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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

公開されたデッキ候補、そこにいたのは《デミリッチ》!(スタンダード)

岩SHOW

 これを書くのは第27回マジック:ザ・ギャザリング世界選手権が今まさに開催されんとしているタイミング、DAY1当日のこと。

 世界中に今マジックプレイヤーは一体何人いるのだろう。競技志向のプレイヤーにもさまざまな世代があり、紙のみ・アリーナのみの専門プレイヤーもいれば、統率者戦などカジュアルフォーマットをこよなく愛するという人々も。

 そんな数えきれないほどの世界中のプレイヤーの中からわずか16名の精鋭のみが参加できる世界選手権。一体どんな舞台なのだろうね。競技トーナメントとしては最小レベルの参加者数だが、対戦相手全員が強豪の中の強豪。気の休まるラウンドなど存在しない、過酷極まる戦いの連続……ちょっと僕らのような一般人にはイメージできないな。

 この大会の構築ラウンドではスタンダードで争うことになる。ここで重要なのはデッキチョイス。このようなトーナメントにおいてデッキを選択する方法は大きく分けて2つだ。

 まず、環境の強いと言われるデッキ、大本命を持ち込む。もちろん強いデッキにも種類や相性があり、また一強と言えるようなデッキでも対同型や対策デッキを意識した調整を行い、リストを練り上げる必要がある。無難な選択肢に見えても、そこに至るまでの研鑽・見えない努力があることを忘れずに。

 そしてもう1つが、誰も意識していない、独自調整のマイデッキを持ち込むというスタイル。こちらはどれだけの調整ができたか、完成度を高められるかというハードルはあるものの、対戦相手が対策していないデッキで戦えるという大きなアドバンテージが得られる。ただ最近のトーナメントは慈善にデッキリストが公開されるので、奇襲性という点は薄れてしまってはいる。

 さて、今回の世界選手権。参加者の1人であるオンドレイ・ストラスキー/Ondřej Stráskýは自身が世界選手権に持ち込もうと考えたが、今回のトーナメントで用いるにはややリスクが高いと最終的に判断したデッキリストを公開した。それは非常に独創的なもので、スタンダードの他のデッキリストと一線を画すものであった。

 今日はそんな幻の世界選手権参戦デッキ、「ディミーア・デミリッチ」を紹介しよう!

Ondřej Stráský - 「ディミーア・デミリッチ」
スタンダード (2021年10月)[MO] [ARENA]
4 《
2 《
4 《難破船の湿地
4 《清水の小道

-土地(14)-

4 《デミリッチ

-クリーチャー(4)-
4 《考慮
4 《強迫
4 《消えゆく希望
4 《異世界の凝視
2 《血の長の渇き
2 《一枚岩の防衛
4 《情報収集
4 《ジュワー島の撹乱
4 《巧みな軍略
1 《血の契約
1 《シルンディの幻視
2 《オリークの誘惑
4 《海門修復
2 《アールンドの天啓

-呪文(42)-
1 《心悪しき隠遁者
4 《パワー・ワード・キル
2 《軽蔑的な一撃
2 《才能の試験
1 《落第
1 《冥府の掌握
2 《血の契約
1 《魂の粉砕
1 《オリークの誘惑

-サイドボード(15)-

 

 スタンダードの他のデッキと一線を画す、あまりにも独特なその構成! キーカードは4枚のみ採用されたクリーチャー、《デミリッチ》!

 そのターンに唱えたインスタントとソーサリーの数だけコストが軽くなるという能力を持った、かなり特殊なクリーチャーだ。しかも墓地から唱えられるというトリッキーさだ。戦場に出てしまえば、後は攻撃するたびに墓地のインスタント・ソーサリーをコピーして唱えられるアドバンテージ発生装置でもある。

 まとめると、《デミリッチ》を使うデッキに求められるものは以下のようになる。

  • 大量のインスタント&ソーサリー
  • 1ターンに4回唱えてコストをゼロにするという荒業のために、それらは1マナ以下であればなお良い
  • 墓地に《デミリッチ》を落としてアドバンテージに繋げる、墓地からデミを唱えるための追加コストに割り当てる、デミでコピーするため……とにかく墓地が必要。切削や手札を捨てる呪文が欲しい
  • デミリッチ》の{U}{U}{U}{U}という強烈なコストを素で支払うことも考えて、なるべく青が主体

