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戦略記事

市川ユウキの「プロツアー参戦記」

プロツアー『久遠の終端』 後編

市川 ユウキ
 

 こんにちは!市川です!

 前編より続き、後編はドラフト環境の考察からトーナメントレポートをお届けします。よろしくお願いします。
 

ドラフト考察

 

 まず前提として、今回のプロツアーは新セット発売からしばらく経ってから開催されます。

 それは実に一ヶ月以上で、通常のプロツアーはたいてい新セット発売から一週間から二週間程度ですから、非常に珍しいタイミングと言えます。

 これによって何が起こるかというと、リミテッド環境知識の平均化です。

 

 「マイナーアーキタイプだから狙い目!」

 とか

 

 「このレア初手級だけど流れてきた!」

 などの知識量のギャップで勝負することが難しくなります。

 MTGアリーナでの『久遠の終端』リリースが7月29日、1日1回ドラフトをしたとしても2ヶ月弱は練習できますからね。

 こうなるとチームでエッジを出すのも中々に難しい。

 その中でも「Team Cosmos Heavy Play」ではテストハウスに入るまで、各自のドラフトのフィードバックはもちろんのこと、各アーキタイプのマスターのプレゼンレーションなどを用いて知識を深めていきました。

 

 例えばティエリー(・ロンビア)は白青セカンドスペルを頻繁にドラフトしていて、かつ成績も良かったのでそれについての知識を共有してくれたり……

 

 《コード破りの猟犬》は単純な青のパワーカードだけど、《基地の監視者》はそうでないし7手目近辺で流れてきたら白青にコミットするべきなどの指針だったり……

 

 《イルヴォイの潜入者》はセカンドスペルに貢献して有用なカードだけど、一方《メカンの組立工》は青赤と比べてアーティファクトが出るアーキタイプでないのでデッキに入れてはいけない、などサンプルリストを交えて解説。

 このような講座が各アーキタイプであり、テストハウスに入ってからも近しいディスカッションがあったことを含めるとほぼ全てのカラーコンビネーションで行いました。

 私はプロツアーのドラフトで戦略を持って挑むことはありますが、その意思は弱めです。

 「緑をやらない」と決めてドラフトに入ったとしても、いざ緑のトップレアを1パック目でオープンした場合はその限りではなくなります。

 こういうタイプのプレイヤーは、様々なアーキタイプに対してのある程度の理解が必要になります。

 練習でほとんどやったことがないアーキタイプに本番で飛び込むこともしばしばあるので、このようなアーキタイプのディティール込みでの講座は非常にありがたかったですね。

 

 また、テストハウスに入ってからはチームいちのリミテッダー、ショーン・ゴダートを中心に各レアの評価を確認。

 主にサイト「17Lands」のデータをチェックしつつ、使ったチームメイトのフィードバックを集め手落ちがないか確認します。

 

 例えば《古えの墳墓》はスペシャルゲストとして稀に出るレアカードなので「17Lands」上のデータが乏しく参照できませんが、テストハウスで行ったドラフトでプレイしたチームメイトがいたので、どのようなデッキだったか、なぜこのデッキで強かったのか、どのあたりの手番でピックする程度なのかをみんなで考察します。

 

 ちなみにこのドラフトのカードディスカッションは通常の会話と比べると知らない単語ばかりで、かつ会話も高速なのでほとんどついていけませんでした(笑)。

 録音していたので後で翻訳ソフトに流し込んでみるかぁと考えていましたが、「Yuukiと、他の勉強したい人用に」とクイン(・トノーリ)が議事録を作ってくれていてなんとかなりました、助かる!
 

