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Making Magic -マジック開発秘話-
闇の隆盛で踊ろう その1
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Making Magic
闇の隆盛で踊ろう その1
Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru
2012年1月9日
「闇の隆盛」プレビュー・ウィークへようこそ。これから、イニストラードに続く物語のひとひら、怪物がより強まる中で人間にとって世界はどうなっていくのか、をご覧頂こう。まずは最初に闇の隆盛のデザイン・チームをご紹介し、それから一般に冬のエキスパンションのデザインがどうあるべきか、特にこの闇の隆盛がどうなのか、そしてお楽しみのプレビュー・カードをご紹介しよう。両面カードで、片面はクリーチャーでもプレインズウォーカーでもないものだ。楽しそうだと思ったなら、どうぞ席に着いてくれたまえ。「闇の隆盛」開演の時だ。
闇の報復者たち
伝統に則り、まずは我がデザイン・チームの紹介から始めさせてもらおう。
(左から)マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater、ジェンナ・ヘランド/Jenna Helland, グレアム・ホプキンス/Graeme Hopkins, ザック・ヒル/Zac Hill, マット・タバック/Matt Tabak. |
マーク・ローズウォーター(リーダー)
闇の隆盛は私がリーダーを務めた15個目のセットである(イニストラード・PAXパーティの席で「イニストラードは私がリーダーを務める13個目のセットだ」と言ったが、そうだったらクールな話だったんだが、どうやら不正確だったようだ。発言した翌日に気づいたのだけれども)。これまでの14個のセットはどれも、冬のエキスパンションではなかった。4つは小型の黒枠エキスパンションだったが、それらはどれも春または夏の発売だった。デザイン・リーダーを最も多く勤めてきたこの私にとっても、闇の隆盛では今まで体験したことがない何かがあったわけだ。私がこの仕事を愛する理由の一つに、16年を経てもなお新しいことに取り組み続けられるということがある。しかし、そのためには、良いデザイン・チームが必要なのだ。
ジェンナ・ヘランド
ジェンナはイニストラードのデザイン・チームにも参加していた。私が彼女をチームに招いたのは、イニストラードと同じようにトップ・ダウンのデザインにするためにクリエイティブ・チームのメンバーを加えることが重要だと感じたからである。ジェンナはデザイナーとして様々なフレイバーに満ちたカードを作り出し、私を驚かせた(《地獄の口の中》はジェンナのデザイン能力の表れだ)。闇の隆盛のデザイン・チームに参加して貰うにあたって、もう一度参加してくれるように頼んだところ、快諾して貰えた。ジェンナはイニストラードと同様、闇の隆盛でも腕をふるってくれたのだ。
ジェンナのデザインの秀でたところに、彼女がカードを総合的に見るということが挙げられる。彼女の作ったカードはどれも、そのフレイバーにふさわしいある結果に向けて全ての部分が働いているのだ。カード1枚の中で足並みがそろっているのは、デザイナーとしての経験がそう多くない人間の作品としては非常に印象的だった。普通は長い経験が必要なその能力を、彼女は元々持っているのだ。まだ「Friends」(2013年秋のセット)についてそれほど語ることはできないが、ここで1つだけ明かしておこう。私はジェンナをそのチームに招いた。私にとっては、それは来るべきことの予兆なのである。
グレアム・ホプキンス
イニストラードと闇の隆盛の両セットに、3人のデザイナーが共通して参加している。その3人目がグレアムである。グレアムは、グレート・デザイナー・サーチがどれほど過酷だったかを物語る存在だと言っていい。グレアムは優勝者ではないし、2位入賞すらしていない。インターンシップを得ることは出来なかったのだ。彼は開発部の一員でもない。それらすべてを脇に置いて、グレアムは私のデザインにおける秘密兵器だと言える。私は、デザイン・チームを結成する時にちょっとしたルールを設けている。私は「大物」と呼べるデザイナー数名をリストアップしている。頼りになるデザイナー達だ。大物というのは、単に大量のカードを生み出せるというわけではなく、優れたカードを大量に生み出せる人たちのことだ。デザイン・チームに2人の大物が入っているなら、それでもう頼りにできるということがわかっているのだ。私の大物リストのほとんどは専業のデザイナーで、そうでないものも大抵は開発部のメンバーだ。グレアムは開発部の一員ですらないが、機会があれば私は彼をデザイン・チームに招く。彼は疑いなく「大物」だからだ。
グレアムはイニストラードでぬきんでた働きを見せてくれたので、闇の隆盛に彼を招けたことに興奮していた。グレアムのデザインのいいところを一言で言うと、他の誰も作らないようなカードを作るということに尽きる。彼の作るカードは一見わけがわからないが、実際にはすばらしいカードなのだ。彼のカードを見て、「なんでこれが思いつかなかったんだ」とつぶやいたこともあるし、闇の隆盛もその例外ではない。
ザック・ヒル
