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黒田正城の「エターナルへの招待」
レガシーと《精神的つまづき》
読み物
黒田正城の「エターナルへの招待」
2011.10.26
黒田正城の「エターナルへの招待」・レガシーと《精神的つまづき》
著者紹介:黒田 正城 黎明期から日本のプロマジック・シーンを支えてきた強豪プレイヤー。 |
これまでモダンの話ばかりしていたが、この連載記事は「エターナルへの招待」というタイトルになっているので、たまには別のフォーマットに関しても話をしておきたい。
というわけで、今回はレガシーのことに触れてみようかと思う。と言っても、このサイトではこれまで何度もレガシーの紹介がなされているので、いまさらレガシーというフォーマットのイロハを説明するのはやめておこう。
さて、皆さんご存知の通り、10月からレガシー環境にも新たな禁止カードが設定された。《精神的つまづき》である。
この禁止設定は環境にとても大きな影響を与えるので、今回のお題として取り上げていくことにしよう。
レガシーの大会に出るときは、常に2種類のデッキを想定し、そのどちらに対しても戦えるデッキを用意する必要がある。
その2種類とは「コンボ」と「非コンボ」に他ならず、片方だけに圧倒的有利なデッキを組んだとしても優勝争いに加わるのは難しい。
「大体のデッキに対していい勝負をするが、コンボと当たったらお手上げ。」といったデッキは世の中にあふれており、たいてい4勝2敗程度の成績で終わってしまう。
このタイプに当てはまるのは、たいてい青と黒が入っていないクリーチャーデッキである。Zooやゴブリンが典型的な例だ。
カウンターや手札破壊といった、相手の行動を妨害する手段を持たないデッキを使って、2~3ターンキルが可能なコンボデッキを倒すのはとても難しい。もっと困ったことに、コンボを使う側は妨害されることがないと分かっているため、見切り発車をする必要があまりない。ライフが0になるギリギリまで準備することができるので、コンボが止まってしまうというケースも少なく、格好の餌食になってしまうのである。
実際、私がゴブリンを使ってANT(《むかつき》を主軸としたコンボデッキ)と戦ったときは、こんな展開だった。参考までにそのとき使っていたデッキリストはこちら。
4 《山》 3 《Badland》 2 《Taiga》 3 《乾燥台地》 3 《沸騰する小湖》 1 《血染めのぬかるみ》 1 《樹木茂る山麓》 3 《リシャーダの港》 4 《不毛の大地》 -土地(24)- 4 《ゴブリンの従僕》 1 《モグの狂信者》 1 《スカークの探鉱者》 4 《ゴブリンの群衆追い》 3 《ゴブリンの酋長》 2 《ゴブリンの戦長》 1 《モグの戦争司令官》 4 《宝石の手の焼却者》 4 《ゴブリンの女看守》 4 《ゴブリンの首謀者》 2 《包囲攻撃の司令官》 1 《略奪の母、汁婆》 -クリーチャー(31)- |
4 《霊気の薬瓶》 1 《巣穴の運命支配》 -呪文(5)- |
1 《ブリキ通りの悪党》 3 《アメジストのとげ》 3 《非業の死》 2 《クローサの掌握》 3 《Pyrokinesis》 3 《虚空の杯》 -サイドボード(15)- |
1ターン目
相手:土地を置く。
私:《ゴブリンの従僕》をプレイ。
《虚空の杯》をX=0でプレイ。
2ターン目
相手:土地を置く。
私:《ゴブリンの従僕》から《ゴブリンの群衆追い》
《アメジストのとげ》をプレイ。
相手はターンエンドに《蒸気の連鎖》で《アメジストのとげ》を手札に。
3ターン目
相手:《蒸気の連鎖》で《虚空の杯》を手札に。
《暗黒の儀式》と《水蓮の花びら》から《むかつき》、コンボが始まって《苦悶の触手》で20点。
私にとってはこれ以上考えられない、最高の初手からスタートしたのだがあっさりと捌かれてしまったゲームだった。
この結果は衝撃的で、「パーマネントはコンボ対策になりえない。妨害スペルを入れるしか有効な手段はない。」と思わせるものだった。実際、私は次の大会に参加したとき、《陰謀団式療法》をサイドボードに突っ込んだ記憶がある。これはこれで、プレイするためには序盤の展開スピードを犠牲にする必要があり、期待した効果は得られなかったのだが・・・
こうやって常にコンボ対策を考えなければならないのが、レガシーの難しいところ。
ゴブリンを愛する私にとって、常に頭を悩ませるポイントなのだ。
そして、そんな私の前に《精神的つまづき》は現れた。
これなら、ゴブリンの脳みそでも相手の重要なカードを妨害できるし、自分の展開スピードも鈍らない。まさにうってつけの救世主だと思ったのだった。
しかし、いざデッキを考えるステップに入ったとき、大きな問題につまづくこととなった。
・・・このカードをどうやって4枚も入れるのだろう!?
