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Making Magic -マジック開発秘話-
獄庫に一目惚れ
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Making Magic
獄庫に一目惚れ
Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年4月2日
今回は獄庫特集ということで、あの巨大な銀塊について、そしてそのイニストラード世界における意味について語ることになる。記事の中には、この《獄庫》について語るものもあるだろう。
《獄庫》 アート:Jaime Jones |
あるいは、こっちについて語るものもあるだろう。
私がこの獄庫特集で話題にするのは――これだ。
《獄庫》のようなカードを作れるようになったのはなぜか? かつて存在した多くの問題を浮かび上がらせるため、同じような問題をどう解決したのか過去のデザインを見ていくことにしよう。
スパイクを決めろ
昔々、マジックのセットはそれぞれが別々の泡の中に存在していた。そのセットのカードは、そのセットだけを意識していた。多元宇宙において、各セットはそれぞれに小さな山を持っているようなものだった。その後、ブロックという概念が導入され、セットはそれまでのようにそのセットだけではなく、その周りのセットも意識するようになった。その時点では、ブロックにある他の2つのセットのことだけを意識すれば良かったが、マジックのセットの意味について自己認識が必要であった(確かに、ブロックの導入前からウルザやミシュラと言った相関はあった)。
《スパイクの飼育係》 アート:Heather Hudson |
ブロックのまとまりをもたらすために、ブロック内のセットはお互いに意識する必要があった。このことは、ほとんど足かせであった。新しいセットでは過去のことは意識しても、その後のことは意識していない。当時は、ものは進化するもので、メカニズムの存在そのものがプレイヤーに今後の展開を想像させるものだという考え方だった。テンペストで導入されたバイバックのコストはマナだけだったが、プレイヤーは他のコストを必要とするバイバックをイメージし、それは次のストロングホールドで実現されたのだ。
テンペストを取り上げたのは、そのセットが新しいことに挑戦したセットだからだ。テンペストのデザイン中に(リチャード・ガーフィールド、マイク・エリオット、チャーリー・カティノ、私)、私はのちに「スパイク・メカニズム」と呼ばれることになるメカニズムを思いついた(当時はイラストが桃に似ていたので「桃」と呼ばれていた)。
スパイクは、ある数の+1/+1カウンターが乗った状態で戦場に出る0/0のクリーチャーである。{2}を支払うことで、+1/+1カウンターを1個スパイクから他のクリーチャーに移すことができる。スパイクはテンペストのデザイン中に作られたが、テンペストで使い切れないほどのデザインがなされたので(強力なデザイン・チームだったし、それに私とマイク・エリオットはこれが最初のデザイン・チーム入りだったのだ)、スパイクはテンペスト・ブロックの第2セット、ストロングホールドで使うことになった。
その後、我々は馬鹿なことを思いついた。スパイクをちらっとテンペストで見せたらどうだろう? 大物じゃなく、むしろ小さいのを。{G}で1/1の《スパイクの徒食者》がそれだった。
スパイクはキーワード・メカニズムを持たないので、《スパイクの徒食者》自身は特に目を惹くものではなかった。かわいらしい小さなコモンというだけだ。これは、言ってみればステルス・プレビューとでも言うべきものを意図していた。ストロングホールドが実際に出るまで、誰もこれが次のセットのヒントだなんて気付かなかっただろう。これは議論のタネになった。これを入れることで、スパイクのインパクトが落ちる可能性があるというのだ。しかし、最終的には、これを入れることにした。
これが《獄庫》とどう関係するのか? 忘れないで欲しいのは、これが獄庫特集の記事だということだ。《スパイクの徒食者》は、非常に興味深い道のりの第一歩だったのだ。セットはそれ1個だけで完結しているものではない。マジックは生命ある、生きているゲームで、セットは連続性を意識させなければならないのだ。フレイバーはもちろんこの仕事において重要な役目を果たしているが、デザイナーも、マジックのメカニズムそのものに連続性を持たせる方法を探すべきなのだ。
