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Making Magic -マジック開発秘話-
『マジック・オリジン』の起源 その1
『マジック・オリジン』の起源 その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年6月22日
『マジック・オリジン』プレビュー特集第1週にようこそ。一見すると、これは単なる最後の基本セットに思えるかもしれないが、実際にはそうではなく、これはマジックの新しい時代の幕開けなのだ。今週と来週の2週で、デザイン・チームを紹介し、デザインについて通して見ていき、そして新しいプレビュー・カードをお披露目することで『マジック・オリジン』から仄見えるクールなものの裏をお見せしようと思う。それでは早速。
『マジック・オリジン』の作者たち
私はデザイン記事の最初に、そのデザインを手がけた人々を紹介することにしている。そういうわけで、さっそく『マジック・オリジン』のデザイン・チームを紹介しよう。
ショーン・メイン/Shawn Main(リード)
いよいよ、喩えるならデザイナーを池に投げ込み、充分な水泳の練習ができていることを祈るべきときがやってきた。『マジック・オリジン』は、ショーンが初めてリードを務める大型セットである。彼は『コンスピラシー』でリードを務めたが、『コンスピラシー』は『マジック・オリジン』ほどの大型セットでもなく、マジックの主流であるスタンダードで使えるセットでもなかった。問題をさらに複雑にしていたのは、このセットの特徴は常に変化し続けており、デザインの途中でも大きな変化があったのだ(これについてはまた後で説明する)。その間を通して、ショーンは油断なく水泳を練習していたことを示し、素晴らしいデザインを作り上げたのだ。
私がショーンに初めて出会ったのは、第2回グレート・デザイナー・サーチのときだった。彼は最初のいくつかの試験を終わらせ、自作の世界と、その世界でしたいことを示す数枚のカードのデザインを提出するという課題に直面していた。一瞥したときから、私は彼の文章が突拍子もないもので実際のデザインに行き着くことはあり得ないとわかっていたが、ショーンの情熱と創造力は魅力的だった。彼は賢明で斬新な方法で、彼の世界の中核にある大きな瑕疵を気付かれないようにしていた。ショーンは5つの課題のうち2つで勝利し、その結果決勝進出の3人のうち1人に選ばれた。「おお、使い物にならない発想を相手にしてこれができるなら、彼にやらせてみるべきことがあるんじゃないか」と思ったのを覚えている。
そして『マジック・オリジン』のデザインに戻ろう。開発部は「助言」と呼ばれる新しい行程を始めた。光栄なことに、私は最初の助言者の1人となったのだ。私が割り当てられたセットは『マジック・オリジン』だった(私がデザイン・チームに参加していなかったからである)。助言者として、そして通常通りの主席デザイナーとしての立場から、私はこのセットのデザインについてかなり長い時間ショーンと話し合うことになった。喜ばしいことに、4年の時を経て、私がショーンに見いだしていた素質は開花していた。彼は優秀なデザイナーに成長しており、喜んでチームに迎えたいと思う存在になっていた。その片鱗は、諸君も『マジック・オリジン』で見ることができるだろう。
マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb
マークと私のつながりは奇妙なものだ。かつては怨敵(彼がルール・マネージャーで私が主席デザイナーだったときの話だ。ルール・マネージャーはすでにわかっている方法で物事をおこなおうとし、主席デザイナーは新しいことに踏み込もうとするものだ)で、その後で彼がデザイン・チームのマネージャーになったら共謀者(彼はデザイナーを管理し、私はデザインを管理するのだ)。マークは余暇を使ってパズルを考えたり解いたりしていたので、デザインが非常にうまくなっていた。本質的に、デザインというものはパズルを解くようなものなのだ。パズルを解く能力が必要なセットといえばこれなので(繰り返しになるが、詳しくは後述)、ショーンがマークをチームに招いたことを嬉しく思う。
アリ・レヴィッチ/Ari Levitch
アリはこのセットのクリエイティブ・チーム代理人である。通常もこれは重要な役目だが、このセットではまさに本質そのものなのだ。ショーン率いるチームは、5つの異なった物語が統合して1つの流れとなるようなセットを作る方法を見つけなければならなかった。クリエイティブはただ足し合わせればいいというものではなく組み立てる必要があるので、目的を達成するために、アリと綿密に協力する必要があったのだ。これは大きな目標だったが、他ならぬアリは素晴らしい仕事をしてくれた。セット全体を見ることができるようになったら、ただルール・テキストだけを読むのではなく、アートやカード名、フレイバー・テキストにも注目して、このセットが一体何なのかを理解してほしいと思う。
ニック・ダビッドソン/Nik Davidson