私はいつも、デベロップの中心メンバーをデザイン・チームに招くことにしている。デザインがファイルをデベロップに手渡した後にも多くの工程があるが、そうすることで、デザインが取り組んだ問題について見てきた人間が、デザインの段階で解決できなかった問題をデベロップとして取り組んでくれるのだ。ザックをデザイン・チームに迎えることで、デベロップの中心メンバーに求めることはもちろん、それ以上の成果が求められる。たとえば、ザックは実際にカードをデザインすることができる。デベロッパーがデザインできないというわけではないが、デベロッパーはカードを作るに際して違う考え方を持ちがちなのだ。デベロップがデザインしたカードは、多くの人気カードのような形になるが、どこか違うものになる。ザックはデベロップ側としてだけでなく、デザイン側としてもカードをデザインする能力を持っているのだ。
ザックのデザインについて評するなら、彼はそのカードを誰のためにデザインしているのかという理解が深いといえる。どんなプレイヤーに使わせたいかを意識してデザインすることの重要性については今まで何度も語ってきた。カードの中には、それを使いたがるようなプレイヤーに照準を合わせ切れていないものもある中で、ザックはその照準を定め、そのプレイヤーが望むように最適化したデザインをすることが抜群に巧いのだ。これは重要なデザイン上の技術であり、彼が闇の隆盛で見せてくれた能力である。
マット・タバック
私はしばしばルール・マネージャーのことを首席デザイナーの天敵だという冗談を口にする。ルール・マネージャーの仕事は、私がかき回そうとするものを静謐に保つことである。このことから、ルール・マネージャーはデザイナーとしての能力を持たないと考えられがちである。しかし、それは正反対なのだ。ルールを作るもの、そしてカードを作るものを掘り下げていく能力は、デザイナーにとっても重大な技術である。マーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebはすでにそれを証明しているし、マットもまたゴットリーブが特別ではないと示している。
マットのデザインを評するなら、彼は他のデザイナーがまず持たない視点を持っているということが挙げられる。彼はカードがどう働くかを正確に掴み、そして普通なら気づくのに数ヶ月かかるような問題点を見つけて解決するのに取りかかってくれるのだ。このことのすばらしい点は、デベロップ段階でしか解決に入れないような変更を、デザインの間にできるようになるということである。また、マットはデザイン感覚においても抜きんでたものを持っている。過去のホリデー・カードのデザインに関わっている(輝かしい「タップ・アンタップ・タップ」の起動型能力を持つ<Snow Mercy>は彼の作だ)彼をデザイン・チームに招くことができたのは本当に喜ばしいことだ。そして、彼は期待を裏切らなかったのだ。
そして私はこの強烈なチームを編成した。デザイン・リーダーとして、私はこのチームを正しい方向に向けなければならない。それはデザイン・リーダーなのだから当然のことだ。闇の隆盛に関して言うと――その方向性が、問題なのだ。
それから
闇の隆盛は私にとって最初の冬のセットだが、小型セットの経験がないというわけではない。大型セット・シャドウムーアの後に続く小型セットのイーヴンタイドをデザインした、が、これは秋でもなく春に発売されたものだ。続編となるセットを作るときのポイントは、直前の大型セットでプレイヤーたちが気に入ったあらゆるものを引き継ぐのと、そのセットならではの独自性を示すののバランスを取ることである。
第3セットはさらにひねりを加えるものだ。なぜなら、第3章では何かが起こるものだからである。第2章はそうではなく、第1章で作られた道を辿るものである。まさにここで本題であるイニストラードを例にしてみよう。すでに述べたとおり、私の意識する限りで言えば、背景ありきの物語(小説によくある、プロットありきのキャラ主体の物語との対比)の主役は人間である。これから、人間が苦難に遭う世界に踏み込まなければならない。
イラスト:David Rapoza |
かつては、希望があった。全ての邪悪を波打ち際で食い止める偉大な守護者(意識していない諸君のために言うと、アヴァシンという名前の天使である)がいた――が、ある時、彼女は姿を消し、人間の武器に加護を与えていたその魔力もゆっくりと失われていった。喩えるなら、恐ろしい存在に取り囲まれた暗い部屋の中で、それらを退けていた松明がゆっくりと勢いを失っていっていくようなものだ。イニストラードは人間と、あらゆる方向から近づいてくる怪物の紹介部分であった。怪物は協力し合うわけではなく、ただ別々に我らが人間を取り囲んで脅威を与えているだけである。
物語について学んだ諸君は、第2章では主役にとって状況は悪化するものだということを知っているだろう。第1章の終わりに提示された問題は、さらに複雑化し続けていく。問題を解決しようという様々な試みは次第に失われていく。それが、今回のスタート地点だ。人間にとって、状況はただ悪化していく。イニストラードがひどい状態なら、闇の隆盛は最悪の状態というわけだ。
要素を進化させる
一方、私のチームにはまったく異なった軸が存在した。第2セットのもう一つの役割、それは第1セットをメカニズム的に進化させることである。ストーリーを進めるだけでなく、メカニズムの潜在能力を発揮させてやらなければならない。イニストラード・ブロックには、扱わなければならないものが存在する。