ゴブリンやZooというデッキはほとんどのパーツが必須項目になっており、新たに4枚のカードを入れる場所を作るのは非常に難しい。前述のレシピでも、かなり無理をして1枚差しのスペースを確保している。
そのため、《精神的つまづき》を入れようとするとどこかに必ずひずみが生じてしまうのだった。
それにこのカードは、上手く刺さらなければゲームに何の影響も与えない。Zooを使っていて相手のライフが2のときに、自分の手札が《精神的つまづき》3枚だとしたら・・・気分はどうだい?
じゃあサイドボードに入れよう、というのも少し違和感のある話で、それなら《精神壊しの罠》のような、より効果の高いカードを使った方がいい。
あれこれ考えた結果、ゴブリンに《精神的つまづき》を採用するのは見送りという、残念なオチになってしまったのだった。
残念な話はこれだけで終わらない。
救世主と思った《精神的つまづき》のおかげで、新たなるファイレクシア以降のレガシー環境は、ゴブリンと私にとって想像以上に厳しいものになってしまったのだった。
これまでゴブリンの必勝パターンであった、先手《ゴブリンの従僕》、もしくは《霊気の薬瓶》。1ターン目にこれを場に出せれば、勝率は大きく跳ね上がる(特に青いデッキに対して)。
・・・のだが、新しい環境になってこれがさっぱり通らなくなった。もちろん原因はたった1枚のカードである。
隣のテーブルを見れば、同じように雄叫びをあげる《野生のナカティル》がしょんぼりと墓地へ直行。逆のテーブルでは《石鍛冶の神秘家》の鏡打ち・・・と、同じような展開ばかりであった。
そして日本選手権と併催で行われた日本レガシー選手権2011を制したのも、形こそ違っていたが青いコントロールであり、そこには当然のように《精神的つまづき》が4枚入っていた。
2 《島》 1 《沼》 1 《森》 4 《Underground Sea》 2 《Tropical Island》 4 《汚染された三角州》 2 《霧深い雨林》 4 《ミシュラの工廠》 4 《不毛の大地》 -土地(24)- -クリーチャー(0)- |
4 《精神的つまづき》 4 《渦まく知識》 3 《呪文嵌め》 1 《無垢の血》 4 《行き詰まり》 1 《対抗呪文》 2 《壌土からの生命》 2 《喉首狙い》 2 《四肢切断》 1 《ヴィダルケンの枷》 3 《破滅的な行為》 4 《Force of Will》 1 《撤廃》 4 《精神を刻む者、ジェイス》 -呪文(36)- |
3 《ヴェンディリオン三人衆》 3 《セファリッドの女帝ラワン》 2 《外科的摘出》 1 《青霊破》 3 《思考囲い》 1 《悪魔の布告》 1 《撤廃》 1 《殴打頭蓋》 -サイドボード(15)- |
結局、《精神的つまづき》は当初目指していた「非コンボデッキ期待の星」になることはできなかった。
代わりに、青いプレイヤーが後手の1ターン目に《Force of Will》を使わざるを得ない場面を減少させ、コントロールデッキの安定感を飛躍的に高めてしまったのだ。
《精神的つまづき》は面白いカードであったと思う。しかし、幅広いカードプールと多様なデッキリストがセールスポイントのレガシーにとって、このカードは不要と判断された。
さて、振り返りはこの程度にしておこう。
ウィザーズが《精神的つまづき》を禁止にしたのは、レガシーに多数ある魅力的なデッキを復活させるためであり、大いに歓迎すべき変更である。
