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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
デッキのミステリー、キーワードは不連続性・深淵・巨獣(スタンダード)
謎解きゲームってのが最近はブームなようで、昨年なんかはそれはもう多種多様なイベントが開催されていたようだね。僕はやったことがないのだが、気心知れた仲間と、あるいはその場で初めて出会う人とパーティを組んで、各々知識とひらめきを出し合って難問をクリアするというのは楽しそうだ。
では、今日はこのコラムを謎解きゲームにしようじゃないか。世の中にはリストをパッと見ただけではよくわからないデッキがある。一体どのような動きをするのか、そもそもキーカードは何か、目指しているものや設計思想はどこにあるのか……とてもじゃないが、1人で考えても答えの出ない難解なデッキを見つけた時はどうするか。マジック仲間に聞いてみるのが一番だ。
てなわけで今日は皆にも考えてもらおう、一体このデッキは、何なんだ?
2 《森》 4 《島》 3 《沼》 4 《繁殖池》 4 《草むした墓》 4 《湿った墓》 1 《欺瞞の神殿》 4 《ゼイゴスのトライオーム》 4 《インダサのトライオーム》 4 《ケトリアのトライオーム》 4 《寓話の小道》 -土地(38)- 2 《樹上の草食獣》 1 《願いのフェイ》 4 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》 1 《迷える探求者、梓》 1 《イリーシア木立のドライアド》 -クリーチャー(9)- |
4 《成長のらせん》 4 《願い爪のタリスマン》 1 《霊気の疾風》 1 《軍団の最期》 1 《肉儀場の叫び》 1 《耕作》 4 《巨獣の巣》 2 《絶滅の契機》 1 《煤の儀式》 4 《不連続性》 1 《戦争の犠牲》 3 《深淵への覗き込み》 1 《伝承の収集者、タミヨウ》 4 《世界を揺るがす者、ニッサ》 1 《精霊龍、ウギン》 -呪文(33)- |
1 《空を放浪するもの、ヨーリオン》 -相棒(1)- 4 《恋煩いの野獣》 1 《墓掘りの檻》 1 《ナーセットの逆転》 3 《神秘の論争》 1 《屍呆症》 1 《魔女の復讐》 2 《思考のひずみ》 1 《深淵への覗き込み》 -サイドボード(14)- |
さあ、どう捉えようか。すぐにわかる情報として、デッキリストが長い。サイドボードを見ると案の定、《空を放浪するもの、ヨーリオン》の姿。
じゃあ、このデッキはヨーリオンの能力でパーマネントを出し入れして、戦場に出た時の能力を誘発させて得するデッキか!……と思ったらそんなことは全くなく、そういった能力で得できそうなのは《樹上の草食獣》《自然の怒りのタイタン、ウーロ》くらいしかない(そもそもウーロ死んじゃうし)。じゃあ一体何なのか?
このデッキは7月4日にMagic Onlineで開催されたスタンダード・チャレンジにて、あと一歩でトップ8入賞というところ(12位)までいったデッキだ。80枚デッキの中に1枚とか2枚しか入っていないカードがかなり多く、引きムラがありそうに見える構築だが、実際にこれである程度勝ってはいるということである。な、謎がより深まる……。
こういう時にはデッキリストのすべてをくまなく見て全体から理解するというのは難しい。細部に宿るものから、その意図を読み解くのがベストだろう。ということで4枚採用されているカードをリストアップしてみよう。《願いのフェイ》がいることも加味して、メインとサイドあわせて4枚採用されているカードだ。
- 《自然の怒りのタイタン、ウーロ》
- 《成長のらせん》
- 《世界を揺るがす者、ニッサ》
- 《恋煩いの野獣》
- 《願い爪のタリスマン》
- 《不連続性》
- 《深淵への覗き込み》
- 《巨獣の巣》
上から3つ、ウーロ・らせん・ニッサは重いカードで勝負する、いわゆるランプ系のデッキにおいては重要なパーツで、マナ加速御三家とも言える基本パーツにあたる。このデッキはランプにカテゴリーできるということ。
サイドボードの《恋煩いの野獣》はアグロデッキへの対策、ブロック役なので重要パーツとはカウントせず、残りの4種類に目をやるわけだが……なんだよコイツぁ。途轍もないカードばかりが名を連ねている。
《願い爪のタリスマン》は80枚に膨れ上がったこのデッキにおいて、欲しいカードを探してくる重要な役目を担っているのだろう。