盾を掲げよ
《スパイクの徒食者》はまったく無害に見えたが、当時は開発部内で大量の議論を巻き起こした。私が覚えている限りでは(当時の詳細な記録は残っていないが、開発部の履歴を見ることでかなりのことを思い出せる)、次にこんな議論が起こったのはミラディンのデザインの時になる。デザイン・チーム(タイラー・ビールマン、マイク・エリオット、ブランアン・ティンスマン、私)はブロックの3つのセットに渡る3枚からなるサイクルを作るという発想に至った。議論を経て、これは強力な戦士の名を冠した3枚の伝説の装備品となった。この3種の装備品を戦場に揃えることができれば、強烈なことが起こるのだ。そしてデザインされた3枚というのは、これだ。
各セットに1枚ずつ入れるこれらのカードはレアにすべきだと分かっていた(当時はまだ神話レアが存在しなかった。神話レアがあればもちろん神話レアにしていた)。問題は、これをどういう順番でセットに入れるかだった。まず、1枚だけで意味が分かるようなもの、つまり剣を最初にセットに入れることにした。そして、全部をまとめる役目を持つカードは最後のセットであるフィフス・ドーンに入れることは決まっていた。興味深いことに、真ん中のカードである《カルドラの盾》に議論すべき点があったのだ。上にある画像を見て、どこが議論の的になったのか考えてみて欲しい。
《カルドラの盾》は、この3枚全てを破壊されなくする。そのために、これらのカードのカード名が必要になった。つまり、《カルドラの盾》が世に出てから3ヶ月先に初めて世に出るカードの名前を書かなければならないことになる。それまでにも他のカード名が書かれたカードは存在していたが、大抵はその同じセットのカードだった。その例外も、全てがそれまでに存在したカードを指しているものだったのだ。
そのとき、私は、この後登場するイカした何かの存在をほのめかすことはむしろ興奮をそそると主張した。反論としては、まだ手に入れられないカードに注目が集まるのはよろしくないというものがあった。手に入れられるようになる3ヶ月も前に、その特定のカードを欲しいと騒ぎ立てさせてどうするのかというのだ。私は、プレイヤーはすでにミラディンで《カルドラの剣》を目にしており、このダークスティールで《カルドラの盾》を見たのだからフィフス・ドーンにも何かが入ってるということは暗黙に分かるだろう。カード名を出したところで、その想像に名前を付けるだけにすぎない、と反論した。プレイヤーは実際、その名前を元に想像を膨らましたのだ。
予知予知歩き
未来をほのめかすという点での次の進歩は、それまでのセットにはありえない、既成概念の枠を超えるものだった。時のらせんのデザイン中に、ブロックを過去、現在、未来を表すものにするという発想が思い浮かんだのだ。過去のセットは郷愁を誘うようなもので一杯で――再録カードをたっぷり入れよう。現在のセットは、実際の現在とは違うもう一つの可能性を示すものとしてカラーパイが捻れているというのはどうだ。――そして、最大の飛躍は最後のセット、未来予知だった。過去を振り返るのではなく、将来をほのめかすようなセットにしようというのだ。
このセットに関する決定事項の中に、未来として見せるものの中には実現するものも含むし、実現しないものも含むというものがあった。これをメカニズム的に示すために、私はいくつかの仕掛けを行なった。まず、将来のセットで使うことが決まっているあらゆることを書き出す。我々は常に先の予定を立てているので、私はその時点で将来何が使われるかについての知識を持っていたのだ。次に、いつか使いたいと思っているアイデアを眺めた。いつかがいつになるかは分からなかったが、それらのカードやメカニズムが実際に日の目を見ることが確定していなかったからこそ、ほのめかすことを信頼していた。デザインがこういうことをしている一方で、クリエイティブ・チームも世界について同じような手順を取っていた。
ここで挙げる2枚のカードは、近いうちに投入されることを約束しているように思われたカードだ。まず1枚目がこれである。
《ゴールドメドウの監視人》は《ゴールドメドウの侵略者》トークンを作り出す。トークンがカード名を持っているのは奇妙なことだが、それ以上にこのカードが目を惹いたのはサイクルにある他の5枚のカードのおかげだった。
