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Making Magic -マジック開発秘話-
基本の日々 その2
基本の日々 その2
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年6月30日
『基本セット2015』プレビュー第2週にして最終週にようこそ。前回、デザイン・チームの紹介をして、再録された召集を持つプレビュー・カードを見せ、そして外部デザイナーのカードがどのようなものかについて説明した。しかし、『基本セット2015』はそれだけではない。それに、新たなプレビュー・カードもある。ということで、今回は「その2」である。まだ「その1」を読んでいない諸君は、今日の記事の下敷きになっているので、まずは一読して来てもらいたい。
優しくするには、デュエルしなければならない
『基本セット2015』の次なる側面は、この夏に発売されるまた別の、ただし関連した商品、『マジック2015 ― デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』との関係性になる。大人気の『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』をプレイしたことのない諸君のために説明すると、これはマジックのデジタル版ということになる。様々なプラットフォーム(ゲーム機、タブレット、パソコン)で発売されており、AIを使ったチュートリアルや1人プレイのキャンペーンなどを通して、マジックの基本的な考え方を学べる入り口となっているのだ。
毎年我々が挑んでいることの1つに、基本セットとその年の『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』にある程度の重なりを持たせるということがある。毎年、少しずつこの重なりを増やすという冒険をしていて、この流れは『マジック2015』でも止まらなかった。今回の重なりは以下の3つの形で行われている。
- 両商品のデザイン・チームが尽力して、『基本セット2015』のカードをできるだけ多く『マジック2015 ― デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』に採用した。全てを入れることはできなかったが、それでも今年は今年の基本セットのメカニズム的雰囲気を再現するには充分な量が入っている。
- 両セットで同じ物語を取り扱うようにデザインされている。今年のゲームは、《野生語りのガラク》が鎖のヴェールによって闇に堕ち、黒マナの影響を受けて人格が歪み、動物を狩っていた誰もが愛した緑単色のプレインズウォーカーが、プレインズウォーカーを狩るプレインズウォーカーになってしまった、ということを中心に置いている。
- 『マジック2015 ― デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』は、プレイヤーをイニストラード、ラヴニカ、シャンダラー、テーロス、ゼンディカーという5つの異なった世界に連れて行くというキャンペーン上の舞台が必要だった。基本セットは複数の世界を描くことができるので、デザイン・チームはこれら5つの世界を少しずつ見かけられるようにした。
これら3つの重なりは、『基本セット2015』のデザインにおいていくつか普段と違う方法をもたらした。それを1つずつ見ていこう。
カードの重なり
一見すると、この重なりについては非常に簡単に思えるかもしれない。基本セットのカードのほとんどは『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』でも使える。難しいのは、カードそのものではなく、この2つの商品を作る時間だった。『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』はデジタル商品なので、企画から生産までには紙の商品よりも長い時間がかかる。つまり、『基本セット2015』の新規カードを入れようと思ったら、先に作業を進め、基本セットで使うよりもずっと前にカードを作っておかなければならなかったのだ。これはいくつもの問題を産みだし、また、重なりとして使えるカードの枚数にも限界を生んだが、両チームは協力して実現にこぎ着けたのだった。
物語の重なり
基本セットはこれまでほとんど物語を考慮していなかった。ブロックはそれぞれが1つの特定の世界を舞台としており、そしてキャラクター1人あるいは一連のキャラクターを追って物語を描いていた。一方、基本セットは、いくつもの世界からの寄せ集めで、そして『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』が登場するまでは物語を描こうともしなかったのだ。しかし、『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』は、何らかの物語を必要としていた。
