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Making Magic -マジック開発秘話-
先行企画
先行企画
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2014年1月6日
2014年の最初の記事である今回、いよいよ今までに何回かこのコラムで触れてきたこと、「先行企画」と呼ぶものについて話すときが来た。事前デザインとも呼ばれる先行企画とは、我々がマジックのセットをデザインする上での最新の改革である。先行企画と比較できるような影響をもたらしたデザイン上の改革は、新世界秩序になる。今日のコラムでは、先行企画とは何なのかを説明し、なぜそれがおこなわれるようになったかについて語り、そしてそれが我々のデザインをどのように改革したのかを説明しよう。内容は大量にあるので、前置きはこれぐらいにして始めることにする。
先行デザインとは何か?
これまで、マジックのデザインの進化について、かなりの時間を割いて説明してきた。進化には2つの形がある。まず1つめに、時とともに、我々はより広い視野を確保するようになった。最初はカードに注目していて、次はメカニズムに注目していて、それからブロック、テーマ、ブロック構造、ブロック内部というように。そして時とともに達成してきた2つめの進化が、どんどん先のことを企画するようになったということである。最初は、デザインは今取りかかっているセットだけを意識していた。次に、ブロック全体を考慮するようになった。それから、次のブロックを。さらにその次のブロックを。次は5つのブロックを。今は7年先のことを考えている。先行企画は、この2つめの分類にあたる改革なのだ。
《盗まれた計画》 アート:Michael C. Hayes |
長年の間、デザインは次のような工程でおこなわれていた。首席デザイナーとして、私はマジック開発部ディレクター(私の上司)その他数人のマジック首脳部の前に座り、そして次の数ブロックの概要を提案する。我々はデザインの元となる、テーマやトップダウン方法、メカニズム的方針について大まかな同意を得ることになる。デザインを始めると、リード・デザイナーとそのチームは出発点を元に具体化していくことになる。デザインにおいてこの工程に大体3〜4ヶ月が費やされていた。先行企画とは、そのブロックがデザイン・チームに渡されるよりも先に作業を始める、デザイン・チームとは独立したチームを置くという考えである。そう、デザインが始まる前に、先行デザインをおこなうのだ。
先行企画チームの役割とは一体何なのか? 私はマジック開発部ウィキ(あらゆる記録を取るために使っているツールだ)に記載する際に、こんな説明文を書いた。「先行企画チームの主要な役割は、質問に答えることではなく、質問が何なのかを学ぶことである。喩えるなら、先行企画とは、冒険者のパーティから先行して、何が先に待ち受けているのかをパーティのメンバーよりも先に見つける斥候のようなものである。」
一例として、『テーロス』の場合を見てみよう。これから説明するとおり、『テーロス』では先行デザインはされていなくて、『神々の軍勢』ではされている。『テーロス』ブロックの元々の企画は、クリーチャー・エンチャントが神々を表す、というものだけだったのだ。私は先行デザイン・チームに、クリーチャー・エンチャントを掘り下げるように言った(最初は、先行デザイン・チームは製品ごとでなく全ての先行デザインを受け持っていた。これが変更された経緯についてもこれから説明する)。チームが見つけ出すデザイン空間がどんなものか、私は非常に興味があったのだ。
私が伝えたのは、クリーチャー・エンチャントはエンチャントらしく、またクリーチャーらしいものであってほしいということだった。それを掘り下げる間に、ビリー・モレノ/Billy Morenoはクリーチャー・エンチャントでありまたオーラでもあるという授与を見つけ出した。ビリーがこれを思いついたのは、クリーチャー・エンチャントにどんなことができるか色々と掘り下げていたからである。
ここで、チームの構成について重要なことを説明しておきたい。私はこのグループの監督だが、何も仕事はしないのだ。このチーム(毎月変わっていく――これも後で触れる)が私と会議を開き、私は今取り組んでいるブロックに対応するプロジェクトを与える。チームのメンバーは私の参加していない会議で議論し、毎週そのレポートを私に提出して成果を見せる。私はそれについて評価を与え、そしてそれに基づいた新しい任務を与える。これは先行デザインの間中繰り返される。そして、デザインの開始前に、得られた内容を文書にまとめ、開発部の誰もが見て反応できるようにするのだ。
先行デザインを用いるようになったセットでは、この期間中に起こったこともそのセットのデザインの一部として語るつもりだ。『テーロス』は先行デザインを使っていないので(ただし授与は『神々の軍勢』の先行デザインから借りたものだ)、今日のコラムの主題は手順の紹介ということになる。
先行デザインがデザインのあり方をどう変えたかについて語る前に、先行デザインがどうしておこなわれるようになったかについて説明する必要があるだろう。
昔々あるところに
