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Making Magic -マジック開発秘話-
無欠の心のエターナル
無欠の心のエターナル
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2016年5月23日
『エターナルマスターズ』プレビュー週間へようこそ。今週は、エターナル・フォーマット、つまりヴィンテージとレガシーの歴史を見ていき、『エターナルマスターズ』のデザイン・チームを紹介し、『エターナルマスターズ』をどのようにデザインしたかを語り、そしてプレビュー・カードをお披露目しよう(ヒントを出そう、このプレビュー・カードをデザインしたのはこの私だ! あまりヒントにはなっていないか)。楽しそうだと思ってくれた諸君は、このまま読み進めてくれたまえ。
遠い遠い昔
私は、この「Making Magic -マジック開発秘話-」をマジックの歴史コラムでもあると考えるのが好きだ。『エターナルマスターズ』は過去を振り返る商品なので、今日の記事の出だしでヴィンテージやレガシーといった最も名高いエターナル・フォーマット2種(統率者戦も厳密に言えばエターナルだが、これは別枠としている)の今日までの歩みを見ていくことが重要だと考えている。これを理解するために、タイムマシンに乗って1993年に戻ることにしよう。
マジック:ザ・ギャザリングが誕生したのは、1993年の夏であった。ルールブックには、デッキにどのようなものを入れられるのかという情報はほとんどなかった。カードの制限はなかった。必要であれば、同じカードを何枚でも入れることができたのだ。実際、『アルファ版』当時の《疫病ネズミ》のデザインは、大量にデッキに入れることを強く意識していたのだ。ルールに定められていたのはデッキ枚数であった。マジックのデッキの枚数に上限はなかったが、最少枚数は決まっていて......40枚だった。そう、マジックができたとき、デッキの最少枚数は40枚だったのだ。当時はリミテッドという概念はなかったので、この40枚というのは構築環境について定められたものである。
初期の頃は、ウィザーズ・オブ・ザ・コーストはあまりイベントを運営していなかったが、他の主催者が運営しており、40枚というデッキ枚数、同名カードの枚数制限無しには問題があるということがわかった。すぐに、デッキ枚数は60枚、同名カードは4枚というルールに変更されたのだ。1994年のはじめに、デュエリスト・コンボケーション/Duelists' Convocation(後に「インターナショナル/International」が追加されてDCIとなった)が設立され、最少60枚と4枚制限はイベント規定の一部となり、その後、マジックの公式ルールの一部となった。リミテッドが登場すると、40枚制限がここで採用されることになった(リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldの初期の計算の中では、カジュアル・プレイはシールドデッキのようなものを想定していた。プレイヤーがそれほど多くのカードを買うとは想定していなかったのだ)。
1994年当時、フォーマットという考え方はまだ存在していなかった。マジックのプレイ方法は1つだった。シールドというプレイをする人々は現れたが、構築イベントはすべて同じマジックだった。どのカードでも使うことができたのだ。禁止制限リストはあったが、それ以外ではどのカードも使えたのだ。そして1995年が訪れた。
『アイスエイジ』の発売を目前にして、開発部はある問題に気がついた。リチャードは、プレイヤーがマジックに費やす資金は平均的なボードゲームと同程度だと考えていた。つまり、プレイヤーの所有するカードはそれほど多くない、ということになる。非常に強力なカードを1枚手に入れることはあっても、そういった破壊的なカードはレアなのでデッキに3枚以上も入ることはなく、マジックの多様性、そして弱いカードを混ぜることで、そういった強力すぎるカードは確率的に無視できると考えていたのだ。
問題は、そのリチャードの予想が外れていたということであった。プレイヤーはわずかのなパックだけを開けるということはなく、ブースターパックをボックス単位で購入した。つまり、プレイヤーは強力なカードだけでデッキを組むことができたのだ。リチャードはその可能性に気づいていたが、「そんなことはマジックがものすごく成功しないかぎりありえない。そうなったら、その時には解決しなければならないだろう」と言っていたのだ。そして、「その時」がやってきたのだった。
