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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『異界月』 その1

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こぼれ話:『異界月』 その1

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年7月25日


 セットごとに、私は新セットに関する諸君の質問に答える「こぼれ話」というシリーズを執筆している。さて、『異界月』が発売されたので、どんな質問があるか見ていくことにしよう。

 私のツイートは以下の通り。

 新しい「こぼれ話」記事を書くので、『異界月』に関する1ツイートでの質問をしてくれたまえ。

 いつもの通り、可能な限り多くの質問に応えることにはしているが、以下のような質問には答えられない場合がある。

  • 文字数制限があるので、答えられる質問には限りがある。ブログではもっと短く答えているが、記事ではより詳細な長い回答をすることになる。
  • 誰か他の人がすでに同じ質問をしているかもしれない。最初に質問してきた人に答えるのが通例である。
  • 私が正解を知らない、あるいは私は答えるのに相応しくないと思われる質問もある。
  • 将来のセットのネタバレになるなど様々な理由で回答できない話題もある。

 それを踏まえて、さっそく質問に移ろう。

 合体の社内での評価はどうでしたか?

 通例と少し違うことをするとなると、その反応ははっきり二極化するものなのだ。限界を押し広げて新しいことを試すことに大満足なものもいれば、弄るべきでない部分を弄っているとして強く危惧するものもいる。内部の反応はいつも非常に似た傾向になるのだ。

 内部で合体を見て、熱狂的反応を示したものもいて、我々が印刷するのが待ちきれない様子だった。一方でその逆、マジックがすべきでないことをしていると確信しているものもいて、止めるように強く訴えかけてきた。合体は、一般にもそうであったように、社内でも意見が分かれたのだ。実際、『異界月』のリード・デベロッパーのサム・ストッダート/Sam Stoddardが語った話の1つは、合体がボツになると確信していたデベロップ・チームのほとんどは合体に関与せず、最終的に、チームにボツにはならないということを伝えて作業に入らせる必要があったという話だったのだ。

 いつが限界を押し広げるべきときでいつがそうでないのかというのは、主席デザイナーとしての私の仕事である。私は、我々が常に新しいリスク(「マジックにとって最大のリスクは、リスクを取らないことである」)を発明し続けるようにしているが、スマートにそうするようにしている。つまり、選択を行なうのはデザインをよくするためであり、ただ目新しいものを作るためだけにそうしないようにしているのだ。

 通常、合体のように意見が分かれることをする場合、我々は否定派の危惧を解消するように尽力する。どの要素が問題なのか。懐疑派はその新しいアイデアの壮大さに目がくらんでいないので、最高の批判をもたらしてくれることが多いのだ。

 ティボルトはなんでいないの?

 ひとことで言うと、枠がなかったからである。既に、このブロックのプレインズウォーカーの数は通常の5よりも1多い6になっている。ジェイスは主役なので必須。ナヒリは敵役だ。ソリン、リリアナ、タミヨウは物語上重要な役割を持っている。あと許されるのは1枠。色のバランスを考えると、その1枠は緑であることが必要で、赤緑なら最適だ。

 ティボルトは、初登場時には赤単色だったが、私のイメージでは彼は黒赤で、赤緑ではありえない。つまりこの枠にはふさわしくないのだ。フレイバー的にも、彼は今回の物語に関わってこない。我々は謎を語りたいのだ。ティボルトのいるべき場所はないし、敵役にはナヒリがいるのだ。

 また、ティボルトはプレインズウォーカーである。プレインズウォーカーが自分の出身次元にいてもいいが、他の次元で登場しても問題ない。プレインズウォーカーが他の世界にいることを見れば、プレインズウォーカーには別の世界を訪れる能力があるということが強調されるのだ。

 さて、我々はティボルトを再び目にすることがあるだろうか。私は、あると思う。彼は、あれほど弱いプレインズウォーカー・カードだったにもかかわらず、予想外に人気が出た興味深い人物なのだ。彼がいないことは、『イニストラードを覆う影』ブロックで欠けているものについての質問の中でも最も多いものの1つなのである。

 ストーリー・チームは一覧から可能な限り多くのプレインズウォーカーを登場させようと尽力しているが、同時にそれぞれに意味があるようにして、物語上で役割を持たせようとしているのだ。デザインがただ使いたいからといってメカニズムを作らないという話をしたが、ストーリー・チームもただ登場させたいからといって人物を登場させたりはしないのだ。

 私は、ティボルト・ファンの諸君に向かって宣言しよう(諸君が想像するよりずっと多いのだ)。ストーリー・チームは、注目するべき登場人物の一覧の中にティボルトの名前を刻んでいると。

 合体カードが3組しかないのは「安全に扱う」ため?

