにも注目することにした。『マジック・オリジン』におけるカラデシュは、飛行機械・トークンを扱っていたが、私は、『カラデシュ』ブロックでは他のアーティファクト・クリーチャー・トークンにこのテーマを広げることができると考えていた。
『カラデシュ』のデザインにおいて大きな問題の1つが、『マジック・オリジン』から再録するカードをどうするかだった。何枚か、少なくとも1枚は、印象的なものが欲しかった。最終的に《鋳造所の隊長》が選ばれた。これは本来、飛行機械・トークンと組み合わせて働くようになっているが、霊気装置・トークンとも同じようにうまく噛み合うのだ。このカードはリミテッドで強力な「軸になる」カードとして働くことが予想されたので、我々はこれをアンコモンのままにした。
《歯車工の組細工》《ガラス吹き工の組細工》《金属紡績工の組細工》《炎鍛冶の組細工》《織木師の組細工》
このサイクルは、アーティファクト・ブロックの2つの問題を解決するためのものである。1つ目が、アーティファクト・ブロックにはアーティファクトが一定量必要だということ。つまり、ファイル内に追加のアーティファクトを入れる場所を準備する必要があり、そのためにはファイルのどこかに空きを作る方法を探す必要があるということになる。アーティファクト・ブロックでそうするための方法の1つに、インスタントやソーサリーの役割を果たすアーティファクトを作るということがある。「戦場に出たとき」の誘発型能力を持っていたり、生け贄に捧げることによる能力を持っていたりするアーティファクトである。組細工サイクルはその両方にあたる。
2つ目に、アーティファクト・ブロックではカラー・パイのバランスを崩してしまうことがあるので注意が必要である。そのための一番簡単な方法が、アーティファクトに色マナを使う起動型能力(や誘発型能力)を持たせることである。アーティファクトがすべてのデッキで使えるようにするために、そのアーティファクトの、色マナを使わない部分も有効であるようにする必要はある。組細工サイクルは「戦場に出たとき」の誘発型能力にはその色のマナは必要ないので、この問題も解決されているのだ。
《慮外な押収》《短命》《蓄霊稲妻》
エネルギー・カードのデザインは複雑になりうる。大枠として、カードを使うのに必要なエネルギーはそのカード自身が供給するようにしたいものである。そして、追加のエネルギーを使うことができるならそれ以上のことができると感じられるものにしたいのだ。
パーマネントではこれは簡単なことだ。「戦場に出たとき」の能力でエネルギー・カウンターを得る。その後、エネルギーを使う能力があり、他にエネルギーを手に入れることができれば効果は大きくなる可能性がある。問題は、パーマネントでない呪文でこの雰囲気を表すのは難しいということである。この3枚のカードはこの問題に対する我々の回答なのだ。
これらのカードはそれぞれ一定量のエネルギーを供給する。その後、好きなだけのエネルギーを使い、それに応じた大きさの効果を生み出すのだ。他にエネルギーが得られてなければ、これらのカードは単独で満足な効果を持つが、それには限りがある。他にエネルギーを得ていれば、そのエネルギーも使って効果を高め、非常に強いものにもできうるのだ。
《模範操縦士、デパラ》
このカードはいくつかの問題を解決している。
- ドワーフは伝統的に赤だったが、『カラデシュ』では白に導入している。ドワーフ部族を促進したいが、後方互換性を持たせたい。そのための鍵は、ドワーフのロードを赤白にすることだった。
- 機体は大量にプレイするようにはデザインされていない。デッキに1~2枚入れれば充分なのだ。しかし、プレイヤーの中には、たとえだけでなく現実にも金属に踏み込み、大量の機体を使うデッキを組む人がいるのもわかっている。この類のカードはそれを可能にするのだ。
- この世界で、ドワーフは最高の操縦士である。このカードはドワーフのシナジーと機体のシナジーを繋ぎ、「ドワーフは最高の操縦士である」をゲーム上でも真実にしてくれるのだ。
- 我々は、統率者戦プレイヤーがセットのテーマに合った統率者を手に入れられるようにしたいと思っている。デパラはこのセットのテーマの2つを満たしている。
- 最近耳にした不満の1つが、アグロ・ビートダウン向けの赤白の統率者が多すぎるというものである。デパラは統率者戦のボロス・プレイヤーにとって、全く異なるデッキとなる。
《ドビン・バーン》
デザインの重要な役割の1つが、クリエイティブ・チームと協力してカードがメカニズム的に物語の要素を表すようにするということがある。簡単なこともあるが、非常に難しいこともある。《ドビン・バーン》は後者の例である。《ドビン・バーン》の能力は、ものの弱点を見つけるというものである。それによって彼はその弱点を利用できて、非常に魅力的な人物になっている。問題はたった1つで、我々はそれをプレインズウォーカー・カードに描かねばならず、「ものの弱点を見つける」は非常にデザインしにくいということである。
これを成立させるための方法は、一歩引いて広い視点から考えることである。彼の能力が効果としてどう描けるのかを考えるのではなく、それがアーキタイプとして何になるのかを考えることにしたのだ。彼が活躍するのはどんなデッキになるだろうか。最初は、彼は白青で、つまりはコントロール寄りのデッキということになる。
彼は政府の一員であり、コントロール要素はテーマ的に理解できる。また、彼の能力は相手に制限をかけるのに有効だ。それでは、コントロール・デッキで助けとなるカードを作るというのはどうか。彼の1つ目の能力はクリーチャーを止めるのだ。相手の弱点を見抜き、それを使って相手を足止めするのだ。理解できる話だ。
2つ目の能力は、さらに防御的だ。生き残ることとカードの選択の両方の助けとなる。フレイバー的には、弱点を見抜くことで全体から有利を得て、さらなる有利につなげるというのはどうだろうか。彼の奥義も、何か相手を止める助けとなるものだ。弱点を感じ取れるなら、状況を操作して問題をさらに大きくすることもできるかもしれない。
一歩引いてみると、対戦相手が通常通りに動くことを難しくするようなさらに受け身的なプレインズウォーカーができた。そして、これは見事にドビン・バーンのフレイバーを再現しているのだ。
「そっちは?」
今日はここまで。いつもの通り、この記事や『カラデシュ』についての諸君の反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、あなた自身のカード個別の話があなたとともにありますように。
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