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Making Magic -マジック開発秘話-
イゼットのデザイン
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Making Magic
イゼットのデザイン
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年11月12日
イゼット特集にようこそ。ラヴニカへの回帰・ブロックにおけるギルド特集はこれで3つめになる(セレズニア特集は1ヶ月前、アゾリウス特集は2週間前だった)。ギルド特集は旧ラヴニカ・ブロックの時にもやったので、今回が2回目になる。当時は各ギルドの色の組み合わせにおける色の理念について語った(当時のコラム群はここから参照できる(リンク先は英語))。今回は、各色の組み合わせをデザインの目で検討する。それでは、青赤という組み合わせのデザインは、またイゼット・ギルドのデザインは、どうなのだろうか?
《イゼットのギルド門》 アート:Noah Bradley |
今回のコラム群では、まず4つの共通の質問に答えて、それから旧ラヴニカ・ブロックとラヴニカへの回帰・ブロックそれぞれに存在したギルド・メカニズムについて深いところを語っていく。もう3回目になるので、諸君もこのやり方を理解してくれていることだろう。
この色の組み合わせにとって最も簡単なことは何か?
クリーチャーの多い方から少ない方に色を並べてみると、大体はこうなるだろう。
白 > 緑 > 黒 > 赤 > 青
当然の帰結として、これを逆向きに並べれば、それがインスタントやソーサリーの多い順ということになる。すなわち、青と赤はマジックというゲームにおける「呪文の色」2つなのだ。
青と赤を組み合わせるとなると、呪文の方に強く引き寄せられる。これから語るイゼットのメカニズムは、どちらもインスタントやソーサリーを主軸としたものだ。加えて、イゼットというギルドには「インスタントやソーサリーを中心にした」と言うべきカードが大量に存在する。インスタントやソーサリーをたくさん使うプレイヤーをより有利にするようなカードのことだ。
この色の組み合わせにとって最も難しいことは何か?
10個の色の組み合わせの中で、青赤は特にコモンにおけるメカニズム的な重なり合いがもっとも少ない組み合わせである。その一例として、2色以上にまたがる常磐木なクリーチャー・キーワードを見てみよう。
接死(黒緑)
瞬速(緑青)
飛行(白青黒)
先制攻撃/二段攻撃(赤白)
速攻(黒赤)
呪禁(緑青)
絆魂(白黒)
再生(黒緑)
トランプル(赤緑)
警戒(緑白)
青赤を唯一の例外として、あらゆる2色の組み合わせが何かのキーワードを共有している(そして、白青、青黒はどちらも飛行だけしか共有していない。これはこれで問題だ)。これは、わずかなデザイン空間しか重なり合っていない中で混成カードをデザインするときに大問題になった。
また、この2色はどちらも呪文を使うとはいえ、これらの色が呪文を使うやりかたというのは全く異なるものになりがちである。青はもっとも遅い色で、赤はもっとも速い色である。青はもっとも受動的な色で、赤は最も積極的な色である。この2色はまったく違う方向に向かっているのだ。
《ニヴィックスのギルド魔道士》 アート:Scott M. Fischer |
この色の組み合わせにとってメカニズム的中心は何か?
