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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

再興の信心

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再興の信心

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2013年12月2日


 信心特集へようこそ。今週は、『テーロス』ブロックで導入された信心メカニズムについての話をしよう。今日の話が終われば、諸君は信心メカニズムについて多くのことを知ることになる。どのように今の形になり、どのように印刷に至ったのか。そして、どのように新しい名前とフレイバーを得て再び印刷されるに至ったのか。信心(かつて彩色と呼ばれたものの一種)の、紆余曲折をご覧あれ。

メカニズムの5つ目の夜明け(フィフス・ドーン)

 信心のおこりは、『ミラディン』ブロック第3セット、『フィフス・ドーン』のデザイン期に遡る。デザイン・チームは強烈なもので、リーダーが私、以下ランディ・ビューラー/Randy Buehler(当時はマジックのデベロッパーだった)、グレッグ・マーカス/Greg Marques(後にウィザーズの社員になるが、この時点ではまだだった。なぜ社員でない彼がデザイン・チームの一員になったかは、以前記事(リンク先は英語)にまとめている)、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheがいた。ただし、この時アーロンは開発部のメンバーではなかった。彼はmagicthegathering.comの初代編集長だったのだ。新しい視点を得るとともに、すごい記事を書けるようにするためにアーロンをメンバーに招こうとランディが提案したのだ。

 アーロンは実際に素晴らしい成果を見せた。このセットの2つの新しいメカニズム、すなわち占術と烈日を仕上げたのだ。これによって、彼は開発部のメンバーとして招かれることになり、そしてその機会を活かしてマジック開発部ディレクターにまでなった。さておき、『フィフス・ドーン』のデザイン中に、アーロンはこんなカードを作っていた。

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〈小さな白い蝶〉

{2}{W}{W}

ソーサリー

あなたの手札を公開する。その後、あなたの手札にあるカードのマナ・コストの中の白マナ・シンボル1つにつき、飛行を持つ1/1の白のスピリット・クリーチャー・トークンを1体戦場に出す。


 私はこのカードを気に入り、そしてファイルに入れた。アーロンはさらに2枚目のカードを作った。

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〈アンデッドの会計係〉

{1}{B}{B}

クリーチャー ― ゾンビ

[カード名]のパワーとタフネスはそれぞれ、あなたの墓地にあるすべてのカードのマナ・コストの中の黒マナ・シンボルの総数に等しい。


 私はこれをさらに気に入った。あまりに気に入ったので、私はこれをセットに入れず、また〈小さな白い蝶〉も取り除くことにした。なぜなら、アーロンが出会ったこのメカニズムにはかなりの可能性が秘められていると気付いたからである。カードの1枚や2枚で使ってしまうには大きすぎるのだ。アーティファクトのセットであり、色マナ・シンボルが通常よりも少ない『フィフス・ドーン』はこのメカニズムを入れるのには絶対的に不適切だった。

 このメカニズムについて、『ラヴニカ』ブロックの時にも考慮したが、他のものに譲ることになった。『時のらせん』『次元の混乱』でも考えたが、時間テーマにも相応しくなければ懐かしいものでもなかった。『未来予知』で、未来からのメカニズムを探すことになったとき、こここそがこのメカニズムに相応しいと判断したのだった。確かに1枚だけだが、そのカードはこのメカニズムが使われる未来を示唆するものだ。クリエイティブ・チームはこのメカニズムに「彩色」という名前を与えた。実際にカードになったのが、これである。

 そしてこの彩色は、ただの1枚とはいえ、公式なメカニズムになったのだ。

夕暮れ(イーブンタイド)の王子

 1年後、私は『イーブンタイド』のデザインを始めるところだった。ミライシフト・カードを作った時、その次の年のエキスパンション4つ全てにそれぞれ1枚はミライシフト・カードを入れようと思っていた。『イーブンタイド』に入れてみるカードとして《燐光の饗宴》を選んだので、このセットには能力語である「彩色」が入ることになった。

