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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
今週のCool Deck:グルール上陸~あのころの思いのまま作られたデッキ~(スタンダード)
今週もクールなデッキを紹介するコーナーの始まりだ!……と言いたいが、先に少しばかり昔話をさせてほしい。
僕がマジックと出会ったのは中学1年生の時。ちょうど『エクソダス』が《適者生存》《繰り返す悪夢》など超強力カードを世に放ち盛り上がっていたころ、『ウルザズ・サーガ』が発売された本当の直後ってところだね。
だから『ウルザズ・サーガ』は個人的には最も思い出深い最高のセットだ。サーガと『エクソダス』『基本セット第5版』あたりがよくおもちゃ屋やゲーム屋に並んでいたので、これらをお小遣いで買ってパックを剥き、中から出てくるカードたちの重厚な雰囲気に圧倒されたものである。
なぜマジックをはじめたのか? それは人と違うクールなゲームがしたいという、中学生特有の感情によるものだったと思う。皆が知らないカードを求めている時に出逢ったのが、おもちゃ屋店頭で唯一無二の存在感を放つマジックのディスプレイだったわけだな。
で、クールなゲームに出会ってもこれを遊ぶには対戦相手が必要だ。そこで僕は小学生の時から仲の良い友人2人に声をかけた。「めっちゃシブいカード見つけてんけど一緒にやらへん?」と。2人は僕が言うならと快諾し、一緒にパックを買ってくれた。今にして思えばこの2人なくしては僕がこうしてコラムを書くこともなかったろう。心から感謝している。で、その3人でマジックにのめり込んでいる光景を見て俺も僕もと友人らが加わり、ちょっとしたコミュニティが生まれてそこからはもう毎日マジック漬けの日々が始まる、と。
この同時にマジックを始めた3人の中で、今でも1人の友人と僕は繋がりがある。というか一緒に仕事をしている、25年以上に及ぶ長く深い関係だ。彼の名はJとしておこう。Jは学校の勉強が非常に苦手であったのだが、マジックに関しては熱い情熱を持ち真剣に取り組んでいた。数学は苦手でも、デッキ内に何枚の土地を採用すれば引けない・引きすぎる事態を回避できるかを計算し自分なりの答えを出していたのは今考えてもなかなかできることではないと感心するばかりだ。
そんなJは中学を出てすぐに働き始め、そうした関係から『ネメシス』以降はマジックの場に顔を見せる機会が減り、いつの間にか辞めていた。彼とはその後も定期的に遊びに行ったものだが、その都度口にするのは「マジック始めたころが一番楽しかったなぁ」「今でもマジック面白い?」とマジックのことばかり。僕はもちろん「おもろいよ~またやったら?」と返答し続けた。
そして2021年9月。JはスマートフォンでMTGアリーナがプレイできることを知った。彼は普段からほとんどネットを使用しない、どちらかと言えばアナログな人間である。なのでスマホ版アリーナの存在を知りえらく興奮していた。
ちょうど『イニストラード:真夜中の狩り』リリース直前だったので、先行でパックを買っておいてリリースしたら始めたら良いと告げておいた。それから約2週間後、仕事の打ち合わせで久しぶりに顔を合わせた時のこと。Jはアリーナの現状を報告してくれた。「今、ダイアモンド2までいったよ」と。まさかランク戦をやっているとは思わなかったので、僕は驚きを隠せなかった。一体どのデッキを使っているのだろう?
見せてほしいと願うまでもなくスマホのアプリを起動してデッキリストを開いてくれた。そこには……アリーナを始めたばかりのプレイヤーに配布される、2色の構築済みデッキの1つ「野蛮な地」。赤緑の上陸能力のエッセンスを持つアグロデッキのカードを一部、パックから得たものと置き換えたデッキの姿が。これでダイアモンドへと到達した? 正直なところ、驚きを隠せなかった。
ランクの最高位、ミシックへと登る最後のステップであるダイアモンド帯には、ある意味ミシック以上に真剣なプレイヤーが多い。遊び要素は抑えて、ガチ要素を重視したデッキが使われがちである。そんな中、Jはワイルドカードの使い方もわからずに日々得られるカードと初期デッキをベースに勝ち上がっているのだ。
実に20年ぶりのマジックであるというのに……そこには中学1年生のころと変わらぬ、純粋にゲームを楽しむ姿があった。これ以上にクールなことがあるだろうか?
