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Making Magic -マジック開発秘話-
シミックのデザイン
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Making Magic
シミックのデザイン
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年2月18日
シミック特集へようこそ。これはラヴニカへの回帰・ブロックのギルド特集の7番目にあたる(読んでいない諸君のために紹介しておくと、セレズニア、アゾリウス、イゼット、ゴルガリ、ラクドス、ボロスだ)。ギルド特集という大型シリーズ記事が好きな諸君には、私は旧ラヴニカ・ブロックが発売された当時に各ギルドの色という観点からその理念についての記事(リンク先は英語)を書いたということを伝えておこう。今回は、理念ではなく、カード・デザインについて語ってきている。緑と青のカードを一般にどうデザインするのか、さらにはシミックのカードをどうデザインするのかだ。
このシリーズの各記事で、私は最初に同じ4つの質問をし、それからそのギルドの旧ラヴニカ・ブロックとラヴニカへの回帰・ブロックの両方におけるギルド・メカニズムのデザインを検証している。さて、それでは早速シミックの話を始めるとしよう。
《シミックのギルド門》 アート:Svetlin Velinov |
この色の組み合わせにとって最も簡単なことは何か?
一見すると、この2色には何も共通点がないように見える。緑は激烈なクリーチャーの色で、青は頑固な呪文の色である。しかしながら掘り下げていくと、この2色に共通するメカニズム的空間がたくさん存在するのだ。
呪禁
対象にならないという能力は、初期には青と緑のクリーチャーに見受けられた。やがて、開発部はこの対象にならないという性質を生来持っているのが緑、呪文やエンチャントで付与できるのが青と位置づけた。時を経て、緑のそれは今で言う呪禁に、青のそれは今で言う被覆にとゆっくりと分化していった。被覆というキーワードが作られて、青も緑もこの能力を持つようになった。その後、被覆から呪禁になって、青も緑も呪禁に変化したのだった。
瞬速
緑と青が共有しているクリーチャーのキーワードは1つではなく、2つである。緑は飛び跳ねて襲いかかる動物の素早さを表すため、青はクリーチャーの持つ「戦場に出たとき」の受動的な能力を使うために瞬速を得ている。
《好奇心》能力
キーワード化可能な能力という話をすると、この能力(クリーチャーが戦闘ダメージを与えるたびにカードを1枚引く)はよく話題にのぼる。この能力は次の分類の話に繋がるが、緑と青の両方の領域である。
カードを引くこと
青はカードを引くことの第1種色、緑は第2種色である(黒も第2種色だが、カードを引くのに追加の代償が必要なことが常である。ライフとか)。緑のカードを引く効果は何らかの形でクリーチャーに関連するものに限られている。緑と青は、キャントリップ・クリーチャーを持つ色2つでもある。
《マロー》能力
この能力を持つクリーチャーのパワーとタフネスは手札にあるカードの枚数に等しい。これは緑では成長を表し(緑は時を経て育っていく */* クリーチャーの色である)、青では知識との関係を表す。
コモンの大型クリーチャー
この2色では5/5以上のコモンのクリーチャーがいるのが普通である。緑は大型クリーチャーの色だからであり、青には海蛇がいるからである。
カウンターを操作する
緑はカウンターをもっともよく生成する色(成長という性質から来ている)であり、青はカウンターやオーラを動かすなどの小ずるいことをする色である。通常、これはまず使われないデザイン領域(ブロック全体で2?3枚ある程度なのが普通)だが、緑と青が組み合わさるならこれはデザイン上もっともフレイバーに富み、深いものになりうる。シミックのキーワードがどちらもこの分類に入るのは偶然ではないのだ。
自分のクリーチャーを複製する
緑は出してあるクリーチャーと同じものをデッキ内から探すことで、青はクローンすることでこの処理を行う。自分のクリーチャーをコピーする、という点に限って言えば、最終的には同じような結果になる。
クリーチャーをアンタップする
最近、緑に呪文でクリーチャー1体をアンタップするという能力を与え、突然のブロックができるようにした。この能力はこれまで白のものだったが、白には攻撃に対処する手段がいくらでもあり、緑には《濃霧》しかなかったので、これを緑に移したのだ。青には《ぐるぐる》効果(「パーマネント1つを対象とし、それをタップまたはアンタップする」)がある。
島渡り
これは緑青の混成カードでだけ見るような類の重複である。念のため書いておくと、緑は土地渡りの色であり、5種類の基本土地それぞれに対する渡りを持っている。各色には自分の土地に対する土地渡りが存在する(いわば土地勘があるのだ)ものなので、青には島渡りがあるのだ。
これに近い数の重複があるのは、白緑と赤黒ぐらいだろう。
この色の組み合わせにとって最も難しいことは何か?
