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Making Magic -マジック開発秘話-
再び大いなる白の道を
再び大いなる白の道を
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年7月13日
知らない諸君のために言っておこう、私はカラー・パイが大好きだ。フレイバー的にもメカニズム的にもカラー・パイはマジックの根幹であり、その存在によってマジックに独自性を生み出す心理学的な噴出が生み出されているのだ。2003年、私は5色それぞれについて考察し、その理念を掘り下げる一連の記事を書いた。それから12年が経過し、色について、またその関わりについてより深く考察することができている。そこで、今回再び考察記事を書き、さらに深く掘り下げてみることにした(注:全ての色の中で、12年前の時点で最も正しく考察できていたのは白だと思う。しかし、特集を組む週の順番で白が最初なので、今回は白の記事になる)。
当時の記事の中で、私は6つの質問をしていた。今回も同じ質問をするが、当時は意識しなかった一面も掘り下げていこう。その6つの質問とは、次のようなものだ。
- その色の望みは何か? 最終的な目標は?
- その目標を達成するために、その色はどのような手段を使うのか?
- その色が意識するのは何か? その色が表すものとは?
- その色が嫌うものは何か? その色が否定するものとは?
- その色が友好色を好み、敵対色を嫌うのはなぜか?
- その色の最大の長所は何で、最大の欠点は何か?
最後に、前回と同じように、いかにも白だと言えるようなポップカルチャーのキャラクターを紹介する。
それでは始めよう。
《勇者の守護神》 アート:Steve Argyle |
その色の望みは何か? 最終的な目標は?
白は平和を望んでいる。
白は苦しみの世界を見て回っている。日々相争うあまりにも多くの存在がいるが、世界にはこの苦しみを解決するだけの資源がある。誰もが、(欲しい分だけではなく)必要な分だけ取るには充分なものが存在するのだ。苦しみは、全体よりも個人を優先することの結果として生じるものだ。
白は、生命がそれぞれに充足している、不必要な苦しみの存在しない世界を作ることを望んでいる。そのために重要なのは、各個体が自分個人にとっての不利益であっても集団全体としての利益となるような行動を取ることの重要性を知ることである。
この計画の問題点は、誰もが同じ目標を目指さなければ成功しないということである。誰かが他のこと、たとえば自分の欲望などを優先し始めたなら、この計画は霧消してしまう。つまり、白は団結の力を全体に理解させ、大局観に焦点を当てさせるために多大な努力が必要となるのだ。
白は、その意図を理解して共有できる相手を可能な限り多くしたいと考えているが、その大目標を達成するためには何人かの個人は調和のために諦めなければならないということも認識している。
《秘儀術師の掌握》 アート:Igor Kieryluk |
その目標を達成するために、その色はどのような手段を使うのか?
無数の個人に、同じ道を歩ませるためにはどうすればいいか? 厳格な構造を作ればいい。個人の手に大きな仕事を委ねるには、誘惑が多すぎるのだ。従って、白は規則と法を受け入れることになる。各個人がしていいことしてはならないことを明記してあれば、個人は想定通りに動くことになる。
この構造は2つに分類できる。道徳的法と社会的法である。道徳的法は、何が正義で何が悪かを定義する。ある行動が道徳的であり、従って推奨される一方で、他の行動は不道徳的であり、推奨されないものとなる。道徳的法は、個人に正しい考え、間違った考えの存在を理解させる上で重要である。これは、集団を優先することの必要性という大きな図を構成する。道徳的法は、守られなかった場合に長期的な懲罰が存在するということを内包しているのだ。
社会的法は、望まれない行動を弾圧するものである。Xという行動をすると即座の結果として、多くの場合は資源(たとえば金銭など)や自由を失うことになる。法に反した行動は、発覚したら即座に罰せられる。通常、社会的法は、警察や軍を通して、政治によって強制されるものである。
道徳的法は人々の考え方を制御し、社会的法が人々の行動を制御する。これら2つの構造によって、個人が集団の利益のために動くという枠組みが作られるのだ。
白の影響によって道義心という考え方が生まれるため、白の影響そのものは見えにくいということを言っておくべきだろう。正義と悪という概念は個人的な信条から名誉や騎士道といった理想に到るまで様々な形で定義づけられる。また、白は個人の調和を保つために罪と言った概念を用いることもある。
《拘引》 アート:Greg Staples |
その色が意識するのは何か? その色が表すものとは?
