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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ディミーア・セルフバウンス:使いこなせ、ブーメラン!(スタンダード)

岩SHOW

 新セットリリースから短期間でデッキを組み上げる、そういう人をデッキビルダーと呼びたいというのが筆者の考えだ。新セットが発売日を迎えた週末に開催されるジャパンスタンダードカップこそは、ビルダー達の腕の見せ所だ。何せ実際のカードを触りながらデッキを調整する時間は短い。プレリ期間とオンライン上の先行リリースを加味しても、1週間程度でデッキを完成さねばねらない。カードへの理解、発想力、それを形にする現実的な手腕……それらが絶妙なバランスを形成した時、珠玉の逸品が完成する。

 というわけで今回はジャパンスタンダードカップ、決勝戦を争ったこちらのリストをご紹介しよう。

準優勝:堀内 真 - 「ディミーア・バウンス」
ジャパンスタンダードカップ:『アバター 伝説の少年アン』 / スタンダード(2025年11月22~23日)[MO] [ARENA]
7 《
4 《湿った墓
4 《不穏な浅瀬
4 《グルームレイクの境界
5 《
-土地(24)-

3 《精体の追跡者
4 《孤立への恐怖
-クリーチャー(7)-
3 《不気味なガラクタ
3 《チビボネの加入
2 《保安官を撃て
4 《嵐追いの才能
3 《食糧補充
3 《声も出せない
4 《ブーメランの基礎
4 《逃げ場なし
3 《クルクの伝説
-呪文(29)-
2 《軽蔑的な一撃
1 《保安官を撃て
2 《魂標ランタン
3 《腐食の荒馬
3 《零地点のバラード
2 《迷いし者の骸
-サイドボード(13)-
 

 ディミーア(青黒)カラーのデッキである。スタンダードにてこのカラーリングとなると《悪夢滅ぼし、魁渡》を主役とし、飛行などの回避能力もちで攻撃を通して忍術を披露したり、《永劫の好奇心》でドローしたり……そういったゲームプランを実行する「ディミーア・ミッドレンジ」と呼ばれるデッキが思い浮かぶだろう。このリストは色こそ同じであれ、目指すところはそれらミッドレンジとは決定的に異なっている。

 このデッキは「ディミーア・セルフバウンス」というアーキタイプになる。2024年の秋頃から出現し、活躍したアーキタイプであるが、様々な変遷を経てすっかり姿を見なくなったデッキである。バウンスとはパーマネントを手札に戻す、青によく見られるアクション。セルフバウンスということは自分のパーマネントに対してバウンスを行うということであり、即ちそれのより得をするように組まれたデッキである。《逃げ場なし》のような戦場に出た時に能力が誘発するパーマネントを、バウンスして再度投げることでその能力をおかわりするということだ。

 このアプローチは現在《養育するピクシー》などを擁する白絡みのデッキで見られるものだが、このリストは衰退したディミーア・セルフバウンスを現環境仕様に蘇らせた意欲作である。《孤立への恐怖》で《嵐追いの才能》や《チビボネの加入》、《不気味なガラクタ》といった軽量パーマネントを使い回し、対戦相手のリソースをじわじわとこそげ落としていき、盤面の優位を築き上げていく。《声も出せない》を序盤は《ラノワールのエルフ》のようなマナクリーチャーの無力化に用いて、相手がマナが十分にそろってより強力なクリーチャーを出してきたところで回収し、他のクリーチャーに張り替える、という動きも地味ながらナイスムーブ。

 

 そんなセルフバウンス復活のきっかけとなったのは《ブーメランの基礎》。この講義呪文は文字通りバウンスを行うものであるが、1マナとはいえソーサリーという点が、リリース前から気になっていたプレイヤーも多かったことだろう。バウンスはやはり相手の不意をついてこそ、そんな固定観念に囚われていたが、実際に使用されている光景を見て「ブーメラン強い!」と考えを改めさせられた。

 この講義は自分のパーマネントを対象とした場合、カードを1枚引けるというボーナスがもたらされる。これにより手札を消費せずにセルフバウンスが行えるのである。これは大変に魅力的であるし、対戦相手のパーマネントに対して唱える動きも、イメージしていたよりもずっと効果的だった。なんだかんだ1マナでクリーチャーをバウンスするって強い、ソーサリーでも呪分効果的だ。《チビボネの加入》で順調に手札をこそぎ落としていた場合、相手の手札にブーメランでパーマネントを戻す→チビボネで即捨てさせるというハメパターンも炸裂する。

 このブーメランによるセルフバウンスという戦術にさらなる価値を付与するのが《精体の追跡者》。エンチャントが戦場に出ると1枚ドロー、これが塵も積もれば山となるを体現しており、1枚1枚は効果が薄いエンチャントを途切れさせることなく連打するという動きを可能にしており……とにかく強かった。最近見かけないカードになっていたが、そのヤバさを再認識。是非とも皆にも手に取ってほしい、プレイヤーに手札が尽きないという幸福をもたらす1枚だ。

回転

 

 このリストの激熱な1枚は《クルクの伝説》。個人的にも『マジック:ザ・ギャザリング | アバター 伝説の少年アン』の神話レア英雄譚のサイクルには注目していたが……正直、青のこのカードはそれほど気になっていなかった。今回フィーチャーで実際に動いているところを見ると、その認識は改めた方が良いなと。

 4マナで占術2と1ドロー、戦場に出した時に得られるこの数字だけ見ると……ちょっと物足りなさもあるが、無事に次のターンを迎えてもう1度占術&ドローが出来ればアドバンテージを確保、そしてⅢまで至って変身すれば……呪文を唱えるたびにスピリットを生成する、強力なフィニシャーとなる。さすがに水の技{20}は重すぎて……と思うが、これを起動できなくとも十分に強いし、なんだったら起動できる数のクリーチャーやアーティファクトが並ぶこともこのデッキでは夢じゃない?ロマンと確かな実力を併せ持ったシブいカードだ。

 4マナで1ドローしてターンを返す、というのは無防備をさらすことになって微妙じゃないか?なんて考えていたが、だったらこれを余裕をもって使える状況を作りだせば良い。エンチャントやアーティファクトを出し入れしてコントロールすることで、ノーガードの状態でターンを返しても安心できるセルフバウンスは、クルクの居場所に相応しいのかもしれない。

 非常にテクニカルで、アドリブ力が問われる「ディミーア・セルフバウンス」。あまりにも鮮やか過ぎる勝ち方をするデッキなため、真似をしたくなるプレイヤーも多いだろう。このリストは凄腕プレイヤーの独自チューンであるため、75枚コピーして回す、というよりは……実際にプレイしながら自分の感覚にあった形を追い求めて調整していく、という付き合い方を推奨しておこう。見た目の線の細さからは考えられない強靭なデッキであるため、皆も《ブーメランの基礎》の活かし方から考えながらデッキを作ってみよう!

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