 彩色をいじり回してみて、最終的にこの能力を持つカードが9枚できあがった。

焦熱の砲撃

心臓鞭の燃えがら

内面からの光

憤慨のシャーマン

燐光の饗宴

尊原初

正気の削り落し

スプリングジャック飼い

陰影の忍び寄るもの

 この中で3枚を除いては戦場にあるカードのマナ・コストに含まれるマナ・シンボルを数えるもので、《燐光の饗宴》は手札にあるカード、《正気の削り落し》はライブラリーにあるカード、《陰影の忍び寄るもの》は墓地にあるカードのマナ・コストを見るものだった。やがてセットが世に出たが、このメカニズムへの評判はいいとも悪いとも言い切れないものだった。このメカニズムが嫌われているというわけでもないが、好かれているというわけでもない。反応はいかにも中途半端なものだった。『イーブンタイド』は全体として評価が低いセットだったので、彩色の評判は最高とは言えないものの、セットの平均よりはよかったと言えるだろう。

 私は、彩色は絶対に有望だと思っていたので、残念だった。何かがおかしいんだと感じていた。このメカニズムは評判よりもいいものだったのだ。問題は、なにがおかしかったのかだ。私は何年もこの答えを求めて考え込むことになった(そしてその結果得られたものについて、これから話そう)。

テーロス色の色眼鏡

 時計の針を『テーロス』のデザインに戻そう。遠い昔、ビル・ローズ/Bill Roseは、デザイン資源を守るために各ブロックで1つは過去のメカニズムを再利用するようにする必要があると気がついた。私も同じ結論に達して、ビルに同意したのだ。その結果、デザインの初期のうちに、私はデザイン・チームにどのメカニズムを再利用するべきか考えるように伝えることにしているのだ。

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 『テーロス』のデザインでもそれを尋ねたところ、デザイン・チーム内のデベロップ代理人を務めるザック・ヒル/Zac Hillは考えがあると言い出した。彩色はどうだろう? ザックと私はこのメカニズムについて話し合ったことがあり、彼は彩色が過小評価されているという私の意見に賛成していた。私が、それまでに彩色にもう一度機会を与えようとしてきたということを告げると、ザックは、『テーロス』は戦場に大量のエンチャントが出るセットになるので、色マナ・シンボルも多くなるはずだから彩色が相応しいと言うのだ。

 私が彩色に魅せられていた理由は、テーロス住民の神々への感情を表すメカニズムが必要だったからである。ギリシャ神話では神々への崇拝が重要であり、そのフレイバーを表すものがセットにも必要だったのだ。崇拝を表す新しいメカニズムを作ろうとしていた時に、その出来てくるものがどれもこれも彩色に似ていたのだ。ザックの言葉を聞いて、私はその考えに同意したくて仕方なくなっていた。

 問題が1つあった。以前に彩色を使ったとき、何か失敗していたのは明らかだ。再録するのであれば、間違っていたところを正せるよう、何が間違っていたのかを見極めなければならない。私の見付けた直すべきものには、以下のようなものがあった。

#1:フレイバー

 一端がフレイバーを伴わない機能、もう一端が機能を伴わないフレイバーというように機能からフレイバーまでを直線に並べたとして(言い換えればメルヴィンからヴォーソスまでの並びでもある)、彩色はあまりにも機能寄り過ぎた。興味深いことをしているのに、フレイバーが伴っていなかったのだ。関係ないというプレイヤーも多いが、実際には関係があったということが証明されている。

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 開発部は、芳醇さ、あるいはプレイヤーがカードを見て事前情報から処理を理解する助けになるカードの意味――の重要性について学んできた。メカニズムがフレイバーを持てば、プレイヤーはそれを関連づけ、理解するのが簡単になる。そしてメカニズムが正しく感じられれば、全体として美しくなるのだ。

 彩色が名付けられた『未来予知』のとき、クリエイティブ・チームは大量のミライシフト・メカニズムに名前を付けなければならなかった。通常、新しいメカニズムの名前はいくつかだけあればいいので、クリエイティブ・チームは完璧に相応しい名前を探すことができる。『未来予知』では量が多かったので、それだけ吟味する時間がなかったのだ。デザイン・チームがフレイバーを与えなかったこともあって、このメカニズムは機械的なものに感じられた。そこで、クリエイティブ・チームはこのメカニズムに機能面から、フレイバーに欠ける名前を付けることになったのだ。

