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コラム

週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」

「あなたにとってマジックとは?」第6回:ジャッジ編

週刊連載インタビュー「あなたにとってマジックとは?」第6回:ジャッジ編

by 瀬尾 亜沙子

 世界中で2千万人を超えるプレイヤーとファンを持つ世界最高の戦略トレーディングカードゲーム『マジック:ザ・ギャザリング』。この記事では、5月末開催の記念すべき「モダンマスターズ・ウィークエンド」から、8月末開催の「世界選手権2015」まで、「あなたにとってマジックとは?」というインタビューをまとめた記事を毎週連載していきます。

 『マジック・オリジン』、この夏発売の新セットでは、5人のプレインズウォーカーが何故プレインズウォーカーになったのかという理由が明かされます。プレイヤーの象徴でもあるプレインズウォーカーにも、それぞれ違った人生背景が隠されているのです。では、「マジックプレイヤーは何故マジックプレイヤーになったのか?」そこにはどんなストーリーが隠されているのでしょう......この連載記事でその謎を明らかにしてみます。


 さまざまな方に「あなたにとってマジックとは?」という質問を投げかけているこの企画。今回はプレイヤーではなく、ジャッジの方に登場していただきます。最近レベルが上がったお二方に(グランプリ・千葉2015開催当時)、裏方の立場から見たマジックについて聞きました。

青木 力

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立川のショップをホームとするレベル2ジャッジ。


――あなたにとってマジックとは?

青木:人と人とをつなげる、「ハブ」ですね。マジックがなかったら絶対付き合わないような人たちとつながってますから。特にジャッジは、職業を聞くとえっと驚くような方もいますし、住んでいるところや年齢的にも幅広い。普通なら絶対会えないような、そんな人たちとも付き合えるツールです。

――マジックのおかげで幅広い知り合いができたと。

青木:そうですね。今思うと、知り合いがほとんどマジック関係になってしまっているほどです。もしマジックと出会ってなかったらどうなっていたかとたまに考えるんですが、すごくつまらない人間になってただろうなと......(笑)。年をとると新しい人と知り合う機会ってどんどん減っていくと思うんですよね。でもマジックはやってるだけでどんどん知り合いができますから、普通に生きてるより、はるかに友達が増えやすい感じがします。

――確かにそうですね。ちなみに、マジックとの出会いはどんなふうでしたか?

青木:高校生のころに、同級生が『ポータル』を持って来たんですよ。おもしろそうだなと思って一緒にやったのが最初です。

――『ポータル』というと、1997年ごろくらいですか?

青木:僕が始めたのは『ストロングホールド』が出る直前、1998年でした。だからもう17年になりますね。

――『ポータル』を初めてさわってみて、どうでしたか?

青木:おもしろかったです。あと絵がすごくきれいで、《星明かりの天使》が特にいいと思いました。
 誘ってきたその人はとっくの昔にもうやめてると思うんですけど、僕だけずっと......一時期プレイしないときもありましたが、カバレージとかはずっと見てました。で、レガシーフォーマットが制定されて、以前エクステンデッドをやっていたときにそろえたデュアルランドをずっと持ってたので、「へえ、レガシーでデュアルランド使えるんだ。じゃあほかのカードもそろえてやってみるか」と。

――レガシーをきっかけに復帰したんですね。

青木:はい。でも今はMagic Onlineでたまにプレイするくらいですね。使いたいデッキが出てきたらがんばって組んで大会に出たりもしますが、マジックとの関わりはジャッジやスタッフがメインです。

――プレイヤーからジャッジになったのはどうしてですか?

青木:2012年にレガシーの大会を引き継ぐことになり、ジャッジ資格があったほうが参加者の方は安心するんじゃないかと思って、とることにしました。2012年のグランプリ・横浜でレベル1になり、2013と2014年にレベル2の試験に2回落ち、今年がんばって勉強して、やっと受かりました。

――けっこう受かるのは大変なんですね。

青木:ちゃんと勉強しないと落ちます。

――ジャッジの試験勉強ってどんな感じなんですか?