相手にも1回のサーチを許してしまうのが欠点ではあるが、その点はこちらの方がよりカードパワーが高い《戦争の犠牲》などで押し潰すか、後述のカードとの組み合わせでなんとかするという考え方だろうか。
さあ最後の3種類がこのデッキの中心、謎解きの本番というところか。《不連続性》……カード名からしてもミステリアスそのものだ。
このカードはターンを終了するという特殊な処理を行う。ターンが終わるということは、メインも戦闘も終わるのでインスタント以外の呪文を唱えたり攻撃するということもできずに1ターン吹き飛んでしまう。呪文が唱えられ、解決される前にターンが終了したらそれは何も果たさない。打ち消しのようにも追加ターンのようにも使える、なかなかにすごい呪文だ。《願い爪のタリスマン》で何かを持ってこられてもこれでなかったことにして、帰ってきたタリスマンでもう1回《不連続性》を持ってきてまたターンを終わらせる……ちょっとしたロックも狙えそうである。
また《不連続性》は自身のターンに唱えるのであればコストがたったの2マナに減少する。通常、自分のターンを終わらせることには意味などないのだが……各種デメリットを帳消しにするために使うという手法がある。このデッキで言えば《自然の怒りのタイタン、ウーロ》。ウーロを手札から唱えて戦場に出すと、それは脱出していないので生け贄に捧げられてしまう。しかしこの能力を解決する前に《不連続性》を唱えると、生け贄にする過程がカットされるのでウーロは戦場に残る。脱出以外にも5マナで戦場に残せるというのはコストパフォーマンス的にも良いし、さらに後述のカードで墓地が空になることもあるこのデッキでは、ウーロで攻撃するためには重要なテクニックでもある。
もう1つのデッキの顔は《深淵への覗き込み》。
インパクトあふれるアートと効果、そしてトリプルシンボル{B}{B}{B}が同じく{U}{U}{U}の《不連続性》とともに4枚ずつ採用されている絵面のパワーといったら。ライブラリーの半分を引いて手札にしてしまうとんでもないドロー力が魅力だが、そもそもが7マナと重く、これを唱えたターンにその手札を使い切るというのは、コストがゼロのカードがあふれるレガシーなどならともかく、スタンダードでは至難の業である。ほとんどの手札は消費できずに、ターン終了時に7枚になるように捨てなければならないだろう。
しかしながら、おそらくこのデッキの答えは「それでいい」なのだ。ライフの半分を失い、7マナと重いコストを払って使いもしないカードを引いて捨てる。それのどこが良いのか。それはパズルの最後のピースである《巨獣の巣》にあると考えられる。
このエンチャントは墓地のカードを追放して{C}を得るという、特殊なタイプのマナ加速だ。もうわかったかもしれないが、カードを20枚以上一気に引いてそれらを捨てることによって、墓地をパンパンに肥やす。然る後に《巨獣の巣》が火を噴き、手札に残った選りすぐりのパワーカードをガンガンと唱えることが可能になる!……という、途方もない野望を思い描いているようだ。
実際にプレイしてみたところ、確かにこのコンボ、と呼ぶのが正しいのかわからないほどの歪な組み合わせが決まると、ゲームに勝ってしまう。覗き込みの超ドローから《迷える探求者、梓》《イリーシア木立のドライアド》《樹上の草食獣》らで土地を一気に設置し、それでも余った手札を捨てる。次のターンに《巨獣の巣》から入って《伝承の収集者、タミヨウ》で《不連続性》を拾って……という具合に動くと、対戦相手がもうこれ以上無茶苦茶されるのはかなわんと投了する、こんな流れで勝利を手中を収めることができた。超高速のアグロデッキなどには決まらないが、ゆったり戦う中速デッキ相手などには圧倒的な物量でミンチにしてしまえるパワーがあることを実感した。
長々とデッキについて説明してきたが、実際にプレイして勝利した時の感覚としては「なぜ勝ったのかよくわからない」というのが正直なところであった。《不連続性》《深淵への覗き込み》《巨獣の巣》が揃えば、相手の心はへし折れるということだけはわかった。
これらの組み合わせに、このデッキの生みの親はどのようにしてたどり着いたのか。大量に引いたカードをターン終了時に捨てるという発想に行き着いたのは、どのようなマジック観からだろうか。謎を明かそうとしたが、それはより深まるばかりだ。
とにもかくにも、きちんとデッキとして成立していることには感動を覚えた。これからもこのようなミステリアスなデッキと出会っていきたいものだね。
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