『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』では、プレイヤーは物語の登場人物として存在し、そしてキャンペーンの物語に沿っていくつもの世界を旅し(これについては後で触れる)、様々な対戦相手と出会うのだ。この構造上、必然的に物語が生まれる。ゲームを進めていき、自分で物語を進めているのだと実感したくなるのだ。そのために必要なのが、物語である。『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』と基本セットを結びつけるため、開発部は、物語という要素を基本セットに取り入れ始めることになった。『基本セット2015』も例外ではない。
『マジック2015』の物語は、《野生語りのガラク》の変貌に関係するものである。我々は、ガラクと鎖のヴェールの力を得たリリアナが『イニストラード』で対峙し、ガラクはただ敗れただけでなく穢された、ということを経験している。この穢された姿は人気の高い両面カードにもなっていた。
『マジック2015』は、イニストラードを離れたガラクを取り上げている。呪いはガラクを蝕み続け、彼は今や(宣伝で謳われている通り)「次元を越えた戦い」つまりプレインズウォーカー狩りをするに到っているのだ。まだ『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』の予告動画を見ていない諸君は、一度見てもらいたい。そうすれば、ガラクがもはや別人だとわかることだろう。
彼がどれだけ変わってしまったのかを示すため、『基本セット2015』には新しく黒緑のガラク、《
「魂」は、各カードが『マジック2015 ― デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』の舞台となっている5つ、ともう1つの世界を象徴する、6枚のカードからなるサイクルである(どう6枚かはすぐに説明する)。最初は5枚のカードからなるサイクルになる予定だったが、デザイン・チームはもう1つアーティファクトの「魂」を作ることができると判断し、そして「新たなるファイレクシア」をそのカードに割り当てた。やがて、チームは赤の「魂」を次のブロックの舞台である《タルキールの魂》にするかどうかかなり考えたが、最終的にはシャンダラーを表すために用いることにした。「魂」はどれも6マナ6/6でクリーチャー・キーワードと、起動型能力と、墓地にある時に1度使える別の起動型能力(使うためには自身を追放する必要がある)を持つアバターである。 『マジック2015 ― デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』との融合は『基本セット2015』のデザインに多大な影響を及ぼした。両ゲームをプレイした諸君が、同じ世界、同じ物語を共有できるようにするための努力に気付いてくれれば幸いである。 そう、外部デザイナーがいて、「You Make the Card」があって、召集の再録があって、『デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズ』との統合があって、それでもまだ全てではない。他にも、『基本セット2015』のデザイン・チームが手がけたことはいくつもあるのだ。 『基本セット2014』はスリヴァーをはじめて基本セットに導入した。スリヴァーの初登場は『テンペスト』ブロックで、後に『オンスロート』ブロック、{ 時のらせん』ブロックでも再登場を果たしている。 そのどれでも、スリヴァーを率いていたのは5色のスリヴァー(《スリヴァーの女王》《スリヴァーの首領》《スリヴァー軍団》)だった。 スリヴァーが5色スリヴァー抜きで『基本セット2014』に戻ってきた時、多くのプレイヤーが5色スリヴァーを求めたのだ。さらに加えて、開発部は、スリヴァー・ファンが数体の新しいスリヴァーを手に入れてスリヴァー・デッキに入れられるようにしようと考えたので、『基本セット2015』のデザイン・チームはアンコモンのサイクル1つと新しい5色のスリヴァーを投入した。この5色スリヴァーについては、ガヴィン・ヴァーヘイ/Gavin Verheyがプレビューで紹介してくれる(近日翻訳掲載予定)。 また、『基本セット2015』のスリヴァーは、見た目が『テンペスト』『オンスロート』『時のらせん』のスリヴァーに少し近づいていることにも気付くだろう。『基本セット20154』のスリヴァーの外見について多くの反響があったので、クリエイティブ・チームはスリヴァーを少し「昔ながらの」形にすることにしたのだ。 マジック史上最初のエキスパンション、『アラビアンナイト』には、こんなクリーチャーが入っていた。 《密林の猿人》はイベントのデッキで見かけられるような、人気のある強いカードになった。基本セットの役割の中には、カラー・パイの繋がりを表すことも含まれる。敵対色の繋がりは「対策」カード(他の色、主に敵対色をプレイすることを咎めるようなカード)がどの色が不倶戴天なのか非常にうまく示してくれるので、比較的容易に示すことができる。友好色はもう少し複雑な話になる。 多色のセットでは、友好色のカードがその役目を果たすが、基本セットにはそれほどの多色カードは入れないものであり(『基本セット2015』には2枚存在するが)、従ってデザイン・チームは何か他の方法を考えなければならなかった。