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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
エスパーだらけの世界選手権! それらは本当に同じデッキ?(スタンダード)
「第28回マジック世界選手権」、無事終了!
今回は久しぶりに世界選手権の実況を担当させていただけて、個人的にもとても楽しく有意義な時間を過ごすことができた。
トーナメント全日程が終了した月曜日の朝にこれを書いているが……金曜深夜から土曜朝までの徹夜実況のダメージがまだ若干尾を引いているよ(笑)。今度は日本で開催してくれないか? 2010年の千葉以来の超大規模イベント、日本にやってくるのを心から待ってるぜ!
参加する日本のプレイヤーにとっては海外に行く特別感も欲しいところだろうけども……とまあ、どこでやっても世界最強のプレイヤーが集い、1年間でたった1人しか存在できない世界王者の称号をかけて戦うのは最高にエキサイティングだ。
今大会では20歳のチャンピオンが誕生し、マジックが若い世代にも響いていることを強く実感できたのは、いちファンとしてなんだか安心できたね。年齢層が高いゲームになってきていると言われ続けているが、この若き王者が新世代の象徴としてマジックが次のレベルに到達する幕開けとなることを願っているよ!
そしてベテラン勢も負けじとその思考とテクニックを研ぎすまして迎え撃つ構図になれば、コンテンツとして最高に面白いじゃないか。老いも若きも、目指せ世界選手権!
今回の世界選手権は3フォーマット、ドラフト・スタンダード・エクスプローラーにて競われた。この中でも特に話題となったのはスタンダードだ。
全参加者32名中、スタンダードで「エスパー・ミッドレンジ」を使用しているのは22名。なんと68.8%という桁違いの使用率に。
プレイヤー思考としてはいろいろなデッキがひしめき合っている環境が望ましいもの。観戦するとなればなおさらだ。
ただ、字面では「エスパー・ミッドレンジ」とひと括りにされていても、その実情は結構異なるもの。そのあたりの差異を目にしながらゲームを見ると、ただの同型戦と片づけるにはもったいないほど興味深く独特の空気感を味わえるものになっていた。
2 《島》 1 《沼》 4 《ラフィーンの塔》 2 《アダーカー荒原》 2 《さびれた浜》 3 《難破船の湿地》 4 《コイロスの洞窟》 3 《砕かれた聖域》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《天上都市、大田原》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 2 《英雄の公有地》 -土地(26)- 4 《しつこい負け犬》 3 《敬虔な新米、デニック》 4 《策謀の予見者、ラフィーン》 2 《夜明けの空、猗旺》 -クリーチャー(13)- |
1 《切り崩し》 4 《かき消し》 3 《邪悪を打ち砕く》 3 《眼識の収集》 2 《冥府の掌握》 4 《婚礼の発表》 1 《虚空裂き》 3 《放浪皇》 -呪文(21)- |
2 《黙示録、シェオルドレッド》 2 《ローナの渦》 1 《切り崩し》 2 《否認》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《眼識の収集》 1 《虚空裂き》 1 《告別》 2 《漆月魁渡》 1 《不笑のソリン》 1 《放浪皇》 -サイドボード(15)- |
今大会トップ4のカール・サラップ/Karl Sarap選手のエスパーだ。
エスパーの基本は白青黒の3色で《策謀の予見者、ラフィーン》を用いるデッキであること。
このスフィンクスは攻撃時に手札の入れ替えと、その内容によってクリーチャー強化を同時にもたらす。3マナでパワー1からスタートするにもかかわらずあっという間にライフを削り切る驚異的な攻めのプレッシャーを誇る攻めの1枚である。
除去耐性や飛行など、弱点らしい弱点も少ない。伝説であるという問題点も、2枚目以降は自身の謀議能力で別のカードと入れ替えてしまえば良いという自己完結する形で解決。臆せず4枚採用できる、現行スタンダードの象徴的な1枚だ。
これを用いたエスパーカラーの中速デッキはすべて「エスパー・ミッドレンジ」と大まかにカテゴライズされる。
このリストの特徴はインスタント・タイミングで唱えられる呪文(相手のターンや呪文を唱えたり攻撃・ブロックしたのを見てから唱えられるもの)が17枚という構成。
