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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
悪魔が来りて抱擁す(スタンダード&パイオニア)
抱擁サイクルというものがあった(サイクルって何?って人はコレを読んでね)。
抱擁は『ウルザズ・サーガ』で登場したサイクル。5色それぞれの代表的なクリーチャー、および『ウルザズ・サーガ』のレアのクリーチャーが持っているものと同じ能力をクリーチャーに付与し、同時に+2/+2修整と飛行を与える。緑だけは+3/+3修整とトランプルで、色の役割が守られていた。
マジックを始めたばかりの僕には《セラの抱擁》や《シヴの抱擁》の元ネタが《セラの天使》や《シヴ山のドラゴン》ということはわからなかったが、抱擁というカード名と共通した部分からこれらのカードが同じグループに属していることと、どのカードも強力であることはわかった。
ただルールもまだよくわからない身には、黒だけは何が書いてあるのか今一つよくわからなかった。《吸血の抱擁》である。
他の抱擁カードは当時のマジック仲間の間で「マジ最強!」と使われまくったものだが、この《吸血の抱擁》だけはどのような挙動なのか今ひとつよくわからないため、使われている光景はほとんど見なかった。イラストで吸血鬼らしき怪物が頭をかち割られてむしろ死んでないか?というのもなんだか気になったものである。
《センギアの吸血鬼》など過去の吸血鬼が持っていた、ダメージを与えたクリーチャーが死亡するとサイズアップするという能力も、時代の流れとともに失われた。そのためか《吸血の抱擁》は再録されることもなく、少々不遇な存在に思える(ゆえに今となってはかなり好きなカードだ)。
この不遇だった黒の抱擁が、サイクルとは全く関係ないところで新しくなって登場した。《悪魔の抱擁》である。
クリーチャーを強化して飛行を与える、まるでかつての抱擁サイクルではないか。そしてクリーチャーへの修整値も+3/+1と大きい。これがたったの3マナなのだから驚きだ。クリーチャーのタイプはついでにデーモンになるのも、悪魔に見初められその仲間となったというフレイバーが効いている。
そして、何より大事なのがこの手のオーラ特有の、つけたクリーチャーが死亡した際にカード1枚分損するというデメリットを補う能力を持っていること。少々代償は伴うが、墓地から唱えることができるのだ。こいつは強い、《吸血の抱擁》も草葉の陰で喜びの涙を流していることだろう。
今日は《悪魔の抱擁》デッキを紹介だ。
20 《沼》 4 《ロークスワイン城》 -土地(24)- 4 《どぶ骨》 4 《漆黒軍の騎士》 4 《鋸刃蠍》 4 《黒槍の模範》 4 《朽ちゆくレギサウルス》 4 《騒乱の落とし子》 3 《悪ふざけの名人、ランクル》 -クリーチャー(27)- |
4 《取り除き》 1 《闇の掌握》 4 《悪魔の抱擁》 -呪文(9)- |
2 《魂標ランタン》 4 《強迫》 2 《見栄え損ない》 4 《害悪な掌握》 2 《闇の掌握》 1 《はぐれ影魔道士、ダブリエル》 -サイドボード(15)- |
7月初頭、覚前輝也選手がMTGアリーナで使用して構築ランク1位を獲得したことを報告し、一躍話題になり使用者も爆増した「黒単抱擁アグロ」だ。1マナクリーチャー12枚体制で開幕からガンガンとクリーチャーを展開し、攻め続けることを狙った非常にアグレッシブ、前傾姿勢のド短期決着デッキだ。
このデッキの打点向上、および飛行で確実にダメージを叩き込む切り札的存在として《悪魔の抱擁》が用いられている。
中でも強力なのは《朽ちゆくレギサウルス》との組み合わせだ。
3マナ7/6という、ただでさえモンスターなこのカードに抱擁をつけることで、飛行を持ったパワー10という桁違いの存在に昇華させ、早ければ4ターン目にはライフを削り切って称してしまうのである。
また、《朽ちゆくレギサウルス》はアップキープに手札を捨てるというデメリット能力を持っている。この能力で残り1枚の手札を捨てたとしても、それが抱擁であればあまり痛くはない。アップキープに捨てた後に、ドローしたカードが余剰の土地だったりといらないカードだったらそれを捨て、3点のライフを支払って墓地から抱擁を唱えれば良いのだ。隙など無い! 欠片ほども!
15 《沼》 4 《ロークスワイン城》 1 《ヨーグモスの墳墓、アーボーグ》 4 《変わり谷》 -土地(24)- 4 《血に染まりし勇者》 4 《戦慄の放浪者》 4 《漆黒軍の騎士》 4 《屑鉄場のたかり屋》 3 《残忍な騎士》 3 《騒乱の落とし子》 2 《悪ふざけの名人、ランクル》 -クリーチャー(24)- |
4 《致命的な一押し》 4 《思考囲い》 1 《取り除き》 1 《無情な行動》 2 《悪魔の抱擁》 -呪文(12)- |
1 《残忍な騎士》 1 《悪ふざけの名人、ランクル》 1 《魂標ランタン》 2 《見栄え損ない》 2 《減衰球》 1 《無情な行動》 1 《軍団の最期》 2 《ドリルビット》 2 《失われた遺産》 2 《霊気圏の収集艇》 -サイドボード(15)- |
こちらは同じく黒単のアグロ、そのパイオニア版だ。より広いカードプールの環境でも《悪魔の抱擁》を使ったデッキが勝利している。これは無視できない事実だ。
こちらも環境の速さから軽量クリーチャーにシフトした構成だが、それゆえにサイズで負ける相手が立ちはだかると殴りに行きにくい。除去するか、抱擁で飛び越えるかという選択肢が増えたのは大きい。《致命的な一押し》など相手に使われる除去も強いのでレギサウルスが使いにくい中、打点も跳ね上がる抱擁はナイスだ。
また、軽量クリーチャーの大半が墓地から戦場に出る能力を持っているという点も見逃せない。抱擁を墓地から唱えるコストとして捨てたカードもさらに再利用して、尽きない攻め手で追い込むのだ。どれだけ除去を撃ち込んでも相手が《屑鉄場のたかり屋》を戻して引いた土地を捨てて抱擁貼ってパワー6飛行を用意して来るなんて……悪夢だ。
《悪魔の抱擁》はシンプルで扱いやすく、捨てるという行為からシナジーも形成できる強さとテクニックの引き出しを併せ持った、非常に良いデザインのカードだ。抱擁最強は黒だということを、軽量クリーチャーとともに教え込んでやろう。スタンダードでアグロが復権する形になるかな? 今後の伸びしろにも期待のデッキだ。
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