長期的な解決策は、カードパワーの平均を調整することだった。パワーナイン(『アルファ版』の、《Black Lotus》《Ancestral Recall》《Time Walk》《Timetwister》《Mox Pearl》《Mox Sapphire》《Mox Jet》《Mox Ruby》《Mox Emerald》)は、4枚デッキに入れると強すぎた。問題は、新カードのパワーレベルを下げているので、新しいカードではこれらの古いカードに太刀打ちできないだろうということだった。唯一の解決策は、競わなくていいプレイ方法を作ることだった。こうして、フォーマットという考え方が導入されたのだ。
《Black Lotus》 アート:Christopher Rush |
この時点でマジックにはタイプ1、タイプ2の2つのフォーマットが存在することになる。タイプ1は今までどおりで、禁止制限リストに従う限りどのカードでもプレイすることができる。ライプ2は、直近2年のカードだけに制限するというものだった。このフォーマットでは、直近2年しか扱わないので、カードのローテーションが起こるのだ。はじめてタイプ2が告知された時、プレイヤーからは完全に軽視された。「自分のカードが使えないフォーマットに、一体何の意味があるんだ」というのだ。
始めの頃は、タイプ1が主流で、タイプ2は新奇なものとして扱われていた。しかし時が流れ、新しいエキスパンションが発売されていくと、新しいプレイヤーは初期のセットを手に入れることができなくなっていった。そこで、新しいプレイヤーたちはタイプ2に重点を置くようになっていったのだ。それでもなおタイプ1を好むプレイヤーはいた。タイプ2の比率がさらに大きくなっていっても、タイプ1の熱烈なファンは存在している。
さて、少し時計を進めよう。年々タイプ1とタイプ2の差が広がっていくと、タイプ2よりも大きく、タイプ1ほどのパワーレベルにはなっていない(そしてまず手に入れられないようなカードを手に入れる必要がない)フォーマットを求めるプレイヤー集団が現れ始めた。その解決策が、タイプ1.5と呼ばれる新しいフォーマットである。タイプ1のカードプールで、ただし制限禁止リストにあるカードすべてを禁止するというものだった。
タイプ1はその後何回か名前を変えながらも、最終的には現在のヴィンテージになっている。タイプ2はもちろんスタンダードだ。タイプ1.5は、2004年にヴィンテージの制限禁止リストを流用するのではなく独自の禁止リストを使うようになった。そこには、ヴィンテージでは問題ないがタイプ1.5では問題になるカードが含まれている。このフォーマットはその後、レガシーと改名された。
時が流れて、ヴィンテージとレガシー、それにいくつかの人気のないフォーマットをまとめてエターナル・フォーマットに分類された(これらのフォーマットには、禁止や制限を受けていない限りマジックのあらゆるカードが含まれるのだ)。統率者戦が成立すると、これもエターナル・フォーマットに含まれることになった。『エターナルマスターズ』という名前の由来は、ここにあるのだ。
エターナルのマスターたち
歴史の話が終わったので、いよいよ『エターナルマスターズ』の話を始めよう。『エターナルマスターズ』は通常のマジックのエキスパンションとは少々異なるが、デザイン・チームは存在している。
トム・ラピル/Tom LaPille(リーダー)
デベロッパーがリード・デザイナーを務めるのは異例だが、デザインという面で見れば再録商品は少しばかり普通ではない。カードは既に存在しているので、『エターナルマスターズ』のようなセットをデザインするというのは何かを一から作り上げるというよりも環境のバランスを取るということのほうが重要なのだ。もっとも近い類例を挙げるなら、キューブの作成であろう。そしてトムはキューブづくりで名を馳せており、そもそも開発部に在籍するようになったのもそのおかげなのだ。この商品を最後にトムはウィザーズを離れて同業他社に移籍した。トムを失ったのは残念だが、我々はこの最後の商品でトムを思い出すことができるのだ。
イーサン・フライシャー/Ethan Fleischer
イーサンはいろいろな意味で『エターナルマスターズ』と近い『Vintage Masters』(「Magic Online」独自の商品)を手がけていた。『Vintage Masters』に関するイーサンの調査の多くが、『エターナルマスターズ』を作り上げる上で重要だったのだ。イーサンはほとんどの時間、新カードをデザインしているので、今回の古いカードを組み合わせてセットを作るという課題を楽しんでいた。イーサンはマジックのデザインに関する歴史家なので、ほとんどのプレイヤーが忘れている古いカードを見つけ、それをセットの中で活かすのが大好きであり、それはまさに『エターナルマスターズ』にふさわしい技術である。
アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe
マジック開発部上級ディレクターとして、アーロンはボスとしての様々な特権を有している。ただしその代償として、彼は望むほど多くのデザイン・チームやデベロップ・チームに没頭することができないのだ。しかし彼は少数のチームを選んで参加しており、『エターナルマスターズ』は彼がどうしてもデザインしたかったものだということになる。トムやイーサンと同様、アーロンは昔のカードのファンであり、この商品に入れるために隠された宝物を見つけることを非常に楽しんだのだ。
ブライアン・ホーリー/Bryan Hawley
ブライアンはデベロッパーである。彼の主な責任の1つは、対照調査の監修である。非常に重要だが難しく、退屈でつまらないことも多い仕事なのだ。ブライアンは数字に秀でており、『エターナルマスターズ』のようなセットには諸君が一見して気づくよりもずっと多くの数字の問題が含まれているのだ。今回の4人のデザイン・チームの最後のメンバーがブライアンである。
ゲーム、セット、マッチ
『エターナルマスターズ』のような商品に関して必ず受ける質問の1つが、それらのデザインと通常のセットのデザインの違いはどのようなものなのか、というものだ。もっとも違う部分は、入れることのできる既存のすべてのカードが手元にある状態から始まるということである。どの空間を掘り下げていくかではなく、既存のカードプールでどの空間を掘り下げることができるのかなのだ。例えば『エターナルマスターズ』に関して言うと、デザイン・チームは「この商品に入れた時、どのカードに一番興味があるか」という質問から始めた。《意志の力》や《不毛の大地》が確定したのは非常に初期のことなのである。
次の質問が、リミテッド環境を定義づける2色のアーキタイプとして想定しているものは何か、というものだ。これは少しばかり込み入った問題である。チームは、どんなテーマをサポートできるようにするかという提案を示すことから始めた。この時、通常よりも多少無理をすることにした。サプリメント・セットはニッチなユーザー向けなので、通常のセットで課されている制限の中には適用されないものもあるのだ。
例えば、『エターナルマスターズ』は比較的熟練したプレイヤーを対象にしている。つまり、この商品からマジックに触れるということは想定されていないので、通常のセットよりも「新世界秩序」に縛られていないのだ。また、このセットは昔のフォーマットの雰囲気を生み出すことを意図しており、古いカードを使わなければならないという制約もあるので、近年のセットに比べて、盤面の複雑さが大きくなるような複雑なアーキタイプを使ったり、低いレアリティに大きなカード・アドバンテージを得るカードがあっても問題ないとデザイン・チームは判断した。
チームは様々な2色アーキタイプを掘り下げていった。例えば、白青のテーマは一時期「スレイト・ナイト」アーキタイプで、プロテクションなどの色を参照する白のカードと、色の単語を永続的に書き換える青のカード(アーキタイプ名の由来にもなっている『アルファ版』の《臨機応変》など)を使っていた。このアーキタイプは充分なサポートが存在しなかったのだが、デザイン・チームは昔のマジックの相互作用を思い起こさせるような色の組み合わせを探していたのだ。
これらすべてはいくつかの大きな目的のために行われていた。第1に、これは『エターナルマスターズ』であり、古いフォーマットに該当するカードに寄せることになる。モダンで使用可能なセットからもカードを選ぶことはできたが、デザイン・チームは強力なモダンのカードは将来の『モダンマスターズ』セットに入れるために温存し、エターナル・フォーマットでうまくプレイされたカード、あるいはドラフトの軸となる古典的なアーキタイプでうまく働いたカードに焦点を当てたのだ。
チームは、どのカードが再録されたことがないか調査した。特に、新枠やプレミアム版がないものを探した。このセットの焦点は、古典的な「いいもの」を詰め込むこと、そして楽しく懐かしいリミテッド環境を作ることだったのだ。
私のデザインの1つ
私が最後にすべきことは、今日のプレビュー・カードをお披露目することだ。ちょっとしたお楽しみとして、そのカードがどのようにデザインされたかという話をし、諸君が一体何段落目でそのカードを当てられるか試してみようと思う。
このカードの話は、『テンペスト』のデザイン時期に遡ることになる。私は『ビジョンズ』のデベロップ・チームにいて、そして私はそこにあった《ヴィーアシーノの砂漠の狩人》というカードが大好きだった。