 合体は非常に価値の高い資源である両面カードを用いている。我々はその開封比を『イニストラードを覆う影』と同じに保ちたかったので、使える両面カードの数は限られることになった。また、合体カードは1種ごとに両面カードの枠を1枚分ではなく2枚分使ってしまうのだ。デザインでは、『異界月』リミテッドで低レアリティの合体カードが重要な役割を果たすようにできるかどうか、いろいろと試してみた。

 最終的に、我々はこのメカニズムを構築でより有用になるようにして、リミテッドで安定しすぎないようにした。低レアリティの合体コンボを1つ残したのは、リミテッドでもたまには合体できるようにして、ただしそれが安定したものではなく特別なものになるようにしたのだ。

 もう1つ大きな因子が、必要なだけ散らすのにどれぐらいの量が必要なのかである。このメカニズムのカードはどれも同じように動くことになるので、デザイン空間はそう広くない。入れる量を少なくしてもマジックがこの分野で冒険することを見たいプレイヤーは興奮してくれるだろうが、そう、少ないほうが失敗したときのリスクは小さくなるのだ。

 結局のところ、我々はメカニズムのことを再利用可能な資源だと理解している。合体カードが大成功を収めたら、我々はその先に進むことができる。『異界月』に少数だけしか入っていないことは、問題ではないのだ。

 青単だったタミヨウがなんでバント3色になったんですか?

 先週説明したとおり、青単色からバント(緑白青)へのこの変化は物語や人物性によるものではなくデベロップ的な理由からのものだ。我々がブロックごとに登場させるプレインズウォーカー・カードを5枚に絞っているのは、デベロップが強調しやすいようにするためである。タミヨウには物語上の役割はあっても、このブロックでプレインズウォーカー・カードになる予定はなかった。他のプレインズウォーカー・カードになっている面々に比べて役割は小さかったのだ(そして《アーリン・コード》は、色のバランス上赤緑のプレインズウォーカーが必要だったから存在していたのであり、この枠はどうやってもタミヨウの枠にはならないということにも要注意である)。

 我々はタミヨウをどうしてもプレインズウォーカー・カードにしたかったので、そのためにできることを探した。そして得た答えが、充分狭くすればスタンダードにおけるプレインズウォーカーのバランスを複雑化することなく推すことができる、というものだった。タミヨウを3色にすることがその最適な方法だったのだ。「なぜ3色になったのか」の答えは、そうしなければタミヨウをプレインズウォーカー・カードにできなかったから、である。3色のプレインズウォーカー・カードにするかカードにしないかという選択を受けて、どの色がフレイバー的にもっとも相応しいかを考えたのはストーリー・チームだった。なぜなら、ストーリーを語る上でもタミヨウがカード化されていたほうがよかったからである。

 それよりも重要だったのは、マジックはまず第一にゲームだということである。いかに物語やフレイバーが重要になったとは言っても、そして我々がどれほど時間をかけてメカニズムをフレイバーにそぐうものにしているとは言っても、ゲーム内でカード化されることによる制限が存在する。なぜそうしているのかを理解する助けになるよう、私はこうして舞台裏でのあらゆる選択の理由を語っているわけである。

 これらすべてを踏まえて、質問に答えよう。そうすることで最高のマジックを作ることができるから、である。

 現出は、献身(クリーチャー〕の見直しとしてデザインされたんですか?