見ての通り、このサイクルのカードは同様にカード名を持ったカードを生み出す。しかし、《ゴールドメドウの監視人》以外のカードはどれも過去のマジックのカード名のトークンを生み出すのだ。《ゴールドメドウの監視人》は、注意を引くために準備されていた。サイクルのカードがどれも同じ書式である中で、《ゴールドメドウの監視人》だけが特殊なのだ。これは「ゴールドメドウの侵略者」というカード名のカードが近いうちに出るということを非常にはっきりと示唆しており――実際、その名前のカードは次のローウィンで世に出たのだった。
《ゴールドメドウの監視人》は、もう一つローウィンで初登場する「キスキン」というクリーチャー・タイプの出現も示唆していた。
《ゴールドメドウの監視人》は、手の込んだ未来を見せるカードだった。ここで挙げるもう1枚の例外となるカードは、より過激なものだった(未来を見せるという意味ではなく、カードの強さという意味で)。
《タルモゴイフ》は、史上――万が一、これが唯一でないと仮定しても――最強の2マナ・クリーチャーのうちの1体である。このカードが特殊なのは、ルール文章ではなく、注釈文の中で初めて存在するものが表されていることだった。
未来予知のデザイン中に、私は未来をほのめかす新しい方法を考えていた。その発想の一つに、何かをこっそり紛れ込ませるのは面白いんじゃないかというものがあった。ルール文章に書くのではなく、ほとんどのプレイヤーが読みもしない注釈文の中に隠すのがいいのではないかと。そのために、注釈文に一見すると当たり前すぎるようなことを書かなければならない。そこで思いついたのが、マジックに存在するカード・タイプを列記したカードだ。書くことはあっても、大抵は無視されるものだ。さて、そこで残った問題は「新しく作るべきカード・タイプは何だろう?」ということだった。
そして、ここでおかしな事がおこった。このときにカード名とフレイバー・テキストの責任者だったクリエイティブ・チームのメンバーにして未来予知のデザイン・チームの一員だったマット・カヴォッタ(他のメンバーはデヴィン・ロウ、マーク・ゴットリーブ、ライアン・ミラー、ズヴィ・モーショヴィッツ、私)が、私に新しいカード・タイプ「プレインズウォーカー」の発想を持ってきたのだ(ここに関する詳細な話は、こちらのコラム(1、2)(ともにリンク先は英語)に書かれている)。我々はその挑戦を受け入れ、新しいプレインズウォーカー・カード・タイプのデザインに取り組み、そして未来予知で初公開できるようにした。その後、緑のプレインズウォーカーを入れるために《タルモゴイフ》を取り除きまでしたのだ。
プレインズウォーカーのプレイテスト用カード |
プレインズウォーカーのデザインは想像以上に難航したので、我々はプレインズウォーカーそのものを先のセットに送ることにした。その結果、偶然にも、《タルモゴイフ》が将来導入されるカード・タイプを注釈文に隠し持ってこのセットに戻ってきたのだ。未来予知の印刷前の段階で、部族もカード・タイプに加わることに気付いた我々は、それを注釈文に書き加えた。
未来予知は未来をほのめかすものの塊だったが、その中でも《ゴールドメドウの監視人》と《タルモゴイフ》は未来の可能性ではなく確実な未来へのヒントを示している2枚だったと言えるだろう。
目には目を
その次の大きな話となると、ワールドウェイクのカード名になるだろう。ゼンディカー次元にいる我々にとって、何か奇妙なことが起こりつつあるということは明らかだった。ゼンディカー次元に囚われていた古代の種族エルドラージがその監獄から解き放たれ、第3部の展開を起こして、新しいメカニズム群を含む大型セットのエルドラージ覚醒に続くのだ。この解放によって3人のプレインズウォーカー(チャンドラ、ジェイス、サルカン)が遠い昔にエルドラージを捕えていた場所、《ウギンの目》に戻ることになる。
《ウギンの目》 アート:James Paick |
ワールドウェイクではこのストーリー上の大イベントに向けて準備しておきたかったので、「何が解放されようとしているのか」のヒントとなるメカニズムを持った《ウギンの目》を2つめのエキスパンションに入れることになった。このカードの目標は単純だった。エルドラージと巧く作用する必要がある一方、エルドラージ覚醒以外でも意味を持つようにしたかったのだ。このカードは第3セットが発売される3ヶ月前から存在するのだ。