最終的なドラフト指針

 様々なアーキタイプの知見を深めた自分が考えたドラフト指針は以下。

 

 まず緑は積極的に入らない。

 MTGアリーナでは、緑はオーバードラフト気味な傾向にあります。

 わかりやすく強い緑のトップコモンたる《銀河の旅人》ですが、それ以下はガクッと落ちて《遺伝子送粉機》、次いで《外交関係》と、《銀河の旅人》が目立つ緑ですが、意外と平均的なカードパワーはそこまででもないです。

 

 チーム内評価が高かったのは白。

 マルチカラーのアンコモンが強力で、《基地の監視者》、《輝きたる者、ヴォンダム卿》、《頭角表す士官候補生、ハリーヤ》など各アーキタイプに参入する理由になります。

 

 白はこの『久遠の終端』ドラフト環境において特殊なカラーです。

 着陸船・トークンを出すカードが他の色と比べてかなり少ないので、《ピナクルの突撃艇》などのふわっとどんなデッキにも入りそうな7マナのカードがプレイ出来ません。

 ですので、他の色と比べてやや受けが狭めなリスキーな選択肢に考えられますが、だからこそ参入バリューがあり、白絡みのマルチカラーアンコモンが流れてきたらコミットしていくのも悪くないでしょう。

 

 個人的に評価が高かったのは赤。

 ただただ強い《軌道からの突入》は別にしても、《カヴの新天地探し》、《飼育係のメカン》などを筆頭にプレイアブルなコモンが最も多い色です。

 

 特に青と絡めてアーティファクトシナジーに寄せるのが好きで、《メカノゾア》や《ピナクルの突撃艇》のようなコモンのファッティにフィニッシャーを任せられるのが特徴です。

 

 テストハウスドラフトでも2回青赤をドラフトして、共に2-1でした。

 「緑は基本的にやらず、白はマルチカラーのアンコモンが流れてきたら積極的に参入。特に参入機会がなければ赤。」

 を基本路線でピック方針を固めます。
 

初日 / ブースタードラフト

 

 初日のドラフトは、森山ジャパン総帥・森山真秀さんの下家でした。

 
 

 初手は特にめぼしいカードなく《レイブレードの強兵》。

 悪いカードではないんですが、初手で取るには寂しい。

 

 2手目は《疑わしい珍味》。

 除去としてのクオリティも高く、かつアーティファクトシナジーやサクリファイスシナジーあり、ゲインとルーズで押してよし守ってよしの環境でもトップのアンコモンで迷わずピック。

 

 その後2パック目の2手目で《サンスターの司祭》、10手目で《輝きたる者、ヴォンダム卿》が取れたことからポジションの良さを確信するも

 

 3パック目では打って変わってカードが流れてこず、2パック目までは順調でしたが中の中くらいのデッキに。

 3パック目の初手は《払拭の光》や《重力死》などのコモン除去より劣る《緊急射出》と、これまたさみしめなパックでした。

『久遠の終端』ドラフトラウンド:
第1回戦:vs. 青赤 ×
第2回戦:vs. 黒赤緑 ◯
第3回戦:vs. 緑白 ×

 結果は1勝2敗。

 

 1ラウンド目は《スーパーヴォイド、ソセラ》を設置してゆっくり飛行で殴っていく展開になるも、《殲滅戦艦》の誘発で先に《スーパーヴォイド、ソセラ》を破壊され、後に4点オールで本当にすべてを失って敗北。

 

 私のデッキも決して悪くはなかったのですが、《払拭の光》や《重力死》などの優れた除去呪文が取れなかったのが致命的でしたね。

 3ラウンド目は緑の肉質の良いクリーチャーに押し込まれてしまって、もう少し除去があればといった展開でした。

 

 3パック目で流れが悪かった理由は後に発覚しました。

 上家の森山さんは実は初手で《エレジーの見習い》をピックしていてずっと黒かったらしく、また森山さんの上家(私の上上)もなんと《エレジーの見習い》を引き当てていたとのことで……上と上上が黒かったとのこと。
 

初日 / モダン

 デッキはエスパー御霊。

市川ユウキ - 「エスパー御霊」
プロツアー『久遠の終端』 / モダン(2025年9月26~28日)[MO] [ARENA]
4 《溢れかえる岸辺
1 《神無き祭殿
1 《神聖なる泉
1 《迷路庭園
1 《
3 《湿地の干潟
1 《行き届いた書庫
1 《平地
4 《汚染された三角州
1 《薄暗い裏通り
1 《
1 《地底街の下水道
1 《湿った墓
-土地(21)-

