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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

今週のCool Deck:破砕獣変容せよ(ヒストリック)

岩SHOW

 今週のCool Deck! なんだけどもね、ちょっとクールじゃないことから話しても良いですか。クールを知るにはその反対を知る必要もある、ということで。

 マジックに関して何がクールじゃないかというと、試さずに否定することだ。これは各自、大なり小なり経験があるだろう。マジックに慣れてきた頃合いに起こることだが、新セットのカードなどがプレビューで公開されたときに、そのカードを使ってもいないのに「弱い」と決めつけてしまうことがある。あるいはそれを主役にデッキを組む価値はない、とも。

 これはクールじゃない。マジックは何があるかわからないゲームである。ここまでの30年近くの歴史において、過小評価が覆った例などいくらでもある。試した上で強くなかったと判断するのは自然なことだが、カードを見ただけで役立たずだと決めつけてしまうのは良くない。大抵そういう時は、そのカードを対戦相手に出されて「あれ……強い……?」と一泡吹かせられるものだ。

 カードの強弱は可能な限り自分で試してから結論を出す。そういう気概で新カードと向き合うと、すべてに可能性が感じられてあれこれ試す時間がとても楽しい。それこそが、クール!

 こういう切り出し方をしたということは、今回紹介するデッキは……ご想像の通り、過小評価されていたカードを主役にして組まれたものだ。先日リリースされた『ヒストリック・アンソロジー4』に収録されたカードの中で「これが活躍するデッキなど想像もつかないし、良いものではないに決まっている」というコメントをネット上で見かけた。

 そのカードとは《鋸牙の破砕獣》。

 馴染みのない人も多いだろう、『統率者(2020年版)』に収録されたカードだ。変容を持ち、これが変容された際にはクリーチャーでないパーマネントを破壊してそれのオーナーは3/3のビースト・トークンを得るという《内にいる獣》さながらの除去能力を持つ。

 素出しは6マナで変容は4マナ、確かにヒストリックという環境で使うには少々重めのカードには見える。しかしながら変容できた際には、それに見合うだけのリターンはある。使う前から使えないと断定してしまうのはちょっとクールじゃないなぁと、なんだったら変容デッキ好きとして破砕獣を使ってやろうかという気すら起こったものだ。

 そしてそれから数日後。その《鋸牙の破砕獣》でミシックランクに到達したという投稿を発見した。その時は「こういうのこそクールってなもんよ」と、そんな清々しい気持ちが起こったね。

 今週のクールすぎるデッキ、主役は破砕獣ッッ!

Lanyr - 「ティムール変容」
ヒストリック (2021年3月16日)[MO] [ARENA]
3 《繁殖池
4 《植物の聖域
3 《樹皮路の小道
4 《踏み鳴らされる地
2 《岩山被りの小道
4 《河川滑りの小道
4 《古代の聖塔

-土地(24)-

4 《金のガチョウ
4 《ラノワールのエルフ
4 《無法の猛竜
4 《両生共生体
4 《海駆けダコ
4 《水晶壊し
2 《永遠羽のフェニックス
4 《飛びかかる岸鮫
2 《永遠の頂点、ブロコス
4 《鋸牙の破砕獣

-クリーチャー(36)-

-呪文(0)-
1 《集めるもの、ウモーリ

-相棒(1)-

4 《厚かましい借り手
4 《暴れ回るフェロキドン
2 《運命の神、クローティス
2 《嘶くナール
2 《永遠羽のフェニックス

-サイドボード(14)-
Lanyr氏のTwitter より引用)

 

このクールなデッキは?

 先述の通り、ヒストリックのランク戦でミシックに到達した「ティムール変容」だ。青赤緑の3色からなり、《鋸牙の破砕獣》以外にも変容を持つクリーチャーを詰め合わせた珠玉のデッキである。

 使用者いわく、ランクを駆け上がるのにおあつらえ向きな楽しいデッキとのことで、確かに見るからにワクワクしてくる。恐竜、怪獣、大怪獣が一同に決しているリストは、土地以外はクリーチャーのみ。変容デッキの最古の姿である《集めるもの、ウモーリ》を相棒にしたタイプだ。

 ウモーリを使うので、ヒストリックでならほとんどのデッキで採用されている《墓掘りの檻》のようなサイドの定番カードも不採用。この思い切り、クールとしか言えんね。

どこがどうクールなのか?