エルドラージ関連のカードはほとんどが巨大な無色クリーチャーや無色呪文だったので、このカードは無色のエルドラージ・呪文を軽く唱えられるようにするものに決まった。エルドラージという名前を書き込んでおくことで、好奇心をそそることもできたのはいい副次効果である。2つめの能力は、このカードがエルドラージ覚醒以外でも役に立つようにするためにつけられた(基本的にはアーティファクト・クリーチャーで使うことになる)が、起動コストの重さから、次のセットで登場する巨大エルドラージ・クリーチャーと組み合わせるのが最も効果的であった。
《ウギンの目》は、その真の力が発売と同時には知られていなかったという意味で歴史的にも興味深い。《カルドラの盾》には未知の値が含まれていたが、カードのほとんどの部分はブースター・パックから初めて出てきた時点で性能を発揮できていたのだ。
獄庫とは
そして、ついに《獄庫》に至った。《ウギンの目》と同じように、このカードは第3セットで起こる大展開のヒントとして第2セットに投入された。《ウギンの目》と違うのは、このカードの目的である。第一に、テーマ的な関連を感じさせながらも、機能を最大化するのに第3セットの登場を待つ必要はないようにしたかった。テーマ的には関連していても、メカニズム的にはそれほど関連している必要はなかったのである。
ということで、スタートはここだ。《獄庫》が破壊されたとき、囚われていたすべてのクリーチャーは――そこにはアヴァシンやグリセルブランドも入っている――解放される。このことから、このカードはクリーチャーを追放するもので、破壊されたときにそれら全てを戦場に戻すものに決まった。デザインから提出したものは、あらゆるクリーチャーを同じコストで追放でき、印刷されたものと同じ破壊された時の誘発型能力があった。
デベロップ段階で、自分のクリーチャーを追放する能力と他のプレイヤーのクリーチャーを追放する能力は別々のものに分けられた。デザインの時点では、対戦相手のクリーチャーに使うものとしてコストが定められていたが、自分のクリーチャーを避難させるために使うには重すぎるコストになっていた。2つの起動型能力に分けたことで、この問題が解決できた。
《獄庫》が初めて登場したとき、これに関する知識はまだ公開されていなかった。来るべきことについてはフレイバー・テキストにヒントが示されていたが、アヴァシンの帰還における《獄庫》の役割は未知だったのだ。何が起こるのかの最大のヒントは、《獄庫》のメカニズムそのものにあった。私は、このカードの出来にとても満足している。
未来を垣間見ること
この記事を書くことは、私にとっても非常に注意がいることだった。これは私たちがまず触れることのない領域なのだ。ここで示した例の数々は諸君を惑わせる役に立ってくれているが、それは他よりも意図的である。こういった内容についてどう感じるかについて意見を寄せてもらいたい。もしこれがありだとなれば、これから活用できるデザイン領域が大きく広がるのだ。
それではまた次回、獄庫を開き、アヴァシンの帰還・プレビューを始める時にお会いしよう。
その日まで、あなたが未来を楽しく覗きますように。
これで終わり、のその前に!
今回はもう一つ、触れておかなければならない話がある。前回、ザックと私の行なった異論弁論の投票結果だ。
カードを引く呪文は原則として対象を取るべきか?
事前
はい | 6016 | 49.7% |
いいえ | 4461 | 36.9% |
わからない | 1626 | 13.4% |
合計 | 12103 | 100.0% |
事後
はい | 3498 | 52.1% |
いいえ | 2730 | 40.7% |
わからない | 480 | 7.2% |
合計 | 6708 | 100.0% |
この結果の解釈については、諸君の議論に任せることにしよう。
私の得た知見は、次の2つだ。
1. この課題は開発部の中を覗く小窓というだけではない。諸君の意見も真っ二つに割れている。幸いなことに、このシリーズは開発部がどれだけ深くマジックを掘り下げていなければならないか、そして諸君が一見して思うよりずっと複雑な問題が沢山残っているかということを示せた。
2. 諸君がどちらの意見であれ、諸君の多くはこの異論弁論というシリーズが気に入ってくれたようだ。そこで、このシリーズは再び(おそらく今年の後半に)行なわれることになるだろう。ザックと私はそれまで、意見の一致していないところを探すことになる。そう難しいことじゃない。
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