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市川ユウキの「プロツアー参戦記」
『ストリクスヘイヴン』チャンピオンシップ 前編
ご無沙汰しております、市川ユウキ(@serra2020)です!
あまりにも久しぶりなため(見返して見たら1年と4か月前が最後の記事でした)、知らない人も多いと思うので軽く自己紹介。
『メルカディアン・マスクス』が出たくらいの頃(約20年前!当時小学生でした)にマジックを数年遊んで、しばらく休止。『ミラディンの傷跡』が出たくらい(こちらも約10年前!)にマジックに復帰し、競技的にマジックに勤しむ日々を過ごしました。
プロ・プレイヤーズ・クラブが存在する時は基本的にゴールドレベル……現在のシステムだと概ねライバルズ・リーグ相当のポジションを維持しておりましたが、現在のプロリーグ制度移行に合わせて競技シーンの第一線からは脱落。
最近は配信者としてカジュアルにマジックを楽しみつつ、MTGアリーナの予選ウィークエンドや日本選手権、Magic Onlineのチャンピオンシップ予選などの競技イベントにも出場したり、自分が参加しない大会で解説を任されたり、配信、競技、解説などいろいろな角度からマジックに関わらせてもらっています。
と、自己紹介もそこそこに『市川ユウキの「マジックeスポーツ参戦記」』、久々の寄稿となります。
今回はスタンダード、ヒストリックの混合フォーマットで行われましたバッチバチの競技イベント、『ストリクスヘイヴン』チャンピオンシップに向けての調整録、またトーナメントレポートになります。
よろしくお願いします。
目次
0.権利とチーム
4 《樹皮路の小道》 4 《岩山被りの小道》 4 《寓話の小道》 4 《ケトリアのトライオーム》 4 《河川滑りの小道》 2 《森》 2 《島》 2 《山》 -土地(26)- 4 《エッジウォールの亭主》 4 《砕骨の巨人》 4 《厚かましい借り手》 4 《カザンドゥのマンモス》 4 《恋煩いの野獣》 4 《黄金架のドラゴン》 -クリーチャー(24)- |
2 《神秘の論争》 2 《襲来の予測》 4 《アールンドの天啓》 2 《グレートヘンジ》 -呪文(10)- |
1 《獲物貫き、オボシュ》
-相棒(1)- 1 《運命の神、クローティス》 3 《アゴナスの雄牛》 1 《レッドキャップの乱闘》 3 《焦熱の竜火》 2 《神秘の論争》 1 《弱者粉砕》 1 《プリズマリの命令》 1 《魂焦がし》 1 《怪物の代言者、ビビアン》 -サイドボード(14)- |
Magic OnlineのStandard Showcase Qualifier (Season 1)というトーナメントで優勝し、『ストリクスヘイヴン』チャンピオンシップの権利を獲得しました。
Magic Onlineをプレイしていない人からすると「Showcase Qualifierってなんぞや?」って感じだと思いますが、ざっくりいうとMagic Online上で最もハイバリューなトーナメントであるChampions Showcaseという大会の予選です。
Showcase Qualifierで優勝するとChampions Showcaseの権利はもちろん、MTGアリーナを使ったトーナメントである『ストリクスヘイヴン』チャンピオンシップの権利も付随してくるという太っ腹仕様でした。因みにChampions ShowcaseのSeason1本戦は6月26日に行われる予定で、英語公式で配信もありますのでぜひご覧頂ければと思います。(宣伝)
このStandard Showcase Qualifierは『ストリクスヘイヴン:魔法学院』リリース直後の週末に行われ、新しいカード、デッキを調整するような時間はなかったので愛用している「ティムール・アドベンチャー」に《プリズマリの命令》を1枚だけ入れて出場、そして望外の優勝と相成りました。
「ティムール・アドベンチャー」は日本選手権2021 SEASON1本戦でもトップ8に入らせてもらって、思い出深いデッキになりましたね。
権利を獲得したら大会に向けての調整チームを探します。
私がトーナメントシーンからドロップしている間に、私が愛した調整チーム「武蔵」は事実上解散していて、新たな調整チームを探さなければなりません。
紆余曲折を経て佐藤レイさん、井川良彦さん、熊谷陸さん、高橋優太さん、原根健太さんのリーグプレイヤーをベースとした調整チームに参加することに。
このチームは普段のプロリーグ、ライバルズ・リーグで調整をしている実績、経験がありますし、原根さんは調整チーム「武蔵」でともに研鑽を重ねた間柄、他のメンバーも私がプロツアーに参戦していた頃からの見知った仲で気兼ねなくやれそうです。
そこにこれまた見知った仲である松本友樹さんと、
最近ブイブイ言わせている期待のホープ、斉藤徹さん。
日本選手権2021 SEASON1を優勝した増田勝仁さん。