先ほどはZooやゴブリンといった、いかにも私好みのデッキを代表例として挙げてみたが、他にも私が愛するデッキが《精神的つまづき》の影響でほぼ死滅していた。
ほら、例えばこんな感じの。
2 《島》 2 《沼》 4 《Underground Sea》 4 《汚染された三角州》 2 《血染めのぬかるみ》 2 《新緑の地下墓地》 -土地(16)- 2 《エメリアの盾、イオナ》 2 《墨溜まりのリバイアサン》 1 《魅力的な執政官》 1 《浄火の大天使》 1 《鋼の風のスフィンクス》 -クリーチャー(7)- |
4 《納墓》 4 《再活性》 1 《暗黒の儀式》 2 《思考囲い》 4 《渦巻く知識》 4 《入念な研究》 4 《神秘の教示者》 4 《死体発掘》 4 《目くらまし》 1 《残響する真実》 4 《Force of Will》 1 《実物提示教育》 -呪文(37)- |
1 《森滅ぼしの最長老》 1 《鋼の風のスフィンクス》 1 《エメリアの盾、イオナ》 3 《呪文貫き》 1 《蒸気の連鎖》 1 《動く死体》 1 《残響する真実》 1 《ハーキルの召還術》 2 《非業の死》 1 《実物提示教育》 1 《拭い捨て》 1 《誤った指図》 -サイドボード(15)- |
いわゆるリアニメイトである。
現在は《神秘の教示者》が禁止カードに指定されているため、この枠は他のカードで代用する必要がある。(私はサイドに落としやすいという理由も含め、《思案》を採用していた)
コンボの一種であるが、決め手が大型クリーチャーであるため派手さがあり、使っていて面白いデッキである。
後手の1ターン目に何もせず《エメリアの盾、イオナ》をディスカード、2ターン目に《再活性》でイオナを釣ったら相手が投了。
といった展開で、たった1マナしか使わずに勝利してしまったゲームもあった。
さて、上記のリストを見ていただければ、このデッキがどれほど1マナ域に依存しているかが一目で分かるはずだ。
リアニメイトは手札を増やす手段を持たないため、最序盤のキーカードを潰されると非常にもろい。これら1マナの重要カードが、いろんなデッキから飛んでくる《精神的つまづき》によって妨害され、全く安定しなくなってしまった。
ある意味、リアニメイトはもっとも《精神的つまづき》の被害を受けたデッキとも言えるだろう。
このデッキに限らず、様々なデッキが再び活躍する場を持てることは非常に喜ばしい。そういった多様なデッキに、イニストラードの新しいカードを加えてテストをしているだけで、あっという間に時間が過ぎてしまうことだろう。
《ヴェールのリリアナ》は、自分の手札から大型クリーチャーを捨てつつ相手の《大祖始》に対抗できる手段として使えるだろうか? やはり3マナは重過ぎるだろうか?
新環境に切り替わった今は、そういったことを考えながら創作できる貴重なタイミングである。マジックの醍醐味を存分に味わえる瞬間なので、ぜひお気に入りのデッキを持って会場に足を運んでみよう!
ちなみに東京では、グランプリ・広島の翌週にレガシーの大きなイベント、『エターナル フェスティバル トーキョー 2011』が開かれる。
興味のある方は参戦してみてはいかがだろうか?
では、また次回お会いしましょう。
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