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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
緑単信心…?(ヒストリック)
「形骸化」とは、あるものがこの世に生み出され、創り出された、成立したときの意義が、時間の経過とともに失われ、結果として中身のない骨組みだけのものとなってしまうことを意味する。
形骸化を学ぶにあたって、うってつけのサンプルをマジックの世界に見つけることができる。デッキ名だ。そのデッキが最初に誕生した際に与えられた名前が、時間の経過とともに意味がなくなり……それでもそのデッキ名が使われ続けるという現象である。
その最たるものが「親和」だ。『ミラディン』リリース時に親和能力を持ったカードが多数登場。自身のコントロールしているアーティファクトの数だけコストが軽減されるそれらのカードと、軽量のアーティファクトで構成された高速デッキは、以後のセットでもパーツを得て、当時のスタンダードやその他のフォーマットにおいて大暴れした。
その印象があまりにも強いためか、モダン設立時に組まれたアーティファクト主体デッキも「親和」と呼ばれることに。ただ、このリストには親和持ちのカードは少なく、それは時を経るにつれ加速。もはや1枚も親和持ちが採用されていないにも関わらず、そのデッキは慣例通りに「親和」と呼ばれ続けた……。親和の形骸化である。
これを踏まえた上で、今日取り上げるデッキを何という名で紹介するか。そこのところが悩ましい。フォーマットはヒストリック。いつも通りにネット上をさまよい、ここで取り上げるデッキのネタを探していた時に出会ったリストだ。
それを目にした瞬間に「あぁ、緑単信心ね」と反射的な感想が脳内に発生すると同時に、「いや信心入ってないし」と冷静なセルフツッコミもコンマ1秒遅れてやってきた。そう、信心と書いてあるカードが1枚も採用されていないのに、信心デッキに見える。なぜそんなことが起こるのか、その答えはフォーマットの繋がりにあった。
21 《森》 1 《ギャレンブリグ城》 1 《大瀑布》 -土地(23)- 4 《金のガチョウ》 4 《ラノワールのエルフ》 4 《ラノワールの幻想家》 3 《長老ガーガロス》 3 《大食のハイドラ》 -クリーチャー(18)- |
4 《探検》 4 《精神石》 4 《大いなる創造者、カーン》 3 《アーク弓のレインジャー、ビビアン》 4 《世界を揺るがす者、ニッサ》 -呪文(19)- |
1 《不屈の巡礼者、ゴロス》 1 《長老ガーガロス》 1 《白金の天使》 1 《孔蹄のビヒモス》 1 《絶え間ない飢餓、ウラモグ》 1 《石とぐろの海蛇》 1 《大食のハイドラ》 1 《トーモッドの墓所》 1 《墓掘りの檻》 1 《漸増爆弾》 1 《魔術遠眼鏡》 1 《王神の立像》 1 《アクローマの記念碑》 1 《グレートヘンジ》 1 《影槍》 -サイドボード(15)- |
こちらが僕が「緑単信心」に見え……マジック歴がそこそこあるプレイヤーの多くも同じくそう見えるであろうリストだ。ご覧の通り、信心と書かれたカードは1枚もない。それでもそう見えてしまうのは、これがパイオニアの同デッキのリストとよく似ているからである。
《ラノワールのエルフ》をはじめとするマナクリーチャー、《大食のハイドラ》のような大型クリーチャー、そしてビビアン・カーン・ニッサというプレインズウォーカーの布陣……これはまさにパイオニアの「緑単信心」の構成である(詳しくはコチラ)。
ヒストリックのこれにないものと言えばその信心に関する1枚、《ニクスの祭殿、ニクソス》。信心、すなわち自身の戦場にあるパーマネントが持つ色マナのシンボルの数だけその色のマナを生み出すという土地である。緑の信心で満たした戦場から、ニクソスで爆発的にマナを増やし、大技に繋げて勝つ……そんなパイオニアのデッキがこのデッキのベースになっていることは間違いない。そこに信心はなくとも、魂を継承したリストだと言えよう。大袈裟か。