この話の発端は、第2回グレート・デザイナー・サーチ(リンク先は英語)の終了直後に遡る。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerが優勝し、6ヶ月のデザイン・インターン権利を勝ち取り、ショーン・メイン/Shawn Mainが準優勝で別の、マジック・デジタル開発部(マジック・オンラインやデュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズなどを監督する部署)のインターン権利を勝ち取った。
《百手巨人》 アート:Brad Rigney |
第2回グレート・デザイナー・サーチは第1回(リンク先は英語)とは少しばかり違う形でおこなわれていたが、それは私が違うタイプのデザイナーを求めていたからである。私の、首席デザイナーとしての仕事の1つが、総合的な「大きな画の」デザインをすることである。夢想家的なデザイナーが足りないと感じていたので、第2回GDSではそういったデザイナーを探そうとしたのだ。それが、世界構築に集中し、最終問題全体を通して世界を構築させた理由である。
イーサンとショーンが選ばれたのは、彼らにブロックの作成を習得する可能性と、重要で我々の持っていない技術を見いだしたからである。それから6ヶ月彼らをさらに評価し、そしてこの可能性が花開くかどうかを知りたくなった。教育と技術評価の両面で何が最善か考えた後、私は、少しばかり冒険的なことをすることに決めたのだ。
『テーロス』のデザイン中に、私はイーサンとショーンを相手に、わずかな誘導を与えるだけの週例の会議を始めた。会議の議題は、2014年の秋の大型セット、『Huey』だ。1年先のものに取り組むのだ。これによって、時間の制約を受けずに自由にプロジェクトに取り組むことができる。イーサンとショーンが失敗したとしても、通常のデザインのための時間は確保されている。成功したなら、『Huey』のデザイン開始時から彼らの成果を使うことができるのだ。
ここで理解しておいて欲しいのは、これが初めての試みだということである。手探りだったので、新人デザイナー2人と掘り進むことができたのだ。この後、あんなに革命的なことに行き当たるとは思いも寄らなかった。
青空を駆ける
私の目的は、イーサンやショーンができることを計ることだった。つまり、私にとって重要だったのは、私が作業をせずに彼らがするということだったのだ。もう一つ重要だったのは、この手順を通して彼らに教えることができるということだった。実際にはどうしたか? 私は彼らと『Huey』の立ち位置について語ることからはじめた。数年前、7ヶ年計画をアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheに提示したとき、『Huey』は独特のブロック構造を売りにしていた。私は彼らにそのブロック構造を説明し、そして彼らにその構造が意味をなすようなブロックを考えるように言ったのだ。
《先見のキマイラ》 アート:Daarken |
イーサンとショーンは、2人でそのプロジェクトのための会議を重ねればいい結果が得られると判断した。その途中で、彼らは開発部の他のメンバーを協力者として引き入れた。毎週、彼らはやってきて成果を共有し、ときには前の週の実績を示すために作られたデッキを持ってくることもあった。私はそのカードを使ってみたり、彼らのアイデアについて話して評価を下したりした。そして、その会合の最後に、新しい任務を与えるのだ。
デザインは繰り返しだということをこのコラムで何度も話してきた。変更を加え、プレイテストをし、そのプレイテストに基づいて変更を加え、さらにプレイテストをしていく。この手順の中で様々なことを学び、そしてデザインを最終版に向けてゆっくりと動かしていくのだ。私が見付けたことは、先行企画でも同じことをするのだが、その視点はカード・ファイルに基づく微視的なものではなく、ブロックのデザインの中核構造に基づく巨視的なものだということである。
先行企画がデザインにもたらした変化を理解するため、その前後を比較してみよう。
それまでは
デザインが始まる。我々が取り組むものの全体像はあるが、デザインの初日にわかっているのはそれだけである。例えば、『ゼンディカー』は土地に焦点を当てたセット、というのが始点だった。その意味もわからず、そもそも土地がどうテーマになるのかもわからなかった。冒険世界というアイデアが出てきたのも数ヶ月語である。
《山》 アート:Jung Park |
この旧システムの下では、セットとブロックが定まるのはカード・ファイルに取り組んでいる間のことである。つまり、2つの異なることを同時に進める必要があった。秋セットのリード・デザイナーとして、私は、使うメカニズム、各色の性質を定めなければならず、一方では首席デザイナーとしてこの第1セットがブロックでどういう役割を果たすのか、そしてブロックの展開がどうなるのかを決めなければならなかった。両方が同時に起こるので、4つの影響があったわけだ。
その1、私が手一杯だった。私は全てを並行させねばならず、どの手順にも全力を注げなかったのだ。