2 《森》 2 《山》 1 《平地》 4 《岩山被りの小道》 4 《枝重なる小道》 4 《針縁の小道》 4 《寓話の小道》 -土地(21)- 4 《エッジウォールの亭主》 3 《巨人落とし》 4 《リムロックの騎士》 4 《群れの番人》 4 《砕骨の巨人》 4 《恋煩いの野獣》 4 《黄金架のドラゴン》 -クリーチャー(27)- |
3 《セジーリの防護》 3 《カズールの憤怒》 4 《スカルドの決戦》 2 《エンバレスの宝剣》 -呪文(12)- |
1 《巨人落とし》 2 《運命の神、クローティス》 2 《アゴナスの雄牛》 2 《レッドキャップの乱闘》 3 《火の予言》 3 《ガラスの棺》 1 《切り裂かれた帆》 1 《ヴァドロックの神話》 -サイドボード(15)- |
増田さんは日本選手権2021 SEASON1で優勝した「ナヤ・フューリー」のように、自分が愛したデッキを突き詰める技術に長けていて、特定のデッキのスペシャリストとして期待が持てます。
以上9人、日本では最大規模となった調整チームに参加することになり調整がはじまります。
1.スタンダードデッキ検討
スタンダードのデッキリスト提出がヒストリックより早かったので、まずはスタンダードから着手することに。
スゥルタイ根本原理
前環境の覇者、「スゥルタイ根本原理」。
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』では《オニキス教授》や《クアンドリクスの栽培者》など、地味ながらも堅実なアップデートが行われており、今大会でも大本命。使用者も最多になることが予想されます。
デッキパワーも折り紙付きなのですが、自分で使うかと言うとノー。
まず根本的(ジョークじゃないですよ)に「スゥルタイ根本原理」の使用経験に乏しく、プレイに自信がありません。「スゥルタイ根本原理」は前環境から台頭しているデッキですから、使う側、使われる側ともにこのデッキに慣れている中で、使用する自分だけが慣れていない状態で使うのは明確にリスクです。
また「スゥルタイ根本原理」のような、ある程度メタゲームにアジャストして構築する必要があるデッキは、チャンピオンシップのような200~400人程度が参加する大会においてはマッチング運でブレやすい傾向にあり、その辺りもマイナスです。
「スゥルタイ根本原理」に有利、最低でも五分なデッキを使用するのは至上命題ですが、「スゥルタイ根本原理」自体を使う理由は私にはありませんでした。
各種「アドベンチャー」デッキ
「スゥルタイ根本原理」が最多と予想するなら、各種アドベンチャーデッキの使用は断念せざるを得ません。私が愛した「ティムール・アドベンチャー」は「スゥルタイ根本原理」に不利です。
もちろん絶対勝てないわけではなく、《黄金架のドラゴン》から《アールンドの天啓》などのルートもありますが、テンポが悪く、ソーサリータイミングで動く「ティムール・アドベンチャー」は「スゥルタイ根本原理」からして与し易いデッキです。
相手のミスが絡むと一気に主導権を握るゲーム展開もありますが、チャンピオンシップに参加するプレイヤーのレベルを考えるとそれも考えづらいです。大会に出るにあたっては、その大会に出る参加者のレベルを考慮したデッキ選択が重要になります。
アドベンチャーデッキのバリエーションの一つであり、現在の主流である「ナヤ・アドベンチャー」も試しましたが、これも同じ感想で「スゥルタイ根本原理」に不利です。
唯一速度に特化した形である「マグダ・グルール」は「スゥルタイ根本原理」に対抗できるアドベンチャーデッキでしたが、安定性を犠牲に速度に特化している印象で、これなら「赤単」で良いような気もしてきたので、アドベンチャーデッキは早々に使用候補から外れました。
アドベンチャーデッキは前環境から通して最も慣れたアーキタイプで、使用出来ないのは非常に口惜しいですが、勝利を目指すのであればやむを得ないでしょう。
イゼット・ドラゴン
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』で《表現の反復》と《ガラゼス・プリズマリ》を得て環境に戻ってきた「イゼット・テンポ」改め「イゼット・ドラゴン」。
《黄金架のドラゴン》、《アールンドの天啓》、《襲来の予測》など、「ティムール・アドベンチャー」とデッキの屋台骨となる部分が一緒であることから興味津々でしたが、感想は実に微妙でした。
まず、「スゥルタイ根本原理」に有利で増加傾向にある「白単アグロ」に不利です。
赤のダメージ除去に序盤を頼っている「イゼット・ドラゴン」は白単アグロの《歴戦の神聖刃》に手を焼きますし、重たい呪文と氷雪土地でデッキを構成していて相手が繰り出す《傑士の神、レーデイン》はクリーンヒット。
その他「ティムール・アドベンチャー」よろしく、対「スゥルタイ根本原理」において、実は相手の力量によってはスゥルタイ側が有利なんじゃないかということが発覚して、チーム内での調整は早々に終了。