白が意識している様々なものについて、その理由とともに列挙してみよう。
宗教
道徳的法を教える方法はいくつもあるが、その中でも宗教は最も有効だということが証明されている。
軍隊
白は、強さの根源は多くの個人の協力であり、協力によって全体は各個人の力の合計よりもずっと協力になると信じている。軍隊は、個人である兵士が集まって強力な軍勢になるという典型例である。また、そのことは白の信じる、小さな者が集まって強力になる、数の力を表しているのだ。
法
社会構造は、統治者が法を作ることに基づいている。法は社会に存在する個人の行動を制御するための強力な道具なのだ。
法廷
法を作るという中には、それを適切に運用することも含まれる。
政治
法に効力を与えて必要な働きをさせるために、法を作り、解釈し、適用する力を持たなければならない。政治はそのための複雑な構造にすぎない。
統治
白に軍や法律、法廷、政治を認めているのが統治である。
共同体
集団に気配りをすれば、集団も個人の動機に気配りをするものだ。
名誉
白の定義によれば、「名誉」とは道徳的法の一種である。個人が、集団の理念の中で行動することを優先するようにするシステムである。
騎士道
これも道徳的法の一種である。
防御
白の全体的な理念は、集団の幸福にある。これを対立に適用すると、白は誰も傷つけられたくない、となる。加えて、防御においては白の長所である構造が武器となる。
自己犠牲
集団のためになるために個人のためになることを諦める必要があるとすれば、よりよい結果のために正しい行動とは自己を犠牲にすることである場合もある。
協力
集団の力は、協力できるということである。
光
白の信じるところによると、秘密は、実際は協力していないにも関わらず協力するふりをすることができてしまうものなので危険である。光は、あらゆるものを白日の下にさらすという白の要求を比喩的に表しているものであり、同時に白が好んで使う善と悪の対立を表すものでもある。この対立は白が好む枠組みにすぎず、黒は善と悪の対立という概念、あるいは道徳そのものを認めていない。
純粋
白は自身の理想を絶対のものと考え、灰色の中間部分があるということを認めない。面白いことに、白は白黒つけたがるのだ。
慈善
すべての個人に気を配る中で重要なのは、比較的持っている者が比較的持っていない者を助けることである。
戦略
構造は戦争やその他の対立にも有効である。各個人が大きな目的のために寄与するようにすれば、軍隊として成功できる。
組織
構造は自分の持っているリソースを把握する上でも有効である。
《重歩兵》 アート:David Gaillet |
その色が嫌うものは何か? その色が否定するものとは?
白は、大きな集団を守る上で邪魔になるあらゆるものを嫌悪している。中でも2つの大きなものが、身勝手さと無謀さである。身勝手さがあると、個人は自分の行動を意識しなくなり、他者を傷つける結果になる。無謀さがあると、個人は他者を傷つけることを気にしなくなる。この2つの問題は、白の用いる法に真っ向から反するものである。身勝手さは道徳的法を、無謀さは社会的法を台無しにするのだ。そのため、白は黒や赤と対立することになる。黒は身勝手さの、赤は無謀さの色だからである。
白は構造を守らなければならないという強迫観念に囚われており、詳細にこだわる色である。そのため、白は小さな問題にも大きく動揺することになる。白は、全ての法は守られなければならないと信じており、小さな違反も大きな違反と同等に扱うことがある。白はまた、全員の利益のことを考えるあまり、個人の損失を非常に深刻にとらえることもある。
《エメリアの盾、イオナ》 アート:Jason Chan |
その色が友好色を好み、敵対色を嫌うのはなぜか?
白は、青のことを注意深く考えることに価値を見いだす色だと見ている。青は、白と同様、詳細にこだわり、法則の力を認めている。白と青は、赤を共通の敵としており、衝動や感情の危険性を憂慮している。ただし、白は黒の友好色である青のことを、個人の寄与を白が認めるよりも高く評価していることを多少気にしている。白は、青が社会全体の完全化を個人の完全化よりも重視して欲しいと願っているのだ。
白は、緑のことを共同体の重要性を共有する色だと見ている。どちらも個人が世界の中で果たす役割が鍵だと考えている。白と緑は黒を共通の敵対色としており、回りの調和を意図的に妨害しようとする黒の身勝手を嫌っている。白の緑に対する危惧は、緑の野性的な面での赤とのつながりから来ている。緑は支配を失ってもいいと考えているように思われるが、それは白にしてみればトラブルのもとにすぎない。
白は、黒の、個人を重要視することを嫌っている。黒は身勝手で、不道徳で、残虐である。黒は他者を傷つけることを認めるだけでなく、能動的に傷つけることもある。黒は苦痛を与えることを楽しんでいる。黒は白が表現するあらゆる道徳的規範を踏み破ろうとしているように見える。黒が自分のやりたいようにやれば、個人は自分のことしか考えなくなり、大多数は傷つけられることになる。法において、白は暴力を否定するが、黒は白にとって例外となる危険なのだ。黒は、除去しなければ社会全体を殺してしまう癌である。
白は、赤の、不注意さを心配している。赤は衝動的で、感情に従い、そのため予測不能で無謀である。赤は法を気にも留めず、熟考することなく破る。赤は黒ほど嗜虐的ではないが、同等に危険である。白の法を台無しにすることで、赤は無政府状態をもたらし、個人を傷つけることになる混乱をもたらす。赤がそれ以上の危害をもたらす前に、制御しなければならない。
白/黒の対立は全体と個人の対立であり、赤/白の対立は混沌と秩序の対立である。どちらも、白の大局観への阻害を最小化するという最大の関心事に関わることである。どちらの場合にも、白は敵のことを危険の源だと捉え、個人が傷つけられるようになる前に止めなければならないと考えている。
《ミラディンの十字軍》 アート:Eric Deschamps |
その色の最大の長所は何で、最大の欠点は何か?
