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Making Magic -マジック開発秘話-
存在しないということ
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Making Magic
存在しないということ
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年5月13日
ほとんどの記事では、私はセットで採用されたものについて語ってきた。今回は、それを逆転させて、滅多に語られることのないものについて語ろう。すなわち、ものはいかにして採用されないか。何かが印刷に至らなかったのはなぜなのか。特に、プレイヤーが『ドラゴンの迷路』で入るだろうと思っていたものの中で採用されなかったものについて語っていこう。
『ドラゴンの迷路』がいい材料になるのは、完結編としてデザインされたセットだからである。2つの大型セットを使って10個のギルドを作り上げ、『ドラゴンの迷路』はそれぞれのギルドに仕上げを少し付け加えるものとして作られている。既にプレビュー記事(その1、その2)でも語ったとおり、問題は、入れるべきものが多すぎたことだ。そう、多すぎた! 多すぎたのだ!
本題に入る前に2つ触れておきたい。まず、今回の話題はフレイバーではなくメカニズムであるということ。私は首席デザイナーなので、今回はクリエイティブではなくデザインに焦点を当てた話をする。なぜ特定のカードやカード群がセットに入らなかったのかについて話をするのだ。次に、セットに含まれているカードの出来映えについての話はしない。確かに違う形でできあがることもあり得ただろうが、今日の話題はできあがったセットをどうすれば変えられたかではなく、なぜその要素が存在しなくなったかなのである。
行方不明
列記に入る前に、まず今日の話題全てにあてはまる理由に触れよう。「なぜ○○はこのセットに存在しなかったのか」――空間が足りなかったからだ!
デザイン(やデベロップ)の現実として、常にセットに入れられるより多くのものを入れたくなるものだ。より多くのものを詰め込むための技はあるが、それにしても、切り捨てる必要は出てくる。ほとんどのプレイヤーはデザインを「何かを作ること」だと思っていることと思うが、実際のデザインの大部分は「何かを切り捨てること」なのだ。デザインしたものはセットに入りきれないほど多い。セットがいくら大きくてもそうなのだ(そして、『ドラゴンの迷路』はブロック内唯一の小型セットなのだ)。
このセットのデザインは、(印刷してもいいと我々が思えるレベルにまで)可能な限り狭いものだった。いくつかの要素は単に入りきらなかった。それでは、諸君の好まないカードを切り捨てることはできなかったのか? それは、できない。そういったカードも誰かが気に入るもので、それがなければ気に入らないプレイヤーがいるのだ。
それを踏まえて、ここからは列記に入ろう(順不同だ)。
#1: ネフィリム
『ギルドパクト』には、この5枚のカードが存在した:
《光り眼のネフィリム》《砂丘生みのネフィリム》《墨流しのネフィリム》《魔女の腑のネフィリム》《過去耕しのネフィリム》 |
ギルドという存在が気に入らないプレイヤーがいるかもしれないということで、我々はギルド構造そのものと無関係なサイクルを作った。金色のブロックだったので、それまで作ったことのないもの、すなわち4色クリーチャーを作ろうということになった。当時、ギルド構造は巧く行くからそんなサイクルは必要ないと考えていた私は、このサイクルを強く批判していた。2つのギルドを組み合わせて4色カードを作ることもできる、という提案までしたのだが、これらのカードはギルドを気に入らない人のためのものなので、却下された。
これらのカードは作られ、観測気球のような働きをした。市場調査では最悪の評価を受けた。プレイヤーはネフィリムを嫌ったのだ。なぜか? 私の想像はこうである。
ふさわしくなかった
旧ラヴニカ・ブロックがこれほどうけた理由は、ギルドを中心とした世界全体の構造をプレイヤーが好きだったからだと信じている。クリエイティブはネフィリムがその世界に存在する理由を作り上げたが、無理矢理だった。世界やギルドとネフィリムの間には繋がりを感じられなかったのだ。無関係としてデザインされ、そして、非常に無関係だったのだ。
デザインがしょぼかった
大問題は、4色カードを4色らしくデザインすることというのは事実上不可能だということである。なぜなら、対立しあう色が多すぎて全体の雰囲気が存在しないのだ。4色カードの特徴は、存在しない色にあることになるが、カラーパイ的にそのカードができないことが1つだけある、と言われても、それをデザインすることは不可能である。4色カードをデザインすることができないとは言わないが、そこには流れというものが必要になる(例えば2つのギルドが協力するとか。これは面白いだろう)。
フレイバーが合わなかった
ネフィリムのフレイバーは、環境が整えばイカしたものになっただろうが、ギルドの都の中がその環境だったとは思えない。