ただ、各種大会でのメタゲームパーセンテージなどを考えると「イゼット・ドラゴン」は大人気アーキアイプで、今回のチャンピオンシップでも「スゥルタイ根本原理」に次いで二番手になることが予想され、チーム内ではバッドデッキ認定されましたが、仮想敵としての意識は強くしなければなりません。
サイクリング
前環境で《アイレンクラッグの紅蓮術師》を採用し始めてから環境デッキとなった「サイクリング」。
デッキの信頼性は折り紙付きで、個人的には「スゥルタイ根本原理」と「サイクリング」がデッキパワーで見た環境の二強です。
サイクリングの長所はその多角的な攻めにあります。
《繁栄の狐》からはじまる点でのビートダウンにはじまり、《型破りな協力》で単体除去の効かない面展開。またそれらを対処したとしても残りライフを一気に削り取る《天頂の閃光》があります。
デッキの短所は受けの弱さです。
対「赤単アグロ」の《エンバレスの宝剣》や、その他《黄金架のドラゴン》から《アールンドの天啓》などの熾烈な攻めに対して受け切ることができず、また《繁栄の狐》からゲームをスタートしていない場合そこまで速度が出るわけでもないのでそれらを真っ直ぐ食らうことになります。
「サイクリング」はデッキの名を冠する通り大量のサイクリングカードで構成されている関係上、安定性が高いのですがその分相手がどうにもならないようなブン回りも少ない印象です。
オンラインで度々行われているスタンダードの大会などでのアーキタイプごとの勝率では「サイクリング」は常に高く、55%以上を安定して出しているのですが、いざ大会のトップ8を見てみると全くいないことも珍しくありませんでした。
総合すると「サイクリング」はデッキパワーが高く、安定はしているが突出した成績を出すこともできないデッキで、チャンピオンシップのような大勝ち以外に価値の薄いトーナメントで選ぶには消極的にならざるを得ないデッキと判断しました。
2.「ジェスカイ変容」調整
その他、「スゥルタイ根本原理」から緑を抜いたような「青黒ヨーリオン」などさまざまなデッキを試しましたが、要領を得ないまま刻々とスタンダードのデッキリスト提出締切が近付いてきます。
その中でチームメンバーの大部分が選ぶデッキとなったのは、まさかの「ジェスカイ変容」でした。
「ジェスカイ変容」は前環境から一応存在はしているアーキタイプではありましたが、概ねBO1(1本先取)専用であり、BO3(2本先取)のメタに食い込むほどのパワーはなく、ファンデッキの域を脱してはいませんでした。
2 《島》 2 《山》 1 《平地》 4 《河川滑りの小道》 4 《連門の小道》 4 《針縁の小道》 3 《ラウグリンのトライオーム》 2 《寓話の小道》 -土地(22)- 4 《伝承のドラッキス》 4 《雷の頂点、ヴァドロック》 4 《黄金架のドラゴン》 1 《アゴナスの雄牛》 -クリーチャー(13)- |
3 《果敢な一撃》 2 《棘平原の危険》 4 《真実の視認》 4 《非実体化》 3 《表現の反復》 4 《プリズマリの命令》 2 《戦利品奪取》 1 《神秘の論争》 2 《スカルドの決戦》 -呪文(25)- |
2 《静寂をもたらすもの》 3 《アゴナスの雄牛》 2 《燃えがら地獄》 2 《火の予言》 2 《否認》 2 《引き裂き》 2 《神秘の論争》 -サイドボード(15)- |
『ストリクスヘイヴン:魔法学院』参入後にSCG Tour Online予選で6-0して若干の注目を集めましたが、そこから特筆するほどの活躍もなく、私の記憶からは完全に《抹消》されていました。
が、コンボデッキスキーで、ひとつのデッキを調整させたら日本で右に出るものはいないであろう増田さんがこの「ジェスカイ変容」に目を付けます。つまり「ジェスカイ変容」側からすると増田さんに目を付けられた、と言うことです。1つの事象を2つの視点から解説しました。
2 《島》 2 《山》 1 《平地》 4 《河川滑りの小道》 4 《連門の小道》 4 《針縁の小道》 3 《ラウグリンのトライオーム》 2 《寓話の小道》 -土地(22)- 4 《雷の頂点、ヴァドロック》 3 《伝承のドラッキス》 4 《黄金架のドラゴン》 -クリーチャー(11)- |
2 《棘平原の危険》 4 《非実体化》 3 《真実の視認》 2 《火の予言》 2 《乱動への突入》 1 《セジーリの防護》 3 《プリズマリの命令》 3 《戦利品奪取》 2 《神秘の論争》 2 《ヴァラクートの覚醒》 1 《領界路の開放》 2 《スカルドの決戦》 -呪文(27)- |
2 《灰のフェニックス》 2 《アゴナスの雄牛》 3 《レッドキャップの乱闘》 3 《燃えがら地獄》 2 《才能の試験》 2 《神秘の論争》 1 《魂焦がし》 -サイドボード(15)- |
