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Making Magic -マジック開発秘話-
運命的な話 その1
運命的な話 その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2015年1月12日
『運命再編』のプレビュー時期が終わりを告げた。それは私にとって、カード個別の話をする日の訪れを意味する。語るべきことはいくらでもあるのだ。そのため、2部構成でお届けすることに決めた。楽しんでくれたまえ。
《死に微笑むもの、アリーシャ》
通常、3セット・ブロックの第2セットはデザインするのがもっとも簡単である。第1セットから大きく変化はせず、いくつかの変更を加えるものの第3セットで大きく変化する余地を残しておく。しかし『運命再編』はこのブロックにおける簡単なセットなどではなかった。実際、史上初めて、第2セットがブロックの構造における軸になっていた。実際、このセットは両ドラフトをつなぐ回転軸だ、ということがデザインの基点になっていたのだ。
多くの問題があり、それらのいくつかについて今週と来週の2週にわたって触れていくが、まずはその中でも大きな問題の1つを紹介しよう。『タルキール覇王譚』は楔のセットであり、『タルキール龍紀伝』はそうではない。『運命再編』は楔のセットと......そう、楔ではないセットの両方とうまくかみ合ってプレイできなければならない。カードが楔であり、かつ楔でないようにするにはどうしたらいいか? それに加えて、統率者戦で使える3色の伝説のクリーチャーも増やしたいという狙いがあった。『運命再編』のデザイン・チームはこの複雑なパズルに取り組むことになったのだ。
このパズルを解くための第一歩は、統率者戦のルールを理解することだった。統率者戦では、デッキには固有色というものがある。実際のルールではこうだ。
903.4. 統率者戦変種ルールにおいては、ある統率者を使うデッキに入れることが出来るカードを決定するために固有色を用いる。カードの固有色とは、そのカードのマナ・コストやルール文章に含まれるマナ・シンボルの色と、その特性定義能力(rule 604.3 参照)や色指標(rule 204 参照)によって定義される色のことである。
固有色は、そのカードのマナ・コストとルール文章に含まれる色マナによって定義される。つまり、カードのどこかに色マナ・シンボルが存在するなら(現在、マナ・シンボルが存在しうるのはマナ・コストとルール文章だけである)、それは統率者の固有色を定義するのに使われるのだ。また、統率者戦では、混成マナ・シンボルはその各色のマナ・シンボルとして扱われるということも重要である。つまり、白黒の混成マナ・シンボルを持つ統率者は、白マナ・シンボルと黒マナ・シンボルを持つものとして扱われ、白と黒の両方の色となるのだ。
このことから、3色カードを作らなければならない、というわけではなくなった。作らなければならないのは、その3色を含むカードである。混成マナを使うことで、実力を発揮するために3色全てが必要という縛りすらないカードを作ることができるのだ。最終的に、この伝説のクリーチャーのサイクルは、すべて単色で、混成マナを使う起動型もしくは誘発型の能力を持つというものになった。
全体の構造が決まったら、次は個別のデザインを決める番である。《死に微笑むもの、アリーシャ》を例に取ってみよう。彼女はマルドゥの代表だ。マルドゥ氏族の中心色は赤なので、我々は彼女を赤単色のカードとして作った。そして、赤単色なので、彼女にまず必要なのは赤の能力だ。次に、マルドゥのカードなので、彼女には白黒混成の起動型または誘発型の能力が必要である。そして、それらすべては彼女の陣営の性質、つまり本来的に攻撃的であるということに相応しくなければならない。