青木:ジャッジセンターというところに練習問題があるので、それをやって間違えた箇所を徹底的に読み込むとかですかね。これ、そのときに使ってたルール文章なんですけど。

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ジャッジ用ルールブック

――字が小さい!

青木:これは、グランプリとかでポケットにさしておくとパッと出しやすいように、ぱお(米村薫)さんというジャッジの方がずっと作っているルールブックですね。

――持ち歩きやすくするために作ったから、サイズが小さいんですね。

青木:言うなればこれは辞書なんです。辞書があっても引き方がわからなければ意味がないんですけど、僕たちは辞書の引き方を知っていて、どこを見ればパッとわかるか知っている、という感じですね。丸暗記は絶対無理ですから。

――なるほど。ところで、ジャッジはレベルが高いほど偉い、というくらいの認識しかないのですが、ジャッジのレベル1と2ってどういうところが違うのでしょうか?

青木:ショップでグランプリトライアル(GPT)を開くにはレベル1ジャッジが必要とか、プロツアー予備予選(PPTQ)を開くにはレベル2が必要とかはありますが、いわゆる普通のお店のジャッジが最終的に目指すレベルが2ということになるかなと思います。

――青木さんが試験に落ちてもあきらめずにレベル2を目指した理由はなんでしょうか?

青木:関東はレベル2ジャッジの数に比べて若干PPTQが多くて、一人一人の負担がちょっと大きくて、誰かが倒れたりするとバックアップがいなかったりすることもあるので、その一助になれたらいいなと思ったからです。

――それでは今後ともよろしくお願いします。どうもありがとうございました。


中村 貴宣

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東海地区をまたにかけて活躍中のレベル3ジャッジ。


――あなたにとってマジックとは?

中村仕事と趣味というふうに分けるとしたら、完全に「趣味」で、どこまで行っても趣味の段階を超えないです。たとえば、仕事とマジックどっちかを選べと言われたら、生活基盤ですからどうしても仕事のほうを選びますね。それは、自分の今の仕事を大事にしているし、それと同じくらい趣味としてのマジックも大事にしているからです。ただマジックは、僕にとって一番優先する趣味です。仕事では絶対知り合えないような人と知り合えるので、まったく違ってとてもおもしろいです。

――ジャッジは仕事として働くわけですから、大変じゃないですか?

中村:ぶっちゃけると、自分のやる行動に対していただけるものは少ないです。でも、やっていておもしろいのは、僕が趣味として相当の情熱をもってやってるからなんです。

――仕事ではなくて、趣味として楽しいと。ジャッジをすることも趣味の一環なんでしょうか?

中村:マジックというのは、ゲームそのものと、ゲームを含めた環境と、その環境を作る人たちとで成り立ってると思うんですよ。僕は裏方のほうに属する機会が幸いなことに多くあって、それにおもしろさを感じている、ということですね。ジャッジどうしのコミュニケーションとか、ジャッジを通したマジックの触れあいもすさまじくおもしろいんです。

――それでは、マジックを始めたときのことを教えていただきたいのですが。

中村:もともとボードゲームが好きなんですけど、ホビーショップで「最近こういうのがはやってるよ」と教えられて、渡されたのがマジックの『フォールンエンパイア』でした。もうすぐ日本語版も出るよと言われて、それならやってみようかと。当時は英語の辞書を引きながら、夢中でやってましたね。
 大学卒業のころに転機があって、名古屋に引っ越してBIG MAGICに通っていて、当時店長だった伊藤(秀敏)さんに「そんなにルールに詳しいならジャッジやってみない?」と誘われたのが、ジャッジの出発点です。

――ゲームをしてるうちにルールに詳しくなったんですか?