青赤の2色にはメカニズム的な繋がりが薄いので、どうしても青赤といえば呪文になる。理由はともかくどちらも呪文を唱えるのが好きなので、この2色を組み合わせるための最適な方法は呪文を唱えることに共通点を見いだすということになる。そのためにはいくつかの方法が存在する。
1つめに、これらの呪文になにかをすることができる。これは、イゼットの両ギルド・メカニズムがやっていることだ。呪文を強化する新しい能力を作り、それを青と赤に与えるのだ。
2つめに、インスタントやソーサリーが唱えられることによって誘発することができる。これを活かすためには、デッキに呪文を山盛りにすることになる。そして青や赤には呪文が多いので、この色の組み合わせならそういったデッキを組むのは簡単だろう。
3つめに、どんなタイプであれ呪文を唱えることによって有利を得るようにすることができる。最初の数ターンが過ぎても安くて使えるインスタントやソーサリーは存在する。これは例えばストームというメカニズムが青や赤に寄せられる理由である。
4つめに、インスタントやソーサリーが唱えられた時に強化されるパーマネントを作ることもできる。イゼットは、実験的というフレイバーにふさわしい、この能力を持ったクリーチャーが好きである。
5つめに、インスタントやソーサリーに何らかの作用をもたらすことができる。例えば、青はインスタントを、赤はソーサリーを墓地から戻すことができる。これは、各色が異なるカード・タイプを戻すというサイクルを作りたかったときのことに基づくものだ。黒は通常、《死者再生》や《グレイブディガー》などによってクリーチャーを戻すことができる。白はエンチャントを戻すことができる。緑は《Regrowth》系の呪文によって何でも戻すことができるので後回しでいい。青は打ち消し呪文を回収したいのでインスタントが欲しい。となると赤は、ソーサリーか土地ということになる。土地破壊といえば赤なので、赤が土地を戻すのは奇妙なものであり、従ってソーサリーということになる。ということで、緑は土地になった。
他の色の組み合わせに比べてずっと幅が狭く、より範囲の狭い効果に向かうことになったということに注意してくれたまえ(フレイバー的にはこれでいい。イゼットは非常にジョニー的なのだ)。
この色の組み合わせの焦点は何か?
理念的に、青の知性と赤の情熱を組み合わせれば創造性が得られる。私はイゼットを情熱的な思索者と位置づけるのが好きだ。従って、彼らの持つ感受性は実験の一種である。デザイナーとして(そして名だたるジョニーとして)、私はホーム・アローンの仕掛け的なものに惹かれるのだ。青赤は複雑な相互作用を経て、最終的にその各部分の合計よりも大きな結果を残すことを望んでいる。
青赤は、他の色の組み合わせに比べて、相互作用に寄ったデッキを組みがちである。構築でのイゼットのデッキが壮大な可能性を秘めたカード1枚を軸に組まれていることはよくある。私は、全ての10個のギルドの中で、イゼットがもっともジョニー的だ(次いでシミック、ゴルガリだ)と感じている。
リミテッドではその創造性があまり発揮されない。それは自分の使えるカードを自由に選べない中ではジョニーの感性を揺さぶるのは非常に難しいからである(ドラフトはシールドよりも構築寄りなのは言うまでもない)。従って、リミテッドでは焦点よりもメカニズム的繋がり、つまり呪文に寄ることになる。
複製
メカニズムの中には、開発秘話と呼べる話のあるものもあるし、そうでないものもある。複製は残念ながらその後者だ。ギルドパクトのデザイン・チーム(マイク・エリオット/Mike Elliottがリーダーで、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe、デヴィン・ロー/Devin Low、ブライアン・シュナイダー/Brian Schneider)は青赤の最大の重なりはインスタントやソーサリーであると気づき、それらに強く働くメカニズムを探したのだった。
最初の版の複製は、複数詠唱と呼ばれていて、最初に唱えたときに望むだけの回数唱えることができるというものだった。この版では、複製コストというのは特に存在せず、マナ・コストを再利用していた。デベロップの際に複製に関連づけたコストが置かれるようになった。マナ・コストと同じなのになぜこんなコストを追加したのかというと、いつかこのメカニズムを再利用する時のことを考えてのことだった。これによって複製コストとマナ・コストの異なる複製カードを作ることができるようにしてあるのだ。
ところで、旧ラヴニカ・ブロックの10個のメカニズムのうちで再利用されそうなのはどれか、という質問をよく受ける。私の見解はこうだ。
予見(アゾリウス):ないな。「プレイの繰り返し」問題がある。
憑依(オルゾフ):ないな。混乱もしたし、あまり好まれなかった。
変成(ディミーア):ないな。教示者は減らしていく方向にある。
複製(イゼット):あるな。
暴勇(ラクドス):ないな。人気もなかったし、デザイン空間も狭い。