 上記の条件に応えるために作られたこのリストは、まさしく異形。《デミリッチ》以外のクリーチャーは排除し、土地もまるでヴィンテージのデッキかのような14枚という超低枚数に抑えている。《海門修復》などの両面カードで実質的には水増ししているとはいえ、土地14クリーチャー4、残り42枚がインスタント・ソーサリーという構成は他のスタンダードのデッキと根本からして異なる。ここまで振り切った構築を施すことで、大量の呪文を唱えながら《デミリッチ》を戦場に並べ、次のターンから制圧を開始していくことが可能となるのだ。

 この手の呪文から呪文へと繋いでいく動きをチェーンと表現する。チェーン系のデッキにおいて大事なのは、少ない手札からも大きなチェーンに繋げられるということ。つまり、軽量のドロー呪文が優先される。手札の枚数自体は増えなくても、それを減らさずに次のドロー呪文に繋いでいけるものが求められているということだ。

 その点《考慮》はまさしくベスト。

 墓地にカードを落とせるので《デミリッチ》や不要なカードを落としてチェーンを始動させる。《巧みな軍略》《情報収集》も墓地を肥やしつつ手札の枚数が減らないエラいカードだ。

 チェーンに組み込むだけでなく、その前準備として手札と墓地を整えるためにも使っていこう。ドローはついていないが、このデッキだからこそ活きる驚きの1枚は《異世界の凝視》。

 これ1枚で最大で3枚のカードを墓地に送れる。上手くいけば凝視自身と併せて4枚のインスタント・ソーサリーが落ちるので、これ1枚で《デミリッチ》を墓地から唱える追加コストが満たせてしまう。ここまで豪快であれば手札が減ってしまっても構わないということだ。チェーンに組み込みやすい1マナなのも相まって、これから《デミリッチ》の複数降臨へと繋げよう。

 《デミリッチ》で攻撃できる体制が整ったら、後はこれで無限のアドバンテージを得ていくべし。ドローしてもよし、除去を使いまわしてもよし。最終的に《アールンドの天啓》までつながれば圧勝というところだ。

 除去と言えば、青を主体としたデッキ作りが求められるというのもあるが、このリストのそれはかなり変わった構成になっている。サイドボードに《パワー・ワード・キル》4枚、他のデッキでは見られない《オリークの誘惑》の採用などなど個性が際立つ。

 なぜこのような形になっているのかは世界選手権での使用という前提条件込みで考えればわかりやすい。たった16名のプレイヤーしか参加しない中で、使用デッキの分布はどうなるか。おそらくは青系のデッキが半数を占め、それへの対抗デッキである緑単などのアグロがそれに続くだろうという読みがあったのではないか。青系デッキに対して打ち所がほとんどない除去を抱えて負けるのは避けたいが、アグロ相手にはサイド後にしっかり勝てるように備えておく、と。そこで白羽の矢が立ったのが《オリークの誘惑》というのも興味深いね。《デミリッチ》から唱えればただの除去を撃つよりもずっと大きなアドバンテージに繋がる、そこを評価してのことだろうか。

 使ってみた感想としては……とにかく難しい! 呪文をチェーンして《デミリッチ》がコストなしで飛び出す感覚は、かなり気持ちがいい。しかしながら、勝ち手段が非常に限られているのと、デッキを構成するカード1枚1枚はカードパワーが低いため、どのデッキにどのように立ち回りゴールを目指すのか、そのプランニングがしっかりできないと瞬間的には気持ち良いだけで負けてしまう……という印象だ。これほどハッキリとプレイヤーの腕が反映されるデッキも珍しいだろう。ある種の腕試し的な存在である。

 自分のマジック力に自信がある人は挑んでみよう。そうじゃない人は……もう少し《デミリッチ》へのオールイン具合を和らげて、勝ちやすいカードを増やしてマイルドなデッキにしてみても良いかもね。

 結果としてスポットライトを浴びることはなかったが、世界選手権で実際に用いられたらどうなっていたのか、興味は尽きないところだ。

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