3マナで4/2のクリーチャーで、速攻を持っていて、プレイしたターンの終わりに手札に戻ってくるのだ(厳密に言えばすべてのターンの終了時だが、次のターンまで残すには小技が必要になる)。これは私の中のデザイナー魂を揺さぶる、クールなものだった(興味深いことに、このカードは何年もの後に疾駆メカニズムの元になることになる)。
それから1年も経たないうちに、私は『テンペスト』のデザイン・リーダーとなり、《ヴィーアシーノの砂漠の狩人》に触発されたカードを作ることを決めた。ただそれだけではない。《ヴィーアシーノの砂漠の狩人》のようなクリーチャー1体を作るだけではなく、すべてのクリーチャーを《ヴィーアシーノの砂漠の狩人》にできるとしたらどうなるだろうか。
こうして出来たのが、この最初のバージョンだ(混乱を防ぐため、テンプレートは今日のものに近づけている)。
〈電撃戦〉(バージョン1)
{1}{R}{R}
エンチャント
すべてのクリーチャー・カードを唱えるためのコストは{2}少なくなる。それらは速攻を持つとともに、ターンの終了時にオーナーの手札に戻る。
このコストを{1}{R}{R}にしたのは触発元のカードを記念したものである。すべてのクリーチャーに影響するようにしたのは、次のカードを参考にしたのだ。
私は《調和の中心》を使うための青緑ウィニー・デッキを長い間使っていて、その動きが好きだった。〈電撃戦〉のプレイテストをおこなったが、これは滅茶苦茶だった。まず、このカードの目的が明らかではなかった。コスト軽減があるので、3マナ以上のクリーチャーを使いたいとなるが、何度もクリーチャーを唱える必要があるので3マナよりかなり重いクリーチャーは使いたくない。つまり、デッキ構築が歪んでしまうのだ。
そこで私は再び考えた。一体、このカードの面白い部分はどこなのだろう。通常よりも早く大型のクリーチャーを唱えられるようにしたいのだ。一方で相手の計画を崩すようなものではないということもわかったので、自分のクリーチャーにだけ影響を及ぼすように変更した。
〈電撃戦〉(バージョン2)
{1}{R}{R}
エンチャント
あなたのクリーチャー・カードを唱えるためのコストは{3}少なくなる。それらは速攻を持つとともに、ターンの終了時にオーナーの手札に戻る。
この新バージョンで変更されたのは、注目されるマナ・コストだけだった(3マナから4マナに)。私が本当に必要だったのは、どんなクリーチャーでも唱えられるようにすることだった。また、望むならクリーチャーを普通に唱えることもできるようにしたかった。強制的に、1ターンしか残らないようにはしたくなかったのだ。そこで、クリーチャーを唱える代わりに、一定量のマナを支払ってそのクリーチャーを戦場に出すというアイデアを思いついた。それを実現に移すためには、もう少し深刻な欠点を与える必要があった。単に毎ターン巨大クリーチャーを唱えられるようにすることはできなかった。こうして、手札に戻すのではなく生け贄に捧げるようにすることが決まったのだ。
〈電撃戦〉(バージョン3)
{1}{R}{R}
エンチャント
{1}{R}:あなたの手札からクリーチャー・カード1枚を戦場に出す。そのクリーチャーは速攻を得る。ターン終了時に、そのクリーチャーを生け贄に捧げる。
このバージョンはうまく動いた。『テンペスト』には大量の要素が詰め込まれていたので、これは最終的には採用されなかった。1年後、私が『ウルザズ・サーガ』のデザイン・チームにいたとき、私はマナ・コストと起動コストを多少調整した〈電撃戦〉を再提出した。その結果が今日のプレビュー・カードである。
さあ、何のカードかわかっただろうか?
そう、今日のプレビュー・カードは《騙し討ち》である。このカードは非常に愛されるものになり、多くのデッキの主軸になった。ぜひこの夏、『エターナルマスターズ』でも楽しんでもらいたい。
永遠 の炎
本日はここまで。『エターナルマスターズ』の瞥見と、ヴィンテージやレガシーの歴史、そして《騙し討ち》のデザインを楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、諸君からのこの記事や『エターナルマスターズ』、各種エターナル・フォーマット、あるいは《騙し討ち》に関する感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、過去20年で私が学んだことについて掘り下げる日にお会いしよう。
その日まで、あなたの戦いが
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