ネフィリムがそれだけ嫌われているのに、なぜ人々はそれを求めたのか? 旧ラヴニカ・ブロックのセットが世に出てから、統率者戦フォーマットが成立し、4色の統率者というのが紛れもない穴になっていたからである。4色の統率者は存在しない。いつも言う通り、人間にはパターンを完成させたいという本能があり、穴があれば埋めたくなるものなのだ。
ここで私が統率者戦のコラム「楔にて」の中で書いたコメントを引用しておこう。
マジックには現在5色の伝説のクリーチャーが11種類いる(《アトガトグ》《アラーラの子》《クロウマト》《概念の群れ》《大祖始》《刈り取りの王》《始祖ドラゴンの末裔》《スリヴァー軍団》《スリヴァーの首領》《スリヴァーの女王》《邪神カローナ》)。4色の伝説のクリーチャーは存在しない(ネフィリムを伝説のクリーチャーにしたいという思いは私の心の底に存在するが)。3色になると、弧カードはいくらもあるが、楔カードは嘆きたくなるほど少ないのだ。
重要なところを強調しておいた。ネフィリムを伝説のクリーチャーにしたいと思っている、と言ったのだ。この発言の理由には、ラヴニカに戻ったとしてもネフィリムを増やすことはないだろうとわかっていたということがある。ネフィリムは、プレイヤーに嫌われ、デザインが難しく、世界になじまない。それに加えて、プレイヤーが欲しがるものは、統率者として使える伝説のクリーチャーであり、『ドラゴンの迷路』は小型セットにもかかわらず既に10体の伝説のクリーチャーが存在していたのだ。
それよりなにより、限られた空間をあまりにも多くの要素が奪い合っている中で、ネフィリムには勝ち残るだけの理由がなかったのだ。ネフィリムはいろいろな意味で「あわない」ものだったのである。
#2: 混成カード
まず、ここで言うのは混成マナ・コストを持つカードのことであり、他の混成コストのことではない(実際、強請とか《野蛮生まれのハイドラ》は『ドラゴンの迷路』にも存在している)。『ラヴニカへの回帰』や『ギルド門侵犯』には混成マナ・コストを持つカードが存在していた。各ギルドに垂直サイクル(コモン、アンコモン、レアに各1枚)が存在していたのに、なぜ『ドラゴンの迷路』には存在しないのか? その答えは、人間の脳にある。喩えるなら、脳というのはティーカップのようなもので、溢れずに注げる量は限られているのだ。
マジックのデザインに関して言うと、プレイヤーの大多数にとって多すぎないでセットに入れられる要素の量は限られている。『ドラゴンの迷路』には、既にセット1つに入れていいと思える量以上が詰まっていた。キーワード11個と、それぞれにテーマを持つ10個のギルドが入っているのだ。たとえばリミテッドで、カードを色、アーティファクト、土地で分けるとしよう。それだけで17個の束になる。クリーチャーと呪文を分けるなら32個の束だ。しかも、ここには、複数の2色カードを含むレアの分割カードは数えていないのだ。
このセットには既に分割カードが追加されている。デザイン・チームは「金色でない多色」は1系統でいいと判断し、混成カードを除いたのだ。
#3: 装備品
迷路走者に装備品を与えるのはイカしていない? ギルドの装備品を持つのはかっこいいんじゃないか? ああ、そうだとも。実際、デザインしたものもある。しかし、問題が1つあった。ラヴニカでサイクルを作るとしたら、10枚サイクルになる、ということである。
『ドラゴンの迷路』は156枚セットだ。その中の11枚は土地(ギルド門と《迷路の終わり》。ショックランドは前のセットからの再録であり、セット内の枚数には含まれない)。残りは145枚。1ギルドあたり14.5枚。一見すると多そうに見えるが、そんなことはない。実際のところ、入れるべきものは多くてねじ込む空間は狭いのだ。
結局、装備品は、プレイヤーが装備品を望んでいるにせよ、予想していないということで犠牲になった。入れなければならないものではなかったのだ。場所を奪い合うということになれば、豪華なだけで必要ではない10枚サイクルは生き残れなかった。
#4: ギルド・メカニズムを持つ追加のカード
この区分は、存在しないと言うより、むしろプレイヤーの一部が想像していたよりも少なかった、というほうがふさわしいだろう。なぜギルド・メカニズムを持つカードはそれほど多くなかったのか? 理由は2つある。まず、ギルド・メカニズムとして採用されたメカニズムの中にはデザイン空間が狭いから採用されたものもあるということ。つまり、流麗なデザインが残っていないものもあったのだ。
次に、上で言ったとおり、このセットは狭い空間に大量のものを詰め込もうとしているということ。そのためには様々な譲歩が必要となった。そういった譲歩の1つが、セットに入れられるメカニズムの数でなくセットに入れなければならないメカニズムの数を意識するということだったのだ。
メカニズムの空間を圧縮したことは、特定のメカニズムがギルドの単色それぞれには存在しなくなった理由でもある。
#5: ラヴニカ・ブロックからの特定の再録カード
《稲妻のらせん》[RAV]
《屈辱》[GPT]
《電解》[GPT]
《呪文嵌め》[DIS]
《予言の稲妻》[APC]
《吸収》[INV]
《糾弾》[M11]
《極楽鳥》[M12]
《差し戻し》[RAV]
《時間の把握》[10E]
《シラナの岩礁渡り》[GPT]
《オーガの門壊し》[DIS](なぜこれを?)