発掘(ゴルガリ):ないな。カードパワーに問題がある。
狂喜(グルール):マジック基本セット2012でもう再録されている。
光輝(ボロス):ないな。人気もなかったし、デザイン空間も狭い。
召集(セレズニア):あるな。
移植(シミック):環境を選ぶが、再利用の可能性はあるだろう。
つまり、狂喜と召集と複製には復活のチャンスが充分あり、移植も「ないな」とは言えないメカニズムだ、ということになる。
複製のデザインは、拡大して唱えたときに意味があるような小さな効果を見付けるのが全てだったという点で超過と似ている。複製カードのほとんどは青や赤の基本的な呪文能力そのものだ。マナ・コストと複製コストを同じ値にしたかったので、多少の難点はあったが、デベロップがうまくやってくれた。
もう一つの大きな問題は、その呪文が大きな一つの呪文なのか複数の小さな呪文なのかだった。その前年、神河・ブロックには連繋メカニズムが存在した。これは効果を結合して1つの大きな呪文にするものだった。打ち消し呪文に強いメカニズムにしてもいいと開発部が判断したので、複数の小さな呪文にするというほうを選ぶことになったのだった。
残念ながら、複製について語ることはこの程度しか存在しないのだった。
超過
このメカニズムの想像について、ケン/Ken Nagleは特集記事をしたためている。もしこれについて興味があるなら、ここで読んでいくといいだろう。
このメカニズムの話を遡ると、第1回のグレート・デザイナー・サーチ(リンク先は英語)にたどりつく。最初のデザイン上の関門は「5枚を作れ/Gimme Five」というもので、各レアリティに5枚サイクルをデザインするという課題だった。レアリティごとに、カード・タイプは無作為に割り当てられる。ケン・ネーグルが提出したソーサリーのコモン・サイクルはこうだった。
コモン・サイクル?ソーサリー:分散
〈分散的静寂〉(コモン)
{W}
ソーサリー
エンチャント1つを対象とし、それを破壊する。
分散{4}{W}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのエンチャントを対象とする。)
〈分散的カビ〉(コモン)
{G}
ソーサリー
アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。
分散{4}{G}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのアーティファクトを対象とする。)
〈分散的突風〉(コモン)
{R}
ソーサリー
クリーチャー1体またはプレイヤー1人を対象とする。分散的突風はそれに2点のダメージを与える。
分散{4}{R}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのクリーチャーとプレイヤーを対象とする。)
〈分散的抜け道〉(コモン)
{U}
ソーサリー
クリーチャー1体を対象とする。それはこのターンブロックされない。
分散{5}{U}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのクリーチャーを対象とする。)
〈分散的蘇生〉(コモン)
{B}
ソーサリー
あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。
分散{6}{B}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、あなたの墓地にあるすべてのクリーチャー・カードを対象とする。)
分散(あるいは放射、拡散)メカニズムは、単一の対象を取る呪文を、精密ミサイルからクラスター爆弾に変化させるものです。ソーサリーではコンバット・トリックはできませんから、リミテッドでの基本となる呪文に分散を持たせました。シンプルに、よりシンプルに、限りなくシンプルにしたのです。より魅力的なものは高いレアリティで作ることができます(《巨大化》《送還》......《石の雨》など)。
審査員のコメントはこうだった(アーロン・フォーサイス、デヴィン・ロー、グリーマックス、私がコメントしている)
アーロン:ケネス/Kennethのカードは私の見解では水準に達しているが、優勝したいならもう一歩進まなければならない。彼のコモンにある、一見無害に見えるカードは、注釈文を読むと実際は《平穏》(まあコモンのこともある)、《粉砕の嵐》(アンコモンにふさわしい)、《尻込み》(コモン)、《蒸気の突風》(アンコモン)、一方的《地下墓地の総ざらい》(レア)だ。
デヴィン:先週は「ケネスは僕の気に入ったいい作品を作ってるし、全体としてもそれほど欠点はない。でも、これだという斬新さもないんだよね。彼は安全なものを作ってる。いろんなカードが「このカードを作ることはできる......けど誰がこのカードを求めてる、あるいは欲しいと盛り上がるんだ?」というものだ。」と思った。今週は、コモンはいいアイデアだったけど効果はコモン用のものではないね。《蒸気の突風》《死者再生》なんかは行きすぎだよ。