中村:このゲームのルールってすごく論理的にできてるけど、そうじゃない部分もあっておもしろいなあと思っていたんです。相手の裏をかくことができるようなカードの組み合わせを探すのもおもしろいけど、それがゲーム上でしっかり動くようにするにはルールを知らないとダメだと思って、そのころ日本語訳もほとんどないジェネラル・ルーリング・サマリー......今で言う総合ルールを、サイトから落としてきて読んでました。まだメールもあまり発達してなかったころですが。

――すごいですね。

中村:いわゆる「ティミー(ゲーム自体を楽しむ、体験することを重視する)」「ジョニー(マジックを通して何かを表現する、創造的なゲームを好む)」「スパイク(勝つことを重視する)」のゲーマー分類だと、僕は「ティミー寄りのジョニー」なんですよ。このカードとカードを組み合わせるとすごく変なことが起きる、とかが大好きなんです。

――そうやって、好きでルールを勉強していたら、ジャッジに向いてると言われたわけですね。

中村:ジャッジ試験を受けて、地域のイベントに顔を出していたらいつの間にかここまで来てしまったというわけです。

――ただ、ルールの知識をつけることと、ジャッジをすることは、ちょっと違う要素がありますよね。

中村:もちろんです。ジャッジには二面性があって、1つはルールの代行者です。プレイヤーがわからないルールに出くわしたり、おかしな状況になったらゲームの状態を正しく直すという役です。もう1つジャッジに求められる側面は、大会運営ですね。普通はどちらかしかできない。プレイヤーはルールを知っているだけで、店員さんは運営はできるけどルールは知らない......ほかのカードゲームとかもたくさん扱ってますからね。ジャッジは、両方ともできます。店舗でイベントを開くことにウィザーズ社が数年前から力を入れていますが、店舗の人にジャッジになってもらうのではなく、店舗とジャッジが手を取り合うことを推奨しているのは、ジャッジをプレイヤーとお店の「かすがい」にしてコミュニティを作っていくことが狙いだと思います。僕としては、コミュニティを1つの店だけのレベルじゃなくて、店がいくつか集まった地域コミュニティにしていきたいと思っていて、東海コミュニティは今、ジャッジとお店とプレイヤーのバランスが一番とれていると自負しています。

――今では、そういうコミュニティの面倒をみる立場に立たれているわけですね。

中村:はい。ほんとは国内全域と思いたいのですが、ほかにも活躍されてるジャッジの方がいるので、今は東海と西のほう、関西や中国四国、九州くらいまでは面倒見られたらと思っています。

――レベル3というのはどんなジャッジなんですか?

中村:まず、レベル1はお店でジャッジができて、2はグランプリでジャッジができます。3は下にレベル2が複数いてジャッジができる、つまり下に人を率いてイベントを動かせるということです。聞こえは悪いですが、軍隊を想像するとわかりやすいですかね。1は二等兵です。二等兵をまとめる軍曹がレベル2、軍曹をまとめる司令官がレベル3です。さらにそれをまとめる将軍がレベル4です。将軍をまとめる元帥がレベル5です。

――なるほど、指導力が大事なんですね。

中村:そうです。レベルによる違いはほかにもいろいろありますが、一番の違いは指導力、チームをいかに率いるかということだと思います。ルールの理解度だけだったら、レベル3より2のほうが知ってたりするんですよ。コミュニケーションの取り方も、たとえば日本のグランプリでしたらレベル3の外国のジャッジよりもレベル2の日本人のほうがスムーズですよね。だから、そういうことが問題なのではないんです。チーム全体としてどう動くべきかをわかっているか、また自分なりに悪い点を洗い出して直していけるかどうかとかが問題です。自分ひとりじゃ絶対イベントはできませんから。

――レベル2から3になって、状況は変わりましたか?

中村:大きく変わりました。レベル2と3では、舞いこむ案件が段違いですね。でも僕なりに趣味は趣味としてがんばる一定のラインがあって、趣味の域を超えているところまで労力が来た場合、僕は順番づけをして「ここから先は無理だからお願いします」と人に任せるようにしています。

――そういうことは大事ですね。抱え込みすぎたら趣味として楽しめなくなりますから。

中村:そうです。万が一今の仕事を首になってマジックだけに尽力するようになったらもっと上のレベルを目指すかもしれませんが、今のところはここでみんなを待って、みんなをさらに上に押し上げていこうというのが目標ですね。趣味としてできる限りのことをやっていきます。

――人生におけるバランスとして、ちょうどよさそうですね。どうもありがとうございました。


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