クールポイントその1:自分はスピードアップ、相手はスピードダウン

 破砕獣の何が強いかって、土地が破壊できる点だ。土地1枚壊せるのであれば3/3ビーストをくれてやるなど、タダみたいなものだ(?)。

 ヒストリックは4マナに《集合した中隊》や《神の怒り》など特定のデッキにとってのキーカードがあり、それ以上のコストだと《ドミナリアの英雄、テフェリー》や《世界を揺るがす者、ニッサ》など勝負を決めてしまうカードが控えている。それらを唱えさせないように、破砕獣を何度も変容して土地を破壊しまくるというのがこのデッキのコンセプトだ。

 それには破砕獣を変容するためのマナが最低限必要になってくる。4マナの変容をいち早く行うために《ラノワールのエルフ》《金のガチョウ》のマナクリーチャーはもちろん、《両生共生体》に《無法の猛竜》と変容コストを軽減させるクリーチャーをズラリと用意。3ターン目には破砕獣変容から土地破壊を仕掛けられるようになっている。

 以降は引いてきた変容持ちを破砕獣に重ねていって、何度も能力を誘発させて土地を根絶やしにするのだ。4マナ以上のカードで勝負するデッキで、この怒濤の土地破壊に耐えられるデッキはない。

 もし土地破壊が効かないような軽いカードが主体の相手なのであれば、自分の土地を対象にしてこちらの戦場に3/3ビーストを並べて、クリーチャーの数とサイズで勝負しよう。

クールポイントその2:他の変容持ちも良い仕事してますねぇ~

 破砕獣と組み合わせる他の変容クリーチャーも見てみよう。

 スタンダードでもお馴染みな《水晶壊し》はヒストリックでも《魔女のかまど》など環境にはびこるアーティファクト&エンチャントを破壊してくれる頼れるヤツ。

 《永遠羽のフェニックス》は変容することで羽・トークンを生成し、もしフェニックスが死亡しても墓地から戦場に戻せる保険を残す。コントロール・デッキ相手には生命線とも言えるだろう。

 《飛びかかる岸鮫》は相手のクリーチャーを手札に戻す。土地を破壊してやることで、戻したクリーチャーが再展開されなくなることもある。どいつもこいつもクールだ。

 誘発型能力は持たないが、変容しているクリーチャーで攻撃を通すとカードが引ける《海駆けダコ》は貴重なアドバンテージ獲得源。また変容コストが2マナと軽く、軽減能力持ちがいれば1マナになるので他の変容と同一ターンに重ねてやることが簡単で、破砕獣の能力で土地2枚抜きなんて腕白なアクションを叶えてくれるクールな引き立て役だ。

 《永遠の頂点、ブロコス》は《両生共生体》で捨てて墓地から唱えることを忘れずに!

クールテクニック!

 《鋸牙の破砕獣》で相手のビーストをちょうど2体にしたところで攻撃。すると2体でブロックしてくれることがほとんどだろう。そこに《飛びかかる岸鮫》を変容し、ビースト1体を対象とする。手札に戻されたビーストはトークンなのでそのまま消滅、破砕獣は生き残り一方的にビーストを踏み潰しながらトランプルダメージが抜ける……つまり最高の展開だ。

 他にもトランプル持ちがブロックされたところに岸鮫を変容し、ブロックしているクリーチャーをどけてトランプルダメージをすべて対戦相手本体にねじ込むというのは、対戦相手の計算を大いに狂わせられる。バキバキ割ってガンガン殴ってバンバンバウンス、勝利への3ステップだ。

さらなるクールのために

 変容デッキと言えば《恵みのスターリックス》を変容し、大量のパーマネントをライブラリーから戦場に繰り出す脅威の展開力で勝負する型が一般的ではある。

 破砕獣とスターリックスの組み合わせは、対戦相手の土地が減りこちらの土地を増やすという結果をもたらすだろう。

 だったら、ウモーリを相棒から外して《トロールの喚起》と組み合わせるというアプローチも面白いんじゃないか。

 土地を破壊してマナの差をつけることを徹底し、最終的にはトロールの大群でフィニッシュ。マナを伸ばすために基本土地を採用して《渡る大角》を変容させたり、土地が大量に出る=上陸が誘発するので《硬鎧の大群》も勝ち手段にしたり……上陸デッキは細部を変更することで、似て非なるデッキを容易に作り出せるというのも、プレイしていて楽しい要素だ。

クールなまとめ

 カード評価というものは、実体験に基づいて判定したいところ。一見よくなさそうに見えるカードでも、世の中にはそれでクールなデッキを組み、クールな結果を残す人がいる。その時に認識を改めて、良いカードだったんだなと素直に受け入れるのもまたクールなことだ。いろいろな情報が飛び交う時代だからこそ、自分というものをしっかり持ちつつも謙虚にカードと向き合っていきたい。

 《鋸牙の破砕獣》はハマる人はとことんハマるタイプのカードなので、1人でも多くの人がこのクリーチャーに興味を持ってくれたら嬉しいね。それでは今週はここまで。Stay cool! Be humble!!

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