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Making Magic -マジック開発秘話-
ギルド門侵犯の嵐 その1
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Making Magic
ギルド門侵犯の嵐 その1
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2013年1月21日
プレビューが終わった翌週、カードそれぞれの話をするのはもう伝統になってきている。伝統を愛する一個人として、私はこれを否定する気はさらさらない。ということで話を始めよう。
《外出恐怖症》
しばしば、制限は創造の母という話をしてきた。《外出恐怖症》はまさにマジックのデザインにおけるその好例である。2つの異なる目的を1枚のスペースで果たさなければならなかった。リミテッドではクリーチャーを制御するカードが必要で、進化を助けるカードが必要だった。一見すると、この2つのことはまったく関連しないように思える。1つめの需要は相手のクリーチャー、2つめの需要は自分のクリーチャーに使うものだ。どうすれば、この両方を同時に満たすことができるだろうか?
重要なのは、それぞれに必要な条件が何かを考え、そしてその交点を探すことだ。「制限は創造の母」というのは、人間の脳みそというのは怠けるものだからである。問題を解決するときは、同一の自然な道をたどることになるものなのだ。今まで解決したことのない問題に直面したときにのみ、脳みそは新しい道を探そうとする。つまり、制限が脳みそに創造させるのだ。
今回の問題を解決したその足がかりは、進化のほうにあった。進化クリーチャーを助けるにはどうすればいいか? その方法の1つは、より大きなクリーチャーを戦場に出すことである。他に進化クリーチャーの進化を助ける方法はないだろうか? 縮小だ! そうだ! そうだ! そうだ! 縮小は、青が対戦相手のクリーチャーに対してよくとる方法だ(「縮小」とは、?N/?0修整を与えるカードの開発部内での通称である。これは昔のカード、ホームランドの緑のカード名に由来している。この能力は後に青のものになっている)。
クリーチャーを縮小したら、+1/+1カウンターを得やすくできる。でも、縮小することで+1/+1カウンターによる利益を減らしてしまうことにはならないだろうか? それなら、縮小を解除できるようにすればいい。そう考えて、私はクリーチャーのパワーを減らすオーラという発想に行き着いた。さらにこれを手札に戻すコストを付け加えることで、進化を助けることもでき、また、より強大な敵が現れたときにはこの縮小オーラを動かすこともできるのだ。ほら、制限が再び現れた。
《軍勢の集結》
通常、穴埋めの手順はこうだ。デベロップ・チームがリード・デザイナー(この場合、マーク・ゴットリーブ/Mark Gottlieb)に、デベロップ中に取り除かれたカードによってできた穴を伝える。ゴットリーブは穴埋めに名乗りを上げていた様々な人にメモを回す。それら全員が期日までにその穴を埋めるカードを作り、ゴットリーブに送る。ゴットリーブはそれをデベロップ・チームに渡して、デベロップ・チームが確認して穴を埋めるカードを選ぶのだ。
これが通常の方法なのだが、時折、リード・デベロッパー(この場合、デイブ・ハンフリー/Dave Humpherys)が私のところにやってきて、穴について伝え、「何かアイデアはないか?」と聞いてくる。《軍勢の集結》はそういったカードの1枚である。デイブは、魅力的で、しかし単純なボロスのカード、赤でも白でもあると感じられるカードを探していた。私は、どんどん大きな軍勢を呼び出すだけのエンチャントという考えが好きだった。
《カルテルの貴種》
セットを後で見直したときに面白いのは、作られた時の理由がすでにあてはまらなくなっても別の理由で印刷に至ったカードがあるということだ。《カルテルの貴種》はまさにそれである。最初のオルゾフのメカニズムは、共同死亡誘発だった。これは、この能力を持つ全てのカード(たしか全部クリーチャーだったと思う)は、これが戦場から墓地に置かれた時に何らかの効果を得るというものだ。
今は、クリーチャーを墓地に送る方法はいろいろ存在するが、その多くは対戦相手の協力(攻撃やブロック、あるいはクリーチャー除去など)が必要である。そこで、自分の死亡誘発を起こせるようにするために、自分のクリーチャーを生け贄に捧げることをコストとするものを作ったのだ。そのため、チームは何枚かをデザインした。
