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岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ローム・ポックス:なんだか嬉しい「あのカード」(レガシー)
あのカードを見ると「おっ」「わかってるじゃないか」というような満足感を得られる……あなたにもそんな1枚があるはず。ショップに寄ってデュエルスペースのどこに座ろうかな~と席探し中、各テーブルでやっている盤面に目が行くもんだ。そこでそんなに多くのプレイヤーが使っているわけではない、ちょっとマニア向けの1枚がポンと飛び出すのを目撃すると「お、ええやん」と。
大型トーナメントや小規模の店舗大会でも、上位デッキリストが公開されている中であのカードが入ったリストを見つけると、なんだか自分も認められたような気分の良さを覚える。僕にとっては、たとえばこれとかがそんな「あのカード」になるかな。
《小悪疫》。これはマジックのセルフオマージュな1枚であり、元ネタは黎明期に作られた《悪疫》。プレイヤー全員に害を及ぼす、まさしく疫病のようなソーサリーで、これの威力とコストを縮小したものが《小悪疫》。小規模といっても悪疫は悪疫、侮るなかれ。全プレイヤーはライフ・手札・クリーチャー・土地を1つずつ失う。もちろん唱えたプレイヤー自身もこれらを要求されるため、《小悪疫》そのものの1枚分こちらが損することになる。
しかしこれによる被害は、デッキ構築でいくらでもカバーできる。まず、クリーチャーを用いないか、あるいは生け贄に捧げても損をしないものを採用することで、生け贄1体分のロスはカバーできる。手札を捨てるというのも、むしろ墓地にあることで得をするカードというものは色々とあるわけで、メリットに変換するのは難しくない。
土地の生け贄も《モックス・ダイアモンド》などで唱えることでそもそも生け贄を回避したり、《壌土からの生命》で失った土地を回収するなどでこちらだけマナを維持することが可能に。このように工夫を凝らしたデッキで用いる《小悪疫》は、対戦相手にだけ複数のリソースを失わせる、極悪な1枚として機能するのだ。クセが強めなこのカードを使いこなしているプレイヤーやリストに出会うと、なんだか良い気分になるというものだ。
今回紹介するのはそんな《小悪疫》デッキ、ひっさしぶりに目にしたそのリストが躍動したのはなんと……北米地域のエターナル・ウィークエンド!エターナルと呼ばれるフォーマット、レガシーとヴィンテージのチャンピオンを決める歴史あるトーナメント。そのレガシー部門には944名のプレイヤーが参加。予選ラウンドは15回戦にもなった。そんな長丁場を勝ち抜き決勝ラウンド進出を決めたデッキの中に《小悪疫》の姿があったのだ!
| 4 《新緑の地下墓地》 1 《血染めのぬかるみ》 2 《Bayou》 1 《地底の遺体安置所》 4 《ウルザの物語》 4 《不毛の大地》 1 《幽霊街》 2 《耐え抜くもの、母聖樹》 4 《ユーミディアンの孵化場》 2 《沼》 1 《森》 -土地(26)- 4 《オークの弓使い》 2 《バロウゴイフ》 2 《甦る死滅都市、ホガーク》 -クリーチャー(8)- |
4 《思考囲い》 1 《致命的な一押し》 4 《小悪疫》 3 《邪悪鳴らし》 2 《壌土からの生命》 3 《ウィザーブルームの命令》 4 《モックス・ダイアモンド》 1 《虚無の呪文爆弾》 1 《溶岩拍車のブーツ》 1 《真髄の針》 2 《飢餓の潮流、グリスト》 -呪文(26)- |
4 《虚空の力線》 2 《毒の濁流》 2 《致命的な一押し》 2 《活性の力》 1 《機能不全ダニ》 2 《虚空の鏡》 1 《バロウゴイフ》 1 《Chains of Mephistopheles》 -サイドボード(15)- |
先述の《モックス・ダイアモンド》や《壌土からの生命》を搭載し、こちらが受ける被害を抑えながら《小悪疫》の良さを引き出す。悪疫=ポックスで、この手のデッキは「ローム(壌土)ポックス」と呼ばれレガシー黎明期にはこのタイプのデッキをこよなく愛するマニアの姿を目にすることができた。そんな知る人ぞ知るポックスデッキがまさかこの時代にスポットライトを浴びるなんて、感慨深いなぁ。こうしてリストを眺めると、時代の流れによりこのアーキタイプもパーツが更新されて行ってるんだなぁと感動を覚える。
《ウィザーブルームの命令》は土地を拾いながら他のモードも選べて使い勝手が良い。それらの土地を回収するシステムと《ウルザの物語》の組み合わせは物量で負けることはない。そして《小悪疫》で手札から捨てたいカード№1は《甦る死滅都市、ホガーク》!墓地から唱えられるこの巨大なフィニッシャーは、真面目にマナを払って唱えることはできない。《オークの弓使い》とそれが生成するオーク・軍団を召集に充て、また不特定マナは墓地のカードを追放する探査で支払うのを狙うことに。ポックス及び《壌土からの生命》などのおかげで墓地は自然と貯まるデッキなので、無理なく運用できる。切削で墓地を満たせる《バロウゴイフ》がいるのも追い風だ。《小悪疫》でリソースを削り、こちらは優秀なクリーチャーやアーティファクトを並べて盤面の差をつける!
土地の中で見慣れない1枚についても触れておかねば。《ユーミディアンの孵化場》……この土地はマナを加えるたびにライフを1点持っていくためなかなか痛い。痛いのだが、その代わりに孵化カウンターが1つ乗る。この土地が墓地に置かれた時にこのカウンターを参照とし、その数だけの昆虫を生成。これらのトークンは飛行を持っているため、複数体生成できればかなりの戦力に。複数回タップしてカウンターを乗せたら、《小悪疫》で生け贄に!というのが理想的だが、《不毛の大地》で自ら破壊するという手も。《壌土からの生命》で拾えるので多少の土地のロスは許せるデッキだ。なんだったら損せずに自分の手で破壊するために《幽霊街》まで採用されている。ユーミディアンを孵化させるだけでなく、《壌土からの生命》で繰り返し投げつけることで対戦相手のライブラリーから基本土地を枯らしてしまうという戦法も取れる。なんだか久しぶりに目にした個の味わい深い土地に、なんだかグッときてしまった。
こういうデッキと出会うと、マジックって長くやるもんだなと実感する。皆にも、プレイされているのを見るたびに嬉しくなる「あのカード」があると思うし、まだない人はこれから見つかるはず。世界のどこかで、知らない誰かが自分の好きなカードを使っている。これもまたマジックの魅力なんだなぁ。
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