増田さんはリーグ・ウィークエンドでライバルズ・プレイヤーであるマシュー・アヴィニョン/Matthieu Avignonが使用したこと、またアヴィニョンがミスクリックで1敗しながらもトータル4勝2敗だったという点に着目し、このデッキを調整することに決めたようです。
「ジェスカイ変容」は《黄金架のドラゴン》に《雷の頂点、ヴァドロック》を多重に変容して《プリズマリの命令》で無限ダメージを与える無限コンボがセールスポイントですが、それ以外にも《伝承のドラッキス》を《黄金架のドラゴン》に変容して相手の重いスペルを《非実体化》で《差し戻し》続けるクロックパーミッション然とした動きも強力です。
その他刹那的なコンボデッキに見えますが、《表現の反復》などで土地を伸ばしてミッドレンジ然とした長期的なゲームプランも可能で、その冗談みたいなデッキ構成とは裏腹に多彩なゲームプランがある奥深いデッキです。
なぜ《雷の頂点、ヴァドロック》を《黄金架のドラゴン》に変容し続けると無限ループが発生するのかは、説明するのが非常に面倒くさいため、殿堂プレイヤーであるフランク・カーステンさんが執筆した記事のジェスカイ変容の項をご覧ください。
「ジェスカイ変容」は、強さは置いておいてもとにかく面白く、今のスタンダード環境にないノウハウばかりで、プレイする度に発見のあるデッキでした。
調整チームの始動の初期から増田さんはこのデッキを調整していて、その過程をDiscordの画面共有などで見させてもらっていました。
その「ジェスカイ変容」のシステマティックでありながらクリエイティブな動きに魅了された私、熊谷さん、斉藤さんあたりは夜な夜なDiscordに集まり、自分で「ジェスカイ変容」をプレイしつつ、Discord上で共有される他のメンバーの「ジェスカイ変容」の動きに大はしゃぎ。
「これは『ジェスカイ変容』の百ある勝ち筋のひとつ――〈変容コントロール〉」
※ただ変容クリーチャーを重ねて除去を打ってるだけ
「これは……〈ドラゴン・インファイト〉じゃないですか?」
※ただ《黄金架のドラゴン》を連打してるだけ
などの戯言をのたうち回ったり、他のデッキには全く使えないだろうノウハウをみんなで提案するなどの無為と思われる数日を過ごしました。チャンピオンシップ前の大事な時間を使ってのこれらの行動は、ハッキリ言って狂気です。
正気に戻った私、熊谷さん、斉藤さんは真っ当なデッキの調整に移るのですが、増田さんは「ジェスカイ変容」を諦めませんでした。他の人が「ジェスカイ変容」を忘れても、増田さんは「ジェスカイ変容」を突き詰めていたのです。
デッキリスト提出の2日前、手応えのあるデッキが全くなかった私はとあることを思い出します。
「そういえば、増田さんの『ジェスカイ変容』は今どんな感じだろう」
チームで共有しているランクマッチの成績を参照すると、増田さんの直近の勝率が9割と非常に高いことに気付きました。
基本的に雑多な当たり方になるランクマッチでの勝率を参考にすることはありませんが、それまで5割そこそこだった増田さんのランクマッチでの勝率が急激に上がったことは、注目するトピックだと感じました。
試しに回してみると、最初期と比べてリストの洗練さを感じました。
上ブレベースで、手札からプレイした時の弱さが気になった《真実の視認》は《表現の反復》にスロットを明け渡していました。
《雷の頂点、ヴァドロック》が変容した時に対象に取るカードは基本的にマナが増える点で優位性のある《戦利品奪取》になるので、《真実の視認》で3枚ドローして嬉しいタイミングは実は少なく、デッキの要点を抑えた構築です。
その他プレイしてもドローソースをめくるだけでオーバーキル気味だった《スカルドの決戦》や、おおよそこのデッキでは《非実体化》の下位互換となってしまう《乱動への突入》あたりもカットされ、デッキがスリムになっていました。
デッキリスト登録前に10マッチ程度こなした感想は、基本的に増田さんのデッキ構築に不満がなく、また構造上トップメタと考える「スゥルタイ根本原理」に有利だと感じたことから、他に有力な候補がなかった私は「ジェスカイ変容」で登録することを決意します。
ただ、感触が良い(あとデッキがすこぶる面白い)というかなり曖昧な理由だったので不安はありました。
このデッキはランクマッチではデッキ強度を推し量る事が難しいです。というのも、対戦相手が「ジェスカイ変容」というデッキを理解していることは少なく、相手のバッドプレイに付け込んだ勝ち方が多いからです。
そのため格上とも多くマッチアップするチャンピオンシップでは、「ジェスカイ変容」は通じないのではないか……という不安がありました。ただ、だからといってチームメイトとスパーリングしてもこれらを検証できるとか言うと、それもそうでもないのです。
彼らはチーム内で「ジェスカイ変容」がプレイされているのを間近でずっと見ていますから、逆に「ジェスカイ変容」を理解しすぎている、というちょうど良い検証相手が存在しない状態でした。