並べればきりがない。旧ラヴニカ・ブロックに存在した、再録するのに完璧なすばらしい呪文の数々に何が起こったのだろう? その答えは、セットの主力は新カードでなければならない、ということだ。その理由を次に挙げよう。
まず、再録カードは使い慣れた品であり、マジックの本質は発見にある。次に、新しいものを輝かせたい。もし「強力なもの」(実際の存在ではなく、セットに入れられるカード・パワーには上限があるという考え方を表した描き方である)を再録カードばかりにしたら、新カードの魅力が薄れてしまうことになる。さらに、かつて最もエキサイティングだったカードの一部には、やっていいことの幅を押し広げたからこそエキサイティングだったものもある。戻したくはないものもあるのだ。
再録したカードも実際に存在する。我々は考えて、どれだけ戻すかを決めたのだ。
#6: ドラゴン
望みをかなえることの重要性についてはしばしば語ってきた。さて、『ドラゴンの迷路』なのに、なぜドラゴンがいないのか? ドラゴンを作る《ドラゴン化》は入っているが、それ以外には「ドラゴン」の名を冠したこのセットにドラゴンらしいものはない。何が起こったのか? ここに、重要なポイントがある。セットのデザイン、デベロップは、セット名が決まるよりずっと前から行われているのだ。今デザインしているセットが『ドラゴンの迷路』と呼ばれることになるということを知らずにデザインしていたので、セットにドラゴンを入れなかったのだ。
このセットに『ドラゴンの迷路』という名前が付いたとき、このセットにドラゴンが入っていないという問題が発生した。これは実際にかなり議論された。セット名が指しているのはニヴ=ミゼットなので、「ニヴ=ミゼットの迷路」という名前も検討されたが、響きがよくなかった。最終的に、この名前がストーリー上のものであり、プレイヤーはドラゴン一般でなく特定のドラゴンを指すのだと理解してくれるだろうということになったが、実際は予想してたほどうまくはいかなかった。ということで次の区分の話になる。
#7: ニヴ=ミゼット
セット名が指すドラゴンはニヴ=ミゼットである。うん、セットにドラゴンは入っていない――このドラゴンは? これについても議論したが、いくつかの問題があった。まず、伝説のクリーチャーとして『ラヴニカへの回帰』に既に登場している。彼はイゼット団の指導者であり、ギルドの指導者は全て『ラヴニカへの回帰』か「ギルド・メカニズム」に登場しているのだ。
新カードとして登場させることはできなかったのか? それにもいくつかの問題があった。まず、同じ伝説のクリーチャーを2枚のカードに印刷するということは、特に同一のブロック内では、してこなかった。そういうことをする場合、通常、色が変わるなどの何か根本的な変化が必要となる。しかし、ニヴ=ミゼットはイゼット団の指導者であり、青赤でなければならない。しばしば、何らかの大変化がある――例えばミケウスは死亡し、ゾンビになった。しかし、ニヴ=ミゼットにはそういった大変化も存在しない。
では、プレインズウォーカーにすることはできなかったのか(するに違いないと思っていたプレイヤーがたくさんいることは知っている)? 問題は、物語上彼はプレインズウォーカーではない、ということだ。マジックには既に非常に知性の高く強力なドラゴンのプレインズウォーカー、《プレインズウォーカー、ニコル・ボーラス》がおり、クリエイティブ・チームは2体目を作りたくはなかったのだ。
仮に、こういった問題がなかったとしてみよう。新しいニヴ=ミゼットのカードを作るとして――一体、どこに入れる? このセットの神話レアには《ラル・ザレック》がいる。神話レアの枠は10枚で、各ギルドに1枚ずつ必要だ。ニヴ=ミゼットを入れるということは、イゼット団には2枚の神話レアがあり、どこか1つのギルドには神話レアがないということになる。不公平だ。
では、ニヴ=ミゼットをレアにするというのは? レアにはもう伝説のクリーチャーのサイクルが存在する。迷路走者だ。ニヴ=ミゼットをレアにするということは、イゼット団には2枚の伝説のクリーチャーが存在することになる(しかもプレインズウォーカーまでいる)。他のギルドには1枚しか存在しないのに、だ。
デザインにおいては、ままならないことはよくある。それはそれで仕方ないことなのだ。
#8: セレズニアのX呪文
『ラヴニカへの回帰』で、イゼットには《世紀の実験》、ラクドスには《ラクドスの復活》、アゾリウスには《スフィンクスの啓示》があった。『ギルド門侵犯』では、ボロスには《オレリアの憤怒》、グルールには《一族の誇示》、オルゾフには《不死の隷従》、ディミーアには《精神削り》、シミックには《生体材料の突然変異》と《雨雲を泳ぐもの》があった。ゴルガリとセレズニアにだけはX呪文がなかったのである。
そして『ドラゴンの迷路』で、ゴルガリには《花崗岩の凝視》が与えられた(オルゾフには《死せざる者への債務》、ディミーアには《知力の刈り取り》、グルールには《野蛮生まれのハイドラ》が増えた)。しかし、セレズニアのX呪文は? おい開発部、このサイクルを完結させるの忘れてないか?
