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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

黒単氷雪吸血鬼(ヒストリック)

岩SHOW

 その昔、『オデッセイ』なるセットがあった。あのころはまだ高校生だったよなぁ。

 このセットはマジックにおける最初の墓地をテーマにしたものだった。今でこそすべての色が墓地に関するカードを持つようになっており、墓地に落ちたらカードはそれで終わりってわけでもない。しかし当時はまだ、墓地は文字通りの墓地。黒などの一部のカードにそこからクリーチャーなどを蘇らせる手段はあったが、すべての色にそれを活かす手段はなかった。墓に眠るカードに価値を持たせ、ゲームの勝敗を決める要因にまで高めたのは『オデッセイ』であり、その後のセットにも多大な影響を与えた重要な存在なのだ。

 このセットの発売日、高校が終わったら地元の友人らと合流し、各々バイト代をはたいて『オデッセイ』のブースターやトーナメントパックを購入し、当時のたまり場で開封してそれぞれに獲得したレアを確認し合った。セットに入っているカードは今と違ってほとんどわからず、一体どんなカードが出てくるのかワクワク感が頂点に達していたのを今でも覚えている。

 そんな場にて、複数名が当てたレアが《凍血鬼》。

 英名はBloodcurdler、blood curdleで恐怖で血が凝血する、つまりはゾッとしたという意味になる。血も凍るような寒気をもたらす怪物って意味合いでの和訳はなかなか良いなと、凍血ってのもシャレが利いてて良いなと今改めて思う。

 この名前のせいで勝手に吸血鬼なのかと思っていたが、ホラーだった。インパクトのある名前と不気味なイラストとは裏腹に、能力の方はというと……なんだか中途半端なカードだった。毎ターン自身のライブラリーを切削するのは、墓地が7枚以上ある状態を作り出しスレッショルド能力を持つカードの真価を引き出すのを後押ししてくれるのだが……肝心のスレッショルド達成後は、なんと《凍血鬼》自らがこのスレッショルドを解消するように墓地のカードを追放してしまう。本人のスペックも2マナ1/1飛行と低く、残念ながら強いカードではなかった。

 当てた皆でデッキを考えてみたが、これを主役にしたデッキは完成することはなかった。活躍したわけではないのに、それでも妙に記憶に残っている1枚だ。それだけ、当時皆でやるマジックが楽しかったのだろう。

 2021年現在、《凍血鬼》は多くの人には忘れ去られたかもしれない。ただこのカード名にあやかったかのようなデッキがヒストリック環境に姿を現した。こちらは文字通り凍り付くような極寒の地に、血を求めて彷徨う鬼たちを解き放つ残忍なビートダウン。「黒単氷雪吸血鬼」だ。

Shieldmaiden - 「黒単氷雪吸血鬼」
ヒストリック (2021年2月24日)[MO] [ARENA]
12 《冠雪の沼
4 《ロークスワイン城
1 《ボジューカの沼
3 《不詳の安息地
-土地(20)-

4 《漆黒軍の騎士
4 《薄暮軍団の盲信者
4 《才気ある霊基体
4 《残忍な騎士
2 《薄暮薔薇の棘、ヴィト
2 《ファイレクシアの抹消者
4 《薄暮の勇者
-クリーチャー(24)-
4 《思考囲い
3 《致命的な一押し
2 《無情な行動
2 《アガディームの覚醒
1 《極上の血
4 《傲慢な血王、ソリン
-呪文(16)-
2 《悪ふざけの名人、ランクル
2 《墓掘りの檻
2 《苦悶の悔恨
2 《害悪な掌握
3 《魔女の復讐
4 《虚空の力線
-サイドボード(15)-
MTG Arena Zone より引用)

 

 もともと、ヒストリックには黒単色の吸血鬼デッキがあった。『イクサラン』ブロックの吸血鬼を強化するカードと、広いカードプールに点在するさまざまな吸血鬼が集い、完成度の高いデッキを組むことが可能なのだ。白黒か黒単かで好みは分かれるだろうが、より安定して運用できるということで黒単を見ることの方が多い。

 吸血鬼デッキの決め手は《傲慢な血王、ソリン》だ。

 吸血鬼にすべての能力を割り振っているからこそ許される、3マナにして破格の性能のプレインズウォーカー! 吸血鬼の強化、除去 or プレイヤー本体へのダメージと回復、吸血鬼をコストを踏み倒して出す、どれをとっても強力で、すべての能力を活かすデッキを作れば、とても3マナとは思えない圧倒的なカードパワーを見せつけてくれるだろう。

 序盤の攻めを担う《漆黒軍の騎士》のような軽いところから、ソリンから出すことで大きなバリューを得る《薄暮の勇者》まで、さまざまな吸血鬼を採用している。

 これらの吸血鬼で殴って勝つデッキだが、ここに新たに加わった吸血鬼こそが氷雪要素でもある《不詳の安息地》。

 3マナで4/3警戒という強力なクリーチャーになる土地で、多相も持っているためタイプも吸血鬼でもあるのだ。つまりソリンと組み合わせれば、+1/+1カウンターを置いて接死&絆魂を与えたり、殴った後に生け贄に捧げてトドメの3点!みたいな動きができてしまう。そりゃあ強いよ、ということでここに来て再注目のデッキとして浮上してきたのだ。

 デッキにはソリンデッキのテクニックのひとつである《薄暮薔薇の棘、ヴィト》と《極上の血》のコンボも内蔵。

 両者が揃った状態でソリンの3点ダメージを放り込むなどすると……相手がライフを失ったので《極上の血》でその点数分ライフを得る→ライフを得たのでその点数分相手のライフを失わせる→相手がライフを失ったので、と無限ループを形成。どれだけライフ差を付けられようが一発逆転勝利な必殺コンボだ。

 このコンボを採用する以外にも、実際に対戦したことがあるのは《最後の血の長、ドラーナ》を採用したタイプ。クリーチャーを潰してくるデッキ相手にソリンからこれを繰り出せば、強烈な巻き返しになるというわけだ。さまざまな次元に生息する種族なので、吸血鬼はバリエーション豊富。実際に使ってみて自分にとって使用感の良い奥の手をデッキに忍ばせよう。

 スタンダード以外のフォーマットでも単色のビートダウンデッキを大きく強化する働きをみせる《不詳の安息地》。この手の土地の中でも歴代トップクラスじゃないかと思える強さなので、単色でかつ多相であることを活かせるデッキを持っているのなら使ってみよう!

 しかしまあ《凍血鬼》、語感以外何の関係もなかったね。書いている日(2月下旬)はむっちゃ寒かったのよ。血も凍るくらいに。はよぉ春が来てほしいね。

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