「スタンダードは増田さんの『ジェスカイ変容』で行きます。」
とチームメンバーに伝えた時に、一番増田さんが驚いていたのが新鮮でした。
今回は「ジェスカイ変容」と心中するか……という腹積りでしたが、ここからチーム内でこの流れが《急流》になります。
アグロスキーな佐藤さんがチームデッキであった「青黒ヨーリオン」に難色を示し、また得意な単色アグロも今回はフィールドが悪く使えない、と言った背景から、また1人「ジェスカイ変容」という船に乗ってきました。
そこからはあれよあれよとチームメンバーが「ジェスカイ変容」に鞍替えし、デッキリスト提出直前にチームメンバー9人中8人が使用を決めたのです。
3 《島》 3 《山》 4 《河川滑りの小道》 4 《連門の小道》 4 《針縁の小道》 4 《ラウグリンのトライオーム》 -土地(22)- 4 《伝承のドラッキス》 4 《雷の頂点、ヴァドロック》 4 《黄金架のドラゴン》 -クリーチャー(12)- |
3 《棘平原の危険》 1 《果敢な一撃》 4 《表現の反復》 4 《非実体化》 2 《火の予言》 2 《セジーリの防護》 1 《真実の視認》 4 《戦利品奪取》 3 《プリズマリの命令》 2 《神秘の論争》 -呪文(26)- |
3 《赦免のアルコン》 2 《レッドキャップの乱闘》 2 《軽蔑的な一撃》 2 《精神迷わせの秘本》 2 《引き裂き》 1 《燃えがら地獄》 1 《否認》 2 《サメ台風》 -サイドボード(15)- |
こちらが最終的に提出したデッキリストです。
デッキリストは74枚、増田さんが調整した形になっています。唯一サイドボードの《赦免のアルコン》を1枚、《燃えがら地獄》1枚に差し替えただけです。
これは当初想定していた「白単アグロ」がデッキ提出直前に減少傾向にあったこと、逆に最近少なかった「マグダ・グルール」や「ナヤ・アドベンチャー」が増加していてことを考慮したためです。
3.ヒストリックデッキ検討
スタンダードのデッキリストを提出したら、すぐにヒストリックに取り掛かります。
ヒストリックは《コラガンの命令》などの各種友好色命令サイクルや《大祖始の遺産》が収録された『ヒストリック・アンソロジー5』で激変……!するかと思いきや特に何も起きず。
『ヒストリック・アンソロジー5』も「ミスティカルアーカイブ」の前では霞んでしまいました。「ミスティカルアーカイブ」には《渦まく知識》や《信仰無き物あさり》など、モダンフォーマットでも使えないような強力なカードが収録されていますから。
リーグ・ウィークエンド後に《タッサの神託者》が禁止され、《汚れた契約》デッキが後退した今、2番手だった「イゼット・フェニックス」が環境トップになるのは火を見るよりも明らかでしょう。先ほど挙げた《渦まく知識》、《信仰無き物あさり》といった強力な呪文を最も活かしたデッキとなっています。
何度も蘇る《弧光のフェニックス》は持久力、ゲームスピードともに相手を凌駕しますし、《弾けるドレイク》や《嵐翼の精体》などのサイドボード後の墓地対策が効かない攻め手たちも良いアクセントになっています。
「イゼット・フェニックス」をプレイしてみた感想は強力の一言。モダンでも許されていない《信仰無き物あさり》が使えているわけですから当然とも言えます。
「イゼット・フェニックス」がチャンピオンシップにおけるトップメタであることは間違いなく、およそ3割から4割程度の勢力となると予想。
「イゼット・フェニックス」に明確に有利が付くデッキが見つからない限り、「イゼット・フェニックス」を使う、ミラーマッチで強い構成にできたらベター。という認識で調整をスタートします。
ジャンド・フード
『ヒストリック・アンソロジー5』発売直後の週末に行われたCFB Pro Showdownで優勝したのは「ジャンド・フード」でした。
2 《沼》 1 《山》 2 《森》 3 《血の墓所》 4 《草むした墓》 3 《花盛りの湿地》 2 《踏み鳴らされる地》 3 《岩山被りの小道》 4 《寓話の小道》 1 《ファイレクシアの塔》 -土地(25)- 4 《大釜の使い魔》 4 《金のガチョウ》 4 《波乱の悪魔》 2 《悲哀の徘徊者》 4 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》 -クリーチャー(18)- |
4 《魔女のかまど》 3 《致命的な一押し》 2 《思考囲い》 1 《塵へのしがみつき》 4 《パンくずの道標》 3 《古き神々への拘束》 -呪文(17)- |
1 《湧き出る源、ジェガンサ》
-相棒(1)- 1 《運命の神、クローティス》 3 《変容するケラトプス》 2 《大祖始の遺産》 2 《思考囲い》 1 《致命的な一押し》 3 《丸焼き》 2 《削剥》 -サイドボード(14)- |
この優勝した「ジャンド・フード」は、大会中で4回「イゼット・フェニックス」とマッチングしていて、なんと4-0!
