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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
オルゾフ・ベンチャー:長き探索の末に(アルケミー)
マジックのトーナメントに参加する、ということは冒険、探検のようなものである。
競技レベルが高まれば高まるほど、デッキ選択は重要になるのは言うまでもなく。賞金やプロとしての道、何より優勝など好成績を残したという名誉がかかった戦いになってくる。
一戦一戦の重みが違ってくる中で、デッキ選択は後悔したくないもの。されど、守りに入った選択をしていれば良いというわけでもない。調整を重ねた結果、ある種の出たとこ勝負というか……第三者からえっ?と言われるようなデッキを選択する度胸が求められることもある。
勇気ある決断により決定された冒険的なデッキが、最高の結果をもたらす…「神河チャンピオンシップ」はそんなデッキ探検の旅の終着点に最高の結果が待っていたという感動的なエンディングを迎えた。
優勝者イーライ・カシス/Eli Kassisが予選および決勝のアルケミー・ラウンドで使用したのは「オルゾフ(白黒)ベンチャー」。ベンチャー、すなわちち探索。『フォーゴトン・レルム探訪』のダンジョンを探索する能力のことだ。
半年以上経って、ここにきてダンジョンデッキが結果を残した! これには正直言って驚きを隠せなかった。リリースから今日に至るまで、ダンジョン・デッキが競技イベントで結果を残したことはなかったからね。
これもアルケミーならではのことなのかなと。デジタルフォーマットということで、カードの能力が調整されるアルケミー。《A-ダンジョンの入口》に始まり、ダンジョン関係のカードはマナ総量や能力起動のためのコストなどが大きく調整された。
しかしながら、それでもその直後にアルケミーにてダンジョン・デッキが増殖!というようなことは起こらなかった。それもあって多くのプレイヤーがダンジョンという概念を忘れてしまっていたのではないだろうか?
MPLであるカシスの調整メンバーが開発した白黒のダンジョンをメインテーマとしたデッキは、そんな予想外の角度からのインパクトをもたらした。カシスは予選ラウンドのアルケミーをこのデッキで7勝0敗とパーフェクトなスコアを残している。では、そのリストをじっくりと眺めてみようか。
3 《平地》 1 《沼》 4 《砕かれた聖域》 4 《陽光昇りの小道》 1 《針縁の小道》 3 《目玉の暴君の住処》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《見捨てられたぬかるみ、竹沼》 1 《A-ダンジョンの入口》 4 《見捨てられた交差路》 -土地(23)- 1 《剛胆な敵対者》 1 《嘘の神、ヴァルキー》 4 《エメリアのアルコン》 4 《無私のパラディン、ナダール》 2 《忘れられた大天使、リーサ》 4 《街追いの鑑定人》 4 《A-勝利した冒険者》 -クリーチャー(20)- |
3 《強迫》 2 《消失の詩句》 1 《冥府の掌握》 1 《冥途灯りの行進》 1 《パワー・ワード・キル》 3 《ハグラの噛み殺し》 2 《放浪皇》 4 《A-急な落下》 -呪文(17)- |
1 《聖戦士の奇襲兵》 1 《黎明運びのクレリック》 4 《墓地の侵入者》 2 《血の長の渇き》 1 《強迫》 1 《スレイベンの除霊》 2 《真っ白》 2 《食肉鉤虐殺事件》 1 《勢団の銀行破り》 -サイドボード(15)- |
白と黒のダンジョン関係のカードを軸に、クリーチャーと各種除去で固めた中速デッキである。
このカラーリングのダンジョン・デッキにおいて、主役は何と言っても《A-勝利した冒険者》だ。
接死に加えて自ターンでは先制攻撃も持つ。ブロックしてきたものは一方的に打ち倒してしまう強烈な戦闘要員であり、そして攻撃するたびにダンジョン探索が行えるという素敵なアドバンテージも提供してくるダンジョン・デッキのキーマンだ。
面白いカードではあるのだが、印刷当初は素のパワーが1しかないためどれだけ攻撃しても相手のライフを脅かす存在ではなく、対戦相手もブロックしても何も得しないのでスルーして1点受けるというのが当たり前になっていた。
しかしながら2022年1月のアルケミー再調整でパワーが2に上昇。1と2の差というのは結構デカいもんで、2回3回と攻撃を通していくうち段々と笑えなくなってくるダメージに膨れ上がる。なのでこのカードに与えられた「ブロックしても損するがしなければ延々殴られ続けて苦しい」というプレッシャーをかけ続ける役割を果たせるだけのカードへと成長した。
《A-急な落下》も印刷時は3マナであったためリミテッドでなら強いカードだが……という印象から一転。2マナになったことで使い勝手は大きく変化した。
アルケミーであれば《指名手配の殺し屋、ラヒルダ》のようなタフネス2以下の強いクリーチャーと遭遇する場面が多く、先手2ターン目に出てきたそれに後手2ターン目で対応可能になったのはかなり評価できるポイントだ。なおかつ探索を一歩進めて、とりあえず踏破を目指して《ファンデルヴァーの失われた鉱山》に踏み込んだり、後々の大アドバンテージを期待して《狂える魔道士の迷宮》に挑戦したりできるのは強くてかつ楽しいマジック体験であるね。
これら強化されたカードとともに、元から強い《無私のパラディン、ナダール》4枚、そして《A-ダンジョンの入口》1枚。
探索要素はこれだけでガッツリ枚数を割いているという形ではないが、テーマにのめり込み過ぎない現実的な調整がこのデッキを優勝という高みに至らせたのだろうなとも思う。
テーマを持ったデッキって、ついつい余計なカードを入れてデッキの形を歪めてしまいがちなんだよね。その点このリストは、中速デッキの勝つための手段としてのダンジョン探索に留まっているのが良いところなんだろうなぁ。これは競技目線での話で、もちろんテーマがあふれ切ったデッキも楽しいものだよ!
他のカードのチョイスも調整の結果というのが伝わるものだ。除去や《放浪皇》などスタンダードでもお馴染みのカードと一緒にデッキのパワーを底上げしているのは《街追いの鑑定人》。
前回のグリクシスでもデッキの中核を成していた1枚で、アルケミーにおいては最早象徴とも呼べそうなパワーカードだ。
相手のリソース(資源)を確実に奪いつつこちらの盤面と手札を強固なものとする、このフォーマットで黒をやるならまずこれを!というクリーチャーだね。
そしてスタンダードでも使用可能なカードで見ると、メインから4枚採用の《エメリアのアルコン》が面白い。
多色土地が優秀なために2色以上のデッキが大多数を占めるアルケミーにおいて、このアルコンの「基本でない土地はタップ状態で戦場に出る」という制限はかなりのデッキをスピードダウンさせる。探索が間に合わないことの多いダンジョン・デッキ、であればこっちの土俵に引きずり込めば良いだろうというアイディアだね。
さらに1ターンに2回以上の呪文を唱えられなくするという制限も、《感電の反復》や《災厄招来》でワルいことを狙ったデッキに対する最高のアンチテーゼとなる。そう焦るなよ、じっくり探索していこうぜ? こちらのこの精神に対戦相手にも付き合ってもらう、そのための工夫こそがダンジョン・デッキにとって必要なものだったんだな。
変化がもたらされても、結果がすぐに出るわけではない。時が経ってから、しかるべきタイミングで登場するデッキもある。想定外のデッキが活躍するという競技マジックの面白さを「オルゾフ・ベンチャー」は久しぶりに僕らに教えてくれたように思う。デッキの探究はコツコツと時間をかけて行うべし。さあ、今日も仕事や学校終わったら、マジックやろうぜ。
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