デッキの狙いはパイオニアのそれと同じだ。序盤からクリーチャーをはじめとした、マナを生み出すパーマネントを戦場に展開することを最優先。
そこから《世界を揺るがす者、ニッサ》などを早期ターンに降臨させ、カードパワーで圧倒するのである。
ニッサは土地を3/3の警戒持ちエレメンタルへと変換して攻防両面で戦場を強固なものにしつつ、森から捻出されるマナの量を倍増させてビッグムーブを後押し。
そのマナを使って何をするかというと……ビビアンとカーン、サイドボード利用タッグの出番だ。
《アーク弓のレインジャー、ビビアン》は[-5]能力でサイドボードからクリーチャー・カードを手札に持ってくることができる。《大いなる創造者、カーン》はより手軽に[-2]能力でサイドボードからアーティファクト・カードを引っ張ってくる。どちらも「願い/Wish」と呼ばれるカードがベースの能力。このリストを生み出したプレイヤーはそこからこのデッキを「Mono Green Wish」と呼んでいた。
この願い系能力で、ゲーム外から大型のクリーチャーやアーティファクトを持ってきて、マナクリーチャーとニッサによる加速から叩きつけるってわけだ。少々回りくどいように見えるかもしれないが、この戦略には大きなメリットがある。
サイドボードに控えているのは《絶え間ない飢餓、ウラモグ》や《アクローマの記念碑》などの超巨大パーマネント。
これらのカードをメインデッキから投入すると、唱えられる算段が整っていない状況でドローしてしまう可能性がある。あるいはそもそも、対戦相手やゲーム状況によっては不要かもしれない。ただ重すぎるカードを握っているよりは、ビビアンやカーンと言った唱えやすいコストで他の役目も担えて、さらに重いカードから軽いカード、相手を選ぶカードから問答無用のフィニッシャーまであらゆるカードにアクセスできるカードを採用した方が、デッキとしての安定感は大いに増すのだ。二度手間のように見えて、実にスマートなやり方なのだ。
その願いサーチの先こそが、使用者の個性を大きく反映するところであり、同時に強いデッキに仕上げるには環境理解も必要な難しい部分でもある。大技だけでなく、サーチしてすぐ使える小技も充実させて盤石の体制としたい。
《トーモッドの墓所》《墓掘りの檻》は見ての通りの墓地対策であるが、《墓掘りの檻》はそれと同時に《上流階級のゴブリン、マクサス》《ボーラスの城塞》といった強力なコンボへ先出しして対策できる強烈なアンサーでもあるのでかなり頼りになる。
《白金の天使》はクリーチャー除去が苦手なこのデッキにおけるアグロデッキからの避難先であり、相手が赤や黒のデッキであれば《アクローマの記念碑》でプロテクションを与えてやることで護身が完成する。
《アクローマの記念碑》は相手がそれらの色でなくとも飛行・速攻・警戒・先制攻撃・トランプルと能力を与えすぎるオーバーパワーっぷりでゲームエンドに大きく貢献する。カーンの[+1]でそれ自体も巨大な航空戦力となる点も魅力的だ。
ダラダラゲームが長引くと危ない、ここで勝ってしまいたいという時には《孔蹄のビヒモス》。マナクリーチャーを突然膨れ上がらせて踏み潰してしまおう。
これはシブいなというチョイスは《不屈の巡礼者、ゴロス》。これで《大瀑布》を持ってきて、5色生み出せるようにしてその能力を起動して大いにアドバンテージを得るという狙いだ。消耗戦の末にこれにたどり着ければ勝ちも近づくことだろう。
名前が意味するところは形骸化していても、デッキとしての魅力は本家に引けを取らないものというのもまたマジックにおける「あるある」だ。「緑単信心」……と呼ぶかは各自の感性に委ねるが、このデッキをプレイする際の楽しさは誰にでも共通のものであると思う。
サイドボードにあらゆる局面への解答をずらりと用意し、理想形に仕上がったのを見てウットリしたいプレイヤーにはこの上なくオススメ!
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