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Making Magic -マジック開発秘話-
戦闘計画
戦闘計画
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年10月12日
「ゼンディカー人 vs エルドラージ」特集へようこそ! 今週は、『戦乱のゼンディカー』ブロックの中心となる対立について語っていく。私の記事では、2つの勢力の対立をデザインする方法について検証するのが良いと思われるので。もちろん『戦乱のゼンディカー』を例にして掘り下げていこう。
これが戦争だ
それでは最初に、ここで言う「2つの勢力の対立」とは何かを定義しておこう。それはつまり、2つのはっきり識別できる陣営が存在し、お互いにはっきりと区別されており、そしてお互いに何らかの戦闘という形で直接対立している、という物語がある、ということである。『戦乱のゼンディカー』で言えば、2つの陣営というのはエルドラージとゼンディカー人だ。それぞれはまったく違っていて、それぞれの持つ要求は対立している。エルドラージはゼンディカー世界を食べてしまいたい。一方のゼンディカー人は世界を食べられたくはない。世界を守るために、ゼンディカー人はエルドラージを止めなければならない。こうして対立が生じるのだ。
マジックは対立のゲームなので、ほとんどの物語には戦っている世界という要素が含まれている。2つの勢力の対立が独特なのは、そのセットの(ほとんど)すべてのカードが2つの陣営のどちらかに属するというところである。つまり、この対立を成立させ、補強するのはデザインの責任ということになる。2つの勢力の対立をデザインする上で守らなければならないことは、以下の5つだ。
1.メカニズム的に各陣営を定義づけること
最初にしなければならないのは、両陣営のメカニズム的独自性を作ることである。そのための最適な方法は、各陣営が何を表すのかを決定することである。『戦乱のゼンディカー』では、両陣営は既に存在していたので、独自性を作るのではなく、既に存在する独自性を強めるためにどうメカニズムを使っていくかが重視されることになった。
私が普段使っている方法では、陣営を表す単語を選ぶことから始める。たとえば、エルドラージについて、私は5つの特徴で定義づけた。
- 古の ― エルドラージは存在する中で最古のクリーチャーの一群である。
- 巨大な ― エルドラージは物理的に非常に大きい。
- 異質な ― エルドラージの最も恐ろしいところの1つが、理由がわからないので予測ができず、通常の思考回路では理解できないので計画を先読みすることもできないということである。
- 相互接続した ― エルドラージはお互いに奇妙な繋がりを持っている。別々の個体として存在するのではなく、全体で1つの存在であり、その部分部分として存在するのだ。
- 飢えた ― エルドラージ、特にウラモグは、満たされることのない貪欲さを持っている。いずれは次元さえ食べてしまうのだ。
これらの特徴を定めることで、デザイン・チームはこれらの属性を表現するメカニズムやメカニズム的テーマを割り当てていくことができるようになった。エルドラージの5つの特徴をメカニズム的に表現したら次のようなものができる。
- 古の ― 無色であることがエルドラージの古さを物語っている。有色のマナよりも古い存在なのだ。
- 巨大な ― エルドラージ、特に中枢に位置するエルドラージは、パワーやタフネスが大きい。
- 異質な ― 嚥下と昇華者は追放領域を弄ぶものであり、通常ではあり得ない。
- 相互接続した ― 末裔は巨大なエルドラージを呼び出す助けとなるし、追放する効果すべてが昇華者の助けとなる。
- 飢えた ― エルドラージはいろいろなものを追放するが、これはエルドラージの限りない飢えを表している。
《不快な集合体》 アート:Chris Rallis |
ゼンディカー人の側についても、同じようなことをしている。
- 必死 ― この物語の始まる時点で、ゼンディカー人にとっては最悪の展開となっている。そして彼らはここでエルドラージを止めなければ世界が破滅するということを理解している。