マルドゥはもっとも攻撃的な氏族なので、攻撃したいようなクリーチャーが必要だった。そして、{2}{R}で3/2先制攻撃というのは攻撃的な本体と言える。さらに攻撃したくなるよう、攻撃したときに誘発する能力を与えることにした。問題はここで、白でも黒でも可能な、攻撃時に誘発させたいような能力とは一体何だろう? この能力そのものも本来的に攻撃的でなければならない。チームはトークンを作るという考えを掘り下げていったが、それは赤のできることに過ぎなかったのだ。
白と黒の重複する部分の1つが、墓地から蘇らせる能力である。どちらの色も、墓地にあるクリーチャー・カードを戦場に戻すことができる。問題は、白のその能力は小型クリーチャーに限られているということだった(黒は墓地から蘇らせることにもっとも長けている色だ)。鍵は、その重複部分、すなわち白の能力、を与えるということだった。パワー2以下のクリーチャーを蘇らせ、タップ状態で攻撃した状態で戦場に出すのだ。マルドゥはもっともクリーチャーの軽い氏族なので、この能力はマルドゥが望むプレイパターンにぴったりだ。このサイクルのカードは5枚とも、デザインするのが難しいものだった。
《世界を溶かすもの、アタルカ》《永遠のドロモカ》《嵐の憤怒、コラガン》《冬魂のオジュタイ》《漂う死、シルムガル》
ドラゴンが絶滅した世界の過去に旅する、と聞いたなら、誰でも期待するものがあるだろう。そう、ドラゴンだ。重要なのは、レアのドラゴンのサイクルがどのような意味を持つか、である。その答えは『タルキール覇王譚』にあった。現在のタルキールには龍はいないが、龍の存在は、それぞれ龍の一面を崇敬している氏族の存在を通して見ることができる。これらの5頭の龍が、それらの一面の擬人化(擬龍化?)だとしたらどうだろうか? 龍は友好2色で、従ってそれぞれ氏族には1つずつしか対応しないのは明らかとなる。たとえば、忍耐を象徴する龍は何色か? もちろん緑白である。アブザンに存在している友好2色は緑白だけなのだ。敵対2色だと、2つの氏族に存在することになる。
友好2色(各色の色マナは1点)で対応する氏族の属性の象徴であるということを除いては、各ドラゴンはそれぞれ違っている。マナも揃える必要はないし、パワーやタフネスもそうだ。友好色のドラゴン、というだけで、サイクルだと感じるには充分だろう。
《雲変化》《光変化》《憤怒変化》
予示は変異の前駆、すなわち変異の過去の姿である。従って、我々は予示を掘り下げ、可能なことを見ることになった。デザイン・チームが思いついたことの1つが、プレイした時に予示し、その予示したクリーチャーについて戦場に出てくる一連のオーラ、というものだった。しかし、ルール上不可能だという問題があった。オーラは唱えるときに対象が必要で、その時点ではまだ予示は起こっていないのだ。解決策として、これらを戦場に出たときにオーラに変わるという誘発型能力を持つエンチャントにすることにした。こうすれば、予示クリーチャーが出た時にオーラになるのでつけることができる。一見しただけだとわかりにくくなっているが、このゲームプレイを気に入っていたので、デベロップはこのまま残すことにしたのだった。
《命運の核心》
どのセットでももっとも大切なことの1つは、そのセットそのものを体現する1つのテーマが存在し、そしてそれが他のセットのものと違うことである。『運命再編』においては、それは「選択」であった。このセットは時間の分岐点に存在しており、その分岐したそれぞれが2つの異なった時間線(『タルキール覇王譚』と『タルキール龍紀伝』)に繋がっているのだ。その雰囲気を表すために、我々はこのセットではプレイヤーが自身の分岐点にいると感じられるよう、多くの選択を求めることにしたのだ。それらの選択の中にはカード寄りのものもあるが、物語寄りのものもある。《命運の核心》は、もちろんその後者のものだ。
デザインの初期に、我々は「カン」か「龍」かを選ぶ必要のある大がかりな呪文を作ろうとしていた。そのもっとも顕著なのがこの《命運の核心》である。我々はときどき黒の全体除去を好んで作る。これは壮大なものだ。全てのドラゴンか、あるいは全てのドラゴン以外か、どちらかを破壊することができるのだ。これはテーマ通りであり、プレイしても楽しいカードになるということは判っていた。