4 《偉大なる統一者、アトラクサ
2 《ヴリンの神童、ジェイス
4 《超能力蛙
4 《量子の謎かけ屋
4 《孤独
-クリーチャー(18)-
4 《儚い存在
3 《信仰の繕い
4 《否定の力
4 《御霊の復讐
2 《虹色の終焉
4 《思考囲い
-呪文(21)-
1 《天界の粛清
4 《記憶への放逐
1 《骨の皇帝
1 《コジレックの審問
3 《神秘の論争
1 《虚無の呪文爆弾
1 《害獣駆除
1 《虹色の終焉
1 《緻密
1 《空の怒り
-サイドボード(15)-
 

モダンラウンド:
第4回戦 ドメイン・ズー ×
第5回戦 エルドラージ・ランプ ◯
第6回戦 エルドラージ・ランプ ◯
第7回戦 エスパー御霊 ◯
第8回戦 アミュレット・タイタン ◯

 モダンは4勝1敗、トータル5勝3敗で二日目へ。

 

 モダン初戦のドメインズーはメイン《門衛のスラル》、サイドに《封じ込める僧侶》の最近流行りの構成で、エスパー御霊にぶっ刺さり。

 エスパー御霊の除去はソーサリースピードである《虹色の終焉》と「戦場に出たとき」能力の《孤独》なので、《門衛のスラル》に触りにくく厳しいマッチアップです。

Luís Gobern - 「Eldrazi Ramp」
プロツアー『久遠の終端』 / モダン(2025年9月26~28日)[MO] [ARENA]
1 《商業地区
4 《エルドラージの寺院
3 《
3 《幽霊街
1 《霧深い雨林
1 《ウギンの聖域
2 《踏み鳴らされる地
4 《ウギンの迷宮
1 《新緑の地下墓地
1 《吹きさらしの荒野
2 《樹木茂る山麓
-土地(23)-

1 《運命を貪るもの
3 《約束された終末、エムラクール
3 《噴火するヌルカイト、ヘリガスト
4 《氷耕しの探検家
2 《七つの死の種父
4 《まき散らす菌糸生物
2 《世界を壊すもの
-クリーチャー(19)-
4 《コジレックの命令
3 《コジレックの帰還
4 《邪悪鳴らし
4 《衝動のタリスマン
4 《楽園の拡散
-呪文(19)-
2 《四肢切断
2 《攪乱のフルート
1 《炎魔法
2 《墓掘りの檻
1 《自然の要求
3 《三なる宝球
2 《苛立たしいガラクタ
2 《虚空の鏡
-サイドボード(15)-
 

 1勝3敗まで沈み初日落ちを覚悟しますが、2連続のエルドラージ・ランプで息を吹き替えします。

 

 こちらもMagic OnlineのModern Challengeで結果を残していた流行りの構成ですが、《超能力蛙》に対して明確な回答が少ないので、エスパー御霊からすると比較的有利な構成と言えます。

 

 7ラウンド目では相手の場には前のターンに通常キャストされた《偉大なる統一者、アトラクサ》、2体の《量子の謎かけ屋》、《超能力蛙》。

 こちらの場は《超能力蛙》のみで私の手札はゼロ、まさに万事休すでしたが……

 

 対戦相手がこのターンに決めるべく《新たな夜明け、ケトラモーズ》をプレイして《超能力蛙》の3枚追放能力で《新たな夜明け、ケトラモーズ》を誘発させ、ディスカード能力で手札を調節して《量子の謎かけ屋》の常在型能力で大量にドローしてこちらの《超能力蛙》への回答を探しに掛かります。

 

 ……が、回答を探しすぎました。

 相手の山札は5枚になり、私の墓地は18枚。

 そう、私が《超能力蛙》を6回起動すると対戦相手の《新たな夜明け、ケトラモーズ》が誘発してカードを6枚引いて……まさかのライブラリーアウト!!