ニックは、開発部のデジタルチームにおいてエリック・ラウアー/Erik Lauerや私と同じような立場にある人物である。デジタルでしなければならないことに関する質問が大量にあり、ニックの仕事は大局観を持つことである。彼がこのチームに加わったのは、『マジック・オリジン』が『マジック・デュエルズ』(『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』と呼ばれていた製品の新バージョン)と有機的に関わっていたからである。{ マジック・デュエルズ』はマジックの新たな進化において重要な部分を占めているので、この2つの製品をつなぎ合わせるためには『マジック・オリジン』の中核にニックを招く必要があったのだ。チームの残りのメンバー同様、ニックは素晴らしい仕事をしてくれた(『マジック・デュエルズ』についてチェックしていない諸君はこちらを読んで『マジック・デュエルズ』について知っておいてくれたまえ)。
イアン・デューク/Ian Duke
イアンはこのデザイン・チームにおけるデベロップ代理人でもあり、デザイン・チームとデベロップ・チームの両方に参加している人物でもある(デザインの展望を伝えるため、デベロップ・チームのメンバーをデザイン・チームに入れるのだ)。諸君の多くは、イアンといえばプロツアーのコメンタリーでおなじみだろう。彼は素晴らしい洞察力を持ち、議論において最も必要な議題にスポットライトをあてることができるのだ。彼をデザイン・チームに招くのは私にとって喜びだが、ショーンも私と同じことを感じているのだ。
『マジック・オリジン』の秘密のオリジン・ストーリー
『マジック・オリジン』のデザインが始まったとき、通常の基本セットである『マジック2016』として計画されていた。最近のいくつかの基本セットは魅力的とは言い切れなかったので、ショーン率いるチームはこのセットに楽しい展開を加えることが求められた。このセットに、過去の基本セットよりも強い何らかのテーマを与える。そしてそのテーマに従ってセットを組み上げ、このセットにさらなる個性を与えるのだ。デザイン・チームは何度もブレインストーミングを重ねた。他のチーム、特にクリエイティブ・チームとも話し合い、そして確実に敵を打ち倒すことができると思われる武器を手に入れたのだ!
マジックには、敵となるプレインズウォーカーが何人も登場している。英雄の側に焦点を当てがちで、敵の方にはあまり注目してこなかった。では、邪悪なプレインズウォーカーに光を当ててみたらどうだろう? 通常の5人のプレインズウォーカーではなく、5人の邪悪なプレインズウォーカーを取り上げてみては? それを元に、セットのカードやテーマ、メカニズムを決めるのだ。デザイン・チームはこの発想を気に入った。クリエイティブ・チームも気に入った。開発部の皆が気に入った。さあスタートだ。
デザイン期間も半分にさしかかった頃、ショーンたちは敵をテーマにした基本セットを作っていた。いくつかの問題点が出てきていた。プレインズウォーカーは色ごとに均等にしたかったが、敵役は特定の色に偏っていた。2色のプレインズウォーカーのサイクルを作るという発想を手がけていたが、サイクルを仕上げるのに必要な白青のプレインズウォーカーがいないということに気がついた。カードになったプレインズウォーカーでは《滞留者ヴェンセール》がいるが、彼はすでに死んでおり、また敵役でもなかった。『タルキール覇王譚』ブロックでも白青のプレインズウォーカーを作る議論が進んでいた(後に《悟った達人、ナーセット》となる)。この人物が敵役であり得るので、そうなればこのセットに入れることができる。他の問題は、メカニズムを敵らしくする方法と、テーマにあった再録カードの選択だった。
《卓絶のナーセット》 アート:Mageli Villeneuve |
そして、大変化が必要だと開発部が知る日が来た。その大変化とは、昨夏に説明した2ブロック構造のことである。この変更の中に、基本セットは存在しなくなる、ということが含まれていた。『タルキール覇王譚』ブロックはすでに変えられないところまで進んでいたので、『マジック2016』が最後の基本セットになることになった。ショーン率いるチームはすでに独自性を出す方法を見つけようとしていたので、最後の基本セットにふさわしい花火をぶち上げてやればいい。
いや、話はそう簡単ではない。この変更によって、マジックの様々な側面で根本的な変化が起こることになる。物語もそうだ。敵をテーマにするのは魅力的だが、クリエイティブ・チームの持つ大局観とうまく組み合わせられない。また、デジタル側では、この変化によって『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』のあり方が変わり、『マジック・デュエルズ』になる。これらの理由から、最後の基本セットは最後であると同時に最初であるということになった。『マジック』が変身をとげる、この基本セットはそのお披露目となるのだ。ショーン率いるチームはそこまでの全てを破棄し、そして最初から始めることになった。すでに言ったかもしれないが、デザイン期間の半分は過ぎているのだ。
新たなスタート
セットを最初から始めるということが明らかになって、テーマは速やかに決まった。このセットが新しい物語の導入になるなら、登場人物をもう一度紹介する必要がある。最近のプレインズウォーカーは『ローウィン』以降登場してきている。いくつもの物語で登場しているが、彼らの来歴についてはほとんど語ってきていなかった。小説で触れているものはあるが、それだけだ。実際、選ばれた5人のプレインズウォーカー(ギデオン、ジェイス、リリアナ、チャンドラ、ニッサ)については、その中の1人の出身次元がわかっているだけだった(ニッサはゼンディカー出身だ)。このセットで、彼らのオリジン・ストーリーを語るのはどうだろうか?