やがて、先行デザイン・チームが時間旅行という発想に行き着いたとき、我々は各セットの果たすべき役割の大枠を定めた。第1セットは、問題のある世界に英雄が訪れたところ。時間を遡る機会を得た英雄は、過去に遡って何か悪いことを正す好機だと捉えるのだ。第2セットは過去の世界で、両方の時間線が可能性として存在する。そして、第2セットでのある出来事が起こると、もう1つの時間線の現代に戻って第3セットを迎えることになるのだ。
問題のある世界というのはどんなもので、なぜそれが問題で、英雄というのは誰で、どう変化させる必要があって、その変化が起こるとどうなるのか、ということはクリエイティブ・チームに委ねられた。我々はデザインの軸となる構造を作ったが、その詳細は物語や世界を作る専門家たちに任せたわけだ。タルキールが選ばれて、第1セットは龍のいない大将軍の世界から始まり、龍が絶滅しなかった世界で終わることが決まった。そして、過去には、英雄の手によって全てが変わるような鍵となる存在が必要となった。
ウギンが関連している(これについては来週、ウギンのカードに触れるときに説明しよう)ことはクリエイティブ・チームにはわかっていたが、何かより壮大なものが必要だった。そして、彼らはマジックの過去に仄めかされていた壮大な出来事に思い至ったのだ。そう、ウギンとニコル・ボーラスの戦いである。そうなると、このセットの中で1枚はこの象徴的な戦いに焦点を当てたカードが必要になる。その理想的な舞台として《命運の核心》が選ばれたのだ。
《命運の核心》のメカニズムに加えて名前とイラストが決まり、このカードはただ重要というだけでなく物語全体の鍵だということが明らかになった。プレビューの計画を決めるずっと前に、最初にプレビューすべきカード1枚だけはわかっていた。それが、この《命運の核心》なのである。これは物語の鍵となる出来事を描いており、セットの大テーマに沿っており、そしてカード単体で見ても非常にクールなのだ。
デザインの基本形は初期に決まり、そのまま変わらなかったのだが、このカードには多くの議論があった。カンを応援する効果と龍を応援する効果の中から選ばなければならないというカードは、難しい(全ての選択系カードがこの物語上の大テーマに従っているわけではない――これについては後に語る)。単に選択肢を与えるだけでは、テーマ上の選択が明確にならない。一方がカン側で、他方が龍側である、というのはカードのメカニズムだけから読み取るのは難しいのである。最終的に、率直に、「カン」か「龍」を選ぶ、というものにすることにした。こう決定してからも議論は続いた。(英語では)「ドラゴン」はクリーチャー・タイプであり、マジックのルール上意味のある単語だ、という点が問題になったのだ。しかし最終的には、このブロックの2つの大型セットの名前にもある単語なので、この単語を使うことには充分な意味がある、ということになったのだった。
《不屈のダガタール》
このカードは、白がアブザンの中心色なので、アブザン氏族のものとして作られた。アブザンは忍耐の氏族であり、従ってそのカードも比較的遅い、防御型のプレイに向いたものである必要があった。デザイン開始時は、《不屈のダガタール》は{3}{W}で4/4の警戒クリーチャーだった。問題は、防御的な4/4に相応しい黒緑の能力を見付けることだった。黒と緑に共通するクリーチャー能力は2つあり、接死と再生である。接死はスゥルタイに割り当てられていたので使えない。再生はいかにもだが非常に退屈になる。このサイクルにはもっと激しい能力が必要なのだ。
このパズルの答えになったのは、アブザンそのものだった。ゲームプレイ上、《不屈のダガタール》を使ってこの氏族が優位を得るためにできることは? 『タルキール覇王譚』の長久、『運命再編』の鼓舞、どちらも+1/+1カウンターを使う。つまり、アブザンには+1/+1カウンターを扱うカードが大量に存在し、+1/+1カウンターを持ったクリーチャーに能力を与えることもある。《不屈のダガタール》に、+1/+1カウンターを使う方法はないだろうか?