 このカードをミライシフト・カードと関連づけたかったので、私は彩色という名前のメカニズムを採用した。フレイバーに欠けていることは、その名前から何もデザイナーの意欲を沸き立たせないという意味でも深刻だった。フレイバーに欠ける実装の結果、フレイバーに欠ける名前を得て、そしてさらにフレイバーに欠ける実装結果となったのだ。

 よい知らせは、私はこのメカニズムに相応しいフレイバーを見付けていたということだ。これは人々が神々に捧げる信仰心を表している。彩色をもう一度試してみようと決めたのは、相応しいフレイバーを見付けたからに他ならないのだ。

#2:名前

 私は言葉にこだわっている。人生全てを言葉に捧げてきて、そして言葉には力があると強く信じている。何かに相応しい名前をつければ、意味が生じ、そしてその意味は力となる。人々はその名前で話すことができるようになり、そしてそのことについて考えを巡らせることができるようになるのだ。

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 彩色は悪い名前だった。機能そのもの(chromaはラテン語で「色」という意味)で、単調だった。確かに、このメカニズムの色マナ・シンボルを参照するという一面を表しているが、そこに何の深みも与えるものではなかった。「色マナ・シンボルを数える」という名前よりはマシだっただろうが、それほど変わらない。

 この問題への解決策はきわめて明瞭だった。新しい名前を与えればいい。彩色に新しい名前を与えるとなったときに、すぐに思い浮かんだのは「信心」だった。すぐにそれに決めたわけではない。彩色という名前の問題点は他にも、それが一体何の色を参照しているのかがわからないということがあった。色は重要なので、それを名前に入れようと思ったのだ。「[色名]信心」は少しばかり響きが硬かったので、「[色名]への信心」としてみた。これでよし。

#3:機能

 彩色に関して私がやろうとしていることは見えてきたことだろう。一番最初に作られたとき、すなわち『未来予知』のときに下した決定が後にメカニズムに影響を与えているが、それらの決定はあまり深く考慮されたものではなかったのだ。ここまで語ってきたのは、クリエイティブ・チームが下した決定のことだった。次はデザインの話をしよう。

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 《燐光の饗宴》は手札を参照する。なぜ? さてね。戦場だけを見るようにすれば簡単だったが、私がカードをデザインした時にそう決定していて、そしてミライシフト・カードを使うことで『未来予知』の未来を示そうとしたので、彩色は戦場以外のものも参照できる必要があったのだ。

 『イーブンタイド』のデザイン・プレイテストが始まったとき、青と緑(《燐光の饗宴》の色)は手札を見て、黒は墓地を見て、赤と白は戦場を見るようになっていた。しかし、一番面白いのは戦場を見るものだということがすぐにわかってきた。印刷されたカードの過半数は戦場を見ることに留意して欲しい。しかし、我々は《燐光の饗宴》を使わなければならなかったので、このメカニズムはより広範なものにならざるを得なかったのだ。

 このメカニズムを改変する機会を得たので、戦場だけを見るようにしようと思った。

 第一に、そのほうがフレイバー的に相応しい。信心を示すにはどうするか? その色のカードを大量に戦場に並べるのだ。

 第二に、それによって使い方に自由度が生まれる(すぐに詳しく触れる)。この変更には他の利点もあった。名前を変えなければならないということもわかっていたのだ。彩色はこのメカニズムに必要なフレイバーに相応しくなかった。機能を変更すれば、名前を変えることが必要になるのだ。『テーロス』版が『イーブンタイド』版と少しでも違う機能を持っているなら、新しい名前を付けなければならないのである。

 第三に、その方がプレイ感がよかった。『未来予知』の際に犯した失敗は単純なものだった。単に、プレイテストが足りなかったのだ。ファイルにはそのカードは1枚しかなかった。その結果、充分な回数プレイされることもなく、プレイされたときには全て同じ振る舞いをすることになった。戦場にあるマナ・シンボルを数える方がいいということを気付こうにも、戦場のマナ・シンボルを見るカードはそもそも存在しなかったのだ。『イーブンタイド』に充分な枚数のカードが入った結果、プレイテストによってそのプレイ価値はすぐに把握できた。