私が《カルテルの貴種》を作ったのは、それ自身でもフレイバー的に優れ、そしてオルゾフのメカニズムを助ける役にも立つカードを作るためだった。このカードの出来には満足していた。しかしその後、そのオルゾフのメカニズムは失われた。《カルテルの貴種》はその作られた時の理由を失ったが、それでもイカしたカードなので私はファイルに残しておいたのだ。このファイルを受け取ったときにマーク・ゴットリーブは受け入れ、このファイルがデベロップに回ったときにデイブ・ハンフリーも受け入れた。セットに何かが加わり、そして去って行くことはよくあることだが、それが去って行った後にも影響が残ることもまたよくあることなのである。
《宮廷通りの住人》[GTC]《賢者街の住人》[GTC]《影小道の住人》[GTC]《鋳造所通りの住人》[GTC]《キヅタ小径の住人》[GTC]
このサイクルはさまざまな変更を経たものだ。私がこのサイクルを最初に作ったのは、ラヴニカへの回帰のリミテッドでは意識しなかったものをギルド門侵犯のリミテッドでは意識するようにしたかったからだ。多色は「色テーマ」とかみ合う(このテーマを取り上げていたシャドウムーアやイーヴンタイドを見てみるといい)ので、私は有色の呪文がプレイされることを参照するカード5枚を作った。
これらのカードが元はどう働いていたか、一例を見せよう。
〈初期の住人/Early Denizen〉
{2}{W}
クリーチャー ― 人間・兵士
2/2
白か赤の呪文が1つ唱えられるたび、クリーチャー1体を対象とし、それをタップする。
2つのことに気付くだろう。まず、このカードはクリーチャーが戦場に出たときでなく、呪文が唱えられた時に誘発するものである。次に、1色ではなく2色を参照しており、その片方はカード自身の色、もう一方はギルド門侵犯に存在するギルドを通してそれと繋がっている色である。このサイクルは5つのギルド全てに存在していて、効果はそのギルドのプレイスタイルと関連していた。例えば、タップ能力は攻撃的なウィニー戦略を採るボロスで有効であった。そして、そう、このサイクルは(効果を得るのに{1}の支払いが必要な)シャドウムーアの信徒サイクル(《威嚇者の信徒》《溺れさせる者の信徒》《薄煙の信徒》《薬剤師の信徒》《養育者の信徒》)を元にしていた。
元の発想は、その色さえ合っていれば使えるが、特定のギルドでは特に有効になる単色カードを作りたいというものだった。プレイテストの結果、経験の浅いプレイヤーは、2色を参照するカードをそのギルド以外では使いたがらないということがわかった。それを受けて、我々はそのカード自身の色1色だけを参照する方がいいと判断した。こうして、このカードはその色を含むギルドならどこでも有意義になったのである。
呪文から戦場に出るクリーチャーへの移行は、オルゾフのメカニズムが強請になると決まった時に行われた。メカニズムが呪文を参照するのだから、住人は戦場に出るクリーチャーを参照することにしたのだ。これによって、住人はこのブロックに多数存在するトークンとの相互作用を得ることになった。
これらの変更は全てデザイン中に行われたことである。デベロップはマナ・コストやサイズ、効果を変更したが、このサイクルの基本的構造はそのまま残されたのだ。
《墓所の怪異》
質問に答えるブログを持つカラーパイ・グルとして、私はセットが出るたびに「X色はこれをできるのか」という質問を受ける。《墓所の怪異》はそういうカードの1つである。「黒はマナを出せるのか?」
答えは、YESである。ただし、非常に限られた用法で。マナ生成のカラーパイにおける分類は以下の通りになっている。
緑は長期的なマナ安定化の王である。土地を探すこともできる。毎ターンタップしてマナを出せるクリーチャーもいる。デッキからマナを探し、手札から追加の土地を出すこともできる。緑は残るマナを出すことに非常に長けているのだ。
赤は一時的なマナの色だ。アルファ版では、黒に《暗黒の儀式》があり、高速マナは黒のものだった。何年も前に、我々は儀式を赤のものにした。今日では儀式は危険なので枚数が減っているが、それでもこれは赤の範疇なのだ。
黒は黒らしいという長期的テーマを持っているので、マナのカラーパイのかけらとして黒には沼から追加の黒マナを出す能力が与えられている。我々がこれを助けるのは、黒は、マジックの一番最初から、他の色よりも色マナを必要とするからである。黒はより黒になりたがるものなので、我々は古今を問わずそれを認めているのだ。