 現出は古いメカニズムから着想を得たものではあるが、興味深いことに元ネタは献身ではない。元ネタとなったのは『神河謀叛』の忍者のメカニズム、忍術だった。そのアイデアは、戦闘中に新しい形に変態することで相手を驚かせるメカニズムを作る、というものだったのだ。クリーチャー戦にすることは結局うまくいかなかったので、デベロップ・チーム(このメカニズムはデベロップ中に作られたものだ)はいろいろな調整を試み、現在の献身に近い形に落ち着いたのだった。

 今後のセットやブロックで増呪を見ることはできますか? かなりのデザイン空間があり、イニストラードで捨てるのはもったいないです。

 モードを持つ呪文のデザイン(特にモードを3つ持つもの)のデザインは、諸君が考えるほど簡単ではない。効果の種類は限られており、それぞれ3つ必要なので、すぐに使い尽くしてしまうのだ。増呪は、どのセットでも多用できない類のメカニズムなのだ。つまり、時々なら、効果の組み合わせを変えることで再利用できるということである。さて、増呪を再利用するか、という話だが、それはこのメカニズムの評価による。歴史を振り返れば、モードを持つ呪文は諸君に愛される傾向にあるので、おそらく増呪も成功することだろう。

 通常の裏面で両面カード2枚分のオモテのカードをトークン型の代用カードとして印刷できませんか?

 問題は、合体クリーチャーとトークンの間には機能的な違いがあるということである。例えば、合体クリーチャーをバウンス(オーナーの手札に戻すこと)したとき、合体カード2枚がオーナーの手札に戻る。トークンをバウンスしたら、それはゲームから消滅して誰の手札にも入らない。つまり、そのカードはトークンではありえない、奇妙な分類のカードになってしまう。私はルール・マネージャーではないので何とかできるかどうかはわからないが、おそらく、ほとんどの諸君が考えるよりも複雑な問題なのだろう。変異や予示のためにマーカーを作ったことがあるが、そういう方向でなら可能かもしれないな。

 エムラクールの影響を吸血鬼は受けてゾンビは受けないのはなぜです?

 吸血鬼はほとんどの世界ではアンデッドだが、イニストラードでは文字通りのアンデッドではないと思われる。生まれ方が違うのだ。そのため、ソリンは吸血鬼でありながらプレインズウォーカーの灯を持っているのだ。

 「エルドラージ・狼男」が通常の狼男と違う(怪物化のような)メカニズムで変身するのはなぜ?

 我々は『異界月』では(ウルリッチを除き)両面カードを闇の変身ではなくエムラクールによる変質を表すために用いることにした。それでも、狼男デッキに使う狼男を増やすために狼男は必要だったので、ここで問題が生じた。エルドラージ・狼男をどうしたらいいか、である。

 我々が使っていたお決まりの手法は、『異界月』の両面カードの第1面を、最初からそれまでの両面カードでの変身後の姿にするというものだった。つまり、第1面が狼男になる。そして、現在の狼男のメカニズム(呪文が唱えられなかったら変身し、2つ唱えられたら戻るというもの)は満月の訪れによる自然の変身を表していた。今回のカードはその変身を表していないので、このメカニズムは使いたくなかったのだ。

 解決しなければならない問題は、エルドラージ・狼男を他の狼男と組み合わせてうまくプレイできるようにしたい、というものだった。また、変身の違う形も必要だった。では、クリーチャーが狂気に陥り、意志と関係なく変質してしまうというのはどうだろうか? つまり、『異界月』の狼男は(ウルリッチは別だ)マナを支払って変身するのだ。これは、呪文を唱える以外のマナの使い方を提供して通常の狼男の変身を助けることになるので、旧来の狼男とも相性がいい。我々はプレイテストをおこない、そしてこの2種類の狼男はうまく噛みあうということがわかった。これが、変身条件が異なる理由である。

 ずっとエルドラージの話が続くの?

 いいや。ゲートウォッチは続くが、今後も他の脅威と遭遇することになる。エルドラージは二度と登場しないとは言わないが、今すぐにプレインズウォーカーたちが戦うのはまた別の大敵である。その中には既に登場したものもいれば、初登場となるものもいる。

 『異界月』(や『イニストラードを覆う影』)でガラクのことは検討しましたか?