#4:能力語

 もう一つ、『未来予知』で1枚しか作られなかったことによって縛られたことがある。《燐光の饗宴》においては、彩色はキーワードではなく能力語だった。これはルール的な話になるが、少し聞いてくれたまえ。キーワードは、常に同一のある能力を示す単語である。キーワードにはより長い意味が込められているのだ。つまり、同じキーワードを使うすべてのカードは同じようにそのキーワードを使わなければならないということである。彩色は、マナ・シンボルを数える領域が異なるので、キーワードにはなり得なかったのだ。

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 能力語は、キーワードにできないものをグループで扱うための名前である。何かが能力語であるかどうかを判断する方法は2つある。1つめが、カードの各行の先頭に(英語ではイタリックで)書かれ、長い横線を挟んでルール文章に繋がっているということ。2つめが、カードに書かれている能力語部分を除いても、ルール文章は完全に意味が通るということである。キーワードはルール文章中に含まれ、その部分を除くと文章は成立しない。

 キーワードか能力語かがどう影響するのか? その答えは2つある。1つ目に、一貫性は重要だということ。メカニズムが同じように働くようにすることで、プレイヤーは把握しやすくなる。2つ目、『テーロス』においてはより重要なことだが、ゲームは能力語を参照することができない。それはつまり、「あなたがコントロールする[キーワード]を持つクリーチャーは+1/+1の修正を得る」という能力は存在できるが、「あなたがコントロールする[能力語]を持つクリーチャーは+1/+1の修正を得る」という能力は存在できないのだ。

 これは『テーロス』では重要だ。信心が、それこそ神々などの他のカードにも影響をもたらすようにしたかったのだ。彩色をそのまま使うとすると、神々は今のような形にはできない。正確に言えば、機能的には同じにできても、メカニズムを参照できないので必要なフレイバーが失われてしまうのだ。私は「信心」という名前で神々に参照させたいと強く思ったのだ。

#5:強さ

 ああ、これは厳密にはデザインではなくデベロップの領域だが、これについて触れないわけにはいかない。この記事を書くにあたって私は『テーロス』のリード・デベロッパーにしてマジックの首席デベロッパーであるエリック・ラウアー/Erik Lauerと、彩色の問題点について語ったのだが――彼の答えは単純で「カードがクソだった」というものだった。

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 エリックは、メカニズムの人気を高めるのは強いカードだと言う。勝利に繋がるメカニズムのことは好きになるものだ。エリック曰く、彩色の失敗の大部分は、彩色を持つ競技マジック級のカードが存在しなかったことによるのだそうだ。

 エリックはこの誤りを繰り返さないように尽力しており、『テーロス』発売以降のイベント結果、特にスタンダードのイベント結果を見れば、今回のメカニズムは同じ轍を踏まなかったことがわかるだろう。このメカニズムが墓地のマナ・コストを数えないようにしたことで、エリックと彼のチームはこのメカニズムに集中することができるようになったのだ。

希望のない信心

 私はずっと彩色に再挑戦したいと思っていたが、その計画を人に告げると睨み付けられるのもわかっていた。人々に愛されたものを再度使うのは簡単だが、最初成功したとは言えないものを再度使うのは大きな困難を伴うのだ。説得するための方法は単純で、そういう人たちと実際にプレイすればいいのだ。実際に信心を体験した否定派は、誰もが態度を変えてくれたのだった。

 そして、信心はすばらしい結果を見せた。プレイヤーにも暖かく受け入れられ、ほとんどあらゆるフォーマットで存在感を見せている。私は、信心が将来何度も使われるであろうメカニズムとして、数少ないリストの中に名前を連ねるに至ったことを嬉しく思っている。

 しかし、私にとって信心の成功の中で最大のことは、メカニズムは再挑戦できるという知見である。やり方の問題なのだ。何かを失敗したからといって、メカニズムを再利用することができないということではないのだ。マジックには成功したメカニズムが多くあるが、私は、彩色の再利用を通して、マジックの過去のドロの中に埋もれたダイアモンドを探したいと思うようになったのだった。

地上の信心

 信心の進化についてのこの話を楽しんでもらえたなら幸いである。諸君が再度機会を与えて欲しいと思っているメカニズムが何なのか、メール、掲示板、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+)で教えてくれたまえ。その中には将来の信心が隠れているかも知れないのだ。

 それではまた次回、人生の別の見方を示す日にお会いしよう。

 その日まで、あなたの過去に埋もれた宝石をあなたが見つけ出しますように。

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