ラヴニカへの回帰・ブロックに、エンチャント(土地)のサイクルがあることに気付いているだろうか? 気付いてなくてもおかしくはない。非常に見落としやすいものなのだ。まず、2つはコモン、2つはアンコモン、1つはレアである(《封鎖作戦》《慢性的な水害》《地下世界の人脈》《競走路の憤怒》《都の芽吹き》)。このサイクルは、ラヴニカへの回帰のデザインの間に、マーク・ゴットリーブが土地らしいフレイバーを持つトップダウンのカードを作るというデザインの小チームの一員だったことによって始まったのだ。
多くのカードを作ったのに加え、そのチームはエンチャント(土地)は場所の雰囲気を示すことができるので、都市において良いフレイバーを持つということにたどり着いた。そのため、ギルド門侵犯のデザイン・チームはこのエンチャント(土地)の緩やかなサイクルを加えたのであった。
デザイン名はこのデザインの背後にあるフレイバーを物語っている。白のエンチャント(土地)は〈通りの祝祭/Street Festival〉。青は〈飛行場/Aerodrome〉(気球型の空中旅行で一杯の空港というフレイバー)。黒は〈汚物詰まり通り/Filth-Choked Streets〉。赤は〈交易バザール/Trade Bazaar〉。緑は〈農夫の市場/Farmer's Market〉だった。デベロップの間に、黒のエンチャント(土地)は(エルドラージ覚醒の)《汚染された地》にあまりにも近いと判断され、再録になったのだった。
《処刑人の一振り》
黒は何かを殺すことができ、白は何かを殺すことができる。そうなれば、白黒の呪文はもっと簡単、でいいのか? 諸君が想像するほど簡単な話ではない。問題があって、その呪文は白らしくも黒らしくもなければならない。ほとんどの除去呪文は白単色、あるいは黒単色になってしまうのだ。ここで重要なのは、どちらも単色ではできないことをする呪文を作るということである。
この答えは、白の除去呪文と黒の除去呪文を精査し、そしてそれぞれどちらかしかできないことを探すことであった。白は攻撃しないというフレイバーを持つ。つまり、先に手を出したりしない「良い奴」であろうとする。黒は先手を取ることをためらわない。実際、黒は意識していない相手を攻撃するものだ。警戒していない獲物ほどいい獲物はいない。
黒は、一方で、?N/?N効果を持つ色である。白は破壊したりダメージを与えたりするものだ。?N/?Nは白らしくはない。そこで、この2つを組み合わせることで、どちらの色も単色ではできない効果が誕生するというわけだ。
《前線の衛生兵》
《前線の衛生兵》の2つめの能力についてネット上で多くの質問を受けた。なぜこのカードについているのか? 他の能力とまったく整合しているようには見えない、と。その答えは、このカードは特定の目的のために存在しているということである。デベロップには、不可能な任務が存在する。限られた人数のプレイテスターだけで、何百万人のプレイヤーがやることを判断しなければならないのだ。完璧に見極められることもあるが、リスクを取らなければならない場合には、カードはデベロップの意図していたよりも少しばかり強くなってしまうことがあるのだ。
その場合、デベロップは新しいセットでその問題児に対策できるカードを投入することが多い。《前線の衛生兵》の2つめの能力は、主としてこのカードのために与えられているのだ。
エリック・ラウアー/Erik Lauerはこの能力が必要だと思い、そしてこの能力を与えられるカードを探した。時には、その能力が最初はそこになかったと気づきすらしないほど、その必要なテキストを入れるのに完璧なカードが存在する。しかし、そういうカードが存在しないときもある。《前線の衛生兵》がこの能力を得たのは、このカードがフレイバー上それほど離れずに扱えるカードだったからである(どちらの能力もクリーチャーが他のクリーチャーを守るというものだ)。遠い昔、我々は健全な環境は美しさよりも重要だと判断した。そこで、時折こういう、役に立ち、使って楽しいが、我々の平均的な標準と比べて不格好なカードが投入されるのだ。
《門道の影》
ラヴニカへの回帰が世に出たとき、私はギルド門がストーリー上重要であり、ブロックが先に進むとサブタイプにより意味が出てくると告げた。ラヴニカへの回帰では、門を参照するカードはほんの数枚しかなかったし、開発部で言う「閾値1のカード」だった。閾値1のカードとは、その参照する種類のカードが1枚だけ戦場にあれば有効に働くというものだ。閾値1のカードが必要とするその種類のカードを活用するために必要な、参照する種類のカードの枚数はずっと少ない(デヴィン・ロー/Devin Lowの「計数」系のカードについてのコラム(リンク先は英語))
