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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ジャンド・サクリファイス:旬に輝く隙のないデッキ(ヒストリック)

岩SHOW

 この秋、ヒストリック環境にメスが入った。《ティボルトの計略》禁止および《記憶の欠落》の一時停止だ。

 《ティボルトの計略》はこれでコスト{0}の呪文を打ち消したり《混沌の辛苦》からめくったりして《精霊龍、ウギン》や《出現の根本原理》のような巨大呪文を早期ターンに唱えるコンボが、主にBO1でよく使われていた。先手でサッとコンボを決めて終わってしまうのが問題視された結果だ。

 《記憶の欠落》は実際に経験した人なら分かるが、マリガンした時などにこれで適当に打ち消されつつ1ターン飛んでしまうのはゲームにならないことが多く、プレイヤーにとってもストレスだったからね。

 これらのカードが使用できなくなったことは、2ターン目に勝負が決まってしまう展開が減るということでポジティブに捉えていきたいところ。この変化を受けて、まず台頭してきたのが「ジャンド・サクリファイス(生け贄)」だ。なぜか? その理由を今回は考察していこう。

Mikail Nogueira - 「ジャンド・サクリファイス」
The Pizza Box Historic Open 10/17 3位 / ヒストリック (2021年10月17日)[MO] [ARENA]
2 《
1 《
2 《
2 《血の墓所
4 《草むした墓
4 《闇孔の小道
1 《踏み鳴らされる地
4 《岩山被りの小道
2 《ファイレクシアの塔
3 《寓話の小道

-土地(25)-

4 《大釜の使い魔
4 《金のガチョウ
3 《貪欲なるリス
4 《波乱の悪魔
3 《フェイに呪われた王、コルヴォルド

-クリーチャー(18)-
4 《致命的な一押し
4 《魔女のかまど
2 《思考囲い
4 《パンくずの道標
3 《古き神々への拘束

-呪文(17)-
1 《湧き出る源、ジェガンサ

-相棒(1)-

3 《運命の神、クローティス
3 《初子さらい
2 《思考囲い
1 《強迫
2 《害悪な掌握
3 《魔女の復讐

-サイドボード(14)-
MTG Arena Zone より引用)

 

 変化を受けたヒストリック、まず2マナの打ち消しが減少したことで青系のコントロールがややパワーダウンすることが予測できる。《記憶の欠落》がなくなってもコントロールには十分なカードがあるのだが、その構成を変化させなければならないので使用者数は自然と減ることになる。

 コントロールが数を減らせばアグロが台頭するのは自然な流れだ。赤単、緑単、グルール……あるいはマーフォーク・ゴブリン・ゾンビ・エルフといった部族系…それらに強い《魂の管理人》《正義の戦乙女》らを用いるライフ回復系アグロ……クリーチャーを主体としたデッキが環境の最大勢力になることは想像できる。

 そこに殴り込みをかけるのがこの「ジャンド・サクリファイス」だ。

 ジャンドはなぜクリーチャーデッキに強いのか? まず、その防衛システム。《大釜の使い魔》と《魔女のかまど》のコンボだ。

 使い魔で攻撃クリーチャーをブロックし、戦闘ダメージが与えられる前にかまどで生け贄に捧げる。そうやって得た食物を生け贄に捧げて使い魔を墓地から戦場に戻す。こうすることでトランプルや飛行などを持たないクリーチャーからの攻撃を毎ターンブロックしてしまう崩せない防壁を用意できる。ついでに使い魔が出入りするたびに1点ずつライフを奪っていけるので、攻防一体のシステムだ。

 このかまどシステムに組み合わせることで強烈なシナジーを生み出すカード達もまた重要になってくる。特にクリーチャーデッキに対してのカウンターパンチが《波乱の悪魔》。

 生け贄が発生するたびに1点ダメージを飛ばせるので、これで小粒なクリーチャーは完封してしまえる。特にヒストリックでは《ラノワールのエルフ》《ドラゴンの怒りの媒介者》《ボーマットの急使》などなどタフネス1のクリーチャーが多く飛び出してくる環境なので、これらをバスバスと打ち落とす悪魔はまさしく波乱を巻き起こす存在だ。

 大型のクリーチャーが出てこようとも《古き神々への拘束》で破壊するか、あるいはこれのⅢ章能力で接死を与えた悪魔でダメージを与えてピンッと弾いてしまえば良い。クリーチャーやプレインズウォーカーの強烈な抑止力であると同時に、プレイヤーのライフもすり減らすので使い魔とともにあっという間にライフを削って勝つというフィニッシャーも兼ねている。

 さらに悪魔と同じく、使い魔などのクリーチャーと食物の生け贄とがっちり噛み合った1枚が《貪欲なるリス》。

 かまどで使い魔を生け贄に捧げて+1/+1カウンターを得て、食物を生け贄に捧げて使い魔を戻しつつさらにカウンターを得て。これだけでリスは3/3。毎ターン繰り返せば……どんなトロールも天使もドラゴンも踏み越える、超生物の誕生だ。自身が生け贄を発生させる能力持ちなのも《波乱の悪魔》などと好相性で素晴らしい。

 対クリーチャーのシステムと同時に、手札を得る術にも優れているので、中速デッキ同士の対決でもアドバンテージ差をつけての勝利が狙えるのもジャンドの魅力。

 使い魔や《金のガチョウ》で食物を生け贄に捧げれば《パンくずの道標》が誘発、これで毎ターンパーマネント・カードを手に入れてマナやクリーチャーを確保。複数枚並べば手札が常に7枚あるなんて状況も作れてしまう、そのおとなしそうな見た目よりも遥かにデンジャラスな1枚だ。

 道標で土地を得て叩きつけるのは《フェイに呪われた王、コルヴォルド》。

 使い魔や食物など使い減りしないパーマネントを生け贄に捧げてドロー&強化。本人が飛行持ちなので重い一撃をプレイヤーに叩き込み決着を演出してくれる、唯一無二のパワーカードだ。《寓話の小道》を生け贄に捧げても能力が誘発してカードが引けるので忘れずに。これが戦場に出て生きてターンが返ってくれば、大体勝ちってなもんである。

 これらに加えて、ダブルシンボルのカードがないこともあって採用可能な《湧き出る源、ジェガンサ》という相棒もおり、資源の量・質の両方で勝負可能という隙のないデッキだ。

 クリーチャーの攻撃を通さず、ダメージをばら撒いて除去するシステム。そしてそれらと同時並行でアドバンテージを得ていく分厚いデッキ、「ジャンド・サクリファイス」。勝ちたいならこのデッキ、という環境のド定番である……

 ……のだが、このデッキには波があるのも事実。ヒストリックの歴史では使用率が浮き上がっては沈むを繰り返している。得意とするデッキの蔓延に乗じて台頭し、それらとは軸の異なるデッキが主要となってくると数を減らしていく。使うタイミングも重要なデッキだね。

 今回が掲載される頃の立ち位置はどうだろうか? それはクリーチャーデッキの流行り具合に左右されているのだ。

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