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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:Hand in Hand(過去のスタンダード)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:Hand in Hand(過去のスタンダード)

by 岩SHOW

 オリヴィエ・ルーエル/Olivier Ruelは面白い男である。昨年、グランプリ・京都2015にて来日した際に彼の親友であるクロちゃん(黒田正城氏。このコラムに出過ぎ?)に紹介してもらい、一緒に軽い仕事をして後に食事をしたのだが......まずノリが良い。大きな身体に、少年のようなテンションを併せ持っている(もちろん、良い意味で)。昔からプレミアイベントのカバレージでは日本の選手らと肩を組み、親し気にしている姿を見ることがあったが......こんな気さくな人なんだなと。

 豚のしゃぶしゃぶがフェイバリット・フードらしく、豚料理専門店に連れて行ったら......「オゥ......これはなんだい?」とまるで遺跡の奥底でまばゆい宝石を見つけたかのように感嘆に満ちた表情で豚丼を指さしたり......とにかく一緒にいて楽しい人だった。

 黒田さんとのエピソードも、いちいちぶっ飛んでいて笑えて、またかわいらしい。そもそもの出会いは、日本のトーナメントに参戦するも宿を取らず、会場付近で野宿しようとしているオリに黒田さんが声をかけた、というものらしい。なんやそら! 先日はオリとオリのパートナー、そして黒田さんの息子さんの3人で姫路まで遊びに行ったらしい。家族ぐるみの付き合いで、集合写真などもなんとも微笑ましく......マジックって良いなぁと、改めて思った次第で。

 そんなプロツアー殿堂顕彰者と楽しいひと時を送れたというのも、いい思い出である。マジックずっと続けて、それに携わる仕事をしていて......実によかったなぁと。今では時折旅行を兼ねてプロツアーに参戦するオリだが、脂の乗っていた2004年から2006年頃の強さは尋常ならざるもの。プロツアーTOP8入り5回、グランプリTOP8に至っては27回!

 そんな記録にも記憶にも残る選手だが、彼のキャリアの中で僕が最も好きなシーンは......あの有名な「世紀のトップデッキ」のシーン。プロツアー・ホノルル2006準決勝。クレイグ・ジョーンズ/Craig Jonesとのプロツアー決勝進出を賭けた最後の一戦だ。盤面はオリが掌握している状況で、お互いのライフは残り7対3.ターンが返ってくればクリーチャーで攻撃して勝利、というオリに対してクレイグ・ジョーンズは「Char you」と本体に《黒焦げ》を撃ち込む。残りライフ3対1。この状況で、ジョーンズには《稲妻のらせん》をトップデッキするしか術がなくなった。

 と、ここでオリはパンパンと手を打ち、さあトップを叩き付けろ!と立ち上がり、ジョーンズのトップデッキを見守った。相手が特定のカードを引くと負けてしまうという状況下で、なかなかこんなことはできないと思う。見事、《稲妻のらせん》を引き込んだジョーンズに対して称えるように右手を差し出してガッチリ握手するオリの姿を観て、プロプレイヤーってかっこいいな......なんて思ったものである。(編注:その瞬間を収めた動画も残っています。ぜひご覧ください。)

 今日はそんな、マジック史に残るワンシーンを彩った、オリのデッキを紹介しよう。

Olivier Ruel - 「Hand in Hand」
プロツアー・ホノルル2006 4位 / スタンダード (2006年3月3~5日)[MO] [ARENA]
6 《
2 《平地
4 《神無き祭殿
4 《コイロスの洞窟
4 《オルゾフの聖堂
1 《死の溜まる地、死蔵
1 《永岩城

-土地(22)-

4 《病に倒れたルサルカ
4 《闇の腹心
4 《貪欲なるネズミ
3 《残虐の手
3 《オルゾフの御曹子、テイサ
2 《ヴェクの聖騎士
2 《金切り声の混種
4 《オルゾヴァの幽霊議員
2 《大牙の衆の忍び

-クリーチャー(28)-
4 《酷評
3 《屈辱
3 《梅澤の十手

-呪文(10)-
2 《オルゾフの司教
1 《清麻呂の末裔
2 《困窮
2 《ファイレクシアの闘技場
2 《殺戮
2 《天羅至の掌握
2 《頭蓋の摘出
2 《魂の捕縛

-サイドボード(15)-

 『ギルドパクト』にて登場した白黒のギルド、オルゾフ組。このギルドのカードは、それまでになかった白黒2色のビートダウンデッキを誕生させるに至った。プロツアー・ホノルル2006においても、タッチ緑も含めれば白黒ビートダウンが最大勢力となったようだ。

 大体は白が元々有していた《サバンナ・ライオン》《今田家の猟犬、勇丸》を1マナ域に据え、《闇の腹心》も採用して息切れを防ぐガンガン攻めるタイプのデッキなのだが、オリヴィエ・ルーエルがこのプロツアーに持ち込んだものは少々それら主流派のデッキとは異なる。《オルゾフの御曹子、テイサ》が採用されているのだ。

 このオルゾフを代表する伝説のクリーチャーは、黒のクリーチャーが死亡すると1/1飛行の白いスピリット・トークンを1個戦場に出す。除去耐性を高めてくれる彼女と相性が良い《病に倒れたルサルカ》などの黒いクリーチャーを濃くしたデッキとなっているのだ。

 デッキの基本的な狙いは、軽量クリーチャーを展開しつつ手札を攻めること。万能手札破壊呪文《酷評》を始めとして、クリーチャーであり手札破壊要員である《貪欲なるネズミ》《金切り声の混種》《大牙の衆の忍び》で攻めながら対戦相手の手札を落としていき、息切れをさせようというわけだ。

 対戦相手のクリーチャーは先述の《病に倒れたルサルカ》でテイサでアドバンテージを得つつ処理するか、こちらも万能な呪文である《屈辱》で除去。これらのカードを序盤から唱えていって手札を消費しても《闇の腹心》がすぐさま補充してくれることだろう。紹介してきたクリーチャーはいずれも線が細いが、問題ない。トドメは4マナ4/4でライフを攻めることに長けた除去耐性持ちである《オルゾヴァの幽霊議員》の役目だし、どんなクリーチャーでも《梅澤の十手》を手にすればまさしく無双だ。主流だった白黒ビートダウンのように1ターン目からガツガツ攻めることはできないが、じっくりと自身に有利な盤面を作り上げていく力はこちらのデッキの方が大きく上回っている。

 上述のように白黒ビートダウンは最大勢力で、他にも「Zoo」などのデッキが《番狼》《稲妻のらせん》を用いていたりする中で、《残虐の手》の持つプロテクション(白)の持つ効力は絶大。この頼りになる2マナクリーチャーと手札を攻めるカード、《闇の腹心》と、「Hand」という単語をそのテキストに持つカードが多数あることから、このデッキは「Hand in Hand」と呼ばれた。

 「Hand in Hand」自体が「手を取り合って」「協力して」という意味の言葉で、クリーチャーを並べて戦うこの白黒ビートダウンには実におあつらえ向きな名前である。これからも皆で手を取り合って、日本のマジックシーンを盛り上げていきたいね!

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