答えは簡単だ。これがサイクルだとは気付いてもいなかったのだ。10個のギルドのうち9個にX呪文があるということに気付かないなんてあるのかって? 1年かけて徐々に組み合わせていったのだから、見落とすこともよくある話だ。諸君は全てを一度に見るが、開発部にはそんなことをする余裕はない。セットは取り組んでいる間もずっと変化し続けており、気付かないうちに何かが揃っているということもあることなのだ。ギルドのX呪文というのは、そんなうちの1つなのである。
#9: 3色呪文/ギルド・メカニズムの組み合わせ
アラーラの断片・ブロックを覚えているだろうか? 我々はそれぞれにメカニズムを持つ(名前のあるものもないものもあった)3色の断片5つを作った。そして、1年かけて、それらのメカニズムを1枚のカードに重ね合わせていったのだ。なぜラヴニカへの回帰・ブロックではそれをしなかったのか?
その答えは、アラーラの断片・ブロックは5つのばらばらの世界が1つの共通の世界に重合していくという物語だったからである。メカニズムの統合は、物語や世界の中で意味を持っていたのだ。ラヴニカへの回帰・ブロックはそうではない。このブロックは2色のギルドによって成り立っている。3色呪文や複数のギルド・メカニズムを組み合わせた呪文は、ふさわしくないのだ。
実験のための実験をするのは簡単だが、ブロックのあり方を守ることは各世界をそれらしく保つために必要なのである。
#10: キオーラとフブルスプ
ニヴ=ミゼットの他にも、存在しないことについて質問されるキャラクターが2人いた。なぜ彼らが『ドラゴンの迷路』に登場しないのか、説明していこう。
キオーラは、デュエルズ・オブ・ザ・プレインズウォーカーズのために作られたプレインズウォーカー2人のうちの1人である。もう1人は《ラル・ザレック》だ。我々は、時が来たらそれぞれをカードの形で登場させることに決めていた。無理にねじ込むのでなく、相応しい時までじっと待つのだ。《ラル・ザレック》にとっての時こそがラヴニカだった。ラヴニカは彼の出身次元であり、彼はイゼット団らしいプレインズウォーカーなのだ。キオーラに関して言うと、ラヴニカには縁がない。彼女は全くシミックではないし、リバイアサンを愛する船乗りのプレインズウォーカーに都市次元は似合わない。相応しい時が来たら、キオーラに出会う機会もあるだろう。
フブルスプは全く逆である。彼がカードになる予定はまったくない。彼は『ラヴニカへの回帰』のカード1枚と『ギルド門侵犯』のカード1枚で姿を見せたかわいらしいクリーチャーにすぎない。パターンを作ろうとは思っていない。実際、このキャラクターがそれほど愛されるとは思っていなかった。フブルスプを『ドラゴンの迷路』でカード化すべきだと気づいた時には、もう完全に手遅れだった。タイムマシンがあれば、過去に戻ってカードにしていただろう。
「おーい......おーい......おーい......」
本日はここまで。『ドラゴンの迷路』に存在しないもの(とその理由)についての話から何らかの洞察を得てくれていれば幸いである。諸君からの感想を楽しみにしている。他に期待していたものがあっただろうか? 入れて欲しくないのに入っていたものは? 私の発言について、他に何かあるだろうか? ともあれ、この記事についての感想を聞かせて欲しい。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で待っている。
それではまた次回、門を開く日にお会いしよう。
その日まで、不存在があなたの心を優しくしますように。
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