この2色にはかなりの量のメカニズム的重複があるが、テーマ的にははるか遠く離れている。緑はクリーチャーに焦点を当てており、その呪文はソーサリーが多い。一方の青は呪文に焦点を当てており、インスタント寄りである。
旧ラヴニカとラヴニカへの回帰の間で、シミックがクリエイティブ的な意味でもっとも作り直されたギルドだと言うことに諸君も気付くだろう。メカニズムで見られるテーマにもそれは反映されていて、重複の独自性が奇妙なのだ。他の敵対色の組み合わせでは、敵対色同士をどう組み合わせるかは明確になるものだった。一方の色が目的を、そして他方の色がその手段を作るのだ。例えば、ボロスは平和を求めるが、そのために強烈な衝動を使う。オルゾフは力を求め、そのための手段が秩序である。
シミックはそう簡単ではない。彼らが追い求めているのは厳密には成長でも知識でもない。彼らが求めているのは「自然の改良」なのだと私は表している。彼らはよりよい世界を作ろうとしているのだ。どちらの色も目的ではないが、絡み合っている。メカニズム的にもそうだ。緑青の雰囲気は、青の雰囲気とも緑の雰囲気とも違う。何らかの雰囲気は存在していて、シミックを作るにはそれを感じなければならないが、それを表すのは難しいのだ。
そういう中間点を見いだせば、シミックは輝く(そして私はギルド門侵犯におけるシミックの出来映えに大満足だ)が、それを的中させるのは難しいのだ。
《ザーメクのギルド魔道士》 アート:Chase Stone |
この色の組み合わせにとってメカニズム的中心は何か?
メカニズムのデザインは最初にすべきデザインの鍵となる部分で、他のデザインはその周りに来ることになる。これは始点なのだ。それでは、緑と青を組み合わせるにあたって始点はどこなのか? 興味深いことに、それはクリーチャーである。しかし話はそう単純ではない。緑青は実験の色であり、変身の色であり、強制変化の色である。つまり、シミックのデザインを始める前に、クリーチャーがどう変化するのかを決めなければならないということになる。メカニズム的中心は、この変化にあるのだ。
例えば、ギルド門侵犯のシミックは進化と、そのメカニズムが必要とするものが中心である。これからそれについて話そう。これがクリーチャーに見られる理由は、自然の改良はクリーチャーの登場によるものだからである。そう、緑青には呪文があるが、その特徴はクリーチャーの奇妙さにこそあるのだ。
この点から、どういうクリーチャーが作られているか、そしてそれはその後どう適応していくのか、そしてその進化に関しどのような環境が作られるのかをデザインしていくことになる。ある意味では、緑青のデザイナーは再現しようとする科学者のようなものである。緑青を作るにあたって、我々はマジックの自然を改良しているのだ。
この色の組み合わせの焦点は何か?