その2、セットの進行はブロックの選択肢を狭めていた。セットのデザインが中断できず、セットを最善のものにするための決定が下されれば、ブロックのデザインにはさらなる制約が加えられていく。制限は創造の母とは言うけれども、セットの構造という部品がブロックの構造という全体に影響を与えるというのは奇妙なものである。
その3、私はしばしばデベロップの邪魔をしていた。私がブロックに望むものを説明することができる時には、第1セットはもう進行していて、デベロップがブロックの企画に問題を見つけてもなかなか変更できなかった。
その4、ブロックの企画が常に時間に追われており、時間の余裕がないので反映できなかった。
それからは
デザインの始まるずっと前(『Huey』の先行デザインは1年前に始まっている)、先行デザインが開始される。ファイルを意識することなく、ブロックが必要とするものに焦点を当てた時間をかけることができる。思考と実験をする時間が得られる。ブロックの企画だけが焦点なので、余裕を持って検討できるのだ。
《炎のブレス》 アート:Aleksi Briclot |
また、この作業はデザインの開始前に終わるので、デベロップやクリエイティブ・チームに通す時間が得られる。異論のあるものについては話し合える。問題があれば、それを解決する時間も取れる。デザイン・ファイルの作業はまだ始まっていないのだ。
旧システムを使っていた期間が長いので、私もそれに慣れていた。これはただの手順の問題である。先行デザインを体験してみると、旧システムがどれだけ妥協を必要としていたかがわかった。先行企画によってあらゆる場所に余裕が生まれ、段違いの明瞭さが得られた。中でも最も興味深かったのは、たまたま見つけたということである。皮肉なことに、イーサンとショーンにブロックをデザインする方法を教えようとして選んだ方法が、ブロックをデザインする方法そのものを根本的に変えてしまったのだ。
「チームの構成」
その中で、我々にもたらされた変化はデザインのあり方だけではなく、先行デザインのあり方そのものも変化していった。現在のシステムでは、各セットで4人がメンバーとなる。私は相談役ではあるが、このメンバーには含まれていない。
《Team Spirit》 アート:Terese Nielsen |
チームの各メンバーは次のような役割を持つ。
メンバー#1
チーム・リーダー。各ブロックには先行デザイン・リーダーが存在する。現在、先行企画チームのリーダーは、その技量を認めて雇われているイーサンかショーンが務めている。
メンバー#2
中核デザイナー。デザイン・チームの一員である(私が監督し、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebがマネジメントするマジックのデザイナーのことを指している)。この枠は、ケン・ネーグル/Ken Nagle、イーサン・フライシャー、ショーン・メイン、ダン・エモンズ/Dan Emmons、マーク・ゴットリーブの誰かが務める。イーサンかショーンはリーダーを務めているが、もう1人はこの枠に入ることがありうるのだ。
メンバー#3
中核デベロッパー。デベロップ・チームの一員である(エリック・ラウアー/Erik Lauerが監督し、デイブ・ハンフリー/Dave Humpherysがマネジメントするマジックのデベロッパーのこと)。この枠は、エリック・ラウアー、デイブ・ハンフリー、サム・ストッダート/Sam Stoddard、イアン・デュークス/Ian Dukes、ベン・ヘイズ/Ben Hayes、あるいは現在デベロップでインターンをしている誰かが務める。
メンバー#4
その他のメンバー。この第4枠は誰が入るとは決まっていないが、チームがその時に必要としている人が入る枠である。例えば、そのセットの舞台となる世界を把握しきっていない状態で始まることが多いので、クリエイティブ・チームの一員が初期の先行デザインにおいてこの枠に入ることはよくあることである。
次の大改革は、枠の埋め方である。常に血を入れ替えて新しい発想を得るため、そしてできるだけ多くの人員を先行企画に取り込むため、メンバーは常時入れ替わっている。リストの下位であればあるほどすぐに入れ替わる。チーム・リーダーはプロジェクトの間ずっとチームに残る。中核デザイナーは2〜3ヶ月残ることが多い。中核デベロッパーは1〜2ヶ月、そしてその他のメンバーは毎月入れ替わるのだ。
これは始まりに過ぎない
先行企画を2年以上続けてきて、そしてこの内容を諸君に伝えられることを嬉しく思う。しかし不幸にして、まだ成果として世に出ているのは授与メカニズムだけである(どれだけ先のことをやっているのかわかるだろう)。そして幸いにも、まもなく『神々の軍勢』のプレビューで公開されるメカニズムは先行デザインの成果である。
諸君がこのデザインの新しいあり方を楽しんでくれれば幸いである。これからの年に、これに関する話をするのが楽しみで仕方ない。いつもの通り、今日のコラムの感想を、メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で聞かせて欲しい。
それではまた次回、『神々の軍勢』のプレビューでお会いしよう。
その日まで、あなたが将来の企画に早く取りかかれますように。
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