グリーマックス:コモン?いいキーワードだ。そこそこの完成度だ。
マーク:ケネス、今週は君にとっていい週だったと思う。君の最初の提出物は平凡な出来だったが、デザイン・チャレンジで上位に躍り出た。
君のコモン・サイクルで使っていた分散メカニズムは、いいメカニズムで採用できると思った。自由度も高く、序盤では小さな効果で軽く使え、後半では大きなコストを払って大きな効果を生み出せる。この類のメカニズムを使っている理由は、リミテッドでのプレイをなめらかにする(複数回答の第18問を見てくれたまえ)からだ。
このメカニズムに関する最大の問題は、君が正しくない効果を選んだところにある。このメカニズムをコモンで使うことはできるだろうが、その場合大小両方の効果がコモンにふさわしくなければならない。加えて、特にコモンにおいて、分散コストを無色にすることで色事故を防ぐようにしたほうがいい。最後に、分散コストの一部をより軽くするほうがいいだろう。私の考える完成品は次のようなものだ。
〈分散的強化〉
{W}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それはターン終了時まで+1/+1の修整を受ける。分散{2}
ケンは分散メカニズムはトーメントのカード《放射》からヒントを得たと言っている。
審査員はみな基本的に同じことを言っていた。分散メカニズムは面白いが、どんな効果を持たせるかには調整が必要である、と。私の評価で言ったとおり、このメカニズムはコモンでも使える「が、大小両方の効果がコモンにふさわしくなければならない。」
話をラヴニカへの回帰の最初のデザイン・ミーティングに戻そう。ケンは分散をイゼットのメカニズムとして提案してきた。私の答えは、「ああ、覚えてるよ」というものだった。誰もがあのメカニズムを気に入って、それ以降デザイン・デベロップを通してイゼットのメカニズムであり続けたのだった。
このメカニズムの問題は、ケンの最初のデザインの時からのものだった。コンセプトはいいが、実装が難しいのだ。まず、両方の効果がそのカードのレアリティにふさわしくなければならない。そして、1つのものを対象に取ることと全てのものを的にすることの間には大きな差がある。さらに、使い物にならないようなカードであってはならない。言い換えると敵味方の両方に作用するために超過するかどうかを考えなければならないというのではだめだということだ。
どうやってこれらの問題を解決したか見ていくことにしよう。
#1?レアリティの問題
これを解決するためのもっとも簡単な方法は、超過した場合にそのカードのレアリティにふさわしいようにするというものだった。コモンでは、すべてに影響を及ぼす効果がコモンの効果でなければならない。我々はコモンに存在する全体に影響を及ぼす効果を調べ、可能な効果の一覧を作った。より高いレアリティでは、大きな効果がそのレアリティにふさわしければそれでよかった。単一の効果がより低いレアリティに存在するものでも問題なかった。
#2?幅の問題
これはデザインと言うよりデベロップの問題だ。デザイン側で意識したのは、大小それぞれの効果が状況に応じてプレイし分けられるようにするということだった。
#3?実行上の問題
この問題を解決するために、超過が欠点になるようなものにしないということを決めた(少なくとも一般的には)。これを解決するために、効果を及ぼしたい先はどんなものなのかを絞り込んだ。つまり、自分のものか相手のものかを絞り込み、それを対象の条件に加えた。その一例として、《ミジウムの迫撃砲》を見てみよう。
このカードには「あなたがコントロールしていないクリーチャー1体を対象とする」と書かれている。従って、超過を使った場合、対戦相手のクリーチャーだけに影響を及ぼすことになる。効果が有利をもたらすものならば自分のクリーチャーに打ちたいだろうから、「あなたがコントロールするクリーチャー1体を対象とする」となるわけだ。
超過はデザインにおいてもデベロップにおいてもそう問題がなかったので、デザインの意図ほぼそのままに印刷に至った。マット・タバック/Matt Tabakはケンが望んだ(「target」を「each」に置き換えるという)面白いルール・テキストにオーケーを出した。そして、8年の時を経て超過が日の目を見ることになったのだった。
《凍結燃焼の奇魔》 アート:Mike Bierek |
イゼットはここまで?
イゼットについて語るべきことはこれぐらいだ。いつも通り、諸君が私のお気に入りのギルドについてどう思っているか楽しみにしている。メール、掲示板、Twitter、Tumblr、Google+などで聞かせて欲しい。
それではまた次回、私の子育て話第2部でお会いしよう。
その日まで、あなたの内なるマッド・サイエンティストにあなたの恩寵がありますように。
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