ショーン率いるチームには課題があった。5つのオリジン・ストーリーをどうデザインに生かすのか。強いデザインの鍵は、中心となる展望を1つに絞ることだ。しかし、このセットでは5つのばらばらの物語を扱う必要がある。その方法とは?
そのための手法が、このセットでは5つのばらばらの物語を扱うのではなく、1つの物語の5つの側面を扱う、というものだった。それぞれの物語の中で、それぞれがプレインズウォーカーになる前の姿を描く。出身世界での姿を描き、彼らがなぜ問題を抱えているかを描くのだ。状況が悪化し、最悪の瞬間になる。そして彼らの灯が点り、彼らは初めてプレインズウォークするのだ。そして、彼らが新しい世界でそのキャラクターにテーマ的に関連した冒険を始める。その内容は、それぞれの出身次元での問題に関わっているのだ。
物語の大枠は、どれも同じ構造をしている。出身次元→灯が点り、プレインズウォーカーになる→新次元へ。このためには、各物語に2つの設定が必要となる。灯が点る前と、灯が点った後だ。我々はそれぞれのプレインズウォーカーを、その出身次元と、初めてプレインズウォークした先の次元で見ることになる。また、チームは各人物が灯が点ってプレインズウォーカーになる瞬間を表すクールな方法を見つけ出した。加えて、このセットのテーマは前進、成長、何かに変化すること、だと決まったのだ。
10個の世界という計画を思いついて、ショーンはある重要なことに気がついた。デザインとデベロップは10個の異なったドラフトのアーキタイプを作るために尽力しており、通例では2色の組み合わせを軸にしていた。10個の世界、10個の2色の組み合わせ。ドラフトのアーキタイプそれぞれを、別々の世界に関連させることができるのではないか。
ショーンは10個の世界、5個の出身次元と5個の最初に訪れた次元、という発想をクリエイティブ・チームに説明し、クリエイティブ・チームはこれを描きたい物語にふさわしいと考えた。クリエイティブ・チームが10個の世界がどこなのかをすぐに決めると、ショーン率いるチームはメカニズム的にそれらを決めていったのだ(詳しくは次週)。
灯の深さ
もう1つ喫緊の課題として、灯をどう描くかを決めなければならなかった。衆知の通り、プレインズウォーカーは生まれつきプレインズウォークできるわけではない。プレインズウォークできる可能性を持っているだけである。人生のどこかの時点で、強烈なストレスに晒されたとき、灯が点り、不随意のプレインズウォークが起こるのだ。そしてそれ以降は世界と世界を渡る方法を手に入れることになる。その瞬間までは、彼らは多元宇宙について何も知らないのだ。彼らの知る限りでは、世界は1つしかない。だからこそ、初めてのプレインズウォークは恐ろしいもので、精神を揺さぶる出来事なのだ。
アート:Chase Stone |
最初は、3つのサイクルを作るという計画だった。1つめが5人の灯が点る前の姿を描いた伝説のクリーチャーのサイクル。そして2つめは同じ5人の、今度はプレインズウォーカーとしてのサイクルで、灯が点った後の姿を描く。最後に、その灯が点る瞬間を描いたカードのサイクルである。最初の2つのサイクルは非常に直接的だが、灯が点る瞬間を描いたサイクルというのが問題だった。一体どうやってそれを描くことができるだろうか? チームは様々なデザインを試したが、どれもうまくいかなかった。
そして、ついに、正気とは思えない発想にたどり着いたのだ。灯が点る瞬間をサイクルにしなければいい。灯が点るのは、伝説のクリーチャーからプレインズウォーカーへの変化で描くのだ。伝説のクリーチャーのほうに、該当するプレインズウォーカーを探して戦場で置き換える能力があればいいのではないか。そしてそこからさらに一歩進めて、変身を変身メカニズムにして、サイクル2つを同じカードにすればいいのではないか。伝説のクリーチャーの姿を第1面に、プレインズウォーカーの姿を第2面にすればどうだろう?