メカニズム的中心は、セットを作る中心のことである。焦点は、その色の組み合わせがどうやって勝つかである。色によっては、メカニズム的中心と焦点の間には大きな隔たりがあるが、緑青はそれほどではない。緑青はクリーチャーを作り、そして進化させる。対戦相手が止めなければ、この流れゆく変化の行き着く先に勝利があるのだ。
緑青の勝利の道は、他の色の組み合わせに比べて選択肢が多少多い。緑青は成長し、進化し、適応する何かを作る。その何かは最終的に攻撃的なクリーチャーであったり、奇妙なコンボであったり、捻れた環境であったり、なんだかわからないものだったりする。鍵は、緑青には究極的に他の色の組み合わせでは考えられない何かになる何かを弄り回し、作る道具が存在するということである。
可能性の広がりこそが緑青の焦点である。起こりうることは、起こるのだ。もし意識しなければ、その起こったことで勝負が付くことになる。その起こることとは? 緑青が見付けたときにわかることになる。
移植
旧ラヴニカ・ブロックでは、シミックは3つめのセット「ディセンション」に存在していた。ディセンションのデザイン・チームはアーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe(これが彼が最初にリーダーを務めたセットだ)、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb、ブランドン・ボッツィ/Brandon Bozzi(クリエイティブ・チームの一員)、それに私だった。ブロックの最後のセットだったので、クリエイティブの仕事はかなり終わっていた。シミックは、ドクター・モローの島のようになるということが決まっていたので、チームは実験らしく感じられるメカニズムを探求することに興味を持った。さて、問題は、実際にどうやれば良いのか、だ。
最初に明らかになったのは、そのメカニズムは実験なのだから、クリーチャーに作用するものだということだ。クリーチャーに影響を及ぼす何枚かのカードについて話し合ったが、それはシミックの「創造」という本質から焦点をずらすものだった。鍵は、突然変異を表すメカニズムを見付けることだ、と我々は判断した。そのために、突然変異をメカニズム的に表す方法を探すことになった。
ある週、アーロンは我々に「突然変異メカニズム」をデザインするという課題を出した。確かゴットリーブだったと思うが、提出したメカニズムは「mutato」というものだった。彼のアイデアは、+1/+1カウンターを使って突然変異を表すというもので、mutato能力はクリーチャーがその突然変異を他のクリーチャーに広げられるというものだった。mutatoクリーチャーには2つめの能力があり、mutatoクリーチャーに突然変異させられているクリーチャーに能力を与えられるようにするというものだった。我々はすぐにその条件を+1/+1カウンターを持っているだけに改めた。これによって文章は単純化でき、またこのメカニズムを+1/+1カウンターを使う他の多くのマジックのカードと相互作用できるようにする後方互換性が多少生まれた。
もう一つのちょっとした変化は、mutatoクリーチャー全ての本来のサイズが1/1だったということだった。テンペスト・ブロックのスパイクとの差別化のためにそうしたのだが、デベロップはこれら全てを0/0に改めた。これによってクリーチャーのパワーやタフネスを計算するのは簡単になり、また「使い切った」ときには戦場から取り除かれることになった。
能力を見付けることは、緑と青の両方が使えるクリーチャー能力を与える、という話なので、非常に単純だった。もっとも話題になったカードはこれだった。
このカードはデザイン中〈帽子の壁〉と呼ばれていたものであり、要は移植以外になにもしないものだった。このカードをさらに奇妙なものにしているのは、攻撃もブロックもできないということである。このカードはただかわいらしい帽子を他のクリーチャーに与えて強化するだけなのだ。開発部では、このカードが一体どういう意味を持つのかという議論が巻き起こった。攻撃もブロックもできないクリーチャー? どういうことだ? ところで、〈帽子の壁〉の元のバージョンは防衛と「[カード名]では攻撃できない」という能力が書かれていた。最終的に、このカードは役に立つもので、そしてこの奇妙さがシミック・ギルドらしさを醸し出しているという主張が通ることになった。
移植は間違いなく人々に受け入れられるのに時間のかかったメカニズムの1つだった。実際にプレイしてみなければその使い方を会得できないが、一旦理解してしまえば、シミック人には移植は大人気になった。実際、発掘を除いては、ラヴニカ・ブロックで私が個人的に一番気に入っているメカニズムが移植なのだ。
進化