メインから墓地対策である《塵へのしがみつき》を採用し、サイドボードには『ヒストリック・アンソロジー5』から《大祖始の遺産》が加入し、これも「イゼット・フェニックス」になかなか良さそう。
「ジャンド・フード」は「イゼット・フェニックス」に有利なのではないか……?とチーム内で検証を行います。
……が、ダメ。
《塵へのしがみつき》はクリーチャーを追放すると1枚ドローがなく、《弧光のフェニックス》を対象に取るとアドバンテージ損。《大祖始の遺産》は《草むした墓》などのギルドランドを多く採用している関係上1マナの起動型能力を構えるのは難しく、構えるためにドンドン土地からダメージを受ける始末。
最も気になったのは「ジャンド・フード」側の除去の取り回しの悪さです。
《致命的な一押し》は《スプライトのドラゴン》を対処するには最大効率ですが、《嵐翼の精体》には紛争を達成しても対象に取れません。そして《古き神々への拘束》は何に対しても対処することはできますが、マナ・コストが重く複数の《弧光のフェニックス》が出てくるような展開を抑え込むことはできません。
松本さんに「イゼット・フェニックス」を使ってもらってスパーリングしましたが結果はボコボコ。本当に「イゼット・フェニックス」に4-0したのか気になった私は、TwitchでCFB Pro Showdownのアーカイブを確認しにいきました。
そうしたら確かに優勝された「ジャンド・フード」の方は「ジャンド・フード」を使い慣れているようでしっかりしたプレイング。一方対戦相手の「イゼット・フェニックス」はまだ使い始めなのか、プレイがおぼつかない様子でした。
サイドボード後除去の的で《波乱の悪魔》に討ち取られたりする《スプライトのドラゴン》がサイドアウトされていなかったり、《パンくずの道標》に対して虎の子の《霊気の疾風》をプレイした結果《フェイに呪われた王、コルヴォルド》が対処できずに負け、みたいな展開だったりと、結果として「ジャンド・フード」が「イゼット・フェニックス」に4-0していましたが、それは「ジャンド・フード」が「イゼット・フェニックス」に有利、といったゲーム展開にとても感じられませんでした。
冷静に考えて「ジャンド・フード」は、パイオニア・フォーマットに存在する「ジャンド・フード」とほぼ同等の構成。
一方「イゼット・フェニックス」はモダン・フォーマットの「イゼット・フェニックス」すら凌駕する構成ですから、ジャンド・フードがイゼット・フェニックスに有利なわけがないのです。
ジェスカイ・ターン
「ジェスカイ・ターン」は《ドワーフの鉱山》や《プリズマリの命令》から出るトークンを《不屈の独創力》で対象に取り、デッキ内で唯一のクリーチャーである《ヴェロマカス・ロアホールド》を戦場に出します。
その後《ヴェロマカス・ロアホールド》で《時間のねじれ》をめくれば再度自分のターンになり、それ以降は手札から再度《時間のねじれ》か《ミジックスの熟達》を通常プレイしても良いですし、《ヴェロマカス・ロアホールド》で《時間のねじれ》か 《ミジックスの熟達》をめくれば再三再四と自分のターンを維持し続けることができるコンボデッキです。
《マグマ・オパス》を手札から捨てて3ターン目に《ミジックスの熟達》経由で《マグマ・オパス》をプレイするギミックなどもあり、大振りながら強力なデッキです。
主にリーグ・ウィークエンド前に熊谷さんと増田さんが調整されていたようで、感想を聞いたら、いわく「サイドボード後の『イゼット・フェニックス』を乗り越えられない」とのこと。
確かにメインは打ち消し呪文が少なく能動的な呪文が多い「イゼット・フェニックス」に対して有利が取れていますが、問題はサイドボード後。
《神秘の論争》や《否認》などの打ち消し呪文はもちろん、《霊気の疾風》や《丸焼き》などの単体除去、 《ミジックスの熟達》には《魂標ランタン》などの墓地対策も当たってしまう脆弱さで、高確率でサイドボード後の2本を取り返されていまいます。
「イゼット・フェニックス」に次ぐメタゲーム上位デッキとなるだろう「ジェスカイ・コントロール」にも同じような理由でサイドボード後厳しい戦いが予想され、上位2デッキに厳しいのであれば自分で試す気にもなりませんでした。