4枚の《かき消し》による相手の行動阻害に始まり、各種除去やブロックされたクリーチャーに《放浪皇》で先制攻撃を与えるなど、あらゆる行動を相手のアクションを見てから行える。
トーナメントにおいては裏目を引くことは極力避けたいもの。慎重にプランを遂行していくプレイヤーにはおあつらえ向きの構成だ。
さらにインスタント型における特有の武器《眼識の収集》だ。
インスタント戦術の弱点として、構え続けていて相手側が大したアクションもなく淡々とゲームが続いた時、その間に立てていた土地から得られるマナが無駄になってしまうこと、そしていたずらに長引いたゲームでは構えていても捌き切れないほどの攻勢が押し寄せてきてノックアウトされるという点がある。
この問題点を《放浪皇》は解決してくれるカードであり、立てたマナを無駄なく盤面強化に回すことで攻めながら構えるという理想を実現してくれる。この枠に《眼識の収集》も加わっているわけだ。
相手のターン終了時に余ったマナで収集、対戦相手のライブラリーからカードを追放し、こちらの攻め手を獲得する。フラッシュバックもついているので、しつこいくらいに有効なカードをちょうだいし続け、ゲーム終盤の物量勝負で競り勝つことを狙っている。
これを唱える暇がないくらいの怒涛の攻めをしてくるアグロには効き目は薄いカードだが、それらは世界選手権の舞台において少ないという読みからの採用と相成ったのだろう。この読みはまさにぴしゃり。
1 《島》 4 《ラフィーンの塔》 3 《アダーカー荒原》 1 《さびれた浜》 4 《難破船の湿地》 3 《コイロスの洞窟》 4 《砕かれた聖域》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《天上都市、大田原》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 3 《英雄の公有地》 -土地(26)- 4 《敬虔な新米、デニック》 2 《屍術の俊英、ルーデヴィック》 2 《しつこい負け犬》 4 《策謀の予見者、ラフィーン》 1 《選定された平和の番人》 3 《黙示録、シェオルドレッド》 2 《復活したアーテイ》 3 《夜明けの空、猗旺》 -クリーチャー(21)- |
3 《冥府の掌握》 2 《邪悪を打ち砕く》 1 《かき消し》 3 《婚礼の発表》 1 《虚空裂き》 3 《放浪皇》 -呪文(13)- |
1 《聖域の番人》 4 《切り崩し》 2 《否認》 1 《軽蔑的な一撃》 1 《かき消し》 2 《集団失踪》 2 《告別》 2 《漆月魁渡》 -サイドボード(15)- |
一方こちらは同じくトップ4、イーライ・カシス/Eli Kasis選手の用いたリスト。
同じエスパーと括るには構成が大きく異なるのが見てわかる。クリーチャーが21体、たっぷりと積まれた構成。先のリストが4枚フル装備していた《かき消し》はメインにたった1枚と、この2つのリストの戦い方は全くの別物。
こちらは《敬虔な新米、デニック》《しつこい負け犬》の定番コンビに加えて《屍術の俊英、ルーデヴィック》も採用し、2ターン目から積極的にクリーチャーを展開してアグレッシブに戦う。
《黙示録、シェオルドレッド》は単体でも強力なフィニッシャーだが、ここにラフィーンの謀議が絡むとライフをモリモリと回復、相手のラフィーンの謀議はライフ0への片道切符となるわけで同型にはクリーチャーの質で勝負!という強気の姿勢だ。
このような構成であっても1枚だけの《かき消し》がいい味を醸し出している。世界選手権のようなデッキリストが公開された上で対戦を行う場においては、1枚であってもデッキに採用されているということが重要。青含む2マナを出せる状態でターンエンドを告げれば、対戦相手は「あの2マナから《かき消し》が飛んでくるかもしれない」と考える。たった1枚の場合「持っていない確率が高いがもし持っていてこれが打ち消されたら取り返しがつかない……」という逡巡が生じる。それだけ意識させて戸惑わせてくれれば、それだけでデッキスロットを1枚割いた価値があるというものだ。
またクリーチャーでありながら打ち消しも行える《復活したアーテイ》も良きプレッシャーをかけてくれる名脇役だ。
ひと口にエスパーと言ってもその構成は大きく異なることが伝わったかな? それぞれの調整の結果から、わずかな差を持ったリストで世界選手権に乗り込んだ22名の猛者たち。チャンピオンはその中でも最高のエスパーを手にした者……というわけでもないのが、マジックの面白く奥が深いところ。
次回は最大勢力に挑んだトーナメント中でオンリーワンだったデッキを取り上げよう!
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