両面カード
イニストラードで最も目を引くメカニズムから話を始めよう。第3章での展開のせいで、両面カードは第3セット(アヴァシンの帰還)には存在しない。つまり、この闇の隆盛が唯一両面カードを進化させられるセットだということになる。幸いにも、それは問題にはならない。イニストラードのデザイン中に、両面カードをどう活用するかにはいろいろな意見が出ていて、そしてそのアイデアのうちのいくつかは闇の隆盛まで棚上げにするという決定がなされていたのだ。
イニストラードで両面カードに科した制限は、両面をクリーチャーにする(明白な例外として《情け知らずのガラク》がある)というものだった。トップダウンのデザインを行なうに際して、クリーチャーやプレインズウォーカーでないイカしたカードが俎上に上がったこともある。その中の1枚が、今日のプレビュー・カードになった。私はそういったひねり全てを公開するつもりはないが、このカードを見てメカニズム的制約を緩めることでどれだけ魅力的な方向性の異なる両面カードを作ることができるのかを見てもらいたいと思う。
このカードのデザインについて語る前に、まずは現物を見ていただこう。これが《魂を捕えるもの》だ。
クリックで変身します
このカードのデザインは、言うまでもなくトップダウンだ。幽霊話を再現しようとして、そこで出てくるのは憑依話だ。生け贄に捧げることで、傷を負わせたもののコントロールを奪うことが出来るようなクリーチャー、という話をしていたのだが、両面カードとこれを組み合わせると何とも魅力的な解答が生まれたのだ。
最初の試作品は、コントロールを奪う相手のクリーチャーとこのクリーチャーが戦闘でぶつからなければならなかった。これは再現したい状況を可能な限り再現しようとしたものだ。しかし、やってみると、対戦相手はコントロールを奪われたくないクリーチャーでブロックしなくなるだけだった。そしてフレイバー上当然に飛行を持っているので、ブロックさせるというのはさらに条件が厳しいものだった。防御側に回れば、これが立っていると対戦相手は攻撃してこなくなる。これもいい局面になると言えるものではなかった。
私がイニストラードのデザインに感じていた最大の不満は、5つの代表的な種族のうちで幽霊以外の4つの種族は緻密に仕上げたにもかかわらず、幽霊に関しては他の4つの種族ほど「らしく」する努力をしなかったということだった。闇の隆盛では意識して幽霊にメカニズム的フレイバーを与えることにし、その一環に《魂を捕えるもの》は位置づけられている。
部族(人間、スピリット、吸血鬼、狼男、ゾンビ)
部族と言えば、怪物(や人間)の部族というのはイニストラードの重要なテーマで、闇の隆盛でもそれを取り上げなければならない。各部族ごとの目的は2つあった。1つは、イニストラードで使われていたよりも魅力的なカードを入れること。これは新しいカードを使ったデッキを構築環境で見ると同時に、リミテッドでも見るようにしたいという意図がある。2つめに、インパクトを与えるために、各部族に新しい要素を加えることがある。すでに言った、スピリットにスピリットらしさを与えるというのはまさにそれだ。
フラッシュバック
フラッシュバックを続けて使っていることは、いくつかの意味を持つ。まず、イニストラードのデザイン・チームはイニストラードに詰め込みきれない多様な効果を準備していて、闇の隆盛でそれを取り入れたカードを作れるということ。次に、色違いのフラッシュバック・サイクルを再び作れるので、カラー・ホイールの逆回りができるということ。さらに、一ひねりした魅力的で斬新なレアのサイクルを作ることができるということだ。
「狼男」メカニズム
イニストラードのプレビューの時に、このメカニズムはキーワード化していないがこのブロックでお気に入りのメカニズムだと言った。怪物はより強力になり、当然狼男もさらに強力になっている。このメカニズムへの変更は、変化をより活発にすることにあった。怪物が強化されるなら、狼男も当然そうなる。ただし、人間側は強化しないというのが今回の変更のミソだ。デザイン中に「図書館員」と呼んでいたカードがある。日中は年老いた淑女、だが夜になると恐ろしい何かに変貌するのだ。これの裏には、狼男をより恐ろしいものにすることでゲームに不安をもたらそうというもくろみがあるのだ。
陰鬱
冬セットのもう一つの問題点は、第1セットのメカニズムを進化させるための場所と新しいもののための場所が競合するというところである。場合によっては、全てのメカニズムを進化させることを諦めなければならないこともある。陰鬱は再録されたが、新しい進化を遂げてはいない。
怪物のあえもの
こういう話なのだ。進化させたいメカニズムもある。全てを詰め込む時がやってきた。そして闇の隆盛で加えられる新しい要素もある。そのために、私はチームをデザインを通じて導かなければならない。私の最初の思いつきは、そう間違っていないと分かった。
イラスト:Svetlin Velinov |
それではまた次回、このセットがどうあるべきかという考えと、実際にどうなったのかについてお話ししよう。プレビュー・カードに加えて、様々な新しい要素もお見せすることになる。
その日まで、死せる灯火に迷わされることがありませんように。
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