『イニストラード』に両面カードはすでに存在していたので、印刷することはできるし、プレイヤーに強く拒絶されることなくブースターパックに入れることができることはわかっていた。ある日ショーンは私のところに現れ、チームでこの灯を表す最高の方法を見つけたと伝えてきた。彼はデザインを説明し、問題は、両面カードは『イニストラード』だけのものなのか、デザインの必要に応じて他のセットでも使えるものなのかということだった。私は、両面カードは道具であり、1つの次元に限られるものではない、と答えたのだ。
「この発想で行っていいということですか?」
「もちろんだ」
興味深いことには、この発想を聞いた人は皆一様に「それしかない」と答えるのだ。誰もがこの変身するプレインズウォーカーを気に入った。鍵は、この発想を表すデザインをどうするかだった。変身には条件が必要なので、デザイン・チーム(後にはデベロップ・チームも)はそれぞれの「灯が点る」助けとなるちょっとした目的を作ることに尽力した。そして、そのクリーチャー自身にその目的を達成する助けとなる手段を与えたのだ。
プレビュー・カードがあって、変身するプレインズウォーカーの話をしているのだから、その1枚を見せるのが当然だろう。結局のところ、私がこうして話している現物を見たいはずだ。いいだろう、我慢強い諸君のためにこのカードを紹介しよう。〈巨森の予見者、ニッサ〉、彼女は変身して〈精霊信者の賢人、ニッサ〉になるのだ。
もうちっとだけ続くんじゃ
ショーン率いるチームにはもう1つ大きな発想があった。これが最後の基本セットになるのなら、普通の基本セットよりも少し上を行ったらどうだろうか。基本セット改、的な。その発想とは、最近の基本セットでやっていたような、基本セットにふさわしいキーワード能力を戻すのではなく、基本セットにふさわしいメカニズムを新しく作るというものだった。それも1つではなく、2つ。その許可を得たショーンはは、新しいキーワード2つを作ることに取り組んだ。
気に留めておくべき制限はいくつもあった。基本セットにふさわしいキーワードでなければならないので、複雑さはある一定以下で、そして芳醇でなければならない。また、セットのテーマである前進と成長にふさわしいものでなければならない。できれば1つはクリーチャーに、1つは呪文に使うものであるべきだ。
デザイン・チームはまた、構造上メカニズムでなく物語を軸にしたセットにする方法を見つけなければならなかった。それぞれのプレインズウォーカーの灯が点る前後の姿を見せなければならなかった。メカニズムを通して、1つだけでなく5つの物語を描かなければならなかった。5つの物語という構造に関わるサイクル全てに矛盾がないようにするため、クリエイティブ・チームと密接に協力していた。
そして最終的に、必要なゲームプレイができるようにするとともにテーマを強化する再録カードを見つけ、通常の基本セットらしさを保つことに成功した。10個の世界のどれにも存在しないことがイラストに描かれているカードを選んではならないという制約のせいで、これはさらに難しいことになっていた。
『マジック・オリジン』の最初の地
まとめると、デザイン・チームの任務には次のようなものがあったのだ。
- 10個の2色のアーキタイプを決め、それらをこのセットに存在する10個の世界に割り振る
- 5人の変身するプレインズウォーカーをデザインする
- 完全に新しいメカニズムを2つ作る
- クリエイティブが5つの物語を描き出せるようなメカニズム上の枠組みを作る
- 適切な再録カードを見つける
- 楽しい基本セットを作る
そしてこの全てを、通常の基本セットのデザインにかける時間の半分でしなければならない。急げ!
いつもの通り、今日の記事および{ マジック・オリジン』についての諸君の感想を楽しみにしている。メール、各 ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、デザイン・チームがこの課題をどう解決したかを語る日にお会いしよう。
その日まで、クリーチャーをプレインズウォーカーに変身させる喜びがあなたとともにありますように。
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