- 執拗 ― ゼンディカー人には失うものは何もないので、全てを戦いに捧げることになる。
- 協力 ― 違いを乗り越え、ゼンディカー人は共通の敵に立ち向かうべく協力するしかない。
- 小さい ― エルドラージと比べて、ゼンディカー人は小さい存在である。
- 大地に繋がっている ― ゼンディカー人の数少ない優位の1つが、その世界と強い繋がりを持っていることである。幸いにも、前回の『ゼンディカー』で学んだとおり、ゼンディカーの土地は心を持っているのだ。
これをメカニズム的に表現するとこうなる。
- 必死 ― ゼンディカー人はより速くなるようにデザインされている。
- 執拗 ― ゼンディカー人は比較的アグロ寄りで、攻撃を推奨する上陸を使う。
- 協力 ― ゼンディカー人には結集メカニズムがあり、大量の同盟者を一緒に使いたくなるようになっている。
- 小さい ― ゼンディカー人はエルドラージより明確に小さい。
- 大地に繋がっている ― ゼンディカー人には、上陸と覚醒という土地とシナジーを持つ能力がある。
この練習を通して、各陣営のフレイバーを補強するような形でメカニズム的に振る舞う陣営を作る方法を学べるだろう。
通常、この技術によってメカニズムを各陣営に配分することになる。たとえば、『戦乱のゼンディカー』のメカニズムはそれぞれがゼンディカー人かエルドラージかのどちらかに分類される。両方にまたがるものは存在しない。ただし、両陣営にまたがるメカニズムを作ることも可能であるが、その場合にはその使い方が陣営によって違うようにする方法を探す必要がある。この好例が変異である。『タルキール覇王譚』には5つの陣営があったが、変異はそのすべての陣営が使ったメカニズムであった。その使い方によって、陣営を差別化していたのだ。
2.各陣営内部にメカニズム的シナジーを作ること
陣営ができたら、次にすべきことはその陣営に存在するメカニズム的要素の組み合わさり方を決めることである。陣営にまとまりを感じさせるための重要な方法の1つが、その陣営を構成する要素にメカニズム的シナジーが存在するようにすることである。それでは、『戦乱のゼンディカー』の2つの陣営について見てみよう。
エルドラージのメカニズム的関連性は、全てのエルドラージが、脅威であるか、あるいは脅威を使いやすくするカードであるということである。エルドラージには巨大で脅威となるクリーチャーが多数存在する。エルドラージ・末裔・クリーチャー・トークンが含まれるのは、末裔には2つの重要な役割があるからである。1つ目が、重いエルドラージを唱える助けとなる無色マナを出すこと。2つ目が、相手の脅威をチャンプ・ブロックして、巨大エルドラージを出せるようになるまでの時間稼ぎをすることである。同様に、我々は追放をエルドラージがものを食べることを表すために使い、その後でそのリソースを活用できるようにするために一連のクリーチャーを作った。それが昇華者である。
《培養ドローン》 アート:Cynthia Sheppard |
ゼンディカー人側では、それよりもアグロ寄りになるように計画した。ゼンディカー人は比較的小さく、従って唱えるのにかかるコストも軽い。上陸と結集の両メカニズムは攻撃を推奨するためのものだ。結集を使うためには多くの同盟者が必要で、従って使う色も多くなる。そうなると、収斂も使いやすいデッキになる。一方、土地を軸にしたメカニズムを使うためには土地を多く出すことになり、マナにも覚醒呪文の対象にも困らなくなるのだ。
提示された物語に沿ってプレイしたがるプレイヤーもいるということを意識することは重要である。2つの陣営を提示したなら、そういったプレイヤーはどちらか一方の陣営を選び、そしてそれをプレイする。各陣営のすることを明確に提示するようにして、それを助けるようなものを入れることで、物語をたどろうとするプレイヤーが期待するようなゲームプレイ体験をもたらすことができる。
3.両陣営に明確な差を作ること
両陣営を作り、それぞれに個性を持たせたなら、次はその2つの陣営の関連性を決めていくことになる。通常、これはメカニズム的な対比を通して表される。もちろん、各陣営が違うものだと感じさせる必要がある。ここでは、その違いは相手との対比で考えるべきだということを示していく。