グレート・デザイナー・サーチ2(リンク先は英語)で、私は決勝進出者にそれぞれ自分のブロックで使う世界を作り、そしてその世界とブロック構造を提出するように言った。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerはブロックの各セットごとに数千年の時が流れるという世界を提出してきた。それに意味を持たせるために、イーサンは彼の世界を可能な限り昔、前史時代から始めた。彼のブロックに関する最初のコメントの中で、彼のブロックのテーマは進化だと感じた、と強調していた。それを受けて、彼の最初のデザイン・チャレンジで、イーサンは進化を表現するために進化という充分適切な名前のメカニズムを作った(進化の誕生について詳しく知りたい諸君は、私の書いたギルド門侵犯のプレビュー記事の1つめを読むと良いだろう)。
この進化メカニズムに関して私が本当に気に入ったのは、元々やりたいことを利用するというあり方である。マジックのデザインは、そうでなくてもプレイヤーがやるようなことにプレイヤーの焦点を当てさせるようなものにしたときにうまく行くものである。例えばゼンディカーの上陸がその一例で、そうでなくても必要な土地を出すという行動を重要なものにしている。シミックのメカニズムはクリーチャー絡みのものになる(前述のメカニズム的中心を参照)のは決まっていたので、クリーチャーをプレイすることを他のクリーチャーに参照するというのはうまいのだ。それを最大化するために、我々はいくつか手を加えた。
パワー/タフネス
進化はより大きなパワーあるいはタフネスを持つクリーチャーが戦場に出ることを参照する。これはつまり、どちらか一方の特性値は低くなければならないということである。どれぐらい? ギルド門侵犯の11体の進化クリーチャーの中で、パワーが0なのが3体いて、パワーかタフネスが1なのが7体いる。タフネスが2なのは1体だ(正確に言えば、タフネスが2の進化クリーチャーは他にもいるが、タフネスのほうが低いのは1体だけなのだ)。これらがどれも成長しやすいようにデザインされているのは、進化のあるべき姿だからだ。興味深いメカニズムを作るためには、そのメカニズムを持つカードや、そのメカニズムがプレイされる環境を整えてそのメカニズムが実際によく働くようにしなければならないのだ。加えて、進化クリーチャーがお互いに進化するよう、特にコモンにおいて複数の進化クリーチャーは一方の特性値が通常よりも高くなっている。
《練達の生術師》 アート:Willian Murai |
能力
ギルド門侵犯の進化クリーチャーの中で、コモン5体すべてとアンコモン1体の合計6体はフレンチ・バニラ(クリーチャー・キーワード以外にルール・テキストを持たないクリーチャー)である。その中の5体は進化以外のクリーチャー・キーワードを持っている。それらの能力はクリーチャーが成長するとよりうまく働くものを選ばれている。
追加の能力
より高いレアリティの進化クリーチャーは、他の形で進化の利点を活用している。《水深の魔道士》は+1/+1カウンターを得るたびに誘発する。他のものは+1/+1カウンターを他の効果のために使っている。さらに他のものは+1/+1カウンターの数で生成する効果の大きさを定義している。これらのカードはプレイヤーが新メカニズムでデッキを組みたくなるようにするための、開発部内で「デッキを組め・カード/build-around cards」と呼ばれるカードなのだ。
環境
もう一つ進化を働くようにするために重要なのは、進化クリーチャーの側ではなく、それと組み合わせて使うカードの側だ。進化クリーチャーのパワーやタフネスに注意深くあるのと同じように、セットの他の部分でも、特に緑と青については、パワーやタフネスに注意を払わなければならない。ギルド門侵犯には+1/+1カウンターを扱うカードも複数存在する。あるものはカウンターを持つクリーチャーに能力を与え、またあるものはカウンターを動かし、またあつものは+1/+1カウンターを他のリソースに変換する。他にも、自分のコントロールするクリーチャーの中で最大のパワーを参照するカードも存在する。それらのカードは単体でも働かなければならないが、しかし組み合わせてシナジーを産み、緑や青に強烈なシミックらしさを与える助けになるのだ。
移植と同じように、我々は進化、そしてそれ以外の緑や青のカードを通してクリーチャーが突然変異の実験であるという雰囲気を醸し出せるよう尽力した。プレインズウォーカーである諸君は、ゲームが進むにつれてクリーチャーを変化させ、そしてより強くしていくのだ。そう、自然を改良するのだ。
私は進化の出来映えに非常に満足しており、ラヴニカへの回帰・ブロックにおける個人的なお気に入りのキーワードはこれなのだ。
シミックの街
シミックについて語らなければならないことは以上である。諸君がこのギルドについて考えていることを聞かせてほしい。メール、掲示板、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Google+)で待っている。
それではまた次回、シナジーについて語る時にお会いしよう。
その日まで、あなたの実験がうまくいきますように。
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