READING

戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

黒単吸血鬼:ラクドスとの比較(パイオニア)

岩SHOW

 プロツアーで新デッキが誕生し、環境を変化させる……競技イベントが我々のプレイするカジュアルなマジックにも影響を及ぼす、良い流れ。『カルロフ邸殺人事件』ではこのプロツアーを象徴するデッキ「ラクドス吸血鬼」が突如として姿を現し、優勝を掻っ攫っていった。こういうの、本当に痺れるよなぁ。憧れを抱かざるを得ない。

 《血管切り裂き魔》という超強力な大型クリーチャーを《傲慢な血王、ソリン》の能力で戦場に出し、一瞬にして戦場を支配してしまう。この恐るべきコンボを備えつつ、黒と赤のクリーチャーやコストの軽い妨害で対戦相手を攻めていく、新たなる中速デッキ。このデッキの存在が明るみに出たのは大会開始直前。デッキの使用率からどのような戦いが繰り広げられるかを分析するメタゲーム・ブレイクダウンの記事が公開され、そこで一定の使用者数のデッキの中に「ラクドス吸血鬼」も名を連ねていて、プレイヤー達の注目を大いに集めることとなった。

 そしてこの記事では11名の同デッキの他に1名の「黒単吸血鬼」ユーザーの存在が示唆されていた。その正体はポール・リーツェル/Paul Rietzl。20年以上のキャリアを誇るベテランで、プロツアー殿堂顕彰者。今回吸血鬼デッキを持ち込んだチーム、Channel Fireballのメンバーでもある。その中で唯一黒単を選択したリーツェル。2色よりも単色が好みだったのだろうか、たしかに切り裂き魔とソリンの組み合わせは黒単で成立するものである。では一体どんなリストだったのか?それをこのコラムで取り上げさせていただこう。

Paul Rietzl - 「Mono-Black Vampires」
プロツアー『カルロフ邸殺人事件』 / パイオニア (2024年2月23~25日)[MO] [ARENA]
10 《
4 《変わり谷
2 《目玉の暴君の住処
3 《ロークスワイン城
3 《魂の洞窟
1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ
1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼
-土地(24)-

4 《血管切り裂き魔
1 《ゲトの裏切り者、カリタス
4 《分派の説教者
4 《薄暮軍団の盲信者
4 《漆黒軍の騎士
-クリーチャー(17)-
4 《傲慢な血王、ソリン
4 《思考囲い
2 《強迫
2 《苦々しい勝利
4 《致命的な一押し
3 《密輸人の回転翼機
-呪文(19)-
2 《ヴェールのリリアナ
1 《黙示録、シェオルドレッド
1 《絶滅の契機
2 《真っ白
2 《危難の道
1 《強迫
1 《パワー・ワード・キル
1 《レイ・オヴ・エンフィーブルメント
2 《未認可霊柩車
2 《減衰球
-サイドボード(15)-

 ラクドスとの違い……まずわかりやすいのは土地構成。黒単色であれば2色土地が不要になり《》が大部分を占めることに。これにより《血の墓所》や《硫黄泉》といったライフを失う土地がなくなり、動いているだけでライフが減っていくという現象を回避できる。対コントロール等では関係ないが、アグレッシブなデッキを相手にすると土地で失う数点のライフが敗因になり得るので、これは見逃せないメリットである。

 それからラクドスでも4枚搭載される《変わり谷》。これを色マナの心配をせずに同じく4枚フル投入できる点も魅力的に見える。やっぱり2色デッキで谷4枚はどうしても、数多くゲームをやっていると事故ってしまうものだ。《》が主体なので《ロークスワイン城》という強力な土地をタップ状態になる心配なく複数枚搭載できるのも、ラクドスには真似できない芸当だ。

 クリーチャーの面で赤が抜けたことを考えると、《税血の収穫者》という序盤を支える選択肢がなくなってしまう。その代わりに黒単型のこのリストでは《漆黒軍の騎士》が採用されている。1マナと最序盤から展開できる最軽量の吸血鬼の一つであり、マナを注げばサイズアップ+接死を得るため、かなりブロックされにくいクリーチャーである。その利点を活かしてガンガン攻撃を仕掛けることができれば理想的だ。《分派の説教者》と接死軍団を結成し、攻防両面で優位に立てれば、あとは切り裂き魔が滅茶苦茶にしてくれるというものだ。

回転

 収穫者の代わりの吸血鬼も黒単色で補えるとして、ではその他の呪文面ではどうか?実はラクドスカラーの吸血鬼デッキにおける赤いカードは限られている。収穫者と《鏡割りの寓話》だけで、あとはサイドボードも含めて黒いカード+無色が少々という塩梅だ。サイド後も黒単でも全く同じ対策カードを用いて戦えるとして……つまり寓話を採用するのかしないのか。焦点はここに尽きる。

 実際に黒単のこのリストでプレイしてみた個人の感想だが……土地ばかりを引いてしまう、あるいは序盤にソリンを引けていなくて切り裂き魔ばかりを引いている、こういったゲーム展開に陥ると、そこから抜け出す方法がほとんどなく、中々苦しいものだった。筆者自身人よりも極端に引きが弱い──というオカルト的観点を抜きにしても、寓話があるのとないのではグダった時に勝てるルートがあるのかないのかという無視できない差であるように感じたね。《密輸人の回転翼機》をラクドスのリストよりも枚数を増やすことで手札がモッサリしている状況を打開する手段は用意されてはいるが……寓話は除去されなければダメージを与えるしマナも増やす、クリーチャーでもある。この4枚の差が黒単をプレイしていて「ゲームによっては全然クリーチャー展開できないぞ」という感想に繋がったのも事実だろう。引きのムラが発生するわけだ。順調にクリーチャーが引けていれば「寓話があれば」という気にはならなかったけどもね。

 クリーチャーで言えば、黒単なので《才気ある霊基体》を使いたいなという気持ちも起こったね。これは接死+絆魂を持ち、クリーチャーでぶつかり合うゲームにおいてとても頼りになる。それらの能力はソリンで与えられるので、それで十分という考えもあるだろう。個人的にはソリンを引けなかった時のことも考えて、あると嬉しい選択肢かなと。

 あとはせっかく黒単であるなら、黒マナの要求量が多いカードも採用してくなるね。吸血鬼であれば《アクロゾズの放血者》とか、ソリンから出しても良いプレッシャーになりそうだ。寓話を切っているのであれば、それの代わりというわけではないがアドバンテージをもたらす《絶望招来》とかも使いたくなったね。複数枚パーマネントを除去、あるいはドローと、ゲームに与える影響が大きい黒の濃いカード、採用してみる価値はあるんじゃないだろうか。

 「ラクドス吸血鬼」と「黒単吸血鬼」の違いをまとめると……

  • 土地からのダメージを受けない
  • 変わり谷》を4枚採用しても色事故が起きにくい
  • ロークスワイン城》を複数枚採用しやすい
  • ラクドスのサイドボードには赤いカードを採用していないため、各デッキへの対策は遜色なく行える
  • 鏡割りの寓話》のようなマナ加速や手札の入れ替えを行う要素に乏しいため、土地や《血管切り裂き魔》を引きすぎるようなゲーム展開が敗因となることも
  • せっかくの黒単であれば《絶望招来》のような、単色ならではの呪文も考慮に値するのでは

 以上のようなところかな。切り裂き魔とソリンのタッグは黒さえ採用していれば単色だろうか赤との2色だろうが、他の色との組み合わせだろうがどんとこいだ。吸血鬼デッキというアーキタイプ、ここからまだまだ発展していく可能性を感じるね。

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索