ジェスカイ・コントロール
「ミスティカルアーカイブ」から《稲妻のらせん》や《記憶の欠落》が加入したジェスカイ・コントロール。それらの軽量呪文で相手をいなして《ドミナリアの英雄、テフェリー》に繋げる王道のコントロールです。
構成が大きく分けて2つあり、《マグマ・オパス》、《奔流の機械巨人》のコンボが入った形と、
それらを採用せず《サメ台風》と《ドミナリアの英雄、テフェリー》などで堅実にコントロールする形があります。
両方の構成で採用されている《覆いを割く者、ナーセット》は「イゼット・フェニックス」にとても強力なカードです。
軽量のドロー呪文でデッキの大部分を埋めている「イゼット・フェニックス」にはカードを2枚以上引くことができない常在型能力が致命的で、戦場に維持することさえできればイゼット・フェニックスを機能不全に陥らせることができます。
前者の《マグマ・オパス》型は原根さん、後者の《サメ台風》型を井川さんが調整しており、上がってくる感想も上々。ですが、私は気乗りしませんでした。
まず《マグマ・オパス》型は、メインは「ジェスカイ・ターン」と同じく「イゼット・フェニックス」に有利に立ち回りますが、問題はサイドボード後。《マグマ・オパス》や《奔流の機械巨人》はサイドボード後に打ち消しの格好の的になってしまいます。
そこを改善するべく原根さんはサイドボード後大幅にカードを入れ替えて《神秘の論争》のような打ち消し呪文が直撃しない形にしていましたが、ランクマッチのスコアを見るに「イゼット・フェニックス」に良く見積もって五分程度かなといった印象。
《サメ台風》型はメインから大振りな呪文が少なく、隙なく動ける構成ですがその反面《マグマ・オパス》から《奔流の機械巨人》のようなイージーにアドバンテージを取るアクションは少なく、一手のミスが響きそうな構成です。
また、これは個人的な指針ですが、ロンドンマリガン以降は明確な理由なくコントロールデッキは使わないことにしています。
コントロールデッキは受動的で、フィニッシャーから除去呪文と役割が異なるカードが多く入っていて、なおかつ勝つまでに必要なカード枚数が多いデッキです。そのためロンドンマリガンの恩恵を受けづらく、他のデッキと比べて事故に弱いアーキタイプです。
環境で頭ひとつ抜けた強さであるならば選択理由になりますが、端から見て「イゼット・フェニックス」と同じくらい、もしくはそれ以下のデッキパワーに感じたので私が選ぶ理由はありませんでした。
ともすれば、いよいよ選択肢は「イゼット・フェニックス」のみに。
4.「イゼット・フェニックス」調整
「イゼット・フェニックス」の調整はリーグ・ウィークエンド以前からチーム内で「イゼット・フェニックス」の調整を牽引していた斉藤さんを中心に行われました。
トップメタだと予想されるデッキをプレイするのですから、ミラーマッチの備えは重要です。ほぼ同じ構成のデッキを突き合わせるため基本的には運否天賦なのは間違いないですが、ミラーマッチでの明確なプランが存在しない限りは使いたくありません。
まずは《弾けるドレイク》マシマシプラン。メインサイド合わせて4枚採用し、アドバンテージ、展開力で優位を付ける狙いです。
結果は×。
サイドボード後の《神秘の論争》が直撃してしまい、テンポ面で大きく後退してしまいますし、ミラーマッチでたまにプレイされる《覆いを割く者、ナーセット》にハマる展開もありました。
上のマナ域を増やす関係でサイドボード後に《スプライトのドラゴン》が減っていて、自分からハマりにいってるような構成にもなっていました。
やられたことは試してみよう。《覆いを割く者、ナーセット》と《反逆の先導者、チャンドラ》を合わせて3枚程度取るプレインズウォーカーマシマシプラン。
結果はこれも×。
メインの軽量除去がソーサリータイミングの《火柱》に寄っている関係から、相手の速攻クリーチャーのアタックに基本的には干渉できません。イメージ的には、墓地に落とせた《弧光のフェニックス》の枚数が相手と同数だとプレインズウォーカーを維持できません。