たとえば、エルドラージは大きくて遅い、という個性を作った。このことを踏まえると、ゼンディカー人はその逆、つまり小さくて速いということになる。こういった関連性が、そのセットのゲームプレイを定めていく助けとなるのだ。エルドラージはコントロール寄りになる。強大だが登場するのに時間がかかるのだ。ゼンディカー人はアグロ寄りだ。速いが、息切れしてしまう。この対比から、この両陣営の対立の本質をゲームプレイを通して表すことができるのだ。
通常、各陣営にさまざまな側面を持たせたいものなので、対立は1つだけではない。エルドラージとゼンディカー人のもう1つの対立の要素が、色の扱いである。エルドラージは(開発部いわくの「真の無色」(不特定マナ・コスト)か欠色かはともかく)無色であり、また無色であることを意識するという強いテーマを持つ。それと対照的に、ゼンディカー人は色を意識する。それを表すのは収斂メカニズムと、ゼンディカー人のメカニズムが追加の色を散らすことを推奨することがあるという事実である。
ユーザーに、各陣営が何を表していてどう対立しているのかを理解してもらうことが重要である。ゲームプレイを通してその対立が色濃く描かれていれば、プレイヤーにその両陣営がなぜ、そしてどのように対立しているのかを理解させる助けになるのだ。
4.各陣営に相手と戦う方法があるようにすること
メカニズム的な対比を作ったら、次は各陣営が相手に対処するために必要な道具を持っているようにする必要がある。一方の戦略が、他方には対策できないものだったとしたら、プレイヤーはその勝つ側に集まることになり、ゲームプレイに問題が生じる。対処する方法は2つあり、私はそれをマクロ的解決法とミクロ的解決法と呼んでいる。よいデザインのためには、両方が必要なのだ。
マクロ的解決法は、両陣営の戦略に相手側が突ける欠点があるようにすることである。たとえばエルドラージは立ち上がりの遅い、ゲームのコントロールを確立しようとするようなデッキである。このスタイルには必然的な欠点があり、安定しなければならない、つまり高速の対策戦略には弱いのだ。それに対して、ゼンディカー人の戦略はアグロ寄りになる傾向にある。相手が巨大な戦力を揃えるまでの時間稼ぎに成功すれば、ゼンディカー人側は窮地に陥ることになる。
マクロ的解決法は、両陣営の戦略を比べたときの関わりそのものである。各陣営には勝利手段と同時に、相手の戦略に対する弱みが必要なのだ。そうすることで、ダイナミックな関係性が保証されるのだ。
ミクロ的解決法は、各陣営に相手側に対して特によく効くカードがあるようにすることである。たとえば、エルドラージは無色であることによって識別されている。従って、ゼンディカー人側には無色に対する対策カードが数枚入っているのだ。一方、ゼンディカー人側はサイズが小さい。そこでエルドラージ側には小さなクリーチャーをつまみ出せる対策カードを入れることができる。ミクロ的解決法の鍵は、各陣営に相手側に対する対策カードを与えるということなのだ。
ただ2つの陣営を作ればよいというものではなく、楽しくて相互作用のあるゲームプレイを生み出せるような大きな生態系を作ることを意識することが重要である。つまり、脅威となるものだけでなく対策カードを作る必要があるのだ。
5.両陣営の要素を組み合わせられるようにすること
この最後の工程は忘れられがちだが、もっとも重要なものの1つだ。マジックはトレーディングカードゲームである。つまり、カードを組み合わせることができるということはきわめて重要な要素なので、両陣営をうまく組み合わせられるようにすべきなのだ。これについて別の考え方をすると、プレイヤーの中にはどちらかの陣営に肩入れしてそちらだけをプレイするものもいるが、そうでない多数のプレイヤーは可能な限り強いデッキを組みたいと考え、陣営がどうとかは考慮しないものなのだ。
さらに加えて、現在のセットは何度も繰り返してプレイできなければならない。特にリミテッドではそうだ。各陣営がその中でだけ相互作用するようなものであれば、可能な組み合わせの数が大きく減ってしまうことになる。つまり、この最後の工程では、両陣営を組み合わせたプレイができるような相互作用を組み込むというわけだ。難しいところは、相互作用を強くしすぎて両陣営が協力しているかのようなフレイバーになってしまうことを避けなければならない、というところである。