 対戦相手もですが、私も本当に驚きましたね。

 もう圧倒的な盤面ですが3ゲーム目ですし、最後まで見届けるかと思っていたらまさかの展開で勝利。

 マジックは、本当に途中で諦めてはいけないゲームだなと実感しました。

 

 当然8回戦では諜報土地で《偉大なる統一者、アトラクサ》を墓地に落とし2ターン目《御霊の復讐》。

 運の総量を維持しながら前のラウンドで勝利しているので、これは当然でしょう(オカルト)。

 

 ディナーは、そう言えばまだアメリカに来てから食べていなかったのでステーキを。

 付け合せのアスパラガスもジャガイモも大きくて、シェア用に注文したはずのサラダには一口も手を付けられませんでした。
 

二日目 / ブースタードラフト

 二日目です。

 私は既に次のプロツアーの権利を獲得しているので、10勝6敗以上しなくても次のイベントへの参加に対しての問題はありません。

 ですが、AMP(Adjusted Match Points、調整マッチポイント)の関係上10勝6敗以上しておくと、次のプロツアーで9勝7敗以上で更に次のプロツアーの権利が獲得出来るなど、次次回への参加のボーダーが下がっていきます。

 

 初手は《トラクター・ビーム》。

 悪くない、最大値の高い除去ですが、初日と同じで初手級かと言われると怪しいカードです。

 

 2手目は《真社会性工学》、3手目で《銀河の旅人》と、やりたくないと最初に言っていた緑に一直線。

 

 ですが、そこから特に緑は流れてこず。

 2パック目の2手目で流れてきた《特異点の断裂》を無理やりタッチした格好の厳しい青緑に。

『久遠の終端』ドラフトラウンド:
第9回戦:vs. 黒赤 ×
第10回戦:vs. 緑白 ×
第11回戦:vs. 黒緑 ◯

 0勝2敗から、最後なんとか勝って1勝2敗。

 

 初戦が上家のプレイヤーだったので、上とは協調出来ていたんですが、恐らく卓内で緑が完全にフローしていましたね。

 クリーチャーのクオリティも低く、《特異点の断裂》をキャストしても勝てない展開が多く、デッキの弱さを痛感しました。
 

二日目 / モダン

モダンラウンド:
第12回戦:イゼット果敢 ◯
第13回戦:タメシ・ベルチャー ◯
第14回戦:タメシ・ベルチャー ×
第15回戦:ボロス・エネルギー ×
第16回戦:エスパー御霊 ×

 2連勝でこれは10勝6敗もあるか?!と思ったところから転げ落ちて3連敗。

 トータル8勝8敗で、私の復帰プロツアーの幕は閉じました。

 

 最後の3戦は対戦相手もとんでもない回りで、まばたきしたら死んでいたレベルのスピード感。

 存分にモダンを楽しみました。
 

まとめ

 個人としてはドラフト2勝4敗、モダン6勝4敗。

 モダンはぼちぼちでしたが、ドラフトラウンドで大ブレーキ。

 やはり、新セット発売から期間が長かったこともあり対戦相手も普段より強かった。

 1回目のドラフトなどは通常のプロツアーなら2勝くらいするかなといった印象でしたが、相手のデッキも強くて力負けしてしまいました。

 

 「Team Cosmos Heavy Play」としては次回のプロツアーの権利がなかったルイス(・サルヴァット)が10勝6敗でチェイン。

 ルイスはテストハウス中はみんなに気を掛けてくれたり、室内を綺麗に保つ、鶏肉を焼いて(ミラネサスというアルゼンチンの伝統料理らしいです)みんなに振る舞うなどまさに八面六臂の活躍。

 そんな彼が報われてホッとしました。

 その他にもティエリーやリアム(・ケイン)などがAMPで世界選手権の権利を獲得した一方、チームとしては発足から3大会トップ8なしと、これだけ強豪が揃っているチームとしては満足のいかない結果に終わりました。

 

 しかし、個人としてもチームとしてもこのままでは終われません!

 正直なところ練習期間中のチームは最高の雰囲気で、みんなこのチームで結果を出せるように改善していこうという気概があります。

 

 次回は12月開催の世界選手権!結果が出せるように頑張ります!


 以上で今回の記事は終わりとなります。

 また次回の記事でお会いしましょう!

 

市川

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