相手が《嵐翼の精体》などのクリーチャーを展開しているターンに《覆いを割く者、ナーセット》などの盤面に影響を与えないパーマネントを展開しているわけですから、考えれば当然です。
ミラーマッチの肝が掴めずヤキモキする日々でしたが、光明は突然差しました。ランクマッチでマッチアップした相手のプランが秀逸だったのです。
それはチーム内ではミラーマッチで弱いと考えられ、サイドアウトしていた《スプライトのドラゴン》を残すプランでした。
まず相手のプレインズウォーカーを入れてくるプランに強くなります。盤面に残しさえしなければ大きくテンポ面で優位に立てますし、1回の起動のみで対処できればアドバンテージも獲得されません。
《弧光のフェニックス》のみしか対象がなく、手札で浮きがちな《火柱》が当たってしまう点にミラーマッチでの《スプライトのドラゴン》の弱さを感じていたのですが、《火柱》はソーサリータイミングでの除去ですし、《覆いを割く者、ナーセット》などのプレインズウォーカーを対処することを念頭に置いておけば、2ターン目のプレイを控え、手札に溜めておき、スペル2回を重ねて自分のターンに3/3にするなどのプレイでケアすることが可能です。
ミラーマッチを見据えて《ショック》が減って《火柱》に寄り始めているのもそのプレイを肯定させます。
また、《スプライトのドラゴン》と合わせてメインボードから《アゴナスの雄牛》が採用されており、これもミラーマッチで効果的なカードに感じました。
基本的にミラーマッチは《弧光のフェニックス》をどちらかが一方的に多く引いている展開以外は除去とクリーチャーの交換でリソース勝負になります。
ですので、《表現の反復》を多く引いている方がアドバンテージで押しつぶすゲーム展開になりやすく、そのおおよそなるであろうアドバンテージ勝負で相手を一気に引き離す《アゴナスの雄牛》はミラーマッチで肝といえるカードだったのです。
《信仰無き物あさり》で捨てても嬉しく、ドロー呪文で墓地が肥えやすい「イゼット・フェニックス」に単純に合っているカードなのも良い点です。《信仰無き物あさり》でディスカードして、墓地から脱出から入れば《火柱》にも当たらなくなるので、ゲームを通して2回、3回脱出する展開も珍しくありません。
《アゴナスの雄牛》がミラーマッチで強いことに気付いたチームは、その後《アゴナスの雄牛》プランでサイドボーディングを詰めていきます。
その過程で《魂標ランタン》をサイドボードに取ることに。
《魂標ランタン》は対戦相手の一方的な《弧光のフェニックス》ラッシュに待ったをかけることができますし、軽いパーマネントであることから手札を使い切る必要がある《アゴナスの雄牛》との相性も良いです。
また、他のプレイヤーも同様に《アゴナスの雄牛》プランを取って来る可能性があるだろうということで、《アゴナスの雄牛》にも強い《魂標ランタン》はサイドに厚めに取ろうという結論になりました。
3 《島》 3 《山》 4 《蒸気孔》 4 《硫黄の滝》 4 《河川滑りの小道》 3 《寓話の小道》 -土地(21)- 4 《スプライトのドラゴン》 4 《弧光のフェニックス》 2 《弾けるドレイク》 3 《嵐翼の精体》 2 《アゴナスの雄牛》 -クリーチャー(15)- |
4 《渦まく知識》 4 《選択》 4 《信仰無き物あさり》 4 《火柱》 2 《稲妻の斧》 4 《表現の反復》 1 《神秘の論争》 1 《約束の終焉》 -呪文(24)- |
2 《厚かましい借り手》 2 《魂標ランタン》 2 《丸焼き》 2 《溶岩コイル》 2 《否認》 1 《霊気の疾風》 2 《神々の憤怒》 1 《神秘の論争》 1 《反逆の先導者、チャンドラ》 -サイドボード(15)- |
チームの知力を集め、以上のデッキリストでヒストリックのデッキも登録完了。
途中はミラーマッチの要点を抑えることができず、頭を抱えることもありましたが、最終的にミラーマッチに自信のあるリストを作れて満足です。
と、いったところで前編は終わり。
後編は使用デッキの各カードの解説を含むトーナメントレポートをお届けします。お楽しみに!
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