白の最大の長所は、その組織にある。白は細部にこだわり、あらゆる問題への解決策を持つ。白は法、政治、宗教などの複雑な基礎構造を組み上げており、それを最大限に活用して利益を得ている。白の力は、すべての支持者に均等に分配されており、どれか1つが特に重要と言うことがないので打ち破るのが困難になっている。最後に、白は小さな破片を組み合わせて、単なる合計よりもずっと強い力を生み出す方法を知っている色である。
白の最大の欠点は、構造にこだわることから来ている。白には柔軟性がなく、事前に予測していたことにしか対応できない。何か新しいことが起こったら大問題となる。柔軟性がないため、白は環境の変化についていくことができないことがしばしばである。白は、重要さが問われる一面を判断することができず、全てを均等に扱ってしまうこともよくあることである。
別の考え方を言えば、白の最大の長所は集団を活用することであり、白の最大の欠点は個人の力を軽視することである。
《議事会の密集軍》 アート:Wayne Reynolds |
ポップカルチャーにおける、白っぽい登場人物
12年経っているので、最近の登場人物を取り上げることにしよう。
バリー・アレン/Barry Allen (『ザ・フラッシュ/The Flash』)
バリーは稲妻に打たれ、化学薬品を浴びて、超速度を手に入れた。この能力で何をしたか? 悪用したり、自分の利益のために使おうとしたか? いや、セントラル・シティの市民を傷つけようとするものから街を守ったのだ。
タースのブライエニー/Brienne of Tarth (『ゲーム・オブ・スローンズ/Game of Thrones』)
まず、ブライエニーは騎士である。彼女は他者、彼女が善だと感じる者のために貢献を捧げた。彼女の言葉は彼女の誓いであり、彼女は常に高潔であろうとし続けている。さらに、彼女は誠実で気高く公正である。
タイリース/Tyresse (『ウォーキング・デッド/Walking Dead』)
ウォーキング・デッドのゾンビの氾濫の中で、白単色と言える人物は複数人おり、タイリースはその中の1人である。彼はゾンビといえども殺すのを好まず、常に他者を守ろうとしていた。特に、自分を守ることができない者を守ることに専念していた。
ジェームズ・ゴードン/James Gordon (『ゴッサム/Gotham』)
ジェームズ・ゴードンは、堕落した警察権力の中の誠実な警官である。彼は、たとえ利益があることが明らかだとしても、彼が信じる正義を曲げることはなかった。
アレクサンダー・ピアース/Alexander Pierce (『キャプテン・アメリカ/ウィンター・ソルジャー/Captain America: The Winter Soldier』)
ネタバレ(映画を見ていない諸君は読まないように)
アレクサンダーは白の敵役の好例である。彼は自分の行いが、何百万人を殺そうとも、世界を良くしていると心の底から信じている。
最後の1人は前回と同じ人物を、カラー・パイを表すための一番のお気に入りであるザ・シンプソンズ/The Simpsonsから紹介しよう(5人家族のそれぞれが各色にちょうど対応している)。
マージ・シンプソン/Marge Simpson
マージはシンプソン一家の道徳的中心であり、つねに家族全体の利益のことを考えている。彼女は構造を信頼しており、防御的で、もっとも自己犠牲の精神に富んでいる。
すべてが白になる
私が自分の仕事の中で気に入っている部分の1つが、カラー・パイと関わることである。つまり、カラー・パイについての記事を書くのはいつでも楽しいことなのだ。諸君の感想を聞かせてほしい。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、さらにヴォーソスやメルヴィン寄りの再訪をするときにお会いしよう。
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