ギルド門侵犯は「門テーマ」カードの枚数を増やしただけでなく、「一次的計数」と我々の呼ぶ種類のものに移行している。一次的計数は、その種類のものが1つ増えるごとに1つ強い効果(や特性)を持つものだ。《門道の影》はまさにこれだ。門を多くコントロールしていれば、それをタップすることで、一時的な+2/+2の修整に変えることができる。このカードを使う場合、より多くの門を入れたくなるはずだ。
ドラゴンの迷路では、もちろん、新しいものがこれに加えられることになる。
プレインズウォーカーのデザインは難しい。再来したものはなおのことだ。その理由は単純だ。最初に出てきた時、我々はそのプレインズウォーカーに特徴を与える。2回目は、最初の登場時と一貫性を保ったまま(同じ人物だと感じられるようにしたいのだ)、何かメカニズム的な新鮮味を与えなければならないのだ。
ギデオンが難しいのは、最初の登場時にかなり革新的なひねりを加えていたからである。他のプレインズウォーカーと違い、ギデオンは自分の手を汚すことをためらわない。彼は座って呪文を唱えるだけではないのだ。ギデオンはクリーチャーとして剣を取り、戦うのだ。
今回、ギデオンをデザインするにあたっての大きな問題(そして、デザインも苦戦したが、デベロップも多くの仕事をこなしてくれたと記しておきたい)は、彼の攻撃するという特徴は前回限りなのか、それともギデオンの根幹なのかであった。言い換えると、ギデオンの特技は今回も有効なのか?
デザイン・チームの新人は、ダン・エモンズ/Dan Emmonという男である。ダンのプロジェクトの1つは、全てのプレインズウォーカーを確認し、それらを特徴付ける性質が何なのかという情報を集めるということだった。これは、マジック2013に入っているリリアナ(《闇の領域のリリアナ》)に多くの批判があったことから始まった。それまでのリリアナとやっていることが違いすぎるというのだ。彼女は屍術師なのか? 彼女は《沼》を操るのか? 彼女の本質は、何なのか?
ダンは時間をかけて各プレインズウォーカーのメカニズム空間を探り、そしてプレインズウォーカーに何でもやらせるようなことがないように注意しなければならないという結論に達した。プレインズウォーカーはたくさんいるが、それに分け与えられるメカニズムはそれほど多くないのだ。
ここでこの話をするのは、プレインズウォーカーの特徴をよりはっきり定めるという目的から、ギデオンは「私が行って戦おう」ということを繰り返すべきだという結論に至ったからである。バリエーションを持たせるために彼の大きさは変えたが、戦闘に加わるという部分がギデオンだけのメカニズム空間であるという考えを持ったのだった。
《派手な投光》
私が最初にデザインしたカードの1枚が《スクラーグノス》である。
これは、私がマジックのフリーランスとして働き始めるよりまだ前、一介のマジック・プレイヤーだったときに遡る。それから数年経って、私が初めてリーダーを務めたセットであるテンペストにこれを投入した。この話をしているのは、一般論として(そう、「一般論として」というのは、ミラディンの傷跡・ブロックに毒カウンターを取り除くカードをあえて入れなかったからだ)、私は他のカードへの答えとなるカードを作るのが好きだからだ。
《スクラーグノス》は、打ち消し呪文を使うデッキにも恐れるべきカードが必要だったので作られた。《派手な投光》はもう一つのいらだつメカニズム、呪禁対策に作られたのだ。このキーワードは構築で人気があるが、それはこの能力を持つクリーチャーを除去するのが難しいからである。
あらゆる角度から、呪禁に対する《派手な投光》は、打ち消し呪文に対する《スクラーグノス》のようなものである。きちんと準備したプレイヤーは、この問題に対処できるようになった。呪禁が多すぎる? じゃあ光を投げかけてやれ。
ここで一ひねり。このカードはメタゲーム問題のためにデザインされたのではない(まあ、後にデベロップはその可能性があると気がついたが)。これはビリー・モレノ/Billy Morenoが〈街灯柱/Lamppost〉という名前にふさわしいトップダウン・カードとしてデザインしたものなのだ。
続きがやって来る!ヤァ!ヤァ!ヤァ!
本日はここまで。まだカード名が「G」までしか行っていない(そしてこのコラムは「その1」である)ことに気付いていることだろう。そう、来週は「その2」だ。私の話を楽しんでくれたなら幸いである。
その日まで、あなたのマジックのカードが多くの物語を紡ぎ上げてくれますように。
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