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岩SHOWの「デイリー・デッキ」
構築譚 その4:フィンキュラ
僕らがマジックを初めて少し経ったころ。徐々に扱うデッキもガチ度を増していって、本格的な情報や理論に触れたいと思い始めた。そこで、当時のマジック:ザ・ギャザリング専門誌である「デュエリスト・ジャパン」に手を出したのであった。そこには海外の「Duelist」誌の翻訳記事が多く載せられており、貴重な情報を貪るように読み漁ったものである。
高いレベルの構築理論、流行りのデッキの解説に加えて、カジュアルな記事も多数あった。中でも最高だったのは……アメリカの古豪で今でもプロツアーに出ることがあるクリス・ピキュラ/Chris Pikulaと、ご存知殿堂顕彰者・精密機械の如きプレイングを誇るジョン・フィンケル/Jon Finkelの連載コラム「こんなデッキは紙の束だ!」。この対談形式のコラムは素晴らしかった。
読者から投稿されたリストなどをプロプレイヤー2名がより優れたものに組み替える、という企画なのだが……まず、とにかく罵詈雑言を並べる並べる。ズバズバと飛び交うデッキへの批判は、アメリカンなジョークにあふれていて気持ちのいいものだった。そして、例えば青いコントロールデッキの診断が来たのに、最終的に出来上がったリストは赤単になっていたりする、意味不明なまでの自由さにも笑わせてもらった。プロプレイヤーってお茶目なんだな、と彼らをより身近な存在に感じることのできる良いコラムだった。
ピキュラとフィンケルはともにアメリカのマジックシーンを牽引してきた存在であり、共通点も多い。その最たるものが、ともにインビテーショナル・カードになっていることだ。
かつて開催されていた、招待された一部のプロプレイヤーのみが参加できたトーナメント、インビテーショナル。その優勝者にはカードを1枚デザインする権利、そしてそのカードに自身の姿が描かれるという、唯一無二の賞品が与えられた。ピキュラは2000年春の大会で、フィンケルは2000年秋の大会でそれぞれ優勝し、《翻弄する魔道士》《影魔道士の浸透者》がカードとなった。
どちらも青絡みのクリーチャーとしては優秀なものであり、当時のスタンダードではその姿を何度も見かけた。これらは『プレーンシフト』『オデッセイ』と収録されたセットが近く、また当時は3色以上のデッキを楽々成立させる多色土地が多数あったため、一緒に用いた白青黒のデッキが姿を現した。人はこれを、フィンケル&ピキュラデッキということで「フィンキュラ」と呼んだ。
レアカードを多数搭載した、豪華絢爛デッキあったのだが……残念ながら、スタンダードではそれほど活躍しなかった。青と緑のスレッショルド・マッドネス系のデッキの猛攻にはかなわず、コントロールであれば青黒2色の《サイカトグ》デッキの方が優れていたためだ。
ただ、フォーマットを変えてエクステンデッドでは、これらを4枚ずつ採用したまさしく「フィンキュラ」デッキがグランプリ・アナハイム2003にて優勝を果たし、話題になったことがある。偉大なる2人のプレイヤーに敬意を表して、今日はそのデッキをご紹介!
2 《平地》 3 《島》 2 《沼》 4 《溢れかえる岸辺》 4 《汚染された三角州》 2 《広漠なるスカイクラウド》 4 《コイロスの洞窟》 2 《地底の大河》 -土地(23)- 4 《翻弄する魔道士》 4 《影魔道士の浸透者》 3 《賛美されし天使》 -クリーチャー(11)- |
4 《渦まく知識》 4 《強迫》 2 《のぞき見》 3 《悪魔の布告》 3 《浄化の印章》 1 《解呪》 1 《燻し》 1 《サーボの網》 4 《名誉回復》 3 《綿密な分析》 -呪文(26)- |
3 《金属モックス》 3 《吸血の教示者》 4 《寒け》 1 《抵抗の宝球》 1 《減衰のマトリックス》 1 《魔力流出》 1 《ロボトミー》 1 《激動》 -サイドボード(15)- |
最近のマジックに通じる部分とそうでない部分が入り混じる、実にエクステンデッドらしいデッキだ。今の時代にはメインからここまで《解呪》のようなクリーチャーでないパーマネントへの対抗手段は用いないが、かつての白いデッキでは割と当たり前に行われていたことだった。それに加えて、環境に《修繕》を用いたアーティファクトデッキが蔓延っていたこともこのような構築となった理由であることは確かだ。
デッキとしては、クリーチャーでコツコツ殴ってライフを詰めつつ対戦相手を妨害する、いわゆるクロック・パーミッション風のもの。あくまで「風」なのは、このデッキがパーミッション戦略=打ち消しに呪文による妨害は行わないからだ。打ち消すのではなく《強迫》と《翻弄する魔道士》で能動的に妨害し、パーマネントであれば戦場に出てから《名誉回復》などの一流の除去呪文で対処する。対戦相手に好きなことをさせず、《影魔道士の浸透者》でコツコツ殴って手札は切らさない。
最終的には《賛美されし天使》が変異から表向きになったり素出しされたりして、打点が一気に高まってゲームを決めることになる。ライフを詰められることを苦手とするデッキなので、回復能力も大変に有難く、ゲームをまくるための時間を稼いでくれる。
盤面を1枚で支配するようなパワーカードはないが、確実に仕事をこなす万能カードを各色から集めて組まれている、かつては「グッドスタッフ」と呼ばれたタイプの構築であり、その線の細さから扱うことは難しいデッキである。《翻弄する魔道士》をサポ-トする《のぞき見》、サイドボードの《吸血の教示者》からサーチする1枚挿しのカードのオンパレードや、苦手な赤単相手に1ターン目《寒け》を狙うための《金属モックス》とのパッケージなどなど……独自のチューンが多数仕込まれていて、見ているだけでも面白いデッキだ。
使用したのは2008年の殿堂顕彰者であるアメリカの強豪ベン・ルービン/Ben Rubin。このデッキにはアメリカのトーナメントシーンの歴史が詰まっている、ってことだね。
インビテーショナル・カードの歴史は『イニストラード』の《瞬唱の魔道士》で幕を閉じてしまっている。残念なことではあるが、この瞬唱に加えて今回の主役の《翻弄する魔道士》や、《闇の腹心》など、まだまだモダンやレガシーで大活躍中のカードがあるのは何とも嬉しいところ。
あと、プロツアーに初めて参加したという人の思い出話で「会場でフィンケルにフィンケル(影魔道士)にサインしてもらいました!」というのはよく聞く話。これからも伝説の古豪たちは、プレイヤーの記憶に残り続けることだろう。
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