《密林の猿人》は、フレイバーに富んだ形で友好色と繋がる単色のカードである。《密林の猿人》を下敷きにして、ダグ・ベイヤー/Doug Beyer率いる『基本セット2013』のデザイン・チームは《密林の猿人》系クリーチャーのアンコモンのサイクルを作った。そして『基本セット2015』デザイン・チームは、逆回りのサイクルを作るべき時だと判断した。つまり、マナの輪を逆時計回りに回るのではなく、時計回りに回るのだ。例えば、赤のクリーチャーが《沼》を見るのではなく、赤のクリーチャーは《森》を持っているかどうかを見るのだ。 基本セットは色の連なりを見せるという大役を果たしているが、同時に、単色デッキもプレイできるようにしなければならない。さらに加えて、基本セットの役割として、単色のハーフデッキ(30枚のデッキで、新人にマジックのプレイしかたを教えるために配っているもの。このデッキはもう1つ今年の基本セットに影響を与えている。これについてはすぐに説明する)のカードの大多数を提供しなければならないのだ。つまり、デザイン・チームはハーフデッキでも巧く働き、そして単色デッキを組む上での軸となるような何かを見付ける必要があったのだ。 この調査の結果できたのが、単色デッキを助けるサイクルである。このサイクルについては、水曜日にマーシャル・サックリフ/Marshall Sutcliffeが説明してくれる(英語記事)。 禅問答をしてみよう。基本セットに入ってもおり、入ってなくもある15枚のカードとは何か? この15枚のカードは、『基本セット2015』の一部でもあり、『基本セット2015』に入っていないとも言えるのだ。 説明しよう。通常、ハーフデッキは最新の基本セット(と、その前の年に出たセット)のカードで作成される。しかし、作成中に、初心者が見たら興奮するようなレアを含む何種類かのカードが足りないことに気がついた。この15枚のカードを『基本セット2015』に入れることで、セットの全体的な質は下がってしまうかもしれないが、これらのカードをハーフデッキに入れなければハーフデッキの質やインパクトは失われてしまう。 答えは簡単だった。この15枚のカードをデッキ構築においては『基本セット2015』の一部として扱う(ハーフデッキに入っているどのカードもスタンダードで使える、ということは重要なのだ。そうすれば、新人プレイヤーは2つのハーフデッキを組み合わせて認定スタンダードのイベントに出ることができる。ブースター・パックには入っていないのか? というと、これらのカードは構築環境に最小限しか影響を与えないような、そして古くからあるカードだけからできているようにした。これによって、経験豊富なプレイヤーはすぐ手に入れることができるようになっているのだ。 この15枚のカードの『基本セット2015』版が欲しいというコレクター諸氏のために、今後発売される今年のデッキビルダー・セットにも入っている。 これがデザイン上のものと言えるかどうかは判らないが、しかしこれは間違いなく『基本セット2015』の大きな要素であり、取り上げなければならないと思う。流通状の様々な理由により、マジックのカード枠に変更を加える必要が出てきた。そして最終的に『基本セット2015』で新しいカード枠のお披露目をすることになったのだ。この変更の実際上最大の点は、コレクター情報全てがカードの一番下に綺麗にまとめられるようになったということである。 ああ、これもデザインとは無関係とも言えるが、言っておきたくなるぐらいクールなのだ。マジックはここ数年順調に推移しきていていて、その結果、この夏の商品に合わせたプロツアーが新しく追加されることになった。そう、今年の夏には、『基本セット2015』を看板にして4つめのプロツアーが開催されるのだ。 どれだけのことをしてきたか、振り返って並べてみないと気付かないということはよくある。そう、この2回に渡る素晴らしいことはすべてが『基本セット2015』なのだ。 ん、いや、何か忘れている気がするぞ。そうだ。そう、プレビュー・カードを公開していなかった。今日の記事を締める前に、公開しておかなければならない。うん。「もうちょっとだけ続くんじゃ」
スリヴァー
「密林の猿人」
単色サイクル
「追加の15」
カード枠の変更
プロツアー
「やることは限られており、時間は限りない――っと、違う! 逆!」
ゾンビのいちファンとして、私はこの美しいカードを公開することに興奮を隠せない。諸君の中に、これを使った楽しいことを考えてくれる人がいることを願っている。
さあ、これで終わりだ。『基本セット2015』のデザインについての旅を楽しんでくれたなら幸いである。いつもの通り、諸君からの反響を聞きたいと思う。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+、Instagram)で聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『基本セット2015』に関する別の話、カード個別のデザインに関する話をする日にお会いしよう。
その日まで、『基本セット2015』での楽しい発見があなたとともにありますように。
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