メカニズム的に、緑は+1/+1カウンターの王だ。つまり何でもできる。黒には、それよりは多少制約がある。黒も+1/+1を得ることはあるが、それは他のクリーチャーを犠牲にすることが多い。つむ、つまり、これを......どうすればいい? 黒がこの能力を逆向きに使ったらどうだろう? +1/+1カウンターを与える能力が、そのカウンターの載っていたクリーチャーを代償にするとしたら? 《不屈のダガタール》を4/4にするのではなく、+1/+1カウンターを4つ持った0/0にする。そして、そのカウンターを他のクリーチャーに動かすことができる起動型能力を持つのだ。これは通常黒の範疇とは言いがたい部分だが、黒に充分近いことであり、ゲームプレイ上も良く、そして氏族にも相応しいということで採用されることになった。
《無形の育成》
何度となく受けた質問の1つに、裏向きのクリーチャーは2/2でなければならないのか、というものがある。3/3、4/4、あるいは1/1にはできないのかと。その答えは、ルールに従うしかない。ルールにおいて、裏向きのカードは何も情報がないので、均一のものとして定義されている。2/2か3/3かを区別する方法がないので、ルール上認められないのだ。
2/2でない裏向きのカードを求めるプレイヤーの声に応えて、我々はこのカードを作った。このカードは、裏向きのカードを3/3にする。ああ、そのためには+1/+1カウンターを使う必要があったのだが、そのカウンターには他の使い道もある。単純にして驚くほどの深みを持つこのカードは、おそらく私のお気に入りの予示カードになることだろう。このカードで予示したクリーチャーを表向きにしたとしても、+1/+1カウンターはそのまま残る。つまりサイズの違うクリーチャーを作ることができるのだ。それに加えて、このセットにはクリーチャーのパワーやタフネスだけでなく+1/+1カウンターを扱うカードが存在する。つまり、魅力的な相互作用が色々と存在するカードだ、ということになるのだ。
《恐ろしい徴兵》
初めてデザインされたときは、予示は単にライブラリーの一番上のカードを戦場に出すだけだった。そこで、ある先行デザイン会議の終わりに、私はチームにこのメカニズムをより広げることを求めたのだ。「他の領域から裏向きでカードを戦場に出すことができたらどうなるか検討してくれ」と。この問いに応えて作られたのがこのカードの初期版であり、予示は必ずしもライブラリーの一番上から出なくてもいいという確信をもたらしてくれた。
《頭巾被りの暗殺者》
先に言ったとおり、このセットには歴史の分岐点らしさを示す、選択というテーマが存在する。高いレアリティでは「カン」か「龍」かを選ぶことになるが、それはコモンには荷が重い話だ。コモンに必要なのは、唱えたときにおこなう、それ以降のゲームプレイに影響を及ぼすような興味深い選択を持つクリーチャーのサイクルであった。プレイした時に、ちょっとした分岐となるものが必要だったわけだ。
発想は単純だった。そのクリーチャーが戦場に出たとき、その上に+1/+1カウンターを置くか、それとも何らかの呪文効果を得るかを選ぶことができる、というものだ。+1/+1カウンターはずっと残るもので、呪文効果は即座に使えるものだ。デザイン上の難点は、常にどちらかの選択が正解となるようなものでない選択肢を作ることだった。つまり、永続的に+1/+1を得るのと等価と言えるような効果を探すことが鍵だったのだ。
この効果のもう1つの利点は、このセットの他の要素とうまくかみ合うということだった。アブザンのカードの中には、+1/+1カウンターが載っているかどうかを考慮するものもある。獰猛はクリーチャーのサイズを見る。強襲は+1/+1カウンターを置かない選択をした場合の小型クリーチャーに使い道を与えてくれる。このサイクルを使ってみればみるほどに、我々はこの選択の相互作用性に惚れ込んでいったのだ。
《頭巾被りの暗殺者》はこのサイクルの好例である。1/2にするか2/3にするかという選択だ。変異や予示のあるこのブロックでは、2/3は重要である。クリーチャーを殺すこともまた重要だが、そのためにはそのクリーチャーがダメージを受けていなければならない。《頭巾被りの暗殺者》に関してお気に入りの小技は、大型クリーチャーを立てている相手に1/1クリーチャーで攻撃するというものだ。対戦相手は、あなたが強襲のために攻撃してきたと判断してブロックするだろう。そこで《頭巾被りの暗殺者》を出し、そのクリーチャーを殺してしまうのだ。
《ジェスカイの呪印》
混成マナは、3色の、3色でないカードを作るための道具の1つだが、呪印オーラ(ここでは《ジェスカイの呪印》について話しているが、各氏族の中心色に存在する)もその1つである。このオーラはどれも色マナ1点を含む3マナで、+2/+2の修整を与えるとともに、その氏族の残りどちらかの色のパーマネントを出していればキーワード能力を与えるというものだ。《ジェスカイの呪印》の場合、残りの色は赤と白である。これによって得られる能力は、このカードの色のカラー・パイに属するものだということに注意してほしい。例えば、飛行は青の能力である。
カードをたたむとき
今日はここまで。『運命再編』のカードを見ていくツアーの「その1」を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、「その2」にデザインの話が続く日にお会いしよう。
その日まで、カードそれぞれがあなたに伝える物語を読み解く時間があなたとともにありますように。
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