『戦乱のゼンディカー』でこの部分をどうこなしているか、実際の例を見てみよう。エルドラージは全て無色であり、このセットに「無色テーマ」を持たせることができている。ゼンディカー人は全て有色だが、我々はゼンディカー人側にも無色性を忍ばせる方法を見つけた。その方法は、プレイヤーがあまり意識しないルールの中にあった。ゼンディカー人はゼンディカーの土地と通じているので、我々は覚醒メカニズムを作った。これはゼンディカー人が土地をクリーチャー化してともに戦うというものだ。ここで注目したいのは、土地は無色だということである。クリーチャー化した土地は無色のクリーチャーであり、エルドラージの「無色テーマ」カードで強化することができるのだ。つまり、エルドラージ・デッキで覚醒をプレイすることができるということである。
逆側を見てみよう。ゼンディカー人は非常にアグロ寄りにプレイすることになる。従って、ゼンディカー人側のデッキは「横に広げる」戦略、つまり小型クリーチャーを大量に並べる戦略を取るのが有利になる。この有利を活かすため、ゼンディカー人側には自分のクリーチャーを数えて全体を強化するカードが存在する。一方、エルドラージ側は大型のエルドラージ・カードを唱えるのに使うマナを生み出す助けとなる、1/1の末裔・クリーチャー・トークンを作る。この1/1のエルドラージ・末裔は、「横に広げる」戦略と相性がいい。つまり、エルドラージ側が覚醒カードを使えるのと同様に、ゼンディカー人側は末裔・クリーチャー・トークンを作るカードをプレイできるのだ。
《二人戦術》 アート:David Gaillet |
この手順の重要性をもっともよく示しているのは、前回扱った2陣営対立、つまり『ミラディンの傷跡』ブロックだろう。そのブロックでは、ミラディン人(元々ミラディンに住んでいた存在)とファイレクシア人(侵略してきた存在)という2つの陣営が存在した。デザインにおいて、私は重複する部分を作った。特に、蓄積カウンターを使うアーティファクトを大量に作り、それからコモンに増殖があるようにした。こうすることで、ミラディン人側は増殖カードを使いたくなるはずだ。その後、アーティファクトやクリーチャーを生け贄に捧げるというテーマを黒と赤に濃く与えた。こうすればファイレクシア・デッキのアーティファクトを増やすことができる。
残念だったのは、私がこの理由をきちんと文書化しなかったため、デベロップ中にその要素がかなり削られてしまったことである。最終的にできたものでは、ミラディン人とファイレクシア人はかなり隔離されてしまっていた。その結果、ミラディン人のデッキもファイレクシア人のデッキも似たものになり、ドラフトに問題が生じ、プレイが似通ったものになってしまった。これはつまり、どちらかの道を選んだら、その側をドラフトし続けるしかなかったからである。
この最後の手順があるからといって、どちらかの陣営に肩入れしたいというプレイヤーを妨害することにはならない。単に、他のことに焦点を置くプレイヤーが陣営に焦点を置かなくてもいいようにしているだけである。
良き戦いを
マジックのアーキタイプについて語るとき、デッキのスタイルについて語ることが多い。今日の記事では、デザインにおいてもアーキタイプが存在するという話をさせてもらった。ブロックごとに異なる陣営があり、それを作る上ではそれぞれ異なったことを意識する必要がある。2陣営の対立は毎回描かれる類のものではないが、マジックはその根本が対立であり、マジックのセットにおいて根幹となるアーキタイプなのだ。すなわち、デザインを作り上げるにあたって、その手がけているセットやブロックの種類や、それによって定まる構造を理解することが重要なのである。
今日の記事を楽しんでもらえたなら幸いである。いつものとおり、諸君からの感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、内容がないようの日に......もとい、内容が欠色の日にお会いしよう。
その日まで、あなたの選んだ陣営があなたとともにありますように(選びたいなら)。
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