 私の知る限り、していない。物語に登場するプレインズウォーカーは既に多かったので、ガラクの物語に加える必要はなかった。確かにイニストラードはガラクが呪われた場所なので、イニストラードを舞台にしてガラクに重要な役割を与えてブロックを作ることはありうると思うが、それはこの『イニストラードを覆う影』ブロックで語られたものとは大きく異なる物語になるだろう。

 伝説の狼男が登場するまでにこんなに時間がかかったのはなぜですか?

 何が起こったか説明しよう。我々が『イニストラード』ブロックをデザインした時、伝説の狼男についての議論はあったのだが、その動きの処理が気に入らなかったのだ。例えば、人間の面でプレイして、変身させて、その後また人間の面をプレイしたとする。2枚目の人間が変身したら、そのどちらかは死んでしまうのだ。そういうことで、伝説の狼男を作らないことにしたのだ。

 『イニストラード』が発売されて、プレイヤーは声高に伝説の狼男を求める声を上げた。問題は、世の中に『イニストラード』が公開された時には、『闇の隆盛』の作業は既に終わっていたということである。もはや伝説の狼男を加えることはできなかったのだ。そして、『アヴァシンの帰還』では、すべての狼男はウルフィーになるのでやはり登場できなかった。

 狼男の大部分は両面カードであり、我々はイニストラード以降には狼男がいる他の世界を作ってこなかった。つまり、伝説の狼男を登場させる最初の機会が『イニストラードを覆う影』ブロックだったのだ。ウルリッチは最初は第1セットに登場する予定だったが、神話レアの赤緑狼男を2枚入れたくはなかったので、《アーリン・コード》を『イニストラードを覆う影』に入れられるように、ウルリッチを『異界月』に送ることにした。確かに時間はかかったが、(ほぼ)最初の機会に登場させたのである。

 エムラクールのパワー/タフネスを変更したのはイニストラードの13テーマに合わせてですか? ほかは変わっていませんよね。

 我々が人物を再訪するときの目標は、その新カードが旧カードと似た雰囲気になるようにすることである。完全に同じにする必要はない。2枚のカードが同じクリーチャーを表していると感じられればいいのだ。そのため、パワーやタフネスを完全に同じ値にする必要は感じなかった。おおよそ同じならよかったのだ。そ、エムラクールが13/13になったのはイニストラードが舞台だからである。コストが13マナというのも同じ理由だ(気づいていない諸君のために説明しておくと、マジック史上に点数で見たマナ・コストが13のクリーチャーというのは存在しなかったのだ)。

 我々はエルドラージの巨人をそれぞれ別個に扱っているので、質問のようなことは考えていなかった。考えていたなら、ウラモグかコジレックのサイズを変えておき、エムラクールのサイズが同じままで帰ってくるという予測が生じないようにしていたことだろう。

 あなたは《寄付》を失敗だと思っているのに、なぜ《無害な申し出》は失敗でないの?

 2つ問題がある。まず、マジックは1人で作っているものではなく、1人がマジックに関するすべての判断をしているわけではない。確かに私は《寄付》を失敗だと思っていて、《無害な申し出》を印刷するときにはハラハラしたが、『異界月』を素晴らしいセットにするために非常に尽力した多くの人々がいて、彼らの多くは《無害な申し出》が必要だと判断したのだ。

 2つ目に、私の最大の問題はデベロップ上のものだということである。《無害な申し出》のようなカードは、欠点を悪用することを簡単にする。我々は欠点のあるカードを、その欠点に見合うだけ強くしている。《無害な申し出》はその欠点を対戦相手への攻撃に変えることができうるのだ。理論上、これは悪用できるものだ。しかし、デベロップはそのことを把握しており、《無害な申し出》が何も悪さをしないようにプレイテストをしたのだ。《寄付》で起こったようなことは起こらない。つまり、《無害な申し出》に危険性はあるが、それは他のカードにもあるし、私は印刷しても大丈夫だと判断したデベロップのことを信頼しているのだ。

様々な質問が

 本日はここまで。だが、まだ答えていない質問が大量に存在する(「その1」というのはヒントだ)。いつもの通り、今回の記事や『異界月』についての諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『異界月』の「こぼれ話」その2でお会いしよう。

 その日まで、あなたが『異界月』をプレイしてさらなる疑問に出会いますように。

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