とりあえずワイルドカードを使えば任意のレアリティのカードが手に入ることを告げ、《カザンドゥのマンモス》を増量することだけ勧めておいた。そしていつか自力でミシックに到達したらこのコラムで紹介しようと……それからほどなくして、その時が来た。
8 《山》 7 《森》 1 《落石の谷間》 1 《高地の森》 2 《岩山被りの小道》 4 《進化する未開地》 -土地(23)- 3 《アクームのヘルハウンド》 4 《山火事の精霊》 4 《カザンドゥのマンモス》 2 《巨体のバグベア》 2 《星山脈の業火》 2 《世界を彫る者、ファイラス》 -クリーチャー(17)- |
4 《乱動の噴火》 3 《轟く叱責》 2 《安堵の火葬》 2 《浄化の野火》 2 《貪る触手》 2 《ドルイド・クラス》 2 《武器を選択せよ》 3 《巨森の波動》 -呪文(20)- |
このクールなデッキは?
初期デッキ「野蛮な地」をベースに、そのすべてを自分で考え日々得られたゴールド・パック・ワイルドカードを用いて友人Jが構築し、ミシックランクに到達した「グルール上陸」だ。
ハッキリ言ってかなり個性的なリストであるのは間違いない。だからこそ、彼が自分で練り上げたのだというリアリティが伝わってくる。同じく初期デッキをコツコツ改造しているプレイヤーにとって参考になれば幸いと思い、取り上げさせていただいた。
キーカードは上陸クリーチャー3種、《アクームのヘルハウンド》《山火事の精霊》そして《カザンドゥのマンモス》。
これらの土地を戦場に出すことでパワーが上昇するクリーチャーを駆使して、対戦相手のライフを攻めるのがメインストーリー。
そのために《進化する未開地》《巨森の波動》といった1ターンに複数回上陸させられるカードを採用。
中でも目を引くのは《浄化の野火》。
自身の基本でない土地に打ち込んで、基本土地を持ってきつつドローもあるので手札が減らない。いざともなれば相手の《不詳の安息地》を破壊するなどしてゲームの流れを変えることも可能だ。
基本土地多めの構成なので《世界を彫る者、ファイラス》も採用されており、ゲームが長引いた際にはこれで植物を育ててゴリ押しするとのこと。
ファイラスが除去されても《巨森の波動》キッカーで無理やりライフを削り切れるので諦めない、と語る様子は実に楽しそうでクールな姿だった。
攻撃を通すため、そして上陸の特性上、相手のターンではサイズが小さくてブロックに回せるクリーチャーが少ないことから、クリーチャー除去は非常に重要であると本人もその選定には迷っていた。ダメージの大きい《轟く叱責》、不要な手札の入れ替えにもなる《安堵の火葬》、プレイヤーにもダメージを与えられてダメ押しになる《乱動の噴火》、上陸クリーチャーのパワーをそのままぶつける《貪る触手》……他にも《火遊び》《ショック》など選択肢は多岐にわたる。
《黄金架のドラゴン》など各種ドラゴンに手を焼いたらしく、《武器を選択せよ》は非常に重要とのこと。
飛行に対する除去でありながら攻めている時はクリーチャーのサイズを倍にして相手のライフを一気にゴリッと奪う、使っていて最も楽しいカードだそうだ。速攻クリーチャーからの致命傷、《星山脈の業火》とのドリームコンボなどこのカードは思っていた以上にクールな1枚なんだなと思い知らされた次第だ。
さて、メインデッキのみでサイドボードがないのでBO1(1本先取)形式のデッキと思われたかもしれないが、実はこれでもBO3でプレイしているものになる。本人いわく「メインのままが一番強い気がするから」と。実際にプレイしている時にも相手がサイドインしている時間はスマホをテーブルに置いて腕を組んで待っていた。その光景、ラスボスか何かかよ!とツッコみたくもなったが、マジックとはつくづく自由なゲームだなぁと謎の感動も覚えてしまった。
クールなまとめ
そんなわけで今回は、僕の友人Jと同じように自分で手に入れたカードでコツコツとデッキを組み上げて、いつかミシックランクに到達したいという目標でやっているライトユーザー・初心者に向けて、ひとつのエールになれば良いかなと思いこのようなデッキを紹介させてもらった。
マジックの楽しみ方は人それぞれ、デッキの組み方も人それぞれ。このCool Deckのコーナーは、自分のデッキがどれだけ周囲とかけ離れていても恥じないで、自分のデッキだと自信を持って使ってほしいという思いを込めてやっているというのもある。今回のデッキはまさにそんなリストだ。
マジックは長くプレイしているといろいろな感情が沸き起こるもの、時に道に迷うこともあるだろう。そんな時にはデビューしたばかりのあのころ、見るカード全てに純粋に興味を持ち、デッキを仕上げていったあのころを思い出してみよう。
さあ、今こそ自分のデッキを探しに行こう。それでは今週はここまで。Stay cool! Proud your deck!!
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